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【28】やっぱりなんといってもエルマリさんだ

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朝ぼらけの中。
砦に残った最後の塔。半壊したその塔のてっぺんにはバリスタも何も残っていない。
勇敢だった虎獣人の戦闘隊長たちの骸が冷たく横たわっていた。
そこに、一人だけ―ヒマリだけが生き残って、立って空に叫んでいた。
「ビビってんのかコラー!かかってこいやアホぉー!」
砦を攻撃していたUFOのほとんどは脱出組を追撃して行き、残ったUFOも全滅した砦を確認するようにゆっくりと浮遊している。
たった一人の生き残りになど気づきもしないそのUFO群を挑発するように、一人空に叫んでいた。
「…ヒマリはん、何しとうやす」
「うわ?!な、エ、エルマリさん?!」
「ヒマリはん!何しとうやす!」
エルマリの、大声。
ヒマリはそれにも驚きもせずに目を輝かせて言う。
「見て、ほら、サンダーボルト!覚えたんだよ!ボクもう魔法使いだから、戦えるから!」
「あんた、そんなもんで…」
エルマリは眉をひそめ、涙をこらえて自分のつま先を見るように俯いた。
「―だから、戦わせてよ…!守るんだよ!ボクらの家を!」

サンドリアス砦。
そこはヒマリにとって―この砦を守る騎士団の誰よりも、団長であるヴァンデルベルトさえよりも、彼女の守るべき場所になっていたのだ。
ヒマリが異世界へやってきてからシリアリスと過ごした唯一の住処であり、シリアリスとの思い出が詰まった掛け替えのない居場所だった。
シリアリスが消え、地球へ戻れないかもしれない今、彼女にとってはただ唯一の帰るべき場所だったのだ。
そのヒマリの必死の顔に、堪えきれずにエルマリは今まで誰にも見せた事のない涙をこぼしてしまう。
「ここボクらの家なんだから!シリアリスとの家なんだから!シリアリスに見せてやらないと、大丈―」
エルマリの平手がヒマリのほほを打ち、ヒマリの言葉を遮った。
「―ヒマリ、シッカリシテクダサイ!」
「エ、エルマリさん?」
「ヒマリはん!こんな所で死んでもうたらシリアリスはんが喜ぶと思いますんえ?!」
エルマリのビンタと、日本語と、シリアリスの名前。
連続での衝撃に、ヒマリは自分が正気を失っていた事にやっと気づいた。
「…ごめん。
エルマリさん、シリアリスのこと、知ってたの?日本語わかるの?」
「意味はわからんけど、あんたらが会話したはる事ぐらいはわかりますえ。どんだけあんたらの事見てた思います?」
「エルマリさん…」
ヒマリはぼろぼろと泣きながらエルマリに抱き着こうとする―
が、逆に突然エルマリにタックルのように突撃され抱きしめられ抱えられ、そのまま二人まとめて、塔から飛び降りる事になる。
「ひああ!!」
素っ頓狂な声を上げるヒマリだが、はっと言葉を失う。
なびくエルマリの髪の向こうに、砦を囲んでいたUFOが一機もいない事に気づいたからだ。
見たくない。そう思いながらも目だけを上にあげる。
―無音で一斉にはるか上空へと上昇していくUFO群をヒマリは見た。
それは、予兆。
いつかの大型UFOから放たれたビーム砲の予兆。
あの時は大きく感じた、が撃つビーム砲ですらアイマル先生の命と引き換えにしたほどの威力。
空を覆うマザーシップを見上げ、ヒマリはごくりと息をのんだ。

―次の瞬間。砦は真っ白な光に包まれる。

「エルマリさん!!」
素早く魔法の呪文を唱えていたエルマリは答える事なく、振り返る事もなく、二人を包み込む無数の魔法陣を描き出した。
炎に赤く染まる空に浮かぶ一つの影となって二人は滑空する。そのちっぽけな黒い影はそのまま白い光に飲み込まれ、一瞬で白に溶ける。
エルマリの無数のシールド魔法は球体のように二人を包み込む。そのボールに守られた二人は、真っ白な光の世界で二人以外の何も見えない。何も聞こえない。
静寂の光は二人を包み込んでおきながら、しかしすぐに強い衝撃波でもって二人をそこから追い出した。
波に乗るサーフボードのように、砦を破壊した衝撃波に吹き飛ばされ押し飛ばされ、二人はその場を脱出する。
後ろからは砦を粉々に砕く轟音が、空中にありながら強い震度を感じるほどの大音響として二人を揺さぶり、続いて砦の破片が追いかけてくる。

二人が滑空するその先に、ヒマリの案で改修したノームのトラック型六輪バギーの姿が見えた。
ヒマリはそれを指さしエルマリにわめく。
ヒマリを抱えたままエルマリは、そのカーゴへとすいっと着地してみせた。
「ノームはんグッジョブどすえ!出しとくれやす」
エルマリの合図で、バギーがガタガタと走り出す。
やっと、エルマリが息を吐き出した。大きく大きく、ため息を吐き出した。
自分を抱えるエルマリの細い腕の間からヒマリは遠ざかっていく砦を―砦のあった場所を、見送る。
「―エルマリさん―、砦が…。ボクらの家が…。シリアリスと毎年身長測ってつけた柱の傷も全部燃えちゃった…。嘘記憶だけど…」
「ノームはん!UFOが追ってきとります、飛ばしとくんなはれ!」
ヒマリには答えず、エルマリが運転席へ向けて声を上げる。
そう、砦方向からはバギーへ目掛けて3機の戦闘機UFOが出撃していた。

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