上 下
34 / 46

第34章 銀の塔の創造主

しおりを挟む
 ブラックホールの中は、きっとこんな感じだろう。
 ここには、光が無かった。
 なぜ、光が無いのか?
 この部屋に居る者が、必要ないと言ったからだ。
 この部屋に居る者、それはこの銀の塔の創造主だった。
 銀の塔の創造主、これからは、銀の創造主と呼ぼう。
 部屋には、光が無いので、銀の創造主を見た者がいない。
 もちろん、ここが銀の塔の何処にあるかも分からない。
 銀の創造主はどこから来たのか、誰も知らなかった。
  
 銀の創造主は、人間界の技術は自分が最初に発明したと主張していた。
 ただ、人間は自分たちが発明したものと勘違いしているにすぎないとも言っていた。
 人間界では、別の者が発明したことになっていて、膨大な利益得て、称賛されていた。
 銀の創造主は、それをよく思ってはいなかった。
 なぜなら、発明をしたのは自分だからで、称賛されるのは自分なのだと考えたからだ。
 称賛されないのなら、自分の力を分からせてやろうと考えた時に、銀の塔が生まれた。
 銀の創造主が、人間界に新しい発明を送り込む(発明そのものではなく、多くはきっかけを与えた)と、銀の塔は成長をしていった。
 人間は、その発明を使い、貧富の差を生み出そうと、経済的な共食いを始める。
 創造主は、その様子を見ると愉快だった。
 圧倒的な優越感。それが、創造主の喜びだった。
 発明が、人間界の成長を停滞するために使われた時、笑いが止まらなかった。
 多分、復讐が果たされた時の感情に近かった。

 コンピュータの発明は、銀の塔を成長させた。
 人は、一人ずつその掌に小さな窓、フレームを持つようになった。
 人は、このフレームから送られる情報に魅せられていった。

 このフレームと言う概念は、すばらしい発明だった。
 絵画は、このフレームを境に別世界を感じさせてくれた。
 物語は、文章上のフレームを通して、読者に別世界を創造する喜びを与えたいた。
 しかし、このすばらしいフレームの使い方をマイナスに使い始めたのだ。

 それは、フレームを掌に収まるような大きさにし、個人一人ひとりに持つようになった為だ。
 これが、銀の塔を急速に発達させた。
 掌に収まるフレームが悪い訳ではない。使い方、使われ方が悪かったのだ。
 その小さなフレームはから、送られる過剰な写真や映像は、時間と想像力を欠落させていった。
 真実か虚実かも分からない情報や罠や誘導による富の略奪が始まったからだ。
 隣の人とも話さず、小さなフレームの事しか信じなくなり、それが、洗脳という危険もあるというのに。
 この小さなフレームは、直ぐ近くで起きている事件や戦争までも、遠い過去か未来かさえも判断できなくなった。
 自分はその場にいないという安心感が、自分さえという考えを植え付け、何もしても感じなくなるのだ。
 対岸の火事のように。
 人間は、集団脳として生き残るに成功してきたのに、その策を簡単に捨て去るか。
 そのことが、人間の発達を止めることが容易にしてしまった。
 小さなフレームは、残念ながら人間を孤立化させる方向に向かっている。
 それこそが、銀の創造主の願うところだった。

 銀の創造主は、侵入者と捉えてきた人間が気になっていた。
「侵入者は、どうした?」

「ノウム様の部屋へ、連れて行きました。
 オルクスより、問合せが来ています。
 侵入者を確認したが、創造主様の許可は降りているのかと」

「許可は出していないが、ノウムが色々と調べてくれるだろう」

「いったい、彼らは何者なのです?
 ”バルバルス”が壊されたので心配です。画像を送ります」
 銀の創造主は、画像を見つめた。

「こいつらか……。絶対にこの塔から出すな!絶対だ!」

「了解です」

「ノウムの部屋には、捉えてきた者も居るのか?」

「コックとパテシエともう一人の三人です」

「もう一人?」

「ぬいぐるみを着た小さな子供ですよ。確か……パイロとか」

「何、パウロ!なぜ、早くそれを言わない。
 ノウムにパウロを会わせてはならないのだ。ノウムがもしも……」
と、慌てて口に手を当て、言いかけた言葉を飲み込んだ。

「彼らをここから出すな!
 ”バルバルス”を出動させろ!
 ここから出してはならん!」

「ノウム様が拒まれましたらどうしましょう?」

「私の命に逆らうならかまわぬ。
 その時は、ノウムを始末してもよい」

 銀の創造主は、拳を握りしめ立ち上がった。

 ボディの隙間から細い肌色の足が覗いたが、光がないので、見た者は居なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生おばちゃんナースの異世界徒然日記

Debby
ファンタジー
 私、ヴィヴィアーチェには前世の記憶がある。  名前は忘れちゃったけど、大往生した“おばちゃん”で、ウン十年看護師の経験がある女性の記憶だ。  あ、大往生したならおば“あ”ちゃんだろうという突っ込みは受け付けませんよ。孫がいたことまでは何となく覚えているけど、どちらかといえば30~40代くらいの記憶が強く残っていて、おばあちゃんだった感じがしないのよね。今世の身体は16歳だから尚更よ。  ある日、知り合いの薬屋さんから受けた仕事をこなすために目的地に向かう道中、怪我をした一匹の大型犬?を囲んで話し合う男女を見かけた。  短い話し合いの末、いつ魔獣が出てきて襲われてもおかしくない森の中に、なんの躊躇いもなく犬と共に置き去りにされてしまったお兄さんに、私は声をかけた。 「あなた、お裁縫は出来る?」    ★  全話予約投稿済みです  作中に出てくる薬剤の使用や処置の方法について──あくまでもフィクションです。  それを含め、よろしくお願いします。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

処理中です...