君の頭の中にも宇宙が入っているんだ

リュウ

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第21章 潜入前夜

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 真琴たちは、静かに銀の塔への潜入準備をしていた。
 そう、気づくかれないように。
 そっと音をたてない様に。
 グベルナは、きっと拒否するだろう。
 真琴たちが、銀の塔に行きたいと言ったら。
 だから、グベルナに気づかれない様に黙って潜入準備をしていた。

 ウビークエの忠告通りに軽い飲み物と食べ物を用意し、両手が空くようにリュックを用意した。
「なんか、遠足見たいね。ワクワクする」
 絢音はそう呟くと嬉しそうに荷物を詰めた。

 しかし、果たしてパイロやコックとパテシエも銀の塔に居るのだろうか?
 この疑問は、部屋の天井の隅に張られた小さな蜘蛛の巣の様に真琴たちの心に引っ掛かっていた。
 休憩しようかと言う響介の提案を受け入れ、真琴たちは庭園に向かった。

 美しい花々で飾られた庭園は、いつ来ても悩みを忘れさせてくれた。
 メトセラの助言が功を奏して、色とりどりの花が庭を埋め尽くしていた。

 西洋風あずま屋ガゼボで休んでいると、コロニクスを見つけた。
 コロニクスは、丁度、偵察から戻って来たところだった。
 相変わらず背筋をぴっと伸ばし、綺麗な姿勢だ。
 真琴たちを見つけると、カツカツと踵を鳴らしながら近づいてきた。

 三十センチ四方くらいの箱を手にしていた。
 コロニクスは、箱をテーブルに置くと真琴たちの向かいに座った。

「何をしている?」
 真琴たちは、顔を見合わせ「何も……。休んでいるだけ」と答え誤魔化した。
 銀の塔に潜入する事が、コロニクスが知ったら、グベルナにも知られてしまう。
 そうしたら、潜入は無理だ。

「あれから、新しい情報は無いか?」
 コロニクスは、箱の中をガチャガチャといじっている。
「……、ないよな」と、真琴が愛想笑いで答えた。

 コロニクスは真琴たちの顔を改めて見渡し、再び箱の中に目を移して「そうか」と呟いた。
 箱の中から、小さな半円球を取り出しテーブルの上に置いた。

「何?」と真琴たちは、半円球を見つめた。
「これは、カメラだ。何者かが街中に仕掛けたようだ」
「誰が?」響介が呟く。
 コロニクスは、両手を天に向け「さあな・・・・・・」を答えた。
「何かを監視しているんだろうな……お前たちかもな」
 コロニクスは、真琴たち一人ひとりを見つめた。

「図書館で、アルクに会ったんだが、
 最近、銀の塔のオクルスが料理やお菓子の最新本を多量に持って行ったらしい。
 怪しくないか?」
 怪しいと真琴たちも頷く。
「多分、コックとパテシエは、銀の塔に居る」
 再び、コロニクスは、真琴たちを見つめた。
 心の中を探るように、眉間に皺を寄せて見つめる。
 そして、一呼吸すると立ち上がった。

「何か分かったら、教えてくれ」
 と、立ち去ろうとしたが、何か思い出した様に立ち止まり振り返った。
 コロニクスは、ポケットから小さな箱を取り出し、真琴に放った。

「これを持って行け。銀の塔用の翻訳機だ。
 ボタンを適当に押して使い方を覚えろ。見たことあんだろ。
 それと一番のコロニクスの絵をタップすると俺に繋がる……気をつけてな」
 コロニクスは、ニャッと笑い行ってしまった。
 真琴たちは、心を読まれたことを悟っていた。

 小さな箱は、スマホのようだ。
 真琴には、スマホに見覚えがあった。
 ホームで浮浪者に襲われた時に助けてくれた青年が持っていたスマホだ。
 浮浪者の言葉が、波形グラフと言葉が画面に表示されるヤツだ。
「これは!」
 真琴は、顔を上げコロニクスの方を見たが、もう姿は見えなかった。

「バレバレじゃん……何を貰ったの」と響介が言いながら、真琴からスマホを取り上げた。
 絢音も響介に顔を付けて、スマホを覗き込む。

 真琴は、このスマホの事の話をした。
 浮浪者から助けられた時に見たことを。

「浮浪者がしゃべったって」眉間にシワを寄せ響介が驚く。
「ああ、このスマホに表示されたんだ。”見つけた”とか”捕まえろ”とか」
「なんだそれ、見つけたって、真琴の事か?翻訳機?翻訳アプリってこと?」
「わからない。僕を襲ってきたから……結果的には僕かな」
「捕まえたかった……、真琴を?」響介が不思議がる。

 なぜ?
 これは、真琴たちがずーっと抱えている問題。

 真琴は、自分の為に二人を巻き込んでしまったのかと考え込む。
 響介と絢音は、そんな真琴よりスマホの方に興味がいってる。
「このスマホは、あの浮浪者の言葉を翻訳したってこと。
 つまり、翻訳アプリみたいな?
 翻訳機は必要、必要。
 銀の塔の住人の話がわかるなら助かる……コロニクスって、優しい人なのかも」
 絢音がスマホをいじりながら呟く。

 翻訳機とコロニクスに連絡できるツールを手にした真琴たちは、俄然やる気が出できた。
「準備をしよう。銀の塔に行くんだ!」絢音が立ち上がった。
「行くぞ」と響介と真琴も立ち上がった。
 三人は「よかったね」と顔を見合わせ、明日の準備を始めた。

 そう、真琴を元の世界に戻さなくては……
 その為にパイロに会って、方法を訊きださなくちゃ……
 パイロを見つけないと……
 銀の塔に探しに行こう。
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