上 下
37 / 43

【37】どの星もオスはオスだなって

しおりを挟む
「―ここだね、中央制御室だ」
「はい、およそ中佐に想定していただいた構造通りでした」
三代目を先頭に突き進んだ四人。
最強の技を身に着けた3メートルの巨人が相手では残っている文官エイリアンやガードロボット程度ではやはりヒマリロボ同様、蹴散らすという表現以外に見当たらない。
ヒマリは思わず相手に同情してしまい、暗い顔になっていた。それを見たシリアリスが、何度も殺されかけています、同情は無用です、と気遣うほどにそれは圧倒的な戦力差だった。
このメインブリッジらしき空間でもそうだ。立ち向かった宇宙人、ガードロボは全て一薙ひとなぎで破壊され、生き残った宇宙人は全て逃げている。
静まり返ったブリッジ。
空間は広く、天井は高いその部屋には無数のモニターや操作パネルらしきもの、そして中央には大きな立体映像が浮かんでいる。
地球人であるヒマリにはそれはまさに進んだ科学の証明だったが、幻影魔法のある世界の住人クリスには特筆するものには見えないらしく、冷静に見まわしながら、ヒマリに声をかける。
「ヒマリ、ここでいいの?」
「…待って」
「何?あの幻影?」
「待って待って待って…!!」
中央に浮かぶ立体映像は、この大陸の地図に現在地、それにこの船の周りの様子となんらかの文字列が表示されていた。
そして、宇宙人の文字らしき記号が映し出されている。
―その記号だけが形を変え続けている。
「―ヘイ、シリアリス…これ、これ…アレだよね!数字だったよね!状況からしてもアレだよね!!」
「はい。これは、カウントダウンのようです」
「やべえやべえ!コレマジにヤバいやつ!」
「え、何がヤバいの?」
「カウントがダウンしてるからヤバいの!!」
手をバタバタさせるヒマリと、必死な事だけは理解できるものの何がまずいのか、どれほど悪い事態なのかがわからないクリス。
シリアリスは冷静に状況を伝える。
「ヒマリ、7分33秒、32秒、31秒でカウント終了となります」
「…7分!!
またかよカウントダウン!もういいよカウントダウン!トラウマすぎんのよ!
―どこだどこだ、どうやって止めたらいいんだ…!!」
クリスはヒマリの強張こわばった顔と自分に説明すらせずに周りを見回すさまに、邪魔しないよう黙って、物心つく頃からずっと一番安心できる場所であるオグルの大きな指を両手で握りしめていた。
「ああもう、ヘイシリアリス、コンソールは何基で、アクセス…」
ドン、と、部屋に大きな音と床に振動が響いた。
飛び上がって驚いたヒマリは一瞬、この部屋でも母船の爆発がしたのかと思ったが、そうではなかった。
最後のエイリアン勇者、ドライ。彼が現れたのだった。
ヒマリが、ごくり、とつばを飲み込む。
さっきのような不意打ちはもちろんもう出来ない。むしろ何故逆に不意打ちをしてこなかったのか…。
ヒマリがドライと名付けたエイリアン勇者―おそらくそのリーダーは、中央上部のコンソールを守るように、そこから動かない。
ハっとするヒマリ。
1秒、ヒマリの動きが止まる。それまでの焦りを消して、真顔でドライを見つめる。
「…さすが、彼も本物の勇者だよ、本物の戦士だ」
「何、どゆこと?ヒマリ」
「ルールを教えてくれた。
ドライを倒して、彼の守るコンソールを破壊できればボクらの勝ちだ。彼を倒せなきゃ…間に合わない。この世界の負けだ。
…多分、この大陸の表面が全部ふっとぶ。
―あるいは、最悪は、ウィルスか何かで惑星全土の生物が死滅、とかすらあると思う」
「まさかそんな…事が…」
いつもの軽口を交えずに説明するヒマリに、クリスは、詳細はわからずとも危機を理解したのだろう。幼い顔色が変わった。そう、彼女も二代目勇者の子として、三代目勇者と共に育ち生きてきた者だから。
「ザウム、聞いた?!あのエイリアン勇者と、その後は後ろの黒い箱ね!」
頷く、異世界の勇者。
王国を護る最後の砦。最強の戦士。
ザウムが睨む先には、やはり同様に移民船の守護者が立っている。
ドライが生きて立っている限り、何があろうとも、どんな攻撃からでも母船のコンソールボックスを護ることだろう。
「―異世界人」
「う、え??三代目さん?」
三代目勇者は生涯最強のライバルを見据えたまま、微動だにせずにヒマリ達に声をかけた。
「本当によくやった、異世界人。お前たちは十分、この世界を救ってくれた。
―あとは俺の、この世界の力でやる」
「わあ、三代目さんの声初めて聴いた」
「いいな、クリス。いざとなったらヒマリらを連れて脱出しろ」
「なんでだよ!」
「俺は勇者だからだ」
「ザウム…」
「行くよ、クリス」
ヒマリがクリスの手を引き、その場から離れ際に振り返り見た三代目勇者の戦車のようなゴツい背中。
左腰にぶら下げた20キロもあろう鉄塊としか言えないラガフェルドの剣を片手で引き抜く巨木の右腕。
それらを支える象のそれにも負けない両脚。
ヴァジュラダラ、という仏神がいる。
―それは、仏教そのものを仏敵から守護する青い肌の神の名。雷電を操る無敵不敗の守護神ヴァジュラダラを、日本では金剛力士と、そして仁王と呼ぶ。
この異世界を守る闘神の、これこそが仁王立ちだと、ヒマリは思った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)メカガール・コーデックス

karmaneko
SF
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)において機械文明は一定の地位を確立している。その地位の確立に科学力と共に軍事力が大きく影響することは説明するまでもないだろう。 本書ではその軍事力の中核をなす人型主力兵器についてできうる限り情報を集めまとめたものである。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

全裸ドSな女神様もお手上げな幸運の僕が人類を救う異世界転生

山本いちじく
ファンタジー
 平凡で平和に暮らしていたユウマは、仕事の帰り道、夜空から光り輝く物体が公園に落ちたのを見かけた。  広い森のある公園の奥に進んでいくと、不思議な金色の液体が宙に浮かんでいる。  好奇心を抱きながらその金色の液体に近づいて、不用心に手を触れると、意識を失ってしまい。。。  真っ白な世界でユウマは、女神と会う。  ユウマが死んでしまった。  女神は、因果律に予定されていない出来事だということをユウマに伝えた。  そして、女神にもお手上げな幸運が付与されていることも。  女神が作った別の世界に転生しながら、その幸運で滅亡寸前の人類を救えるか検証することに。  ユウマは突然の死に戸惑いながら、それを受け入れて、異世界転生する。

処理中です...