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【36】ぼかあやる時はやる女ですよ
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「アイン、直線でこちらへ向かってきています」
「うん。
…砦のみんな、エウゲニイさんたちの敵討ちとは言わないけどさ。でも、やらなきゃじゃん」
そう言うと、ヒマリロボはアインへ向き直る…
いや、向き直れない。
動こうとした出鼻を、アインの怒りがくじく。
動き出したヒマリロボの頭部へと熱線が直撃し、バランスを崩してその巨体はのけぞる。
たとえそれが力士でさえも、立ち上がろうとした瞬間に指でおでこを押されただけでよろめいてしまうようなものだ。それをアインは狙って仕向けた。
「くっそ!
行くよ、シリアリス!よいさあああああああ!!!!!」
ヒマリロボが走り出…そうとすると、アインの熱線が足首に連続して命中する。
関節のみを狙っていた。ギシリという軋みが、コクピットに伝わる。
「ヒマリ、気を付けてください。関節への攻撃は極力受けないでください」
「うそ、巨大ロボなんて―知らないくせにいいいいいい!!!!!!!」
大きな大きなフック。
その拳が巻き起こす風だけで人間が吹き飛ぶほどの剛腕。
アインが人間よりもずっと大柄とはいえ、相手はヒマリロボだ。その身長差は8倍。体重差に至っては25倍。本当に、踏みつぶせるほどのサイズ差だ。
しかし自ら接近してきていたアインは当たり前のように目の前で躱してみせ、振り回した腕の肘関節へと熱線を放つ。さらに追い打ちのようにひざの裏にも放つ。
ヒマリロボは軋み音で悲鳴を上げる。
「…やっば、エイリアン勇者怒ってるよ!本気だよ!」
「そりゃそうでしょう」
「ええい、喰らええええ!!!!小1の時半年だけ習った空手の正拳突きぃぃぃぃ!!!」
ヒマリロボが拳を振り上げるが、動き出す前にエイリアン勇者はすでに後ろへと回っている。
アインはとりわけ大柄な260センチもの巨漢だが、地球のボクサーよりも軽やかに、しなやかに動き回る。
「おおおおいよけんなあああああ!!!!」
叫び、腕を振り上げる前に躱し終わり、さらにその腕の付け根へと銃撃を放つアイン。
「…っ!!ひょいひょい避けんな!!避けるチーズかお前はああああああああ!!!!!!」
スピードが、時間軸が違いすぎた。
馬鹿げた広さの拳を余裕で躱し続ける。
巨大ロボットのプレッシャーにも全く動じない。
ヒマリロボはそもそも製造コンセプトが攻城兵器のようなものだった。対人戦闘は、それもこんな素早く、その上強力な火器を軽々と扱う剛腕の戦士は想定されていない。
「当たらなければどうという事ないってかああああああああ!!!!」
ヤケクソのように、めいっぱいの大声を振り絞って殴りかかるがしかし、躱しながらの集中砲火を受けた右膝が砕ける。倒れながらのパンチは母船の壁を弾き飛ばすだけに終わった。
「なんっ!!なんだよもおおおお!!!!!!!」
振り上げた巨大な左腕が、肩の付け根からはじけ飛ぶ。
「ヒマリ!脱出を!」
「そん、それどころじゃない…!
みんなのっ!みん、なのおおおおおお!!!!!異世界ロボは無敵なんだああああ!!!!」
ヒマリの心からの絶叫が最後に残された右手を振り回す。
エイリアンの表情はわからない。それでも、無表情だっただろう。
かけら程の焦りも動揺も見せずに、ヒマリロボの巨大な拳を見ることもなく、大きくサイドステップして躱した。
ギリギリでの見切り。
その風圧で、アインの不気味な面が外れ飛んで行った。
ズズン、と宇宙船の壁に大きな穴を開けた拳。
冷静に、また肩の付け根を狙い、熱線を5発連射で撃ち込み破壊するエイリアン勇者アイン。
「なんだよ…」
小さな戦闘機で巨大ボスの弱点のみを的確に攻撃し、淡々と破壊する姿。
―ヒマリは今度は自分がシューティングゲームで倒される側になっていたんだと気づいてしまった。
「ヒマリ、脱出…」
シリアリスの声が止まる。
機体のそこかしこから、コクピット内部からもバキバキという音を上げるヒマリロボ。
そのヒマリロボは仰向けに倒れ、背中の脱出ハッチを開けることもできない。
動く手足は一つもない。
外部を映していた魔道水晶モニターの全てが、音も無くふっと消える。
二人のコクピットは真っ暗になる。
それは、棺桶さながらの暗さだった。
「ね、シリア…」
ミシリ、ミシリ。
息をのむ暗闇の二人。
ミシミシミシ…ギシッ!
そして、もう一度、バキリという大きな音と共に、宇宙船の人工灯の光が、爆発炎上のオレンジの光が、二人を包む。
強固にボルト留めされたヒマリロボの胸部装甲は、あっさりと引きはがされた。
ヒマリロボが最後に開けた宇宙船の穴からの逆光が、皮肉にもアインを勝者として祝福するかのように明るく照らし出していた。
そんな強い光の中に包まれた彼の顔はわからない。
彼ら三人ともがつけていたマスクが外れた今なお、エイリアン勇者の素顔はわからない。
エイリアンの勇者は、片手でつかみ上げていたノーム研マークが入った胸部装甲を、軽々とほおり投げる。
床へと落ちたそれはガランガランガラン、という音を響かせた。
―目が合っている、と思う。
どちらもが黙っている。遠くで響く、母船の爆発音。床を伝う振動はやまない。
最初に動いたのは、ヒマリ。
「こ、んにちはぁ…」
ヒマリはアインにひきつった笑い顔を向ける。
やはり、相手の表情はわからない。感情があるのかもわからない。
―いや、そんな訳はない。
この状況で怒らない生物は、他惑星の文明を攻撃などするわけがなかった。
「シリッ、シリ‥‥ッアッ!
だ、だだ、大丈夫、ザコだから見逃してくれ―」
アインは、すっと、右腕の甲にある熱線銃をヒマリらに向ける。銃口が、青く光り―
「ヒマリっっ!!」
シリアリスは、どうなってもシリアリスだった。
だが今のシリアリスはあの時のシリアリスではない。
声だけではなく動く体があった。
必死に。
シリアリスは必死に後部座席を蹴とばして前へと飛び出す。
ヒマリに覆いかぶさる。
発射された熱線。
はじける音、熱、光―。
しかし、予想していた衝撃はシリアリスを襲わない。
「…ヒマリ?」
ヒマリにしがみつくシリアリスの目の前。
二人とアインの間に壁があった。
光る魔法陣の壁。
「…ヒマリ!」
「覚えたよ、シールド!使えたよ、シールド!」
「…ヒマリはやればできる子!」
「ありがと、ママ」
「ヴオオオオオオオ!!!」
抱き合う二人の目の前で、260センチの大男が吠えた。
激昂の極みだ。
コクピットがビリビリと震える。
二人は、口を開けて凍り付いた。凍り付いたように、完全に動きが止まる。まさにフリーズ、だ。
「――オオオオオオオオ!!!」
彼の咆哮によるコクピットの振動はヒマリロボさえも恐怖で震えているようだった。
ガン!!ガンッ!!と、アインが拳をぶつける。
魔法陣を素手で殴りつける。
「ひいいいい!!やだやだやだやだ!!」
「割れるんですか?!ヒマリ!」
「しらな!わ、れ!こわ、やだあ!!!」
ヒマリの心と魔法陣にビシリと大きくヒビが入る。
「うそうそうそうそなんでなんでなんでなんで!!!魔法!魔法だから!!壊しちゃダメなやつだから!!」
当然、エイリアンにも感情はある。
エイリアン勇者の激怒、憤怒。
彼は錯乱したようにガンガンと魔法のシールドを殴り続ける。
「無理無理無理もう無理いいい!!!」
ヒマリの頭よりも大きなアインの拳があっさりと魔法のシールドを突き破った。
「ひいいいい!!!」
「ヒマリヒマリ!!」
しかし、コクピットを覆う巨人は突如横に吹き飛ぶ。
また二人は、抱き合ったまま、口を開いたままで完全に硬直する。
二人の目だけがパチパチと激しく瞬きしていた。
「「………?」」
ズスン…ズスン…
強い音が横から聞こえる。足音だ。
シリアリスにしがみつくように抱き合う姿勢のまま、同じ口のまま、視線だけを動かしてヒマリはコクピットの外を目で追うと…
ぬっと、別の影が現れた。
「ぃ勇者ああああ!!!!」
「あ」
勇者だ。まさに、まさに勇者が顔を見せた。
「勇者勇者ああああ!!!!」
「大丈夫?!二人とも!」
「クリスティアーヌさん、ザウムさん。お二人とも無事だったんですね」
「勇者ああああああ!!!!」
「そりゃこっちの台詞よ!大丈夫?」
「勇者ああああああ!!!!」
「ちょ、ヒマリ…」
「勇者ああああああ!!!!かっこいいいいい!!!!!推すうううう!!!課金させてええええ!!!!!!スパチャするうううう!!パパのクレカ限度額までえええええええ!!」
「おだまりヒマリ!あんた、いい大人がガチ泣きしないでよ」
「…仕方がありません。今のは…」
二人の無事を見ると、無言のままで三代目はアインを弾き飛ばしたラガフェルドの剣を回収に歩いていく。
ぐったりと、ふらふらと二人はヒマリロボから這いだした。出たところでヒマリは盛大に転ぶ。
「…そうか、そりゃそうだ。バリアー破壊砲撃って、ロボをあんだけ動かしてたんだよ、ボク…。そりゃ魔力も尽きるわな」
「お疲れ様でした、ヒマリ」
「最後のシールドもさ…魔力ほとんど使わないはずなんだけどね…。
なんだろうね、アレで空っぽになっちゃったよマジで。
…これさ、体感型アトラクションにしたら絶対ウケると思う。富士Qのやつ。こんなん男でも阿鼻叫喚だよ…」
「そうですね…非常にエモいと思われます」
シリアリスに手を引かれて起きながらヒマリは軽口を叩くが、今回ばかりはシリアリスですら同意した。
振り返り、ヒマリは横たわったヒマリロボを見上げる。
手足をもがれ、あおむけに倒れたその姿を見上げ、ヒマリはそっと手をあてた。
「―壊れちゃったな、仮称ヒマリロボ。
男子が機械とか車に愛情もつのよくわかんないけど、ボクも名前ぐらいはちゃんと付けてやればよかった気がする。
…ごめんね、ロボ。ありがとう」
「絶唱破界ルサンチオン」
「…ルサンチオン…?
あ!シリアリスてめえ!由来わかったぞコラあ!」
「当たりです」
「もう、ルサンチマン全部消えたから次は無いよ」
「良かったです、ヒマリ。それは良かったです」
「ふふ、どうでもいいや。あっちの問題は小さすぎる」
「はい」
「さあ!三代目、クリス!ブリッジに向かうよ!そこをぶっ壊すのが一番確実だから!
ボクについてきな!」
「…はいはい、かっこいいかっこいい。
…今まで泣きべそかいてたくせに」
と、クリスはしかめっつらになる。
「うん。
…砦のみんな、エウゲニイさんたちの敵討ちとは言わないけどさ。でも、やらなきゃじゃん」
そう言うと、ヒマリロボはアインへ向き直る…
いや、向き直れない。
動こうとした出鼻を、アインの怒りがくじく。
動き出したヒマリロボの頭部へと熱線が直撃し、バランスを崩してその巨体はのけぞる。
たとえそれが力士でさえも、立ち上がろうとした瞬間に指でおでこを押されただけでよろめいてしまうようなものだ。それをアインは狙って仕向けた。
「くっそ!
行くよ、シリアリス!よいさあああああああ!!!!!」
ヒマリロボが走り出…そうとすると、アインの熱線が足首に連続して命中する。
関節のみを狙っていた。ギシリという軋みが、コクピットに伝わる。
「ヒマリ、気を付けてください。関節への攻撃は極力受けないでください」
「うそ、巨大ロボなんて―知らないくせにいいいいいい!!!!!!!」
大きな大きなフック。
その拳が巻き起こす風だけで人間が吹き飛ぶほどの剛腕。
アインが人間よりもずっと大柄とはいえ、相手はヒマリロボだ。その身長差は8倍。体重差に至っては25倍。本当に、踏みつぶせるほどのサイズ差だ。
しかし自ら接近してきていたアインは当たり前のように目の前で躱してみせ、振り回した腕の肘関節へと熱線を放つ。さらに追い打ちのようにひざの裏にも放つ。
ヒマリロボは軋み音で悲鳴を上げる。
「…やっば、エイリアン勇者怒ってるよ!本気だよ!」
「そりゃそうでしょう」
「ええい、喰らええええ!!!!小1の時半年だけ習った空手の正拳突きぃぃぃぃ!!!」
ヒマリロボが拳を振り上げるが、動き出す前にエイリアン勇者はすでに後ろへと回っている。
アインはとりわけ大柄な260センチもの巨漢だが、地球のボクサーよりも軽やかに、しなやかに動き回る。
「おおおおいよけんなあああああ!!!!」
叫び、腕を振り上げる前に躱し終わり、さらにその腕の付け根へと銃撃を放つアイン。
「…っ!!ひょいひょい避けんな!!避けるチーズかお前はああああああああ!!!!!!」
スピードが、時間軸が違いすぎた。
馬鹿げた広さの拳を余裕で躱し続ける。
巨大ロボットのプレッシャーにも全く動じない。
ヒマリロボはそもそも製造コンセプトが攻城兵器のようなものだった。対人戦闘は、それもこんな素早く、その上強力な火器を軽々と扱う剛腕の戦士は想定されていない。
「当たらなければどうという事ないってかああああああああ!!!!」
ヤケクソのように、めいっぱいの大声を振り絞って殴りかかるがしかし、躱しながらの集中砲火を受けた右膝が砕ける。倒れながらのパンチは母船の壁を弾き飛ばすだけに終わった。
「なんっ!!なんだよもおおおお!!!!!!!」
振り上げた巨大な左腕が、肩の付け根からはじけ飛ぶ。
「ヒマリ!脱出を!」
「そん、それどころじゃない…!
みんなのっ!みん、なのおおおおおお!!!!!異世界ロボは無敵なんだああああ!!!!」
ヒマリの心からの絶叫が最後に残された右手を振り回す。
エイリアンの表情はわからない。それでも、無表情だっただろう。
かけら程の焦りも動揺も見せずに、ヒマリロボの巨大な拳を見ることもなく、大きくサイドステップして躱した。
ギリギリでの見切り。
その風圧で、アインの不気味な面が外れ飛んで行った。
ズズン、と宇宙船の壁に大きな穴を開けた拳。
冷静に、また肩の付け根を狙い、熱線を5発連射で撃ち込み破壊するエイリアン勇者アイン。
「なんだよ…」
小さな戦闘機で巨大ボスの弱点のみを的確に攻撃し、淡々と破壊する姿。
―ヒマリは今度は自分がシューティングゲームで倒される側になっていたんだと気づいてしまった。
「ヒマリ、脱出…」
シリアリスの声が止まる。
機体のそこかしこから、コクピット内部からもバキバキという音を上げるヒマリロボ。
そのヒマリロボは仰向けに倒れ、背中の脱出ハッチを開けることもできない。
動く手足は一つもない。
外部を映していた魔道水晶モニターの全てが、音も無くふっと消える。
二人のコクピットは真っ暗になる。
それは、棺桶さながらの暗さだった。
「ね、シリア…」
ミシリ、ミシリ。
息をのむ暗闇の二人。
ミシミシミシ…ギシッ!
そして、もう一度、バキリという大きな音と共に、宇宙船の人工灯の光が、爆発炎上のオレンジの光が、二人を包む。
強固にボルト留めされたヒマリロボの胸部装甲は、あっさりと引きはがされた。
ヒマリロボが最後に開けた宇宙船の穴からの逆光が、皮肉にもアインを勝者として祝福するかのように明るく照らし出していた。
そんな強い光の中に包まれた彼の顔はわからない。
彼ら三人ともがつけていたマスクが外れた今なお、エイリアン勇者の素顔はわからない。
エイリアンの勇者は、片手でつかみ上げていたノーム研マークが入った胸部装甲を、軽々とほおり投げる。
床へと落ちたそれはガランガランガラン、という音を響かせた。
―目が合っている、と思う。
どちらもが黙っている。遠くで響く、母船の爆発音。床を伝う振動はやまない。
最初に動いたのは、ヒマリ。
「こ、んにちはぁ…」
ヒマリはアインにひきつった笑い顔を向ける。
やはり、相手の表情はわからない。感情があるのかもわからない。
―いや、そんな訳はない。
この状況で怒らない生物は、他惑星の文明を攻撃などするわけがなかった。
「シリッ、シリ‥‥ッアッ!
だ、だだ、大丈夫、ザコだから見逃してくれ―」
アインは、すっと、右腕の甲にある熱線銃をヒマリらに向ける。銃口が、青く光り―
「ヒマリっっ!!」
シリアリスは、どうなってもシリアリスだった。
だが今のシリアリスはあの時のシリアリスではない。
声だけではなく動く体があった。
必死に。
シリアリスは必死に後部座席を蹴とばして前へと飛び出す。
ヒマリに覆いかぶさる。
発射された熱線。
はじける音、熱、光―。
しかし、予想していた衝撃はシリアリスを襲わない。
「…ヒマリ?」
ヒマリにしがみつくシリアリスの目の前。
二人とアインの間に壁があった。
光る魔法陣の壁。
「…ヒマリ!」
「覚えたよ、シールド!使えたよ、シールド!」
「…ヒマリはやればできる子!」
「ありがと、ママ」
「ヴオオオオオオオ!!!」
抱き合う二人の目の前で、260センチの大男が吠えた。
激昂の極みだ。
コクピットがビリビリと震える。
二人は、口を開けて凍り付いた。凍り付いたように、完全に動きが止まる。まさにフリーズ、だ。
「――オオオオオオオオ!!!」
彼の咆哮によるコクピットの振動はヒマリロボさえも恐怖で震えているようだった。
ガン!!ガンッ!!と、アインが拳をぶつける。
魔法陣を素手で殴りつける。
「ひいいいい!!やだやだやだやだ!!」
「割れるんですか?!ヒマリ!」
「しらな!わ、れ!こわ、やだあ!!!」
ヒマリの心と魔法陣にビシリと大きくヒビが入る。
「うそうそうそうそなんでなんでなんでなんで!!!魔法!魔法だから!!壊しちゃダメなやつだから!!」
当然、エイリアンにも感情はある。
エイリアン勇者の激怒、憤怒。
彼は錯乱したようにガンガンと魔法のシールドを殴り続ける。
「無理無理無理もう無理いいい!!!」
ヒマリの頭よりも大きなアインの拳があっさりと魔法のシールドを突き破った。
「ひいいいい!!!」
「ヒマリヒマリ!!」
しかし、コクピットを覆う巨人は突如横に吹き飛ぶ。
また二人は、抱き合ったまま、口を開いたままで完全に硬直する。
二人の目だけがパチパチと激しく瞬きしていた。
「「………?」」
ズスン…ズスン…
強い音が横から聞こえる。足音だ。
シリアリスにしがみつくように抱き合う姿勢のまま、同じ口のまま、視線だけを動かしてヒマリはコクピットの外を目で追うと…
ぬっと、別の影が現れた。
「ぃ勇者ああああ!!!!」
「あ」
勇者だ。まさに、まさに勇者が顔を見せた。
「勇者勇者ああああ!!!!」
「大丈夫?!二人とも!」
「クリスティアーヌさん、ザウムさん。お二人とも無事だったんですね」
「勇者ああああああ!!!!」
「そりゃこっちの台詞よ!大丈夫?」
「勇者ああああああ!!!!」
「ちょ、ヒマリ…」
「勇者ああああああ!!!!かっこいいいいい!!!!!推すうううう!!!課金させてええええ!!!!!!スパチャするうううう!!パパのクレカ限度額までえええええええ!!」
「おだまりヒマリ!あんた、いい大人がガチ泣きしないでよ」
「…仕方がありません。今のは…」
二人の無事を見ると、無言のままで三代目はアインを弾き飛ばしたラガフェルドの剣を回収に歩いていく。
ぐったりと、ふらふらと二人はヒマリロボから這いだした。出たところでヒマリは盛大に転ぶ。
「…そうか、そりゃそうだ。バリアー破壊砲撃って、ロボをあんだけ動かしてたんだよ、ボク…。そりゃ魔力も尽きるわな」
「お疲れ様でした、ヒマリ」
「最後のシールドもさ…魔力ほとんど使わないはずなんだけどね…。
なんだろうね、アレで空っぽになっちゃったよマジで。
…これさ、体感型アトラクションにしたら絶対ウケると思う。富士Qのやつ。こんなん男でも阿鼻叫喚だよ…」
「そうですね…非常にエモいと思われます」
シリアリスに手を引かれて起きながらヒマリは軽口を叩くが、今回ばかりはシリアリスですら同意した。
振り返り、ヒマリは横たわったヒマリロボを見上げる。
手足をもがれ、あおむけに倒れたその姿を見上げ、ヒマリはそっと手をあてた。
「―壊れちゃったな、仮称ヒマリロボ。
男子が機械とか車に愛情もつのよくわかんないけど、ボクも名前ぐらいはちゃんと付けてやればよかった気がする。
…ごめんね、ロボ。ありがとう」
「絶唱破界ルサンチオン」
「…ルサンチオン…?
あ!シリアリスてめえ!由来わかったぞコラあ!」
「当たりです」
「もう、ルサンチマン全部消えたから次は無いよ」
「良かったです、ヒマリ。それは良かったです」
「ふふ、どうでもいいや。あっちの問題は小さすぎる」
「はい」
「さあ!三代目、クリス!ブリッジに向かうよ!そこをぶっ壊すのが一番確実だから!
ボクについてきな!」
「…はいはい、かっこいいかっこいい。
…今まで泣きべそかいてたくせに」
と、クリスはしかめっつらになる。
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