君の頭の中にも宇宙が入っているんだ

リュウ

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第16章 月の光

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 暗い部屋の中、響介がソファに座っていた。
 絢音が、そっと横に立つと響介がどうぞと席を開けてくれた。

「まだ、起きていたの?」絢音が心配そうに囁く。
「ああ、なんとなく」
「真琴は?」
「とても疲れてるみたい、ぐっすり眠ってるわ」
「そうか……」

 その時、コロニクスが人間の姿で部屋に訪れた。
 ソファの二人に気付いて立ち止まり、話しかけるタイミングを計っていた。
 それに気づいた響介がコロニクスに声をかけた。

「なんでしょうか?コロニクス」
 絢音もコロニクスに顔を向けた。
「いや、今、大丈夫かな?」
 コロニクスは二人の顔を交互に見て様子を伺った。
「大丈夫です。何か?」
 コロニクスは、響介に視線を写した。
「僕?僕に用ですか?」
「ああ、オムネ城から荷物が届いている。デカいので、バルコニーに置いたよ」
「オムネ城から・・・・・・」
「それでは、失礼する」コロニクスは、静かに部屋から立ち去った。

「何かしら?」
「行ってみよう」
 響介と絢音はバルコニーに向かった。

「ピアノだ!」

 響介は、ピアノに駆け寄った。絢音も付いて行った。
 響介は、ピアノを一回りすると、早速、ウオーミングアップを始めた。
 静かな夜にピアノの音が響き渡る。

「どうしたの?これ」
「音楽室でピアノを弾いていたら、運んでくれるってさ」
「よかったわね」
「うん、最高!」
 響介は鍵盤から目を離さない。

「なんか懐かしいね」
「ああ、幼稚園の時、いつも隣で聴いてくれたよね。絢音が居ると安心して弾ける」

 絢音は、バルコニーの端まで行って、夜空を眺める。
 ここでは、街は全て塔の中にあるので明りが外に漏れない。
 そのため、空に光る星は鮮明に見える。
 遥か遠くまで広がって行く宇宙の壮大さが伝わってくる。
 ずーっと見ていると宇宙に吸い込まれて登って行くように感じる。
 ただ、大きな月が煌々とバルコニーを照らしていた。

 自ら、発しない光。

 太陽の光に照らされ、反射して周りを照らす。
 自分を主張しないのに、誰かの力で柔らかく輝いている。
 そんな控えめの美しさに心を奪われていた。

「綺麗な月だね」響介の声。
 絢音は、「ええ」と頷く。

 これは月ではないと思っていたが、言うのをやめておいた。
 その時、絢音は、思わず微笑んでしまった。

 ”綺麗な月ですね”は、愛の告白に使われた言葉だと思い出したからだ。
 この遠回しな言い方が、やはり月なのだろうと。

「あなたと……」と、絢音が言いかけた時、響介は曲を弾き始めた。

 月の光。

 白と黒の鍵盤の上を長い綺麗な指が躍っている。
 この男は、なんて綺麗な横顔をしているのだろうと見とれてしまう。
 見ているだけで幸せを感じる。

 幸せが来ると……。
 そう、この曲を駅で聴いている時、アイツにあったんだ。

 あの浮浪者に。

 その時の光景が蘇ってく る。
 突然、ピアノの音が止まった。
 響介が、ピアノの前で固まっている。

「手、手が・・・・・・」

 響介は、絢音を見上げる。
 絢音は、響介の手を探した。
 そして、はっと息を飲んだ。
 鍵盤の上にあるはずの響助の手が透けていた。
 絢音は、思わず響介の頭を抱いて胸に押しつけた。
 見なくてもよいと言うように。

「大丈夫、大丈夫……」

 絢音は、自分の手も透けているのに気づいた。
 響介ほどではない。
 まだ、感覚がある。
 響介の柔らかい髪の毛の感触がある。
 二人は、しばらくの間、そうしていた。
 響介の為に。
 そして、自分の為に。

「絢音……もう大丈夫だ」響介が絢音を見上げる。
 絢音の胸の谷間から、恥ずかしそうに見上げている。
「ああっ」
 絢音も何ていうことをしてしまったのかと、慌てて手をどけた。
 お互いにはずかしい時が流れる。
 
 響介は、絢音の横に座って手を取った。
 絢音を手の優しく撫ぜた。
 綾音の手も少し透けていた。
 でも、まだ感触がある。

「時間切れかな。爺さんが言ってた、生まれ変わるって」
 絢音も思い出していた。

「そうだ。段々身体が透けてきて、やがて・・・・・・」
 その先は言わなかった。言いたくなかった。
「真琴を戻さないと……、爺さんが頼むって……」
 二人は、寄り添って部屋に戻っていった。
 眠れぬ夜は続いた。

 結局、絢音と響介の二人は、眠れなかった。
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