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その21 左町さんはすぐ調子に乗る
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「ラビットパンチ……ですか」
「そう、ラビットパンチ。大振りの右を躱させて、引く手でそのまま後頭部を叩いたんだ。延髄に直接ダメージを与えて脳障害を効率よく起こさせる……その……とても危険で卑怯な技なんだ」
「なるほど、躱したと思っていたアレが……他のモノ達には見えぬはずですな。しかし……それのなにが卑怯なのでしょうか?」
「え? いや……卑怯なんだよ。勝てないから卑怯な技を使ったんだ。君はもうちょっと怒っていい。だからオレの負けだ。反則負けだ」
「反則負けと申されましても……」
シルバは闘う前とは態度が違っていた。
純粋な体術のみで敗れたのは初めてだったということで「是非ともご指導を!」と詰め寄られている。特に最後はなぜ自分が失神してしまったのかと……
「ボクシングでは最悪の反則なんだ。故意に狙ってやるなんて、これはもう……卑怯の極み」
「ぼくしんぐ? のことは存じませんが、相手の弱点や急所を狙うのは卑怯ではないと思いますが……例えば不意打ちや人質をとったりだとか……」
「それは卑怯すぎるだろ!? それ以前の問題だろ!」
せ、説明が難しい……この世界の倫理観でスポーツマンシップにモッコリさせてもしょうがないのか。
「なるほど、さすが大賢者様のお師匠ともなられると騎士道にも通じておられるのですね!」
ブルマイン内のNPCは大抵こうだ……一度仲間意識を持つと、よほどのことがない限り、なにを言っても好意的に受け取る。どうしたらいいんコイツ、そういう仕様なん?
「じゃあ、まあいいや。とにかく闘技会はオレじゃなくシルバ君が出ちゃどうだ? オレはホラ……今さら、闘技会なんて出なくても……それよりシルバ君が出て、こういう場での経験を積んどくのも悪くないんじゃあないか?」
「なにをおっしゃいますか!? 此度の闘技会は、パルデンスのみでなくギルド全体の命運が掛かっているのです。強いモノが出るべきです! そう! サマチ様や大賢者様のような!」
もはや崇拝に近い感情を抱いて……いや、自我はないから感情は抱いていないか……
しかし、どうやらシルバは完全にオレのことを認めたようである。ついでに、その弟子である拓光のこともようやく認めたようで、大賢者様と呼ぶようになった。
当初のトラブルはこれで解決したわけだが、闘技会に出る出ないの問題はこじれ始めた。
たしかに、最初は出る予定だったかもしれないが……出なくていい可能性があるならば、なんとしてでも御免被りたい。必死に説得するも結局オレへの賛辞にすり替わって、らちがあかない状態だ。
「サマチ様。少しよろしいですか?」
シルバをどうにか説得しようと思案しているとドクトゥス君が横から入ってくる。
「ど、ドクトゥス君。ドクトゥス君からもちょっと言ってやってくんないかな? 今回の闘技会、やっぱりオレよりもさ……」
「そのことで、少しお話があるのです。タクミ様と二人で私の部屋へお越し頂いてもよろしいですか?」
ドクトゥス君にしては珍しく、こちらの話を強引に打ち切り話を進めてきた。不意を突かれてこちらの用件を言い出せず「う……わ、分かったよ」と了承してしまった。
考えてみれば最終的にメンバーを決めるのはドクトゥス君なわけだし、そこでドクトゥス君に直談判するのも悪くはないのだろうか。
────────
「で? なんすかドクトゥス君?」
拓光と仲村さんを連れて、ドクトゥス君の部屋に行くと拓光が偉そうに用件を聞いた。
なんだろう? 今はコイツが憎くてしょうがないからか、ドクトゥス君に偉そうな態度を取る拓光にイライラしてしまう。
「実は……あの……な、ナカムラ様もここで話を聞かれるのでしょうか?」
ごもっともな意見だ。
拓光はドクトゥス君が招いた客人で、オレはその師匠ということになっているので重要な話を持ち込むのも分かるが……仲村さんはこの世界では宿屋の主人のお母さんでしかない。女将! なにやってんの!?
「仲村さんは……オレ達にとっては大事な人なんで。ここで聞かなくても後で全部話すっすから、ここにいて問題ないっす」
か、かっこいいー!
拓光のくせに! え? なにそれ? 「大事な人っすから」って。
拓光としては、余計な説明を省いただけだったのだろうが戸惑うことなく即言い切った。
チラリと仲村さんの方に目を向けると赤面して下を向いている。
なるほど、こういうのの積み重ねでコロッといっちゃったわけか。チョロい女だ。
だが、まあ重要な話なのであれば仲村さんに居てもらった方がいいのは賛成だ。
「そうだな。今のオレ達の行動は仲村さんありきだ。ドクトゥス君、彼女を通さない動きはありえないと思ってくれ」
本当の目的を言うわけにもいかない。仲村さんにはオレ達の黒幕……責任者としてデンっと構えててもらおう。
「そうですか。お二人がそうおっしゃるのであれば……」
ドクトゥス君は反論するでもなくすんなりとこちらの要求を飲んだ。それほど拓光は……大賢者様ってのはこの世界では重要な人物になるのだろう。
「サマチ様。サマチ様は昨夜、女神に襲われたとおしゃっていましたが間違いございませんか?」
ドクトゥス君はこちらに向き直ると真剣な面持ちで話題を切り出してきた。正直こちらとしては触れられたくない話だ。
勝手に他の組織の人間と決闘をし、この世界から消してしまったわけだ。問題になるに決まっている。
が、こちらとしては命を狙われ殺されるところだったのだ。正当防衛として当然だというところは念を推さなければ……
「あ……えーっと……女神って名乗ってたし……そうだと。……でも、あっちから襲ってきて……その……しかたなく……というか……でも別に消すつもりは……なくてね? その……こっちも余裕がなくてですね……」
こちらに正当性があるとはいえ、後ろめたさがあるためか、しどろもどろと言い訳を並べてしまう。あるいは大きな組織のトップあるドクトゥス君に対してサラリーマンとしてのサガが働いているのだろうか。
「2年ほど前からエンカンを中心に実力のある冒険者や有力者、王国騎士までもが謎の失踪を遂げているのです。それも……セブンセンスに友好的ではない者ばかりが……」
「なるほどね。明らかに怪しかったにも関わらず命を狙われた者で今まで生き残った者がいなかったと。死人に口ナシな上に召喚した女神を引っ込めちゃえば証拠なんて残らないわけだしね」
ドクトゥス君の話を聞いた仲村さんが話をまとめる。
結局セブンセンスは王国内で後ろめたいことをしてるということらしい。
せっかくの仮想世界にも関わらず、なぜ悪の組織みたいなマネをしているかは分かりかねるが……
とりあえず怒られるってわけではないらしい。
左町蒼祐41歳……いや、10万41歳……心のつかえが取れて一気に気が楽になった。
「なるほどー。それが今回オレが女神を撃退したことで完全に明るみに出ちゃったわけだー。そっか、そっか……オレが撃退しちゃったことでねー……ふーん、オレがねー」
その通りです。とドクトゥス君がうなずく。
「今までシッポを掴めずにいたセブンセンスの闇をついに掴めたわけです。サマチ様のおかげで!」
自分のおかげ。と言われて悪い気はしない……先程まで怒られるんじゃないかとビクビクしていたのが嘘のようだ。むしろ自分が誇らしい。
「そうだね。そうなっちゃうね。そんなつもりは全然なくても。オレの……そう! オレのおかげでね!」
「襲われた直後、あんなビビってたのに、なに言ってんすかー。でドクトゥス君、これからどうするんすか?」
調子に乗る自分を拓光が冷めた目線で見ている。天狗になった上司より拓光は今後のことが気になるようだ。
「そうだね。セブンセンスの闇が明るみに出た以上、国をあげてセブンセンスを追求出来るチャンスだよ。なんせ王国騎士まで手をかけてる可能性もあるんでしょ?」
拓光の言葉を受けて仲村さんが発言をする。
そうだ。これはチャンスだ!
目的こそ分からないが、冒険者のみならず有力者や王国騎士まで手にかけているならば、セブンセンスは王国内の不穏分子に他ならない。ならば、パルデンスの力だけではなく国をあげてセブンセンスを潰すことが出来るということだ。
「その通りです。そこで皆様にお会いしていただきたい方がいるのです」
そう言うと、ドクトゥス君はチラリと拓光の方に目線を送ると
「国王エドモンド=ランドルト様。拓光様には特にお会いになりたがっていらっしゃいましたよ。」
そう言うとイタズラな顔でフフフと笑った。
意味ありげなドクトゥス君の微笑に、まるでピンときてない拓光であった。
「そう、ラビットパンチ。大振りの右を躱させて、引く手でそのまま後頭部を叩いたんだ。延髄に直接ダメージを与えて脳障害を効率よく起こさせる……その……とても危険で卑怯な技なんだ」
「なるほど、躱したと思っていたアレが……他のモノ達には見えぬはずですな。しかし……それのなにが卑怯なのでしょうか?」
「え? いや……卑怯なんだよ。勝てないから卑怯な技を使ったんだ。君はもうちょっと怒っていい。だからオレの負けだ。反則負けだ」
「反則負けと申されましても……」
シルバは闘う前とは態度が違っていた。
純粋な体術のみで敗れたのは初めてだったということで「是非ともご指導を!」と詰め寄られている。特に最後はなぜ自分が失神してしまったのかと……
「ボクシングでは最悪の反則なんだ。故意に狙ってやるなんて、これはもう……卑怯の極み」
「ぼくしんぐ? のことは存じませんが、相手の弱点や急所を狙うのは卑怯ではないと思いますが……例えば不意打ちや人質をとったりだとか……」
「それは卑怯すぎるだろ!? それ以前の問題だろ!」
せ、説明が難しい……この世界の倫理観でスポーツマンシップにモッコリさせてもしょうがないのか。
「なるほど、さすが大賢者様のお師匠ともなられると騎士道にも通じておられるのですね!」
ブルマイン内のNPCは大抵こうだ……一度仲間意識を持つと、よほどのことがない限り、なにを言っても好意的に受け取る。どうしたらいいんコイツ、そういう仕様なん?
「じゃあ、まあいいや。とにかく闘技会はオレじゃなくシルバ君が出ちゃどうだ? オレはホラ……今さら、闘技会なんて出なくても……それよりシルバ君が出て、こういう場での経験を積んどくのも悪くないんじゃあないか?」
「なにをおっしゃいますか!? 此度の闘技会は、パルデンスのみでなくギルド全体の命運が掛かっているのです。強いモノが出るべきです! そう! サマチ様や大賢者様のような!」
もはや崇拝に近い感情を抱いて……いや、自我はないから感情は抱いていないか……
しかし、どうやらシルバは完全にオレのことを認めたようである。ついでに、その弟子である拓光のこともようやく認めたようで、大賢者様と呼ぶようになった。
当初のトラブルはこれで解決したわけだが、闘技会に出る出ないの問題はこじれ始めた。
たしかに、最初は出る予定だったかもしれないが……出なくていい可能性があるならば、なんとしてでも御免被りたい。必死に説得するも結局オレへの賛辞にすり替わって、らちがあかない状態だ。
「サマチ様。少しよろしいですか?」
シルバをどうにか説得しようと思案しているとドクトゥス君が横から入ってくる。
「ど、ドクトゥス君。ドクトゥス君からもちょっと言ってやってくんないかな? 今回の闘技会、やっぱりオレよりもさ……」
「そのことで、少しお話があるのです。タクミ様と二人で私の部屋へお越し頂いてもよろしいですか?」
ドクトゥス君にしては珍しく、こちらの話を強引に打ち切り話を進めてきた。不意を突かれてこちらの用件を言い出せず「う……わ、分かったよ」と了承してしまった。
考えてみれば最終的にメンバーを決めるのはドクトゥス君なわけだし、そこでドクトゥス君に直談判するのも悪くはないのだろうか。
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「で? なんすかドクトゥス君?」
拓光と仲村さんを連れて、ドクトゥス君の部屋に行くと拓光が偉そうに用件を聞いた。
なんだろう? 今はコイツが憎くてしょうがないからか、ドクトゥス君に偉そうな態度を取る拓光にイライラしてしまう。
「実は……あの……な、ナカムラ様もここで話を聞かれるのでしょうか?」
ごもっともな意見だ。
拓光はドクトゥス君が招いた客人で、オレはその師匠ということになっているので重要な話を持ち込むのも分かるが……仲村さんはこの世界では宿屋の主人のお母さんでしかない。女将! なにやってんの!?
「仲村さんは……オレ達にとっては大事な人なんで。ここで聞かなくても後で全部話すっすから、ここにいて問題ないっす」
か、かっこいいー!
拓光のくせに! え? なにそれ? 「大事な人っすから」って。
拓光としては、余計な説明を省いただけだったのだろうが戸惑うことなく即言い切った。
チラリと仲村さんの方に目を向けると赤面して下を向いている。
なるほど、こういうのの積み重ねでコロッといっちゃったわけか。チョロい女だ。
だが、まあ重要な話なのであれば仲村さんに居てもらった方がいいのは賛成だ。
「そうだな。今のオレ達の行動は仲村さんありきだ。ドクトゥス君、彼女を通さない動きはありえないと思ってくれ」
本当の目的を言うわけにもいかない。仲村さんにはオレ達の黒幕……責任者としてデンっと構えててもらおう。
「そうですか。お二人がそうおっしゃるのであれば……」
ドクトゥス君は反論するでもなくすんなりとこちらの要求を飲んだ。それほど拓光は……大賢者様ってのはこの世界では重要な人物になるのだろう。
「サマチ様。サマチ様は昨夜、女神に襲われたとおしゃっていましたが間違いございませんか?」
ドクトゥス君はこちらに向き直ると真剣な面持ちで話題を切り出してきた。正直こちらとしては触れられたくない話だ。
勝手に他の組織の人間と決闘をし、この世界から消してしまったわけだ。問題になるに決まっている。
が、こちらとしては命を狙われ殺されるところだったのだ。正当防衛として当然だというところは念を推さなければ……
「あ……えーっと……女神って名乗ってたし……そうだと。……でも、あっちから襲ってきて……その……しかたなく……というか……でも別に消すつもりは……なくてね? その……こっちも余裕がなくてですね……」
こちらに正当性があるとはいえ、後ろめたさがあるためか、しどろもどろと言い訳を並べてしまう。あるいは大きな組織のトップあるドクトゥス君に対してサラリーマンとしてのサガが働いているのだろうか。
「2年ほど前からエンカンを中心に実力のある冒険者や有力者、王国騎士までもが謎の失踪を遂げているのです。それも……セブンセンスに友好的ではない者ばかりが……」
「なるほどね。明らかに怪しかったにも関わらず命を狙われた者で今まで生き残った者がいなかったと。死人に口ナシな上に召喚した女神を引っ込めちゃえば証拠なんて残らないわけだしね」
ドクトゥス君の話を聞いた仲村さんが話をまとめる。
結局セブンセンスは王国内で後ろめたいことをしてるということらしい。
せっかくの仮想世界にも関わらず、なぜ悪の組織みたいなマネをしているかは分かりかねるが……
とりあえず怒られるってわけではないらしい。
左町蒼祐41歳……いや、10万41歳……心のつかえが取れて一気に気が楽になった。
「なるほどー。それが今回オレが女神を撃退したことで完全に明るみに出ちゃったわけだー。そっか、そっか……オレが撃退しちゃったことでねー……ふーん、オレがねー」
その通りです。とドクトゥス君がうなずく。
「今までシッポを掴めずにいたセブンセンスの闇をついに掴めたわけです。サマチ様のおかげで!」
自分のおかげ。と言われて悪い気はしない……先程まで怒られるんじゃないかとビクビクしていたのが嘘のようだ。むしろ自分が誇らしい。
「そうだね。そうなっちゃうね。そんなつもりは全然なくても。オレの……そう! オレのおかげでね!」
「襲われた直後、あんなビビってたのに、なに言ってんすかー。でドクトゥス君、これからどうするんすか?」
調子に乗る自分を拓光が冷めた目線で見ている。天狗になった上司より拓光は今後のことが気になるようだ。
「そうだね。セブンセンスの闇が明るみに出た以上、国をあげてセブンセンスを追求出来るチャンスだよ。なんせ王国騎士まで手をかけてる可能性もあるんでしょ?」
拓光の言葉を受けて仲村さんが発言をする。
そうだ。これはチャンスだ!
目的こそ分からないが、冒険者のみならず有力者や王国騎士まで手にかけているならば、セブンセンスは王国内の不穏分子に他ならない。ならば、パルデンスの力だけではなく国をあげてセブンセンスを潰すことが出来るということだ。
「その通りです。そこで皆様にお会いしていただきたい方がいるのです」
そう言うと、ドクトゥス君はチラリと拓光の方に目線を送ると
「国王エドモンド=ランドルト様。拓光様には特にお会いになりたがっていらっしゃいましたよ。」
そう言うとイタズラな顔でフフフと笑った。
意味ありげなドクトゥス君の微笑に、まるでピンときてない拓光であった。
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