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アインティークの章
第55話 Back to Toyosuteak 2
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―― その日の夜中…… 後からテレジアに聞いた話だ。
調合の指導で、戻るのが遅くなったテレジアは部屋に入ると俺の姿が無く何処に行ったのか少し気になったが、どうせ飲んでると思いシャワーを浴びたと言う。町の酒場はどんなに遅くても午前二時には閉まるので、そろそろ帰ってくると思ったテレジアは起きて待っていた。
―― 髪を乾かしテレジアは待っていたが一向に俺が戻らない……
先日の『アインイーグル』の件もあり、心配になったテレジアは服に着替え俺を探しに町に出た。護身用のナイフと金だけ持ち、開いてそうな店を探したほとんどの店は閉まっていた。僅かに開いていた店で俺の事を聞き込んだが、それらしい人物は店に来てないという返事だった。
(時間が経つに連れ、不安が徐々に大きくなって胸が苦しくなっていく…… 一体、何処に居るの…… ケイゴ)
その頃、俺は乗り合い馬車の荷台で毛布に包まれウトウトしていた。すでに『魔獣』が出現するとされる場所は過ぎて、警護を頼まれていた冒険者二人も荷台で横になっていた。出発して約三時間くらいだろうか、そろそろ休憩だ。
―― テレジアは途中でカーティスの事を思い出した。もしかしたらカーティスと店で飲んでいるのでは?そう思ったテレジアはカーティスの店に向かった。カーティスの店の前に着くと中から薄暗い灯りが漏れている。どうやら手前の部屋じゃなく作業場の灯りが漏れていたようだ。
(なんだ…… ここに居たのね 心配して損した)
テレジアは、この時そう思ったらしい。しかし、刀を鍛え作業をするカーティスだけしか居なかった。
ガラガラッ
「カーティスさん ケイゴ ケイゴ知らない? 何処にも居ないのよ」
「う うおっ テレジアちゃん どうした? こんな時間に ケイゴ?ケイゴなら夕方此処に来たぜ 蒸かし芋買って来てくれたんだが 居ないってどういう事だ?」
カーティスは作業していた手を止め、テレジアの話を詳しく聞く。
「それなら三日ほど留守にするって言ってたぜ?」
「ええっ!? どういう事?」
「何でも 『忘れ物がある』とかで『トヨスティーク』行くって……」
「忘れ物!? 何なの? 『トヨスティーク』に行くって言ったの?」
「ああ 俺も今日か明日には行く予定してたから 聞いてないのか?」
「……ま」
「えっ?まっ!?」
「馬よ!馬! カーティスさん 馬を出して! 今すぐ!」
「えええっ!?」
―― その頃、俺は馬車で道中の休憩が終わり再び『トヨスティーク』に向け馬車は出発していた。出発して約四時間が経った頃だ。『トヨスティーク』から『アインティーク』へ向かった時は約七時間だったが計算が合っていれば後三時間ほどで『トヨスティーク』に着くだろう。
―― その頃、テレジアとカーティスはカーティスが飼っている馬で俺を追いかけ『トヨスティーク』に向かっていた。
「ちょっと! もう少しスピード出ないの!?」
「無茶言うなよ テレジアちゃん… 二人乗りで全開で走っていたら馬が動かなくなっちまうよ…」
「……一体 どういう事なの ケイゴ…」
「……テレジアちゃん」
「黙って出かけて…… 絶対許さないから! とっちめてやる!」
「…(怖い…)」
―― 夜から朝になりかける紫色の空……徐々に薄白く広がっていく日の輝き。少しだけ、ひんやりとする空気……そろそろ日が昇る。仮眠を取っていた俺は立ち上がり御者に尋ねる。
「あとどれくらいで『トヨスティーク』?」
「もう見えてきますよ お客さん」
しばらくすると町の外壁が見えてきた。降りたら一番で魔法陣の場所に行き残り日数の確認をしないと……
「お客さんー 着きましたよ 『トヨスティーク』! 着きましたよー」
寝ていた乗客、警護にあたっていた冒険者達はモゾモゾと起きだした。馬車は厩舎の前に停車した。俺は御者が用意する階段を待たずに荷台から飛び降りた。
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
御者に挨拶をすませた俺は魔法陣に真っ直ぐ向かった。ここでは数人だが知り合いも居る、出来れば見付かりたくないので残り日数を確認したら知らない宿で帰れる日まで引き篭もる予定だ。魔法陣がある石が見えてきた。
タタタタタ
俺は小走りになって一段下がった根元に駆け寄った。
「うし! 確認確認っと」
俺は魔法陣に指輪を翳した。
「ん!? 数字が出ない?」
魔法陣が赤く変色しだした。そのまま指輪を翳し続けると魔法陣が段々、白くなり光りを放ち出した。
「あれ!? もしかしてこれ 転送するのか!?」
光りは俺の手、腕、体と徐々に包みだした。眩しくなった俺は目を閉じて光りが収まるのを待つ事にした。
―― その時、テレジアはカーティスと馬で『トヨスティーク』に入っていた。
「ケイゴ 何処に行ったのかしら…… 馬車は今さっき着いたって言ってたから そう遠くには行ってないはずなんだけど」
「そうだよな 厩舎で確認したが確かにケイゴらしいのが利用したって話だ」
テレジアは歩いて探していると俺に教えた石の辺りにいたと言う。その時、微かに石の辺りから光りを見た気がしたと言っていた。
フウゥ……
瞑っていた目でも分かるほどの光りが無くなり急に真っ暗になった。手には以前触った事がある感触があった。冷たく堅い感じ……もしや、と思いゆっくりと目を開けていく。真っ暗だが此処が何かは把握した。…ロッカーの中だ 間違いない。
俺はロッカーの中に転送されていた。中から外の様子は見れないが隙間から灯りが差し込んでるのが分かる。蛍光灯の灯りだろうか。俺はロッカーの扉を押すが鍵が掛かっているようだ。
ガンガンガン
俺はロッカーを内側から三回叩いた。側に長島さんは居ないのか?俺は大きな声でロッカーの中から叫んだ。
「おーい! 長島さん居るか!? 居たら返事してくれ!」
返事が無いか聞き耳を立てると足音がした。
ペタンペタンペタン
サンダルの音だろうか、音が近づいてくる。
「なんじゃ ケイゴか?」
長島さんだ!長島さんの声がした。
「ああ! 俺だ ケイゴだ! 今戻った!」
「おお! 帰ったか ガハハハ 今開けてやる 待っとれ!」
ガチャッ バタン
「今帰った 長島さん……」
「おお おかえり ケイゴ しかし何なんだ こんな時間に」
「今何時だ?」
「まだ四時だぞ 時差は何時間だ?」
「……あっちを六時過ぎに出発したから 二時間の時差か」
「…二時間か わしの時もそれくらいじゃった とりあえずコーヒーでも飲んでくれ 飲みながらでいいで 口頭でわしにも分かるよう説明してくれ」
「…ああ わかった」
俺は『異世界』へ飛び、一ケ月経った今日…初めての『一時帰還』を果たした。
調合の指導で、戻るのが遅くなったテレジアは部屋に入ると俺の姿が無く何処に行ったのか少し気になったが、どうせ飲んでると思いシャワーを浴びたと言う。町の酒場はどんなに遅くても午前二時には閉まるので、そろそろ帰ってくると思ったテレジアは起きて待っていた。
―― 髪を乾かしテレジアは待っていたが一向に俺が戻らない……
先日の『アインイーグル』の件もあり、心配になったテレジアは服に着替え俺を探しに町に出た。護身用のナイフと金だけ持ち、開いてそうな店を探したほとんどの店は閉まっていた。僅かに開いていた店で俺の事を聞き込んだが、それらしい人物は店に来てないという返事だった。
(時間が経つに連れ、不安が徐々に大きくなって胸が苦しくなっていく…… 一体、何処に居るの…… ケイゴ)
その頃、俺は乗り合い馬車の荷台で毛布に包まれウトウトしていた。すでに『魔獣』が出現するとされる場所は過ぎて、警護を頼まれていた冒険者二人も荷台で横になっていた。出発して約三時間くらいだろうか、そろそろ休憩だ。
―― テレジアは途中でカーティスの事を思い出した。もしかしたらカーティスと店で飲んでいるのでは?そう思ったテレジアはカーティスの店に向かった。カーティスの店の前に着くと中から薄暗い灯りが漏れている。どうやら手前の部屋じゃなく作業場の灯りが漏れていたようだ。
(なんだ…… ここに居たのね 心配して損した)
テレジアは、この時そう思ったらしい。しかし、刀を鍛え作業をするカーティスだけしか居なかった。
ガラガラッ
「カーティスさん ケイゴ ケイゴ知らない? 何処にも居ないのよ」
「う うおっ テレジアちゃん どうした? こんな時間に ケイゴ?ケイゴなら夕方此処に来たぜ 蒸かし芋買って来てくれたんだが 居ないってどういう事だ?」
カーティスは作業していた手を止め、テレジアの話を詳しく聞く。
「それなら三日ほど留守にするって言ってたぜ?」
「ええっ!? どういう事?」
「何でも 『忘れ物がある』とかで『トヨスティーク』行くって……」
「忘れ物!? 何なの? 『トヨスティーク』に行くって言ったの?」
「ああ 俺も今日か明日には行く予定してたから 聞いてないのか?」
「……ま」
「えっ?まっ!?」
「馬よ!馬! カーティスさん 馬を出して! 今すぐ!」
「えええっ!?」
―― その頃、俺は馬車で道中の休憩が終わり再び『トヨスティーク』に向け馬車は出発していた。出発して約四時間が経った頃だ。『トヨスティーク』から『アインティーク』へ向かった時は約七時間だったが計算が合っていれば後三時間ほどで『トヨスティーク』に着くだろう。
―― その頃、テレジアとカーティスはカーティスが飼っている馬で俺を追いかけ『トヨスティーク』に向かっていた。
「ちょっと! もう少しスピード出ないの!?」
「無茶言うなよ テレジアちゃん… 二人乗りで全開で走っていたら馬が動かなくなっちまうよ…」
「……一体 どういう事なの ケイゴ…」
「……テレジアちゃん」
「黙って出かけて…… 絶対許さないから! とっちめてやる!」
「…(怖い…)」
―― 夜から朝になりかける紫色の空……徐々に薄白く広がっていく日の輝き。少しだけ、ひんやりとする空気……そろそろ日が昇る。仮眠を取っていた俺は立ち上がり御者に尋ねる。
「あとどれくらいで『トヨスティーク』?」
「もう見えてきますよ お客さん」
しばらくすると町の外壁が見えてきた。降りたら一番で魔法陣の場所に行き残り日数の確認をしないと……
「お客さんー 着きましたよ 『トヨスティーク』! 着きましたよー」
寝ていた乗客、警護にあたっていた冒険者達はモゾモゾと起きだした。馬車は厩舎の前に停車した。俺は御者が用意する階段を待たずに荷台から飛び降りた。
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
御者に挨拶をすませた俺は魔法陣に真っ直ぐ向かった。ここでは数人だが知り合いも居る、出来れば見付かりたくないので残り日数を確認したら知らない宿で帰れる日まで引き篭もる予定だ。魔法陣がある石が見えてきた。
タタタタタ
俺は小走りになって一段下がった根元に駆け寄った。
「うし! 確認確認っと」
俺は魔法陣に指輪を翳した。
「ん!? 数字が出ない?」
魔法陣が赤く変色しだした。そのまま指輪を翳し続けると魔法陣が段々、白くなり光りを放ち出した。
「あれ!? もしかしてこれ 転送するのか!?」
光りは俺の手、腕、体と徐々に包みだした。眩しくなった俺は目を閉じて光りが収まるのを待つ事にした。
―― その時、テレジアはカーティスと馬で『トヨスティーク』に入っていた。
「ケイゴ 何処に行ったのかしら…… 馬車は今さっき着いたって言ってたから そう遠くには行ってないはずなんだけど」
「そうだよな 厩舎で確認したが確かにケイゴらしいのが利用したって話だ」
テレジアは歩いて探していると俺に教えた石の辺りにいたと言う。その時、微かに石の辺りから光りを見た気がしたと言っていた。
フウゥ……
瞑っていた目でも分かるほどの光りが無くなり急に真っ暗になった。手には以前触った事がある感触があった。冷たく堅い感じ……もしや、と思いゆっくりと目を開けていく。真っ暗だが此処が何かは把握した。…ロッカーの中だ 間違いない。
俺はロッカーの中に転送されていた。中から外の様子は見れないが隙間から灯りが差し込んでるのが分かる。蛍光灯の灯りだろうか。俺はロッカーの扉を押すが鍵が掛かっているようだ。
ガンガンガン
俺はロッカーを内側から三回叩いた。側に長島さんは居ないのか?俺は大きな声でロッカーの中から叫んだ。
「おーい! 長島さん居るか!? 居たら返事してくれ!」
返事が無いか聞き耳を立てると足音がした。
ペタンペタンペタン
サンダルの音だろうか、音が近づいてくる。
「なんじゃ ケイゴか?」
長島さんだ!長島さんの声がした。
「ああ! 俺だ ケイゴだ! 今戻った!」
「おお! 帰ったか ガハハハ 今開けてやる 待っとれ!」
ガチャッ バタン
「今帰った 長島さん……」
「おお おかえり ケイゴ しかし何なんだ こんな時間に」
「今何時だ?」
「まだ四時だぞ 時差は何時間だ?」
「……あっちを六時過ぎに出発したから 二時間の時差か」
「…二時間か わしの時もそれくらいじゃった とりあえずコーヒーでも飲んでくれ 飲みながらでいいで 口頭でわしにも分かるよう説明してくれ」
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