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その25 左町、知らなくていいことを知る

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「いやー仲村さん。よくあんな次から次に適当にウソつけますよねー感心するっすわー」
 
「人聞きが悪いね! ウソじゃないよ! 世界観に合わせた設定だよ! 設定!」
 
 もう夜中だというのに、相変わらず若い二人は元気だ。おじさんはもう眠いよ。
 あの後、仲村さんは必死に辻褄を合わせ、ランドルト王とドクトゥス君を納得させたのだった。

 ────────

 ※回想

「あー……だからね! 『英雄殺し』は消した人物を人の記憶にも残さないんだよ。現在、過去、未来……その人のすべてを消し去っちゃう。いなかったことにしちゃうってわけ! もう凄いでしょ!? もはや神の域!」

「いや、だから私達は……この世界の理の外にいる存在なのさ! だから消えた人物のことも覚えてるの! まあ、詳しいことは言えないん……いや! 言っちゃならないんだ!」

「え? なに? 疑ってる? 疑ってるの王様!? 私を? それとも大賢者の拓光君を!? 大賢者様の拓光君が言ってるのに!?」

「まあ……セブンセンスさえどうにか出来ればこっちは……え? なんの為に? 平和だよ! この世界の平和の為にだよ! え? ……うん……うん……いや……だー! かー! らー! 詳しいことは言えないだってば! でも信じて!」 

 ────────
 
 いや……アレは納得させたのではない。一方的にまくし立てて強引に押し通しただけだ。ランドルト王もドクトゥス君も納得しきってはいないだろう。

 今は、パルデンスのオレの部屋にて今日の反省会。
 目下、一番マズイのはセブンセンスへの御用改めがなくなってしまったことだ。
「全ての人の記憶からも消え、元からいなかったことになった人物を裁くことはできない」
 のだそうだ。
 まあ、そりゃそうか……
 と、なるとだ。
 
「まあ、もう闘技会の時に左町さんがチクっとやっちゃうしかないっすね」
 
 拓光は相変わらず他人事だ。ついさっきまでアラーム切ってたことを仲村さんに怒られて、珍しくへこんでたくせに。だが、無理もない……それほどあの豹変ぶりは恐ろしかったのだ。大賢者というブルマインが作った役に飲み込まれていた。
 ん? そうそう大賢者といえば……

「仲村さん。拓光に魔法が使えるようにするって件はどうなったんです?」

「ん? ああ、アレね。もう使えるようにしてあるよ」

「え!? マジっすか!? どこにそんなヒマが!?」

 拓光が驚くのも無理はない。今日は朝から大体一緒にいたのだから、いつそんなことをするヒマがあったのだろうか?

「一番負荷がかからない魔法を調べて、リミットを外すだけだから。そこはね。ほら、私だし?」
 
 オレと拓光の驚く顔が見れたのがよほど嬉しかったのか仲村さんはいつになく増長気味だ。なんかカワイイ。
 
「え? じゃ、じゃあさっそく使って見たいんすけど!?」

「だめー。今日はもう遅いし、それに部屋の中で使うわけにはいかないでしょ? 明日の早朝に試そうよ……ね?」

「ええ~……そんな~……でも、たしかにココじゃ無理っすよねー。あー……でも楽しみっすわ。オレ今日早く寝よ!」

 嬉しそうな拓光を見て仲村さんの顔がいっそうほころぶ。うふふ。いいねー……若いってさ。

「あ。左町さんも使えるように出来るけど、どうする?」

「え? うーん……オレはいいや。明日見て、よっぽど便利だったらってことで……」 
 
 いつからだろう? 若い頃は新しい事、やったことない事を、自ら求めたものだったが…… 
 どうも年をとると安定を求めて変化を嫌ってしまうようだ。周りの同年代も人間もそうだが、好奇心よりも面倒くさいが勝ってしまう……。
 この現象、もしかしたら名前がついてたりしないか?
 
「そうかい? まあ、明日の拓光君を見て判断してもいいかもね……って……待って。誰か来た」

 3人で密談をしている時、聞かれると困る事も多々あるので仲村さんは防音のフィールドのようなものを周りに張っているのだそうだ。そのフィールドに人が近づくと分かるようになってるらしい。ほんと便利。
 普段は忘れがちだが、この仲村さんは『案内人』というサポートキャラだ。実際はオレと拓光が知らない所で色々とやってくれてるのかもしれない。

 コンコンコン……

 とドアがノックされる。
 
「夜分に申し訳ありません。ドクトゥスです。サマチ様、少しよろしいでしょうか?」
 
 ノックの主はドクトゥス君だ。まさか「おやすみ」を言いに来たわけでもないだろう。胃が痛くなるような面倒な案件でなければいいが……。
 
「どうぞ。開いてるよ」というと「失礼します」とドクトゥス君入ってきた。
 
「皆さんお揃いでしたか。ちょうどよかった少しお話してもよろしいですか?」
 
「いや、オレはもう寝るっす」
 
 わざわざ意地の悪い返しをした拓光の足を蹴っ飛ばして「いや、大丈夫だよ。」と近くにあった椅子を引いてドクトゥス君に座るよう促した。
 
「ありがとうございます」
 
「で? どうしたの? 今日のこと?」
 
「たしかに理解しきれない部分は多々ありましたが……超常的な、なにかというものはこういうものなのかな……と」
 
 うん……まあ納得はいってないよね。でも拓光と仲村さんの「それ以上聞くな」って圧が凄いし……ドクトゥス君も、もうなにも言えないよね。
 
「それよりサマチ様。サマチ様はオクトーと呼ばれる女神を『英雄殺し』で消したとおっしゃいましたよね」
 
「う、うん。まあ、もうなかったことになっちゃったけどねぇ」
 
「そう。セブンセンスはサマチ様に刺客を送ってない……ということです」
 
「え? いや、だから……なかったことにはなってるけど本当に……」

 ドクトゥス君は仲村さんがまくし立て過ぎたせいで、肝心なところまで理解出来なかったのだろうか? そう思った直後、仲村さんが「そうか」と声を上げた。

「セブンセンスは殺したい相手である左町さんにまだ刺客を送ってない……ということは、今から新たに刺客を送ってくるかもしれないってことだ!」
 
「そうです。セブンセンスは刺客を送ってくるでしょう。サマチ様が女神を返り討ちにする実力があるということも知らないはずですし警戒もしてないでしょうから……」
 
 な、なるほど。そりゃそうだ。殺したい相手は生きてるんだし。何事もなく、何もしてないってことになってるんだし……そら殺しにくるわ。おっかねー。
 
「じゃあ、この拠点からなるべく出ない方がいいっすねー。不意をつかれたら万が一ってこともありますし」
 
 拓光の言うとおりだ。闘技会は明後日……明日はどこにも行かずに引き籠もっていよう。
 
「それ……なんですが……」
 
 ドクトゥス君が口篭もる。なにか言いづらいことでもあるのだろうか? 「他所から来た中年のオッサンを自宅に引き籠もらせるのは、ちょっと……」みたいな?
 おいおい……命がかかってんだぜ? ドクトゥス君~明日だけ勘弁してくれんかね。
 
「実は、我がパルデンスにセブンセンスの間者が潜んでいる可能性があるのです」
 
「患者さん? ああ……病人がいるのに他所のオッサンが屋敷うろついたら気が休まんないかぁ……じゃあ、なるべく部屋から出ないようにするから」
 
「なに言ってんの、左町さん……ボケたにしちゃ、ちょっと……ヒドいよ。間者。スパイって意味の方の間者」
 
「す、スパイ!? え!? セブンセンスんとこの女神がここにいるかもってこと!?」
 
 白い目でこちらを見てくる仲村さんにかまってなどいられない。この屋敷内にスパイがいるだと!?
 
「お恥ずかしい話ですが……そうとしか思えないほどセブンセンスはこちらの動向を掴んでいるのです」
 
 ということは引き籠もってたら引き籠もってたで……こう急にグサッと……ってこともありえるのか。こわっ……。
 
「えっと……もしかしたらコイツかも。みたいな心当たりとかないのかな?」
 
「それが……今のところ手がかりがなく……。も、もちろんパルデンスとしては全力で警護にあたります。しかし、サマチ様も最大限警戒していただきたく……」
 
 ドクトゥス君は申し訳なさそうにうつむく。だが実のところ、そこまで深刻に考える事態ではない。
 
「オクトーは……オレが消した女神は「大賢者と二人でいられたら手出しできない」って言ってたんだ。だから、拓光と一緒にいれば手出ししてこないと思う。大丈夫でしょ」

「なるほどー……やっぱり女神も大賢者様であるオレは怖いんすねー。ん? そういえばさっきドクトゥス君は心当たりがないとか言ってたっすけど……女神なんだったらやっぱ女性は怪しいんじゃないすか?」

 拓光が偉そうに……だが的は得ている。女性には特にに用心した方がよさそうだ。

「そうだよね。ハニートラップとかもあるかもよ」
 
「なるほど……用心しよう。オレのことを好きになる女など、この世界にいない。絶対にいない」
 
「いや、そんな卑屈になることないけどさ……」
 
 パルデンスの拠点にいるのだ、相手もそこまで無茶はしてこないだろう。そういう慢心がついつい軽口を叩かせる。
 
「でも……そうだな。大事を取って今日は拓光もこの部屋で寝……」
 
「いやっす。なんで左町さんと一緒に寝なきゃなんないんすか。仲村さんとなら喜んでしますけど」
 
「は、はぁ!? な、なんで!?」
 
 仲村さんは突然の拓光の発言に声が裏返る。
 
「そりゃー、おじさんより若くてキレイな仲村さんの方がいいっすよ。ああ……でも添い寝じゃすまないかー」
 
 そういうと「へへへ」とワザとらしく下卑た笑いをした。
 はい、セクハラ。コイツ最低だ。訴えられればいいのに。
 仲村さんの方を見ると顔を真っ赤にして下を向いている。ウブすぎひん?
 仲村さんのその様子を見て拓光は慌てて弁解を始める。
 
「え? いや……冗談! 冗談っすから! マジで取らないで下さいよー。上司相手にそんなんするわけないじゃないっすかー」
 
 んー……それはそれで……不正解。
 仲村さんは今度は分かりやすく肩を落とす。感情が読み取り易くて面白いな。まあ、頑張ってくれ。
 
 
 ────────
 
 
 とりあえず、大事を取って拓光はオレの部屋で一緒に寝ることに……ベッドは一つしかないので拓光にゆずり、オレはソファだ。こっちが頼んでるし、これくらいはしょうがないだろう。
 
「左町さん。」
 
「あん?」
 
「左町さん、仲村さんとなんかあったんすか?」
 
「あん? なんで?」
 
「いや。なんか前より打ち解けてる感じが……前はちゃんと上司相手って感じだったし」
 
「……え? 仲村さんのこと気になんのか?」
 
「いや……っていうか左町さんが……奥さんも子供もいるから、よくないなーって。」
 
「アホか!? 娘でもおかしくない年齢としだぞ。ねえよ。」
 
「ふーん……そうっすかー。でも仲村さんの方がっ、てことも……」

「もっとねーよ! アホか!?」

「いや、ほら……今日シルバと闘った後にめっちゃカッコよかったって興奮してたでしょ? ないってこともないと思うんすけど。」

「いや! ない! 絶対にない!」

「えー? 分かんないじゃないすかー。」

「わ、分かるんだよ! 絶対にない。」

「えー……そうっすかー? 仲村さんは年齢としとか気にしそうになさそっすけどねー」

「いや……オレよりだ。お前どうなの? 仲村さん」

「えー……? だってオレ今彼女いるっすから」

「ひぃぁぁあっ!?」

「え? なんすか? その反応?」

「い、いや……ちょっと変なとこに空気入って……あ、あっそう」

「そうっすか……。ん? あれ? あー……まあ、いいや……」

「なんだよ?」

「いや、なんでもないっす。寝ますわ。おやすみなさい……」

「あ……お、おう」

 そうか……コイツ彼女いるってか……
 そうかー……
 今日は朝からシルバと闘い、城に行って王様と対談……それでなくても昨日から女神の襲撃のせいで寝れてないのに……拓光のいらぬ情報のせいで今日も眠れそうにない。
 明日は平和でありますように。
 と心の中で願って眠りについた。
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