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その31 拓光君は無尽蔵の…

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「おーい! そっちに賢者のヤツはいましたー?」
 
 ヒラヒラとした身なりの冒険者が茂みを越えて他の冒険者に叫んだ。
 今回、賢者狩りを行う為にあちこちから人員を集めたせいで知らない冒険者もいるようだった。
 
「いや……こっちはいねえな。だがウチの大将の追跡魔法でヤツの足取りは分かるらしい。この近くで歩き回ってるらしいが……」
 
「あー。やっぱり魔法使ってんすねー」
 
「ああ。今日で賢者をやっちまわないと、明日の闘技会で厄介なんだと……ったく……前夜祭の日だっていうのに、こんな森で追いかけっこかよ……」

 明らかにガラの悪そうな冒険者はやってきた冒険者に愚痴をこぼし、舌打ちをした。
 
「まったくっすねー。オレは顔も知らないっすよー」
 
「お前もか。いや、まあでもアレだろ。大賢者なんだし明らかにこう……ソレ! って分かるだろ。オレらみたいな下っ端とは身なりが……ってお前、高そうな服着てるなぁ」
 
「ハハハ。あざーす」

 軽率そうな冒険者はヘラヘラと笑いながらお礼を言った。どこぞのボンボンが体裁と暇つぶしの為に冒険者をしているのは珍しいことではない。親の金で高い装備を整え、実力は伴わない。よくある話だ。

「ところで、お宅のボスはどちらにいらっしゃいます? ちょっとお耳に入れたい情報があってっすねー……」

「ん? ああ……まあ後ろの方で指揮取ってると思うぞ。追跡魔法使ってんのはウチの大将だしな」

「へぇ~。あっちっすか?」

「そうあっち……」
 
 後ろを向いて指を指した瞬間。
 ゴッ!
 という鈍い音がしてガラの悪そうな冒険者はうめき声をあげる間もなく、その場に倒れた。
 
「あー……兜かぶってくれてて良かったー。頭とか潰れたらキモいし……」

 ヒラヒラとした衣装の冒険者は、もちろん拓光だ。
 
「顔を知らないヤツらが多いなら、しばらくコレでいけそうっすねー……あ、でもこの服はマズイか……」

 拓光は、しばらく考えてから倒した冒険者の服を脱が始めた。服装が大賢者仕様だとバレかねないからだ。

「うえ……きったね……くっさ! ダメだ、やっぱ無理」

 服を脱がしたはいいが、あまりの汚さと臭いに服を捨てる。風呂とか洗濯とは無縁そうな男だ。パルデンスは清潔感があったが他の冒険者なんてものは、こんなものなのだろうか。
 だがせっかく服を脱がせたので、このままコイツに成り済ましてる。と思わせる為にも服は隠しておくことにした。
 先程の冒険者の話ではこちらを追跡する魔法を使っているらしい。未だ好き勝手出来ているところをみると、大雑把にしか位置を把握出来ないのだろう。
 拓光としては仲村が逃げるまでの時間を稼ぐのが目的なので悪くない条件だ。
 撹乱し、時間をかせいでちゃっちゃと逃げる。
 敵の大将や主力の冒険者には会わずに切り抜ける……願わくば全員コイツくらい間抜けであればありがたい。
 
「おい! アッチだ!」
 
 声がした方を見ると、数名が大声をあげながらコッチに近付いてきている。見つかってしまった。
 しかし……
 
「おーい! コッチっす! 賢者はコイツの服を奪って逃げたみたいっすよ! 変装してるかもしれない!」
 
 と大声をあげた。
 
「どっちに行った!?」
 
「バカ野郎! アイツだ! アイツが大賢者だ!」
 
 拓光の誘導にのせられそうになった冒険者もいたが、どうやら拓光の顔を知っているヤツがいたようだった。
 拓光は面倒くさそうに溜息を吐くと、敵方に手をかざして石の弾で連射し始めると早々に敵方の一人に石の弾が直撃した。
 
「おい! 撃ってきたぞ! 木の陰に隠れろ! 無茶苦茶な速度で連発してきやがるぞ! 誰かマルコヴィチさんに知らせて来い! 残りはここで応戦してマルコヴィチさんが来るまで野郎を釘付けにするんだ!」
 
 そういうと数人が木の陰にばらけて隠れた。一つの木に集中すれば木を倒すことも出来るが……それは出来そうにない。相手は隙をみてこちらに魔法を放ってきた。
 拓光のように連射は出来ないが、火や雷といった魔法は拓光の近くで炸裂し、直接当たらずとも破片が飛んでくる。
 
「あっちぃ! ……んにゃろ!」
 
 拓光も撃ち返すが、一瞬怯んだ隙をついて相手方は別の木々に移動していた。少しづつ横に広がり詰めてくるつもりのようだ。
 せめて、木を一撃粉砕出来れば……
 とそこで拓光はピンときたのか、手をかざして集中し始める。
 石の弾がメキメキと音を立てて精製される……
 ピンポン玉程度で撃ち出されていた石の弾はさらに大きくなり、やがてボーリング程の大きさになった。

「おいおい! あんな、でかいストーンバレット見たこと……おい! お前ら逃げろ!」
 
 冒険者同様した声が聞こえる。
 拓光の作り出した石の弾は最早、弾丸ではなく砲弾であった。例え大木であろうともコレがあの速度で射出されれば、ひとたまりもないだろう。
 集中していた拓光はカッと目を見開き、その砲弾を撃ち出した……
 
 ゴトン……
 
 はずだったが……砲弾はあまりの大きさと重さの為か、その場に転がってしまう。

「あり?」

 その有様を見た冒険者達が勢いづき、木の陰から飛び出し近付いてきた。
 冒険者達はさらに横に広がり距離を詰めてくる。石弾を連射出来るとはいえ左右に展開されると、拓光一人では捌ききれなくなってきた。
 左右交互に撃っていたのでは間に合わない。
 拓光はヤケクソで左手をかざして石弾の精製を試みる……するとメキメキと音をたて石弾が作られていった。

「で、出来た!」

 拓光は両手を広げ石弾を滅茶苦茶に撃ち出した。左手は利き手ではないせいか、多少連射の速度が落ち精度も欠けてはいたが……それでも相手方には十分脅威が増した。
 
「一人相手に! コレじゃ……戦場じゃねえか! マルコヴィチさんはまだか!?」
 
 拓光を追っていた冒険者達は反撃の手が止まり、移動することもままならなくなっていた。木の陰に隠れ石弾をやり過ごすのが精一杯だ。
 
「くっそ! いつまで撃つ気だ! いったいどんだけ魔力があんだよ!」

 拓光はいつまで経っても石弾を撃ち続けている。
 そこで、その場を指揮していた冒険者がふと気付いた。やけに辺りが暗い。
 頭上を見上げると馬鹿デカい岩が頭上でメキメキと音をたてながら巨大化して日を遮っていた。

「飛ばせなくても落とすことは出来るっすからね。にしても……デカイな」

 拓光は滅茶苦茶に撃ちながら冒険者達の頭上に石弾を精製していた。が弾というには大きすぎる……まるで小さな山のようだ。

「な、なんだ……ありゃあ……おい! 下がれ! 落ちるぞ! おち……」
 
 気付いた時にはソレはすでに落ち始めていた。
 ズゴゴゴゴ……という凄まじい轟音と共に拓光の作った岩山が地面に着弾する。
 攻撃魔法を受けたというには生温い……最早、災害であった。
 その場の全てが押しつぶされるのはもちろん。地面は揺れ、立っているのもやっとだった。その後、少し遅れた衝撃波が周辺の木々をなぎ倒し、拓光も近くにいたせいかひっくり返っていた。
 
「はぁはぁはぁ……あ、あっぶねぇ……やり過ぎたっすね……」
 
 周辺は先程の魔法で滅茶苦茶になっている。砂埃が舞い視界も悪く、逃げるにはもってこいの状況だ。
「さてと……」と逃げる為に拓光が腰を上げた時だった。
 
「凄えな。さすがは大賢者様だ」

 空から声がする。拓光が見上げると無精ひげにゆるふわパーマのナイスミドルがこちらを見下ろしていた。

「ノアナ=マルコヴィチだ。大賢者様……」
 
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