仮想世界のおじさんは英雄を殺す

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その12 左町さんは覗きに行く

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「ヨシミツは今、エンカンにいるっす。本拠地はこことは別なんすけどね」
 
「今は、ってことは……しばらくの間はエンカンに滞在するんだな。例の闘技会が終わるまでは」
 
「そうっすね。ヨシミツの目下の目的は闘技会で優勝することっすから」
 
「ヨシミツ……ってかセブンセンスもパルデンスも……なんでそんなに闘技会で優勝したいんだ?」
 
「今回の闘技会の主催はランドルト王国っす。優勝した者の所属するパーティーには冒険者ギルドの規定を決める権限が与えられるんすけど……それがセブンセンスとパルデンス……っていうかセブンセンス以外の冒険者パーティーが揉めてる原因なんすけど……」
 
「以外って……セブンセンスは他の冒険者パーティーとも揉めてんのか?」
 
「全部っすよ。セブンセンスは冒険者界隈で味方なんていないっす」
 
「え? そんな評判が悪いのか?」
 
「いやぁ……逆っすね。冒険者以外の住民からは英雄視されてますから」
 
 同業者からは敵視されて一般住民からは英雄視か……
 
「セブンセンスは冒険者として請け負う仕事の料金がやたらめったら安いんす。なんなら半分ボランティアっすね。団長のヨシミツが持ってるスキルのおかげで……」
 
「スキル?」
 
「そうっす。スキルっす。」
 
「それは……魔法とかとは別なの?」
 
「うーん……別っすね」
 
 スキルとは初耳だ。ソッパスでは人々にそういう能力が備わってるなんて話は聞かなかった。
 
「ちなみに仲村さん……」
 
「ごめんね。もちろん使えないよ。この世界での唯一のプレイヤー……プレイヤーたらしめるモノがそのスキルなんだろうね」
 
 だと思った。どうせオレら異物だし。
 
「で? どんなスキルなんだ?」
 
 英会話とか? コミュニケーションスキルみたいな?
 
「スキル名は『ハーレム』っす。で……このスキルの厄介なとこは……」
 
「ちょ、ちょっと待て待て? ん? ハーレムって? あ、あのハーレムか? なんかこう女の子いっぱいはべらすみたいな……」
 
「あー……はい。そういう感じのハーレムっす」
 
 え゙え゙ぇ゙~……
 
 なんか……こう……え゙ぇ゙……
 なんだろう……自分とこの会社のトップだからか?
 モヤモヤする……所詮人間、行き着くとこはそこなんか……

「どしたん左町さん?」

 オレのなんともいえない心情が表情に出ていたのか……仲村さんが呼びかけてきた。

「まあ……人間どこまで行っても、そんなもんっすよ。むしろ地位とか名誉とか金まで持ってると、逆にそうなるんじゃないっすか?」

「あー……そうかも。女性に困ってはないにしろ、お金とか肩書抜きでチヤホヤされるのは男の夢なんじゃないのー?」

 拓光も仲村さんも理解があるな……
 でも、まあ……そうか……そうかもな……

「でも、まあ……酒池肉林で好き放題やってるわけじゃないっすけどね」

「スキル名『ハーレム』なのに?」

「ハーレムってのは周りが付けたスキル名っすからね。元々この世界を造ったとされる女神が321柱いるらしくて。その女神を召喚できるってのがヨシミツのスキルっす」

 321柱? ってことは……321人の女神を呼び出せるって事かよ!?
 それで護衛の方がヤバイって言ってたのか……

「まあ、心配しなくても321人を一度に呼び出せるってわけじゃないみたいよ? 呼び出す女神の力量で一度に呼び出せる女神の人数は決まるみたいだし。主神である女神は常にヨシミツの傍らにいて、その呼び出した女神の人数で……って左町さん、聞いてる?」

「ああ……うん……はい。聞いては……います……が、急に……設定多い。覚えられない」

 いや、仲村さん……オレはアホなんです……2つ以上のことは急に理解できないんです……
 
「でしょうねー」とため息をつきながら拓光が席を立つ。
 いや……お前はオレにそういう態度とるな。
 
「とりあえず偵察じゃあないっすけど……見に行くっすかヨシミツを」
 
「なんだ? 見れんのかよ」
 
「有名人っすからね。オレ程じゃないにしろ……まあ遠巻きに見物するくらいは問題ないっす。説明の続きはそこでするっすね……。仲村さん、左町さんは直感タイプの人間っすから実際見なきゃちゃんと理解できないんすよ」
 
 拓光。よくオレのこと分かってるな。偉いぞ。

「よし。じゃあ行くか」

 椅子から勢いよく立ち上がると、仲村さんがポケット中から取り出したイヤホンと双眼鏡のようなモノを手渡してきた。
 なにこれ? 覗きでもしろってか?
 
「コイツは対象の姿と声だけを見ることができるプログラムだよ」
 
「プロ……グラム? ってどういうことっすか?」

 拓光が理解できないという風に仲村さんに尋ねる。
 
「そういうことが出来るプログラムを具現化してるってこと。まあ、使用可能な距離はそんなに長くないけど……あちらに気付かれずに調査出来ると思うよ」
 
 ドラえもーん! 便利じゃーん!
 え? 仲村さん凄いじゃーん! 便利な道具出して来るじゃーん! さすが開発者!
 
「すごいっすねー。そんなのあるなら言ってくれればよかったのに……で? コレ名前とかあるんすか?」
 
「え? 名前?」
 
「便利な道具には名前くらいついてるでしょ? ブルマインだってブルマインって名前つけてるんすから」
 
「え……え~……考えてなかったなぁ……名前かぁ……」
 
「じゃあ出歯亀キットでいいっすね」
 
「絶対ヤダ! あのね! 知ってる? 出歯亀って明治時代の変質犯罪者の名前からきてるって! すっごい感じ悪いから絶対ヤメテ!」
 
「いやまあ、なんでもいいんすけど……じゃあ行きましょうか左町さん」
 
 抗議する仲村さんを適当に流しながら立ち上がると
 
「あ、左町さん出歯亀キット忘れないで下さいね」
 
 とニヤけ面でわざわざ仲村さんに聞こえるように言う。
 いや、わざわざ言わんでええんよ、そんなん。
 仲村さんの表情をチラリと見ると意外にもうっすら笑みがこぼれていた。
 へえ……

「仲村さんは行かないんですか?」
 
 3人で部屋を出ると仲村さん自分の部屋へと向かうようだったので声をかける。
 
「うん。私はパス。もう1回行ってるし。あ、左町さん、拓光君の『調子こきません』の儀式はちゃんとさせてね」
 
 そういうと人差し指と中指で自分の目を指した後にその指を拓光の方に向けていた。
『見てるぞ』ってヤツか。仲村さんがやると自然で格好がよかった。
 
「なあ拓光」
 
「はい?」
 
「仲村さんとは、ちゃんと仲良くやってるみたいだな」
 
「そうっすか?」
 
「ああ」
 
 仲村さんがこっちに来た時はギャアギャアやってたから心配してたけど、昨日からの二人の様子を見てて少し安心した。
 
「まあ、1週間近く一緒にいればそれなりのコミュニケーションはとるっすよ。社会人っすから」
 
 若い者同士だから上手くいったのか、拓光と仲村さんのウマが合うのか……
 しかし、ここは拓光の社会人としての成長なんだろう捉えようか。
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