28 / 43
【28】やっぱりなんといってもエルマリさんだ
しおりを挟む
朝ぼらけの中。
砦に残った最後の塔。半壊したその塔のてっぺんにはバリスタも何も残っていない。
勇敢だった虎獣人の戦闘隊長たちの骸が冷たく横たわっていた。
そこに、一人だけ―ヒマリだけが生き残って、立って空に叫んでいた。
「ビビってんのかコラー!かかってこいやアホぉー!」
砦を攻撃していたUFOのほとんどは脱出組を追撃して行き、残ったUFOも全滅した砦を確認するようにゆっくりと浮遊している。
たった一人の生き残りになど気づきもしないそのUFO群を挑発するように、一人空に叫んでいた。
「…ヒマリはん、何しとうやす」
「うわ?!な、エ、エルマリさん?!」
「ヒマリはん!何しとうやす!」
エルマリの、大声。
ヒマリはそれにも驚きもせずに目を輝かせて言う。
「見て、ほら、サンダーボルト!覚えたんだよ!ボクもう魔法使いだから、戦えるから!」
「あんた、そんなもんで…」
エルマリは眉をひそめ、涙をこらえて自分のつま先を見るように俯いた。
「―だから、戦わせてよ…!守るんだよ!ボクらの家を!」
サンドリアス砦。
そこはヒマリにとって―この砦を守る騎士団の誰よりも、団長であるヴァンデルベルトさえよりも、彼女の守るべき場所になっていたのだ。
ヒマリが異世界へやってきてからシリアリスと過ごした唯一の住処であり、シリアリスとの思い出が詰まった掛け替えのない居場所だった。
シリアリスが消え、地球へ戻れないかもしれない今、彼女にとってはただ唯一の帰るべき場所だったのだ。
そのヒマリの必死の顔に、堪えきれずにエルマリは今まで誰にも見せた事のない涙をこぼしてしまう。
「ここボクらの家なんだから!シリアリスとの家なんだから!シリアリスに見せてやらないと、大丈―」
エルマリの平手がヒマリのほほを打ち、ヒマリの言葉を遮った。
「―ヒマリ、シッカリシテクダサイ!」
「エ、エルマリさん?」
「ヒマリはん!こんな所で死んでもうたらシリアリスはんが喜ぶと思いますんえ?!」
エルマリのビンタと、日本語と、シリアリスの名前。
連続での衝撃に、ヒマリは自分が正気を失っていた事にやっと気づいた。
「…ごめん。
エルマリさん、シリアリスのこと、知ってたの?日本語わかるの?」
「意味はわからんけど、あんたらが会話したはる事ぐらいはわかりますえ。どんだけあんたらの事見てた思います?」
「エルマリさん…」
ヒマリはぼろぼろと泣きながらエルマリに抱き着こうとする―
が、逆に突然エルマリにタックルのように突撃され抱きしめられ抱えられ、そのまま二人まとめて、塔から飛び降りる事になる。
「ひああ!!」
素っ頓狂な声を上げるヒマリだが、はっと言葉を失う。
なびくエルマリの髪の向こうに、砦を囲んでいたUFOが一機もいない事に気づいたからだ。
見たくない。そう思いながらも目だけを上にあげる。
―無音で一斉にはるか上空へと上昇していくUFO群をヒマリは見た。
それは、予兆。
いつかの大型UFOから放たれたビーム砲の予兆。
あの時は大きく感じた、たった40メートルの大型UFOが撃つビーム砲ですらアイマル先生の命と引き換えにしたほどの威力。
空を覆うマザーシップを見上げ、ヒマリはごくりと息をのんだ。
―次の瞬間。砦は真っ白な光に包まれる。
「エルマリさん!!」
素早く魔法の呪文を唱えていたエルマリは答える事なく、振り返る事もなく、二人を包み込む無数の魔法陣を描き出した。
炎に赤く染まる空に浮かぶ一つの影となって二人は滑空する。そのちっぽけな黒い影はそのまま白い光に飲み込まれ、一瞬で白に溶ける。
エルマリの無数のシールド魔法は球体のように二人を包み込む。そのボールに守られた二人は、真っ白な光の世界で二人以外の何も見えない。何も聞こえない。
静寂の光は二人を包み込んでおきながら、しかしすぐに強い衝撃波でもって二人をそこから追い出した。
波に乗るサーフボードのように、砦を破壊した衝撃波に吹き飛ばされ押し飛ばされ、二人はその場を脱出する。
後ろからは砦を粉々に砕く轟音が、空中にありながら強い震度を感じるほどの大音響として二人を揺さぶり、続いて砦の破片が追いかけてくる。
二人が滑空するその先に、ヒマリの案で改修したノームのトラック型六輪バギーの姿が見えた。
ヒマリはそれを指さしエルマリにわめく。
ヒマリを抱えたままエルマリは、そのカーゴへとすいっと着地してみせた。
「ノームはんグッジョブどすえ!出しとくれやす」
エルマリの合図で、バギーがガタガタと走り出す。
やっと、エルマリが息を吐き出した。大きく大きく、ため息を吐き出した。
自分を抱えるエルマリの細い腕の間からヒマリは遠ざかっていく砦を―砦のあった場所を、見送る。
「―エルマリさん―、砦が…。ボクらの家が…。シリアリスと毎年身長測ってつけた柱の傷も全部燃えちゃった…。嘘記憶だけど…」
「ノームはん!UFOが追ってきとります、飛ばしとくんなはれ!」
ヒマリには答えず、エルマリが運転席へ向けて声を上げる。
そう、砦方向からはバギーへ目掛けて3機の戦闘機UFOが出撃していた。
砦に残った最後の塔。半壊したその塔のてっぺんにはバリスタも何も残っていない。
勇敢だった虎獣人の戦闘隊長たちの骸が冷たく横たわっていた。
そこに、一人だけ―ヒマリだけが生き残って、立って空に叫んでいた。
「ビビってんのかコラー!かかってこいやアホぉー!」
砦を攻撃していたUFOのほとんどは脱出組を追撃して行き、残ったUFOも全滅した砦を確認するようにゆっくりと浮遊している。
たった一人の生き残りになど気づきもしないそのUFO群を挑発するように、一人空に叫んでいた。
「…ヒマリはん、何しとうやす」
「うわ?!な、エ、エルマリさん?!」
「ヒマリはん!何しとうやす!」
エルマリの、大声。
ヒマリはそれにも驚きもせずに目を輝かせて言う。
「見て、ほら、サンダーボルト!覚えたんだよ!ボクもう魔法使いだから、戦えるから!」
「あんた、そんなもんで…」
エルマリは眉をひそめ、涙をこらえて自分のつま先を見るように俯いた。
「―だから、戦わせてよ…!守るんだよ!ボクらの家を!」
サンドリアス砦。
そこはヒマリにとって―この砦を守る騎士団の誰よりも、団長であるヴァンデルベルトさえよりも、彼女の守るべき場所になっていたのだ。
ヒマリが異世界へやってきてからシリアリスと過ごした唯一の住処であり、シリアリスとの思い出が詰まった掛け替えのない居場所だった。
シリアリスが消え、地球へ戻れないかもしれない今、彼女にとってはただ唯一の帰るべき場所だったのだ。
そのヒマリの必死の顔に、堪えきれずにエルマリは今まで誰にも見せた事のない涙をこぼしてしまう。
「ここボクらの家なんだから!シリアリスとの家なんだから!シリアリスに見せてやらないと、大丈―」
エルマリの平手がヒマリのほほを打ち、ヒマリの言葉を遮った。
「―ヒマリ、シッカリシテクダサイ!」
「エ、エルマリさん?」
「ヒマリはん!こんな所で死んでもうたらシリアリスはんが喜ぶと思いますんえ?!」
エルマリのビンタと、日本語と、シリアリスの名前。
連続での衝撃に、ヒマリは自分が正気を失っていた事にやっと気づいた。
「…ごめん。
エルマリさん、シリアリスのこと、知ってたの?日本語わかるの?」
「意味はわからんけど、あんたらが会話したはる事ぐらいはわかりますえ。どんだけあんたらの事見てた思います?」
「エルマリさん…」
ヒマリはぼろぼろと泣きながらエルマリに抱き着こうとする―
が、逆に突然エルマリにタックルのように突撃され抱きしめられ抱えられ、そのまま二人まとめて、塔から飛び降りる事になる。
「ひああ!!」
素っ頓狂な声を上げるヒマリだが、はっと言葉を失う。
なびくエルマリの髪の向こうに、砦を囲んでいたUFOが一機もいない事に気づいたからだ。
見たくない。そう思いながらも目だけを上にあげる。
―無音で一斉にはるか上空へと上昇していくUFO群をヒマリは見た。
それは、予兆。
いつかの大型UFOから放たれたビーム砲の予兆。
あの時は大きく感じた、たった40メートルの大型UFOが撃つビーム砲ですらアイマル先生の命と引き換えにしたほどの威力。
空を覆うマザーシップを見上げ、ヒマリはごくりと息をのんだ。
―次の瞬間。砦は真っ白な光に包まれる。
「エルマリさん!!」
素早く魔法の呪文を唱えていたエルマリは答える事なく、振り返る事もなく、二人を包み込む無数の魔法陣を描き出した。
炎に赤く染まる空に浮かぶ一つの影となって二人は滑空する。そのちっぽけな黒い影はそのまま白い光に飲み込まれ、一瞬で白に溶ける。
エルマリの無数のシールド魔法は球体のように二人を包み込む。そのボールに守られた二人は、真っ白な光の世界で二人以外の何も見えない。何も聞こえない。
静寂の光は二人を包み込んでおきながら、しかしすぐに強い衝撃波でもって二人をそこから追い出した。
波に乗るサーフボードのように、砦を破壊した衝撃波に吹き飛ばされ押し飛ばされ、二人はその場を脱出する。
後ろからは砦を粉々に砕く轟音が、空中にありながら強い震度を感じるほどの大音響として二人を揺さぶり、続いて砦の破片が追いかけてくる。
二人が滑空するその先に、ヒマリの案で改修したノームのトラック型六輪バギーの姿が見えた。
ヒマリはそれを指さしエルマリにわめく。
ヒマリを抱えたままエルマリは、そのカーゴへとすいっと着地してみせた。
「ノームはんグッジョブどすえ!出しとくれやす」
エルマリの合図で、バギーがガタガタと走り出す。
やっと、エルマリが息を吐き出した。大きく大きく、ため息を吐き出した。
自分を抱えるエルマリの細い腕の間からヒマリは遠ざかっていく砦を―砦のあった場所を、見送る。
「―エルマリさん―、砦が…。ボクらの家が…。シリアリスと毎年身長測ってつけた柱の傷も全部燃えちゃった…。嘘記憶だけど…」
「ノームはん!UFOが追ってきとります、飛ばしとくんなはれ!」
ヒマリには答えず、エルマリが運転席へ向けて声を上げる。
そう、砦方向からはバギーへ目掛けて3機の戦闘機UFOが出撃していた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)メカガール・コーデックス
karmaneko
SF
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)において機械文明は一定の地位を確立している。その地位の確立に科学力と共に軍事力が大きく影響することは説明するまでもないだろう。
本書ではその軍事力の中核をなす人型主力兵器についてできうる限り情報を集めまとめたものである。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
全裸ドSな女神様もお手上げな幸運の僕が人類を救う異世界転生
山本いちじく
ファンタジー
平凡で平和に暮らしていたユウマは、仕事の帰り道、夜空から光り輝く物体が公園に落ちたのを見かけた。
広い森のある公園の奥に進んでいくと、不思議な金色の液体が宙に浮かんでいる。
好奇心を抱きながらその金色の液体に近づいて、不用心に手を触れると、意識を失ってしまい。。。
真っ白な世界でユウマは、女神と会う。
ユウマが死んでしまった。
女神は、因果律に予定されていない出来事だということをユウマに伝えた。
そして、女神にもお手上げな幸運が付与されていることも。
女神が作った別の世界に転生しながら、その幸運で滅亡寸前の人類を救えるか検証することに。
ユウマは突然の死に戸惑いながら、それを受け入れて、異世界転生する。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる