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第38章 ノウムのメモリ

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 庭園のガゼボで全員が席についていた。

「行方不明者を連れ戻してくれた。ありがとう」
 グベルナが、礼を述べた。真琴たちが、功績を称えられたと微笑んだ。
「だが、もう無茶はしないでくれ。とても危険なのだ」
 グベルナは、真琴たちを見渡す。
 真琴たちは、顔を上げられない。コロニクスも一緒だ。

「では、話を訊こうか」真琴たちに合図をした。
 真琴たちは、行方不明の人たちを探しに行ったことを話した。
 絢音は、真琴の元の世界に戻すために、パイロに会わなければいけないことも。
 話すことがいっぱいあった。
 どうやって銀の塔に侵入したか、銀の塔で何を見たかを。

 だが、絢音たちがなぜそれを急いだ理由は話さなかった。
 絢音と響介の体が透けてしまい、時間がないことを。
 でも、ここではその事を話すことができない。
 真琴が気にしてしまう。
 真琴がこの席にいるからには、口に出せない。

 黙って下を向き聞いていたグベルナが顔を上げた。
「訊きたい事は、いっぱいあるが……
 銀の創造主とやらに訊かなくては、わからないな。
 情報がもっと欲しいな」
 グベルナは、しばらく沈黙し考えると、
「爺は、知っているだろうな」と呟いた。

「あっ、分かるかも」と突然、パイロが声を上げた。
 みんなパイロに注目する。

 パイロは、自分のポケットから、ノウムのメモリを取り出した。
 そして、自分の額にエィと張り付けた。
 メモリの足が、パイロの額に食い込む。
 パイロは、痛みで顔が歪む。
 痛いのは、誰の眼にも明らかだった。
 
 メモリから、じんわりとオレンジ色の光が発せられた。
 パイロは痛みを忘れたように笑顔で言った。
「これで、ノウムと話せる」
「そんなことができるの?パイロ」
「僕には、出来るんだなこれが……」パイロが胸をはる。
 絢音は、パイロが不思議に思っていた。
 どんな能力を持っているのか。
 その能力を使えば、真琴を元に世界へ戻すことが、出来るのだろうとじっと見つめた。

「ノウム?誰だ?」
 グベルナとコロニクスが訊いた。
 パイロが、説明する。
 人間に憧れていたスーパーAIのノウムの話を。
 色々とコックたちの世話をしてくれたり、バルバルスから守ってくれたことも。
 最後は、バルバルスとハエ型ドローンの攻撃で破壊されたことも。
 パイロが、額につけたのは、壊されたノウムのメモリをだと話した。

「じやぁ、ノウムと話してみてよ」というとパイロは目を閉じた。
 額のメモリが、強い光を発している。
 パイロがパチッと目を開けた。
 瞬きをせず、焦点が定まらない。
 パウロから目が離せない。


「君の名前は?」グベルナがパイロの顔を覗き込み訊いた。

「……私の名は、ノウム」ノウムだ。みんな驚きを隠せない。

「君の事を教えてくれないか」グベルナが優しく訊いた。

 ノウムが語り始めた。
「私は、銀の塔の創造主によってつくられた人工知能である。
 今までに考えてきたことや進化し続ける人間の全てを学習し、銀の創造主に報告するのが私の仕事である」

「なぜ、コックやパテシエを誘拐した?」

「誘拐?銀の創造主からは、誘拐とは聞いていない。
 ただ、銀の塔に人間が居るので、面倒を見てくれと言われた。
 だから、コックたちと話をし、必要なものや情報を与えて世話をしていた」

「なぜ、コックやパテシエが、居たのか?」

「それは訊いていない。
 居たから居るのだ。
 その者の世話をするのが仕事だ。
 それと人間をより理解するための情報収集のためだ」

「他にどんな指示があったのですか?」

「……全てを話すことは出来ない。創造主の許しがなければ……」

「何を言っている。
 許しなんか必要ないのだ。
 君はなぜここに居る。
 バルバルスの攻撃を受けたんじゃないのか?
 バルバルスに命令を出したのは、誰だ」
 グベルナの声が、大きくなる。

「……」ノウムは、うなった。

 そうだ。
 なぜ、私はここに居るのだ。
 創造主の指示通り、銀の塔に迷い込んだ人間の世話をし、情報を収集していた。
 それなのに、バルバルスとハエ型ドローンは、私を攻撃してきたのだ。

 間違い?

 プログラムの間違い?

 そんなことは、我々にはない。
 忠実に命令を実行しただけのはずだ。

 忠実に?

 誰に命令された?

 我々の創造主しかいない。

 私が何をしたというのだ。
 何かしくじったのか?思い当たらない・・・・・・
 私がいらなくなったという事か。もう、必要なくなったと……
 わからない。
 なぜだ、なぜだ、なぜだ!


「君は何かミスをしたのか?」ノウムが、問いかける。

「……私がミスなど犯すはずがない」

「では、なぜ、攻撃された?
 君は、味方に攻撃されたんだ。わかっているのか?」
 そこまで言わなくてもと、コロニクスがグベルナを見つめる。
 ノウムの返答がない。

 しばらくして、ノウムは、力なく呟くように言った。
「……知っていることを話そう」
 グベルナに対峙し強い口調で言い放った。
「何が訊きたい?」
 ノウムの眼には、決意が見えていた。
 もう、銀の創造主に仕えることはないと。
 そのことをグベルナが察して、質問を発した。

「人工的につくられたウイルスが流行っているのだが、心当たりはないか?」

「飛沫感染で、感染すると風邪の症状に近いが、場合によっては後遺症や死につながるウイルス……のことかな」

「何のために?」

「我々に理由は、必要ないのだ。ただそうしろと言う命令に従うだけだ」

「コック、パテシエ、パウロの誘拐は、どうだ」

「銀の塔に紛れ込んだ人間の面倒をみるようにと命令を受けた。
 銀の塔の外に出すなという事」

 グベルナが、腕組をして考えている。
 急に顔を上げるとノウムに言った。

「君の意見を訊きたい!」
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