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第51話 大奥は再び咲く~七夕 参
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全員が興奮のるつぼと化し、勢いのまま賭け金をジャラジャラと箱に投入していった。あっという間に箱が金子で重くなる。賭け時間が終了すると、
女中頭がルールを説明した。
「印の場所を見事破いた者が勝者となる。投げるのは、ひとり三回まで。勝ち抜いた者で再度勝負を行い、勝者を決める! かけ声は好きに叫んでよし! まずは、御三之間、呉服の間、御仲居、前へ出よ!」
準備万端のお役目の者は足下に置かれたお手玉を手に取った。破きやすいよう適度な石を詰め込んだ特注品だ。
「太鼓の音を合図に投げよっ! 一回目!」
ドドン!
「えいっ!」
「それっ!」
「むんっ!」
「なんじゃ、そのかけ声は! 感情がこもっておらぬ! 玉も貫通しておらぬ! ここが戦場だと思い、敵を討ち取るがごとく叫んで投げい! いざ、二回目っ!」
ドドン!
「お覚悟めされい!」
「お命ちょうだいいたす!」
「その首いただき申す!」
的をぶち抜けないまでも、全員のお手玉は別の場所を貫通し、観衆はワッ! と声を上げた。
「もっと力強い言葉で! 三回目!」
ドドン!
「お覚悟ぉぉぉーー!」
「その首、置いてけぇぇぇーー!」
「大将首討ち取ったりぃぃぃ!」
お覚悟と叫んだ者のお手玉が、的のど真ん中を突き抜けた。
お目見え以上もお目見え以下も、やんや、やんやの大騒ぎだ。二回目は、御末、お茶の間、火の番も僅差の競り合いで観衆のボルテージは最高潮だ。残った部屋の女中たちの熱気も漲っている。
「との殿! 今こそ、御仲居の力をみせるのですぞっ!」
「お冬! 勝てば、十日掃除を免除いたすっ!」
勝ち残った勝者の決戦に熱い声援が飛ぶ。
皆、真剣な表情でお手玉をぐにぐにと握りながら手に馴染ませている。
「では、最終決戦である!」
ドドン!
「オラオラオラオラぁぁぁぁ!」
「神妙にお縄につけぇぇl!」
「腹を召されよぉぉぉ!」
御半下のお手玉が三回とも沢渡主殿頭の(ような)的をぶち抜いた。
「勝者! お冬!」
「きゃあぁぁぁ!」
大奥でも身分が下の御末が勝者となった。勝った、お冬が仲間にもみくちゃにされている。大奥の雑用を一切受け持つ、つらいお役目だ。豪華な食事など口にしたこともない。喜びもひとしおなのだろう。
お出ましになった御台所も、上臈御年寄も、そして、塩沢たちも大いに笑い、この催しを楽しんでいる。遠くからこっそりと覗く須磨の顔にも笑顔が浮かんでいる。高遠は視線で応えた。
――大成功だ。
高遠は安堵と充足感の両方を覚えた。
守りたい大奥に活気が舞い戻っている。
自分の役目は、御年寄としての使命はこれなのだ。哀しみもある、理不尽な場所でもある、綺麗事だけの世界ではなく、すべてを助けることなどできやしない。けれど、それでも大奥が花開いてこそ大奥であることができるのだ。今できる最善を尽くすことが次の時代へ大奥を繋ぐ。
――大奥の火は消させぬ。父上、母上、それこそが、あかねのお役目です。高遠家の名にかけて必ずや、やり遂げてみせます。
それから三日後の七月十日。ついに、高遠と須磨の男色本が出版された。
女中頭がルールを説明した。
「印の場所を見事破いた者が勝者となる。投げるのは、ひとり三回まで。勝ち抜いた者で再度勝負を行い、勝者を決める! かけ声は好きに叫んでよし! まずは、御三之間、呉服の間、御仲居、前へ出よ!」
準備万端のお役目の者は足下に置かれたお手玉を手に取った。破きやすいよう適度な石を詰め込んだ特注品だ。
「太鼓の音を合図に投げよっ! 一回目!」
ドドン!
「えいっ!」
「それっ!」
「むんっ!」
「なんじゃ、そのかけ声は! 感情がこもっておらぬ! 玉も貫通しておらぬ! ここが戦場だと思い、敵を討ち取るがごとく叫んで投げい! いざ、二回目っ!」
ドドン!
「お覚悟めされい!」
「お命ちょうだいいたす!」
「その首いただき申す!」
的をぶち抜けないまでも、全員のお手玉は別の場所を貫通し、観衆はワッ! と声を上げた。
「もっと力強い言葉で! 三回目!」
ドドン!
「お覚悟ぉぉぉーー!」
「その首、置いてけぇぇぇーー!」
「大将首討ち取ったりぃぃぃ!」
お覚悟と叫んだ者のお手玉が、的のど真ん中を突き抜けた。
お目見え以上もお目見え以下も、やんや、やんやの大騒ぎだ。二回目は、御末、お茶の間、火の番も僅差の競り合いで観衆のボルテージは最高潮だ。残った部屋の女中たちの熱気も漲っている。
「との殿! 今こそ、御仲居の力をみせるのですぞっ!」
「お冬! 勝てば、十日掃除を免除いたすっ!」
勝ち残った勝者の決戦に熱い声援が飛ぶ。
皆、真剣な表情でお手玉をぐにぐにと握りながら手に馴染ませている。
「では、最終決戦である!」
ドドン!
「オラオラオラオラぁぁぁぁ!」
「神妙にお縄につけぇぇl!」
「腹を召されよぉぉぉ!」
御半下のお手玉が三回とも沢渡主殿頭の(ような)的をぶち抜いた。
「勝者! お冬!」
「きゃあぁぁぁ!」
大奥でも身分が下の御末が勝者となった。勝った、お冬が仲間にもみくちゃにされている。大奥の雑用を一切受け持つ、つらいお役目だ。豪華な食事など口にしたこともない。喜びもひとしおなのだろう。
お出ましになった御台所も、上臈御年寄も、そして、塩沢たちも大いに笑い、この催しを楽しんでいる。遠くからこっそりと覗く須磨の顔にも笑顔が浮かんでいる。高遠は視線で応えた。
――大成功だ。
高遠は安堵と充足感の両方を覚えた。
守りたい大奥に活気が舞い戻っている。
自分の役目は、御年寄としての使命はこれなのだ。哀しみもある、理不尽な場所でもある、綺麗事だけの世界ではなく、すべてを助けることなどできやしない。けれど、それでも大奥が花開いてこそ大奥であることができるのだ。今できる最善を尽くすことが次の時代へ大奥を繋ぐ。
――大奥の火は消させぬ。父上、母上、それこそが、あかねのお役目です。高遠家の名にかけて必ずや、やり遂げてみせます。
それから三日後の七月十日。ついに、高遠と須磨の男色本が出版された。
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