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都市税争奪対抗戦編
50話 試合開始
しおりを挟むドーーーーーン!!
試合開始の合図が鳴った。
相手側、ドリボラの陣営でアコライトの上位職ビショップによるスキル ブレスウォールを前衛職に掛けていく。ブレスウォールは物理攻撃を5回凌げる上級スキル。戦闘前の必須スキルで、下位職のアコライト時では、1回防御5分間の持続効果となっているが上位職のビショップの場合、5回防御15分間の持続効果と大幅な強化となっていた。
「まだ飛び出すな! まとまって行くぞ」
飛び出そうとする冒険者を制止している。どうやら、纏まって攻め込むらしい。後方には防衛部隊だろう、30名ほどがオブジェクト付近に集まっている。
「ネビルさん あたし達が防衛に任されました」
ネビルの周りに、約20名ほどの冒険者達が集まってきた。
指示を出すネビル。
「おう お前達 多くて2~3人だと思うが、抜けてきたやつを排除する簡単な お仕事だ ハッハハッハ 相手は8人、そう気張るな気楽に構えてろ」
作戦なんか立てるほどの試合じゃない。観客を含めた誰もが思うことだ。
70名対8名… 結果は、すでに決まっている。
普通の、冒険者を相手にするのなら…
▽▽▽
「さて、ゼス わしらも、ボチボチ動くとするかのう」
「ああ… 」
ゼスは、短刀を鞘から抜くと身構えた。風音は、依代のクロを放ち説明をしている。まだ、巨大化はしていなかった。
風音は、ゼスに耳を貸せと手招きする。中腰になるゼス。
「対戦相手が、ドリボラに決まった時から作戦は変更じゃった この試合でネビルとやらと手下を潰すぞ」
「フッ… やっぱりな 俺の予想通りだよ かざねさん」
「なんじゃ? 解っておったのか? 」
「確信は無かったが 多分、かざねさんなら そうすると思っただけさ」
「フン つまらんのう」
風音は、小声で術を唱えた。
風音の周りに、氷の塊のようなものが無数に浮き出てきた。
無数の氷の塊は、風音を中心に外側の塊は時計回りにクルクルと高速回転しはじめた。約10mは風音から離れている。その内側にも、同じ様に風音を中心に塊が浮かび上がると時計の逆回りで回転をはじめる。内側の塊は、形を変え平べったく板のように変化したのだ。
「か… かざねさん これは? 」
「わしの術 『氷穴』じゃ 攻防一体の術じゃ 高さや回転数、形態も自由自在じゃ 氷塊を針のようにし、やつらの目を潰す 目さえ潰せばカリナ達を認識する事もなくなるじゃろ? 」
「な… なかなか エグい作戦だ だが、禁止項目からは、はずれるって訳だな 失格は無いと思うぜ」
「そういうことじゃ 遅れるな 行くぞ! 」
メイドス防衛陣の反応は落ち着いた様子であった。
「たくや 知ってる? 風音様の技」
風音の様子を見ていたダムが聞いてきた。
「いや 初めて見たよ 前に、まだ術はあるって言っていたから その1つなんだろうね しかし、凄いな風音は色んな事が出来て」
俺は、素直に関心するだけだった。もちろん、みんなも驚いたのは最初だけで風音なら、これくらいの事は出来てしまうんだろうと納得している。
観客席が、ざわつきはじめた。
「なんだありゃ? 見たことない魔法だな 知ってるか? 」
「いや… 知らないな 具現化魔法か? 」
「あれで何するつもりだよ? 」
一般の観戦客、各都市の冒険者達は見たことのない風音の術を分析する。
当然、風音を知る者達は、その異常さに気が付く。
「「「何!? 」」」
ギルド本部 本部長アドルフ
(一体、何をはじめる気だ… )
ギルド本部 副本部長カテリーナ
(な… 何をする気だ まさか、あれで頭を吹き飛ばす気か!? )
管理局特務機関 局長アラン
(何を、見せるつもりだ… )
ギルド本部 ダンジョン・遺跡部門責任者 部長トーマス
(魔法の具現化… わたしが見たこと無い魔法 元の世界の魔法なのか)
メイドス・ギルド支部 支部長ブライト
(かざねくん… 言われた通り『税杯』くじ 買ったよ! )
▽▽▽
ドリボラ側では、支援魔法が前衛部隊に掛け終わり攻め込むところだ。
「よし! みんな続けー! 抜けて行くのは無視だ 俺達は敵防衛との戦闘だけに集中しろ! 行くぞーーー!! 」
「「「おおおぉぉぉー!! 」」」
走り出す、ドリボラの攻撃部隊。闘技場の中心を突入して来た。
正面には、氷穴を展開している風音が小走りで突っ込んでくる。
「少しだけ減らしておくかのう 」
風音は、展開している氷穴の位置を足元まで下げると針の形態にさせた無数の攻撃用氷穴を突進してくるドリボラ攻撃部隊に叩き込む。
ザクザクッ
10数名の足に刺さる氷穴。しかし、細すぎるため然程のダメージは受けていないように見えた。
だが…
刺さった針は、次第に太くなり刺し傷が圧迫され足に激痛が走り出す。
「いてぇ!! 」
「ぐっ… 待ってくれ 歩けねえ ぐぐっ!! 」
風音は後ろを見て戦闘不能となっている人数を確認する。
「まあ こんなもんじゃろ 後は、託也達に任せとけばよかろう」
「エグいな… 細い針と油断させ刺さった内部で変形させるのか… 」
「ん!? あやつらか 首に黒い布… やつらじゃな」
風音は、スピード上げて氷穴の射程まで走りこんだ。
ネビルが、立ち塞がる。
「チビが着やがったぞ ご苦労さん 態々、人数減らしにこっちまで来てもらいありがたいぜ ハハッハハ」
「… 」
風音は、黙って話を聞いてる。
その時、3本の矢が風音を襲った。
シュシュシユッ
どうやら、オブジェクトの蔭から矢を打ち込んできた冒険者がいたのだ。
しかし、氷穴を展開中の風音。微動だにせず、その3本の矢は内側の氷穴の自動防御によって阻まれた。
風音の後ろにいたゼスが、マジックアイテムを使いオブジェクトの蔭に潜む冒険者を炙り出す。
「こそこそしてないで 出てこいや!! 」
ゼスは、爆発系魔法 パワーボムが込められた卵形をしたマジックアイテムを投げつけた。この魔法は上位職業のハイウィザードのスキルで出現条件が不明のため希少スキルとされている。高価だが、今回の都市税争奪対抗戦用にゼスが用意したものだった。受けた者は、衝撃ダメージや火傷を負うが数発食らったところで殺傷能力は無い。
パワーボムの上位スキル エンドボムとなると禁止スキルとなっているため使った時点で失格となる。
ゼスは、風音の邪魔になるような冒険者に目を光らせる。
「グッ… パワーボムまで用意しているとは… 」
オブジェクトの裏からアーチゃーが姿を現す。
「そら、もう一丁だ! 」
ゼスは、マジックアイテムを投げつけた。だが、マジックアイテムは炸裂しなかったのだ。投げつけた、マジックアイテムから眩い閃光が放たれた。
「くっ! 眩しい フラッシュボムか!? 」
「そういう事だ」
ゼスは一瞬で間合いを詰め、短刀で防衛する冒険者達の手足を切りつける。
「ぐわっ! いてぇぇぇ!! 」
「くそっ… 足が 足があぁぁ! 」
数名の冒険者が蹲っていた。
「クックク やるではないか」
風音がゼスに向かって言う。
すると、防衛陣の不甲斐ない姿を見て苛立ちながらネビルが言った。
「おい チビ そろそろ、こちらも始めるか」
ネビルが、風音を見下ろし呟いた。
腰にぶら提げる剣を抜くネビル。
「!? 」
風音は、一瞬ハッとする。ネビルの抜いた剣から魔力を感じたのだった。
ネビルは風音に剣を向けて振り下ろした。
ビュッ
魔力を感じた風音は、横移動で回避。後方から2人、黒布を首に巻き付けたネビルの手下が風音に遅いかかる。
1人はソードファイターだろう、両手大剣を構え突進してくる。もう1人はストライカーであろう、ナックルを装備し至近距離で拳と足蹴りのコンボを繰り返す。スルスルと回避する風音。
トントントンと、後方に下がり距離を取るとソードファイターとストライカーの足に氷穴を放つ。
氷穴を放たれた2人が笑う。
「なんだ? この細い針 ちっとも痛くねえぜ」
「クッハハ 笑っちまうな これでお終いか? チビっ子が! 」
「そんなに可笑しいか? これからだから安心しろ」
「負け惜しみか? 抜かせ 餓鬼が!! 」
ここで、高速移動する風音。ネビルを氷穴の射程に収めて打ち込んだ。
ザクザクザクッ
「くぁっ!! って痛くねえじゃねぇか ハッハハハ こんな、針で俺達を倒せる訳ねえんだよ! 」
後方からソードファイターとストライカーが追ってきて風音に襲いかかろうとした時だった、形態を変化させた氷穴の痛みで3人が倒れ込む。
「グハッ! なんだこりゃ!? いてぇぇ!! 」
「この餓鬼… 毒か!? 」
風音は、無言のまま剣を握る腕や手に無数の氷穴を突き立てた。
「グッ… てめえ どうする気だ!? 」
ネビルは、地面に両膝を付き風音を睨む。
「お終いじゃ お前達はここで終わるのじゃ… 」
「な… 何!? っ!! ぐあっ!! 手… 手が!! 」
ネビルが自分の腕や手を眺めた瞬間…
跪く、3人目の眼球めがけて氷穴が突き刺さった。
「ぐわぁ!! 目が… 目がぁぁぁぁ!! 」
「ぐわぁぁぁ!! 」
「なあ… 足や腕に刺さった針はどうなった? 針は太くなっていたであろう 今、目玉に刺さった針はどうなるんかのう… クックク 楽しみじゃな」
風音が言った側から転がる3人が悲鳴を上げた。
「ぐああああぁぁぁぁ!! 」
「ちくしょう!! ちくしょうーーー!! 」
「目が! 目がぁぁぁぁぁ!! 」
「クックク 終わりじゃ これで悪さも出来なくなるのう おっ、そうじゃ その剣は、わしが貰っとく どうせ、お前には過ぎた代物よ」
風音はネビルから剣を取り上げると袖口に入れ、くるりと方向転換し残りの防衛部隊の殲滅に動き出した。
地面に、のたうち回るネビル達を戦闘不能と判断した審判員は闘技場外へと連れ出した。
風音は、残りのネビルの手下を見つけては氷穴を眼球に突き刺し次々と視力を奪っていく。ゼスも、殲滅に動いてはいるが決め手に欠ける攻撃力なので一進一退の攻防を続けていた。
ここで、事態は急変する。
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