君の頭の中にも宇宙が入っているんだ

リュウ

文字の大きさ
上 下
12 / 46

第12章 オムネ城

しおりを挟む
 例の球形の乗り物が塔の途中で止まったので、真琴たちは降りるしかなかった。
 そこには、白い塔の入口と同じように門があった。
 重厚なそれでなく、温かみのある木で作られた門だった。
 門の両側には、腕組をした木彫の門番が両脇に立ってこちらを見つめていた。

 近づくと木像の門番が動き出し、なぞなぞを出題され答えられないと食い殺されるヤツ。
 そう、映画でよくあるシーンの様に。
 真琴たちは、息を殺しそおっと近づき恐る恐る門をくぐった。

 門を抜けるとそこに広がるのは、ヨーロッパの旧市街地を思わせる街並みだった。
 大人しいオレンジ色の屋根。
 街の雰囲気から浮き出ることの無いように統制された色の壁。
 規則正しく並んだ窓。
 そして石畳み。
 何処を切り取っても立派な絵画になるだろう。
 真琴たちは、目を見開き夢中になっている。

「きれいな街。中世の城下町みたいね」
 自然と足取りが軽くなる。
 奥へ進んで行くと、だんだんと人通りが多くなっていく。
 人波は、何処かへ向かっているようだ。

 小さな通りから、人が出てきて大きな人の流れになる。
 なんというか人々の熱気のようなものが徐々に大きくなっていく。
 しばらく行くと広場に出た。

 そこは、もう人々でいっぱいだ。
 何やら軽やかな音楽が流れ、皆、そのリズムに身体を合わせ踊っている。
 色とりどりの衣装を着て、仮面をかぶり楽器を演奏し踊っている。

 真琴が二人に話しかけるが、周りの音に声がかき消される。
「・・・つり?」
「えっ」
 耳に手をあて訊こうとするが、無駄なようだ。
 真琴が、大きく手を振って響介と絢音を誘導する。

 人込みの流れに逆らい、脇の道に入り、顔を見合わせていた。
 真琴たちは、顔を寄せて話あう。

「お祭りみたいだ!」
 真琴が声をあげ、すぐに響介と絢音が頷く。

「そうだよ、お祭りだよ」
 真琴たちの足元から声がした。
 驚いて足元を見ると、そこに腰までの高さのウオンバットのような生き物がいた。
「なに!」絢音が思わずのけ反る。
「今日は、人間が創りだした三番目のお祭りなんだ」
 ウオンバットは、真琴たちを見上げ得意そうにしゃべっている。
 よくみると、毛皮をかぶった子どもだった。

「君はだれ?」
 絢音は、しゃがんで子どもの視線に合わせると訊いた。 
「僕?」
 絢音が、子どもの目を見つめ「そうよ」頷いた。
「僕は、ウビークエって言うんだ。おねえちゃんは?」
 絢音は、初めましてと挨拶をし、名前を告げた。
 この子どもを改めてよく見た。
 ウオンバットの被り物をした子どもで、鼻の横にネズミのような髭が左右に三本づつ生えていた。

「お前たち、この街は初めてだろ。おいらが教えてやるよ」
 ウビークエは、右親指を顔の前でかざした。
 そして、木の枝で足元に絵を描き始めた。
 一通り書き終わると、準備はいいかと真琴たちを見上げた。

「この街は、ここのオムネ城を中心に造られているんだ。
 道は、全てのこオムネ城に繋がっている」
 絵の真ん中に城らしき絵が描かれていて、その周りを枝で丸くなぞった。

「オムネ城?」
 絢音は、なんだそれはと、繰り返す。
「オムネ城は、文字通り中心なのさ。
 ここに何でも集められるのさ。
 書物や音楽や映像や創作物、人間の作ったモノなら何でも集められるんだ。
 集めるのがここに居る大人の仕事」
 行ってみたいと真琴たちが顔を見回す。
 ウビークエは、そんな表情をみてニヤリと笑った。

「行きたいだろ……案内するよ。暇で暇で退屈してたところなんだ」
 と、大きく右手を振り、先頭に立って大通に向かった。

 真琴たちは、ウビークエと一緒にオムネ城を目指す。
 広場からオムネ城への道は、バザールが開かれていて、色とりどりのテントが張られていた。
 人々は、個性的な店主と値段の交渉をし、商談が成立すると笑って握手をするのがならわしのようだ。
 ネット通販や宅配により、人との接触が少なくなった真琴たちには新鮮に映り、何か大切なことを思い出させてくれる気がしていた。

 人込みの中をウビークエの後を付いて行くのは、意外と大変だった。
 モコモコのウオンバットの毛皮を着た子どもと似たような毛皮の服や帽子を身に着けている子どもも多く、バザールの店の品物に気を取られてしまうとアッという間に見失ってしまう。
 綾音は、キラキラしたアクセサリーや服にはすぐ目を奪われウビークェだけでなく真琴や響介からも何度もおいて行かれそうになっていた。
 だがそこは、響介の出番で、人々の頭ひとつ上の高さから捜索は完璧だった。

 オムネ城に近づくにつれて、バザールはテントから回廊へと移って行った。
 陳列されている品物は、段々ときらびやかになっていった。
 ウビークエが、突き当たりの壁に向かって走って行った。
 壁の前に行きつくと振り向き、こっち、こっちと手招きした。
 真琴たちが向かう。

「着いたよ」ウビークエは、得意げに三人を見上げた。
 でも、目の前は壁だった。
「どこだよ?」と、響介が呟く。
 ウビークエが、上、上と右人差し指をたて上下させる。
 真琴たちが見上げると、壁が遥か上空まで続いている。
 いくつか窓らしきものが見える。
「これが、城なの?」絢音がしゃがんでウビークエの目を見つめた。
「そう」ウビークエは円満の笑顔。
「何処から入るんだ?」真琴が壁を触る。固くザラザラしたコンクリートみたいな手触りだ。
 すると、ウビークエが壁を三回ノックした。
 壁に大きな顔が現れた。
 思わず三人は後ずさり、構える。
 大丈夫だとウビークエは笑っている。
 大きな顔の眼がゆっくりと開かれ、真琴たちを見つめた。
 何が起こるのかと身構える三人。
「ようこそ!オムネ城へ」大きな顔がしゃべるり、口を大きく開けた。
 人が通れるくらいに大きな口だった。
 ウビークエが、さぁ行こうと三人に促し大きく開かれた口の中に入っていく。
 真琴たちもウビークエの後に続いた。

 オムネ城の中も、人で一杯だった。
 渋谷の駅前の様に、込み入った場内を歩いていく。
 真琴たちは奥へ進むと、円形のホールに出た。

 壁には木製のドアが並んでいた。
 ドアの上部には半円形の窓があり、金属板がはめられ数字が刻まれていた。
 数字を針が指している。
 ドアは金属製の蛇腹に囲まれていた。
 真琴たちは、そのドアをじっと見ていた。
 ”1”に針が来るとチンと音を立て、木製のドアが開かれ、蛇腹が開かれると中から人が出てきた。

「これ、エレベーターよ」
 絢音が、声を上げる。
「エレベーター?」
 ウビークエが、目頭にシワをよせた。
「何ていうかな……、この箱が上に行ったり、下に行ったりするのよね」
 絢音が説明するが、ウビークエは首をひねるだけだった。
「これに乗って、行きたいとこに行けるんだ。
 このドアの前で、行きたいところを考えればいいんだ。
 やってみるね」
 ウビークエは、振り返りドアの方に向うと、手を上げた。
「イーレ!」呪文のような言葉を唱えると、目の前の格子とドアが開いた。
「さぁ、乗って、案内するよ」
 ウビークエと中に乗り込んだ。

 エレベーターらしき物の中でウビークエが話始めた。
「前にも言ったけど、人間の創ったものはここオムネ城に集められるんだ。
 書物や音楽や映像、何でもだ。
 利用の仕方は、その部屋にいる者に訊いてみて」

 大きな施設である図書の間、美術の間、音楽の間、視聴覚の間の四室に案内された。
 この四室で事足りるだろうということだった。

 ウビークエは、あっと言うと忘れていたと頭をポリポリ掻きながら、毛だらけのポシェットから小さな箱を取り出し真琴たちに渡した。

 小さな箱の中には、直径一センチくらいの透明な半円が二個入っていた。
「眼に入れるんだ。部屋で映像が見れるのさ」
 ウビークエは、早くつけてとピョンピョン跳ねた。
「コンタクト……」絢音が呟くと真琴と響介が頷いた。
 真琴たちは目に入れてみた。
「これがあるとすごい便利なんだ」得意そうに言った。
 ウビークエが、城の中を案内してくれる。
「何か見えるぞ」と響介。絢音と真琴が頷く。
 眼の中に文字が見える。
 部屋の名前だ。
「これ、デスプレィなの?」絢音が叫ぶ。
「便利でしょ。部屋の中に入ったら、必要に応じて映像が見れるんだ」
 ウビークエが真琴たちを見上げる。

 図書の間は、端が見えないくらいの大きな部屋だが、全て本で埋まっていた。
 音楽の間は、様々な楽器が飾られていて、実際に触ることも使用することもできた。
 美術の間は、様々な画材道具や手法を使った作品が並べられていた。
 歴史的な音楽家の演奏などは、次に行く視聴覚の間で見ることができるそうだ。
 憧れの音楽家の演奏が生に近い感じで味わうことができる。
 視聴覚の間は、球体の部屋で真ん中で使用する。
 先に述べた生演奏や、スポーツ、冒険さえも疑似体験することが出来る。
 
 真琴たちの興奮が収まらない。
 どこから手を付けていいかわからなかった。

「後は、個人で鑑賞してくれ。用事があれば、おいらの名前を呼んで」
「えっ、それで呼んでいるってわかるの?」
「わかるんだなこれが」
 と、言うとウビークエは、立ち去ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...