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【5】2戦目なのに!
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「ヒマリ!起きてくださいヒマリ!」
「ぶわあ!!またかあ!!」
それから3日後。
コタツで寝るヒマリの枕元。スマホから発せられるけたたましいサイレンとフルボリュームでのハキハキとした音声。さしものヒマリも一発で跳ね起きた。
「すぐに服を着てください、ヒマリ」
「なになになに?!てかそれ止めて!Jアラームみたいな音やめて!こわい!
外騒がしいな…やばい、爆発音が連発してる。今度はノームじゃないんだよね?」
「敵が攻めてきたようです。
外の会話を拾いましたが、今回は一機のみで高高度から侵入し急降下で砦へ攻めてきたようです」
「きたきたきた、寒暖差激しすぎ、バトルパート激しすぎ。上からかよ、やられた」
「ヒマリはん、入りますえ!」
「エルマリさん朝っぱらでも顔良っ!
どうなってるの?ヴァンデルベルトさんは?」
「今、王都に行ってはりますえ。変わりにソフィエレはんが指揮を執ったはります」
バタバタとヒマリは廊下へと飛び出す。
廊下から階段を駆け上り、砦の胸壁へと飛び出す。
爆発。爆炎。
ヒマリとエルマリが空の下へと出たタイミングで、UFOに爆炎が上がる。
「アイマル先生か!さすが!やった?!」
「まだ飛んどりますな…しぶとい」
炎を上げつつもUFOは無音で移動する。
ヘリのような空気を叩き続ける音も、ジェットエンジンのような空気を爆発させ続ける音もしない。静かに静かに、煙を撒きながらもそのまま砦上空に移動し、その場に貼りついた。
地球の航空機に無い動きにヒマリはCGのような錯覚を覚える。
「―UFOから光が…
まずい、スペースハウンドだ…!
なんだあれ、ゆっくり降りてくる!逆キャトルミューティレイションだよ、やっぱり宇宙人は重力扱うんだ!それで飛んでるんだ!」
あまりにも有名な都市伝説。UFOが400キロの牛を吸い上げるという目撃談。
その逆再生のように、3頭の巨大なスペースハウンドが砦中庭へと下ろされる。
空中でじたばたと暴れていたスペースハウンドは、地上3メートルで放され、そのまま砦内を縦横無尽に駆け巡り始めた。
「ヒマリはん、あきまへん!外にも下ろしとったみたいどす!」
そう、砦の内外で戦闘音が広がっている。
見ると、砦外部に布陣していた戦士団を襲っているのも3頭。挟撃の状態だ。
ソフィエレの指揮で、壁上のバリスタや魔術師の火球が炎上するUFOを撃墜しようと攻撃を続ける。
「―おかしいな。
こないだのヤツよりもバリアー時間短いよね、シリアリス。それにあんな炎上しても冷静に動いて―
そうまでしてあの生物兵器下ろして…わからないけど、とにかく攻撃が当たってる、いけるか」
胸壁から身を乗り出しながらヒマリはぶつぶつと続けているその時だった。
UFOは急に、そしてまさにUFOらしい突然の方向転換を繰り返しジグザグに飛び始めた。異様な動きにどよめく砦の異世界軍。
「―しまった、やっぱりドローンだ!!
魔術師隊!!こっちも重力魔法だ!あのUFO外に引っ張って!!」
え?と、壁上の魔術師らはあっけに取られるその時、ジグザグ飛行していたUFOが一気に砦の外壁に向けて真っすぐ突撃をする。
魔導士アイマルが杖を振りかざし、魔法を唱える。
魔法陣の光に包まれるUFO。アイマルの杖の動き通り、進行方向だけを向かっていた砦の外壁から城外の空白地帯へと捻じ曲げられ、そのまま地面へと激突した。
砦からおおお、とどよめきと歓声の中間のような声が上がった。
「ヒマリさん、あれは?」
ソフィエレが二人に合流しつつ、ヒマリに声をかける。
「やっぱり今度のもドローンだったんだよ。パイロットが乗ってない、魔法で動くゴーレムみたいなやつだったんだよ。
そんで生物兵器ばらまいてそれが終わったら突っ込んで城壁を壊すつもりだったんだ。
でもなんだって…」
ミリタリー知識の無いヒマリにもこれはあまりにも乱暴な作戦に思えた。
だがそれでも砦は内外にあのスペースハウンドが数匹走り回り、大混乱状態となっていた。
その様子を見ながらソフィエレがつぶやく。
「いずれにせよ早く掃討しないと…。
エルマリさん、下の戦士団に合流しますわよ」
「ほなソフィエレはん、うちの腰にしっかり捕まりよし」
「いけますか?」
「下までだけやったら」
フルプレート鎧を着こんだ女騎士を抱えたまま、エルフは魔法を唱えながら20メートル下へとひょいと飛び降りる。
エルマリの元で魔法を少しかじり始めたヒマリはそのさりげない魔法技術にこそレベルの高さを感じて驚く。
砦の内外にあの強力で素早いスペースハウンドが暴走している。
砦の中ではソフィエレが、砦の外ではオーク師団長のエウゲニイが指揮を執っている。
この宇宙のモンスターと戦うのは二回目で、犠牲は出ているとはいえ確実に囲み、仕留めていた。
「ヘイシリアリス見て見て!ソフィエレさんさすが自分から降りて行っただけあるよ!強!カッコいい!!姫騎士奥義・姫カット!」
「そこ!うるさいですわよっ!」
「やっべ、聞こえてた…。
それにしても姫騎士とオークが共闘してるのってヤバくない?シリアリス」
「ヤバくありません」
「いろいろはかどるわー。ぶっちゃけ興奮しない?シリアリス」
「興奮しません」
「これは友情?いいえ…まさか、このわたくしがオークに…恋?!
とかなんとか。実際はかどるよね?シリアリス」
「ヒマリ、いい加減にしないと注釈付きで翻訳しますよ」
「ウソウソ、ごめんってば」
そんな緊張感のないヒマリの目を覚まさせるかのように、見張り塔から危険を知らせる鐘が鳴らされる。
見張り兵の叫びをシリアリスが訳す。
「南方からUFOが複数機飛来したようです。ヒマリが要らない事ばかり言っているからです」
「シリアリスのツッコミめちゃくちゃ。とにかくやっぱりあれだけってこと無いか」
現代人で、それもネットに入り浸っているにしては視力が悪くないヒマリが目を凝らしてじっと見据える。
デジタルズームでとらえた映像を、シリアリスが先に声に出す。
「小型の流線形のUFOと思しき物体が12機、高速で飛行しています」
「ボクにも見えた。
…なんだあれ、この距離でもわかる、絶対戦闘機だよアレは!」
砦の下にいる戦士らの大半は見張りの声も聞こえないほどの、あるいは聞く暇すらないほどの争乱の中にいた。
そしてはるか先に見えていた戦闘機UFOはもうすぐそこまで迫ってきていた。
地上部隊のまだそのほとんどが気づけない激闘のただ中へと、戦闘機UFOは熱線を放つ。
命中すると炸裂し、地面がはじける。
混乱に拍車がかかる。
「ソフィエレさん!12機だ!戦闘機タイプが12機だよ!」
「…速い!戦闘機?あれではこちらの攻撃が…!」
地球人のヒマリには一目でわかる、戦闘機としての要素。
その全長数メートルの小型UFOは円盤型ではなく胴と翼が一体となったような流線型、直進スピード、旋回、前方への熱線発射。全てがまさに宇宙戦闘機といった様相を呈していた。
発動に時間のかかる重力魔法どころか、バリスタはもちろん火球魔法でさえ当てられるとはとても思えない速さだった。
「バリスタ、狙えませんか?!」
ソフィエレの声にも、やはり「無茶だ、速すぎるわい!」というドワーフの声が返る。
「でかいネットみたいなのを出す魔法ってなかったっけ?!」とヒマリが叫ぶ。
「そんなもの…
魔術師隊、当てなくても結構です!戦闘機UFOの進路に爆炎魔法を!バリスタ隊は発射準備を!」
ソフィエレの指揮の意図とくみ取った3人の魔術師が、空中で火球を炸裂させる。爆炎に包まれ軌道がシンプルになるUFO。「バリスタ、今!」と、すかさず発射合図を送るソフィエレ。
手の空いている別の魔術師も雷撃の魔法を当てる。
「やったソフィエレさん!」
ヒマリが飛び上がって喜ぶ。
―異世界軍はもちろん本気で、そして全力だった。それぞれが惜しみなく得意の攻撃魔法を使っていた。
しかし―
「―ズルい!!全部はじかれた?!あんな小さいUFOでもバリアーまで使うんだ!!」
ヒマリの悲鳴じみた声が上がる。
小型の戦闘機タイプUFOはバリアーをしていなかったが、ここぞという場面でだけ短時間にバリアーを張る。
それこそ、爆炎で目隠しをされた時だ。
こちらの必死の攻撃をあざ笑うかのように、無傷の12機の戦闘機UFOの編隊は容赦なく地上部隊へと、壁上のバリスタへと熱線を放つ。
一発当たるごとに爆発炎上する砦の壁。
壁上の魔術師らが必死にシールドの魔法を出しているが、それでも少しずつ数を減らす異世界軍。熱線がさく裂するごとに、悲鳴と怒声が上がる。
12機という数以上に、この小型UFOの速度は異世界軍にとって一番の天敵かもしれない。
「まずいまずいまずい…本当に手も足も出ていない。当たるのは魔法の矢ぐらいだけど、貫通力が足りなさすぎる…!」
「ヒマリ。右手上空を見てください。より小型の飛行体が編隊を組んでこちらへ迫っています」
「…嘘でしょ。この上さらに援軍?泣くよ。
ヘイシリアリス、ズームで見せて」
「はい。翼長7メートルの翼を持った人類のシルエットです。おそらく味方でしょう」
スマホのズーム画面と周りの兵士や魔術師の反応を見比べるヒマリ。
その通りらしい。飛来する彼らに気付いた誰もが歓声を上げている。
「―エルマリさんが言ってたやつだ!
北の鷲鳥人だよ!ヴァンデルベルトさんが交渉してたっていう。ホントに来たんだ!」
彼らは砦の兵士の期待を燃料にしているのかもしれない。本当に速かった。
戦闘機UFOにも匹敵する飛行速度でぐんぐんと砦上空へと迫る。
ヒマリのスマホ画面に映るその姿はまさに鷲鳥人だった。
数十人ほどの鷲鳥人による訓練された見事な編隊飛行、そして手に手に大きな槍を持つその頼もしい姿。砦からの歓声がより一層高まった。
砦を攻撃する戦闘機UFOよりも上空から、異世界軍の希望が一斉に反撃を開始する。
鷲が急降下する際のスピードは時速200キロをも超える。その野生本来の能力に加え、武術のように翼を畳み動かす姿勢制御を極め、より空気抵抗を抑えながらむしろ下降気流を掴む衣類の開発。
鷲のフィジカルと人類の英知の研鑽により、その大柄な体躯にもかかわらず彼らの最高速度は300キロを超える。それは事実として矢よりもはるかに速い速度だった。
その彼らが力強い肩でさらに加速させた槍が一斉に投げられた。
突然の襲撃、想定外の速度。狙われた4機のUFOが槍ぶすまとなる。そのうち2機が爆発を起こした。その爆音にも負けず、砦から巻き上がる歓声。
だがただ一人、ヒマリは楽観視できなかった。
「―そうか、コクピットの場所がわからないんだ。戦闘機見るのも初めてだし、何よりガラス張りのコクピットが存在しないからだ。爆発したのは当たり所が良かったんだ」
真顔で展開を観察し続けているヒマリがぶつぶつと呟く。
「…まずい!
ソフィエレさん!今!下からも挟撃して!すぐに!!」
ヒマリの声にソフィエレは訝しんだ顔で空を見上げるが、ヒマリの意図を察して目を見開き、顔色が変わった。
「―そうですわ、速度!
魔術師隊!UFOの前に爆炎を!バリスタ、角度可能なら攻撃開始!!」
身軽さを身上とする鷲鳥人らは槍を一本ずつしか持っていない。急降下投擲しその勢いを活かしてUターンし、次弾は上空にいる槍を運んでる仲間のところまで上がる戦術だ。
そしてそれは異世界での戦闘では強力な戦術だったのだろう。
しかし上空へと戻る鷲鳥人は、言うまでもなくスピードは著しく落ちる。
「―それでも十分速いんだよ、この世界なら。でも相手はUFOだもん、重力操作で飛ぶUFOだ。どっち方向でも速度なんて落ちないんだよ」
ヒマリは彼女らしくない重苦しい声でつぶやく。
砦からの援護。
爆炎がUFOへと上がるが、それでも鷲鳥人の編隊はあっさりと追われていく。
―そしてUFOは小癪な異星人を打ち払うように、熱線砲の連射を始めた。
見る間に、一羽の巨大な鳥のような美しい編隊飛行は引きちぎられ、その羽根が散るようにばらばらと撃墜されていく。
砦の誰もが、見上げる顔を青ざめさせる。
「…敵のシールド魔法には必ず隙があります!攻撃している今がチャンスです!」
ソフィエレの必死の指揮がやっと彼らを動かす。
鷲鳥人への流れ弾を考慮して止まっていたバリスタや魔法での攻撃がUFOを狙う。
残った鷲鳥人の勇士らも、受け取った槍を手に再急降下攻撃するが今度は全てバリアーにはじかれる。
UFOに接近し攻撃しようにも、手で持つ槍ではとても刺さらない。
「油断しましたわ…」
ソフィエレは戦乱の中、誰にも聞こえない小声で呟いた。
それは、確かに異世界軍の油断だったのかもしれない。
だがヒマリには仕方ない事だと思えた。鷲鳥人らのUFOにも負けない飛行速度に小回りの利く旋回能力、そして急降下爆撃のような槍攻撃。
確かに異世界の戦争では無敵だっただろう。バリアーの脅威を知った今でも、つい異世界人には無敵のイメージが拭えなかったのだろう。
彼らの奮戦の隙に、砦からの攻撃でなんとか3機の戦闘機UFOを墜落させられたのがせめてもの成果だった。
戦闘機UFOの4機が残った鷲超人を蹴散らし、残り3機は再び砦へと向けて襲い掛かる。
その宇宙人の攻撃を、そしてソフィエレを、ヒマリは不安げに見比べる。
「鷲鳥人の勇者たちを犠牲にしてたった5機…こんな…」
悔しそうに呟くソフィエレ。
しかし今の彼女は砦の指揮官代理として、打ち負かされる事など出来ない。
気丈に顔を上げ指揮をとろうとするが―。
撃墜したUFOに異変が起こる。
ハッチらしき部位がバシュンとはじけ飛んだ。
中からも圧力鍋の水蒸気のように勢いよく煙が噴き出す。
近くに居た兵士らは身を引き、あるいは開かれた内部を注視する。
「ぶわあ!!またかあ!!」
それから3日後。
コタツで寝るヒマリの枕元。スマホから発せられるけたたましいサイレンとフルボリュームでのハキハキとした音声。さしものヒマリも一発で跳ね起きた。
「すぐに服を着てください、ヒマリ」
「なになになに?!てかそれ止めて!Jアラームみたいな音やめて!こわい!
外騒がしいな…やばい、爆発音が連発してる。今度はノームじゃないんだよね?」
「敵が攻めてきたようです。
外の会話を拾いましたが、今回は一機のみで高高度から侵入し急降下で砦へ攻めてきたようです」
「きたきたきた、寒暖差激しすぎ、バトルパート激しすぎ。上からかよ、やられた」
「ヒマリはん、入りますえ!」
「エルマリさん朝っぱらでも顔良っ!
どうなってるの?ヴァンデルベルトさんは?」
「今、王都に行ってはりますえ。変わりにソフィエレはんが指揮を執ったはります」
バタバタとヒマリは廊下へと飛び出す。
廊下から階段を駆け上り、砦の胸壁へと飛び出す。
爆発。爆炎。
ヒマリとエルマリが空の下へと出たタイミングで、UFOに爆炎が上がる。
「アイマル先生か!さすが!やった?!」
「まだ飛んどりますな…しぶとい」
炎を上げつつもUFOは無音で移動する。
ヘリのような空気を叩き続ける音も、ジェットエンジンのような空気を爆発させ続ける音もしない。静かに静かに、煙を撒きながらもそのまま砦上空に移動し、その場に貼りついた。
地球の航空機に無い動きにヒマリはCGのような錯覚を覚える。
「―UFOから光が…
まずい、スペースハウンドだ…!
なんだあれ、ゆっくり降りてくる!逆キャトルミューティレイションだよ、やっぱり宇宙人は重力扱うんだ!それで飛んでるんだ!」
あまりにも有名な都市伝説。UFOが400キロの牛を吸い上げるという目撃談。
その逆再生のように、3頭の巨大なスペースハウンドが砦中庭へと下ろされる。
空中でじたばたと暴れていたスペースハウンドは、地上3メートルで放され、そのまま砦内を縦横無尽に駆け巡り始めた。
「ヒマリはん、あきまへん!外にも下ろしとったみたいどす!」
そう、砦の内外で戦闘音が広がっている。
見ると、砦外部に布陣していた戦士団を襲っているのも3頭。挟撃の状態だ。
ソフィエレの指揮で、壁上のバリスタや魔術師の火球が炎上するUFOを撃墜しようと攻撃を続ける。
「―おかしいな。
こないだのヤツよりもバリアー時間短いよね、シリアリス。それにあんな炎上しても冷静に動いて―
そうまでしてあの生物兵器下ろして…わからないけど、とにかく攻撃が当たってる、いけるか」
胸壁から身を乗り出しながらヒマリはぶつぶつと続けているその時だった。
UFOは急に、そしてまさにUFOらしい突然の方向転換を繰り返しジグザグに飛び始めた。異様な動きにどよめく砦の異世界軍。
「―しまった、やっぱりドローンだ!!
魔術師隊!!こっちも重力魔法だ!あのUFO外に引っ張って!!」
え?と、壁上の魔術師らはあっけに取られるその時、ジグザグ飛行していたUFOが一気に砦の外壁に向けて真っすぐ突撃をする。
魔導士アイマルが杖を振りかざし、魔法を唱える。
魔法陣の光に包まれるUFO。アイマルの杖の動き通り、進行方向だけを向かっていた砦の外壁から城外の空白地帯へと捻じ曲げられ、そのまま地面へと激突した。
砦からおおお、とどよめきと歓声の中間のような声が上がった。
「ヒマリさん、あれは?」
ソフィエレが二人に合流しつつ、ヒマリに声をかける。
「やっぱり今度のもドローンだったんだよ。パイロットが乗ってない、魔法で動くゴーレムみたいなやつだったんだよ。
そんで生物兵器ばらまいてそれが終わったら突っ込んで城壁を壊すつもりだったんだ。
でもなんだって…」
ミリタリー知識の無いヒマリにもこれはあまりにも乱暴な作戦に思えた。
だがそれでも砦は内外にあのスペースハウンドが数匹走り回り、大混乱状態となっていた。
その様子を見ながらソフィエレがつぶやく。
「いずれにせよ早く掃討しないと…。
エルマリさん、下の戦士団に合流しますわよ」
「ほなソフィエレはん、うちの腰にしっかり捕まりよし」
「いけますか?」
「下までだけやったら」
フルプレート鎧を着こんだ女騎士を抱えたまま、エルフは魔法を唱えながら20メートル下へとひょいと飛び降りる。
エルマリの元で魔法を少しかじり始めたヒマリはそのさりげない魔法技術にこそレベルの高さを感じて驚く。
砦の内外にあの強力で素早いスペースハウンドが暴走している。
砦の中ではソフィエレが、砦の外ではオーク師団長のエウゲニイが指揮を執っている。
この宇宙のモンスターと戦うのは二回目で、犠牲は出ているとはいえ確実に囲み、仕留めていた。
「ヘイシリアリス見て見て!ソフィエレさんさすが自分から降りて行っただけあるよ!強!カッコいい!!姫騎士奥義・姫カット!」
「そこ!うるさいですわよっ!」
「やっべ、聞こえてた…。
それにしても姫騎士とオークが共闘してるのってヤバくない?シリアリス」
「ヤバくありません」
「いろいろはかどるわー。ぶっちゃけ興奮しない?シリアリス」
「興奮しません」
「これは友情?いいえ…まさか、このわたくしがオークに…恋?!
とかなんとか。実際はかどるよね?シリアリス」
「ヒマリ、いい加減にしないと注釈付きで翻訳しますよ」
「ウソウソ、ごめんってば」
そんな緊張感のないヒマリの目を覚まさせるかのように、見張り塔から危険を知らせる鐘が鳴らされる。
見張り兵の叫びをシリアリスが訳す。
「南方からUFOが複数機飛来したようです。ヒマリが要らない事ばかり言っているからです」
「シリアリスのツッコミめちゃくちゃ。とにかくやっぱりあれだけってこと無いか」
現代人で、それもネットに入り浸っているにしては視力が悪くないヒマリが目を凝らしてじっと見据える。
デジタルズームでとらえた映像を、シリアリスが先に声に出す。
「小型の流線形のUFOと思しき物体が12機、高速で飛行しています」
「ボクにも見えた。
…なんだあれ、この距離でもわかる、絶対戦闘機だよアレは!」
砦の下にいる戦士らの大半は見張りの声も聞こえないほどの、あるいは聞く暇すらないほどの争乱の中にいた。
そしてはるか先に見えていた戦闘機UFOはもうすぐそこまで迫ってきていた。
地上部隊のまだそのほとんどが気づけない激闘のただ中へと、戦闘機UFOは熱線を放つ。
命中すると炸裂し、地面がはじける。
混乱に拍車がかかる。
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「…速い!戦闘機?あれではこちらの攻撃が…!」
地球人のヒマリには一目でわかる、戦闘機としての要素。
その全長数メートルの小型UFOは円盤型ではなく胴と翼が一体となったような流線型、直進スピード、旋回、前方への熱線発射。全てがまさに宇宙戦闘機といった様相を呈していた。
発動に時間のかかる重力魔法どころか、バリスタはもちろん火球魔法でさえ当てられるとはとても思えない速さだった。
「バリスタ、狙えませんか?!」
ソフィエレの声にも、やはり「無茶だ、速すぎるわい!」というドワーフの声が返る。
「でかいネットみたいなのを出す魔法ってなかったっけ?!」とヒマリが叫ぶ。
「そんなもの…
魔術師隊、当てなくても結構です!戦闘機UFOの進路に爆炎魔法を!バリスタ隊は発射準備を!」
ソフィエレの指揮の意図とくみ取った3人の魔術師が、空中で火球を炸裂させる。爆炎に包まれ軌道がシンプルになるUFO。「バリスタ、今!」と、すかさず発射合図を送るソフィエレ。
手の空いている別の魔術師も雷撃の魔法を当てる。
「やったソフィエレさん!」
ヒマリが飛び上がって喜ぶ。
―異世界軍はもちろん本気で、そして全力だった。それぞれが惜しみなく得意の攻撃魔法を使っていた。
しかし―
「―ズルい!!全部はじかれた?!あんな小さいUFOでもバリアーまで使うんだ!!」
ヒマリの悲鳴じみた声が上がる。
小型の戦闘機タイプUFOはバリアーをしていなかったが、ここぞという場面でだけ短時間にバリアーを張る。
それこそ、爆炎で目隠しをされた時だ。
こちらの必死の攻撃をあざ笑うかのように、無傷の12機の戦闘機UFOの編隊は容赦なく地上部隊へと、壁上のバリスタへと熱線を放つ。
一発当たるごとに爆発炎上する砦の壁。
壁上の魔術師らが必死にシールドの魔法を出しているが、それでも少しずつ数を減らす異世界軍。熱線がさく裂するごとに、悲鳴と怒声が上がる。
12機という数以上に、この小型UFOの速度は異世界軍にとって一番の天敵かもしれない。
「まずいまずいまずい…本当に手も足も出ていない。当たるのは魔法の矢ぐらいだけど、貫通力が足りなさすぎる…!」
「ヒマリ。右手上空を見てください。より小型の飛行体が編隊を組んでこちらへ迫っています」
「…嘘でしょ。この上さらに援軍?泣くよ。
ヘイシリアリス、ズームで見せて」
「はい。翼長7メートルの翼を持った人類のシルエットです。おそらく味方でしょう」
スマホのズーム画面と周りの兵士や魔術師の反応を見比べるヒマリ。
その通りらしい。飛来する彼らに気付いた誰もが歓声を上げている。
「―エルマリさんが言ってたやつだ!
北の鷲鳥人だよ!ヴァンデルベルトさんが交渉してたっていう。ホントに来たんだ!」
彼らは砦の兵士の期待を燃料にしているのかもしれない。本当に速かった。
戦闘機UFOにも匹敵する飛行速度でぐんぐんと砦上空へと迫る。
ヒマリのスマホ画面に映るその姿はまさに鷲鳥人だった。
数十人ほどの鷲鳥人による訓練された見事な編隊飛行、そして手に手に大きな槍を持つその頼もしい姿。砦からの歓声がより一層高まった。
砦を攻撃する戦闘機UFOよりも上空から、異世界軍の希望が一斉に反撃を開始する。
鷲が急降下する際のスピードは時速200キロをも超える。その野生本来の能力に加え、武術のように翼を畳み動かす姿勢制御を極め、より空気抵抗を抑えながらむしろ下降気流を掴む衣類の開発。
鷲のフィジカルと人類の英知の研鑽により、その大柄な体躯にもかかわらず彼らの最高速度は300キロを超える。それは事実として矢よりもはるかに速い速度だった。
その彼らが力強い肩でさらに加速させた槍が一斉に投げられた。
突然の襲撃、想定外の速度。狙われた4機のUFOが槍ぶすまとなる。そのうち2機が爆発を起こした。その爆音にも負けず、砦から巻き上がる歓声。
だがただ一人、ヒマリは楽観視できなかった。
「―そうか、コクピットの場所がわからないんだ。戦闘機見るのも初めてだし、何よりガラス張りのコクピットが存在しないからだ。爆発したのは当たり所が良かったんだ」
真顔で展開を観察し続けているヒマリがぶつぶつと呟く。
「…まずい!
ソフィエレさん!今!下からも挟撃して!すぐに!!」
ヒマリの声にソフィエレは訝しんだ顔で空を見上げるが、ヒマリの意図を察して目を見開き、顔色が変わった。
「―そうですわ、速度!
魔術師隊!UFOの前に爆炎を!バリスタ、角度可能なら攻撃開始!!」
身軽さを身上とする鷲鳥人らは槍を一本ずつしか持っていない。急降下投擲しその勢いを活かしてUターンし、次弾は上空にいる槍を運んでる仲間のところまで上がる戦術だ。
そしてそれは異世界での戦闘では強力な戦術だったのだろう。
しかし上空へと戻る鷲鳥人は、言うまでもなくスピードは著しく落ちる。
「―それでも十分速いんだよ、この世界なら。でも相手はUFOだもん、重力操作で飛ぶUFOだ。どっち方向でも速度なんて落ちないんだよ」
ヒマリは彼女らしくない重苦しい声でつぶやく。
砦からの援護。
爆炎がUFOへと上がるが、それでも鷲鳥人の編隊はあっさりと追われていく。
―そしてUFOは小癪な異星人を打ち払うように、熱線砲の連射を始めた。
見る間に、一羽の巨大な鳥のような美しい編隊飛行は引きちぎられ、その羽根が散るようにばらばらと撃墜されていく。
砦の誰もが、見上げる顔を青ざめさせる。
「…敵のシールド魔法には必ず隙があります!攻撃している今がチャンスです!」
ソフィエレの必死の指揮がやっと彼らを動かす。
鷲鳥人への流れ弾を考慮して止まっていたバリスタや魔法での攻撃がUFOを狙う。
残った鷲鳥人の勇士らも、受け取った槍を手に再急降下攻撃するが今度は全てバリアーにはじかれる。
UFOに接近し攻撃しようにも、手で持つ槍ではとても刺さらない。
「油断しましたわ…」
ソフィエレは戦乱の中、誰にも聞こえない小声で呟いた。
それは、確かに異世界軍の油断だったのかもしれない。
だがヒマリには仕方ない事だと思えた。鷲鳥人らのUFOにも負けない飛行速度に小回りの利く旋回能力、そして急降下爆撃のような槍攻撃。
確かに異世界の戦争では無敵だっただろう。バリアーの脅威を知った今でも、つい異世界人には無敵のイメージが拭えなかったのだろう。
彼らの奮戦の隙に、砦からの攻撃でなんとか3機の戦闘機UFOを墜落させられたのがせめてもの成果だった。
戦闘機UFOの4機が残った鷲超人を蹴散らし、残り3機は再び砦へと向けて襲い掛かる。
その宇宙人の攻撃を、そしてソフィエレを、ヒマリは不安げに見比べる。
「鷲鳥人の勇者たちを犠牲にしてたった5機…こんな…」
悔しそうに呟くソフィエレ。
しかし今の彼女は砦の指揮官代理として、打ち負かされる事など出来ない。
気丈に顔を上げ指揮をとろうとするが―。
撃墜したUFOに異変が起こる。
ハッチらしき部位がバシュンとはじけ飛んだ。
中からも圧力鍋の水蒸気のように勢いよく煙が噴き出す。
近くに居た兵士らは身を引き、あるいは開かれた内部を注視する。
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「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
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