少女は淑女で最強不死者

きーぱー

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北ダンジョン編

17話 魔獣契約

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 風音がカリナに手刀を浴びせ、気絶したところに魔法陣を書き終えたゼスが戻ってきた。ゼスは、上下に動く不思議な石の先に行きたいので付いて来てくれと言う。下からは見辛く奥が伺えない。
 
 「わかった 進むとするか」
 「その人はどうする? 」
 「ほっといてもかまわん まだ起きんだろう」

 俺達は、フロアーを進むと上下している石に辿り着いた。

 石… 石と、いっても分厚い石版で大きな魔法陣半分だけが刻まれていた。
 失敗作なのか… ゼスは、ぶつぶつ独り言を言いながら石版に乗り半分の魔法陣を模写している。
 石版の端に立てば、魔法陣を踏む事なく行けるが万が一、上に昇った場所から足を滑らせでもしたら怪我をしてしまう。

 「魔法陣に乗っても平気だ こんな状態の魔法陣は発動しないから
恐らく、失敗したまま放置したんだろう かざねさん 託也 先に進もう」

 俺達は、石版に乗り込む。ゼスの言った通り、魔法陣の上に乗っても何も起こらなかった。
 石版が最到達点で合流している崖に飛び移り、先に移動するはずだったが石版が崖と接した瞬間、石版の魔法陣と崖に刻まれた魔法陣が光りはじめた。

 「くっ… やられた 残りの半分は崖の地面に刻まれていたのか!? かざねさん 託也! 気を付けてくれ!! 」
 
 魔法陣の光と共に、フロアーの床全面が青白く輝き出すと中央の床から禍々しい巨大な魔獣が姿を現した。

 長い角が2本、頭から生えている。黒光する身体は蛇なのだろう、手足は無かった。眼光鋭い、巨大な魔獣はカリナを捕らえた。気絶した際に、黒いローブは肌蹴て黒髪ストレートの綺麗な顔をした女の子が横たわっている。
 
 「まずいのう… 行け」

 風音の依代が、袖口から出るとポトリとフロアーに落ち、巨大化していく。
 依代は、巨大な魔獣と同等サイズに巨大化すると魔獣の胴体に噛みつきカリナに向かう邪魔をする。噛まれた魔獣は、依代の首に噛みつき応戦を始める。

 風音は、カリナの身を案じたのか石版から飛び降りカリナの側へ駆け寄る。俺達も、風音の後に続き戦闘に備える。

 …… …

 すでに30分が経っただろうか…

 巨大魔獣大戦の応酬は続いていた。お互いが身体に巻き付き体力を奪おうとギチギチと締め上げてる。時折、噛みついた部分を引き千切ろうと尻尾の部分を床に叩きつけ、首を大きく揺さぶっているのも判った。
 俺とゼスの戦闘モードは、すでに解除され異様な光景に呆気に取られながら床に胡坐をかき見守るだけであった。風音本人も、煙管を銜えて溜息のような煙を吐いていた。
 そんな中、風音が俺に言ってきた。

 「あやつ 中々、強いではないか 託也 あやつを依代にしてみんか? 」
 「えっ!?どうやって? 」

 風音は、自分の袖の中に手を伸ばすと1枚の人型をした紙をよこした。

 「わしの依代を消したら お前が攻撃して動けなくしろ 動けなくなったら、そいつをあやつに押し付け契約しろ 内容はかまわん 託也に任せる」
 「わかった… やってみるよ」

 その後も、巨大蛇2匹の戦いが続いた。

 …… …

 「くっ… いたたた… 」

 カリナが意識を取り戻した。煙管を銜えた風音が声をかける。

 「うん 起きたか カリナ お前さんの負けじゃな クックク」

 ズドーン!!

 再び、巨大蛇が尻尾の部分を床に叩きつけ、首を大きく揺さぶっている。それを見て、慌てたカリナが立ち上がり身構える。

 「何してる まだ横になっとれ」

 ぷかぁー と、煙を吐きながら風音が言う。俺とゼスも、フロアーに胡坐をかいて巨大蛇が戦っているのを眺めていた。

 「なっ… 何をしてるんだ? 逃げないのか!? 」
 「いや、逃げるも何も あれは風音の依代 あっ契約魔獣だし」
 「契約魔獣だと!? 」
 「うん 白いのが風音の 黒いのは魔法陣を踏んだら出てきちゃったんだ」

 カリナは、目を白黒させながら俺の話を聞いた。

 「託也 そろそろ行くぞ」
 「了解」

 俺は、風音の合図で巨大魔獣に攻撃をするため息を整えながらフロアーの中央に進んでいく。相手は、あの巨体… 片手風穴で、ダメージは与えられるだろうが反撃の余力を与えては自身がピンチになってしまう。上手くいくかどうか判らないが… やってる価値はありそうだ。
 俺は少しだけ工夫する事にした。
 
 「行け 託也! 」

 風音の依代が、魔獣に噛みつく口を離した瞬間。
 両手を使った風穴を、魔獣の喉元から叩き込む。

 ドゴーン!!

 巨大魔獣は、硬直し気を失ったのか頭から床に倒れ込む。

 ズドーーーン!!

 俺は、風音に言われた通り人型の紙を手のひらに乗せ、魔獣に伝わるように頭に触れながら想いを伝えた。

 (お前の命を俺に預けろ… 困った時に、少しだけ力を貸しい欲しい 決して悪いようにはしないから… )

 すると、巨大な魔獣は白い光を放ち人型の依代に吸い込まれように消えてしまった。
 
 確かに消えてしまったが… 俺には魔獣が人型の依代に存在する感覚がはっきり判った。俺は、依代を腰のバッグに入れて皆の元へ戻る。
 戻ってきた俺に風音がニコリとしながら言う。

 「託也 やったのう あやつらは力の差を認めさせないと契約に応じないからのう 多少は痛めつける事もしょうがないことじゃ」
 「ありがとう 風音のアドバイスのおかげだよ」
 「たっ 託也! 凄かったな 両手のやつ やったことなかったろ? 」
 「うん あの大きさだからね なんとか上手く撃てたよ」

 ゼスも興奮しながら声をかけてくる。
 
 そして、カリナは怯えていた… 気絶した時に、ローブから顔がはだけたので表情が手に取るように判るのだった。
 一体、何を考え怯えているのだろう…

 「さて、先に進むか」

 俺達は立ち上がり、石版の先に挑む。もちろん、意識を取り戻したカリナも連れて行く事となった。
 石版から崖に移動した先には、周囲の岩とは別物の石で仕切られドアがある個室が建造されている。ドアには封印魔法といわれる魔法陣が刻まれていた。

 さらに、奥に進むと円形に壁が仕切られ床には大きな魔法陣が刻まれた施設が姿を現した。古い文献に伝わる『儀式』と、される施設だろう。扉は無く、他に仕掛けもされていないようだ。
 念のため、周囲も確認したが特段の変化は無かった。そして、行き止まり。
 恐らく、ここが最終地点なのだろう。
 すると、風音は『儀式』が行われていたとされている円形の施設の中に入り、ゆっくり歩き出す。暫く歩いて腕を組み、小さな溜息をついて外に出た。

 ゼスは、ここまでの道順や施設の様子をメモして下のフロアー同様に魔法陣を模写する。
 その間、俺達は休憩してゼスの作業が終わるのを待っていた。すると、カリナが風音に質問をしだした。

 「な… なあ あんた達は何をしにダンジョンへきたんだ? 」
 「ん… んー わしと託也の目的のものは ここには無かったようじゃ」

 俺は“時空の歪み〟を発見できなかったのだと風音の言葉で悟った。

 「あたし達は、何の為に依頼されたのかがわからない… 」

 カリナは悩んでる。

 「それなら ゼスが今やっている調査の事だろう」
 「魔法陣や道順を示した紙が欲しくて依頼されたのか? 」
 「うむ 大変価値があるものらしいからのう わしも詳しくはわからん」
 「… 」
 「しかし こうして見るとちゃんとした女の顔じゃのう もうローブはつけるな 煩わしいからのう クックク」

 色々、ありすぎてローブの事すら忘れていたのだろう。カリナは赤くなり、それっきり黙ってしまった。
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