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Chunk4 事象と事実と
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週も明けて6/12、たまの休日。およそ半年ぶりになるだろうか、リアルでリカとお茶していた。コーヒーに入れたガムシロップを、もう慣れた舌触りの悪い紙製のストローで円を描きながら溶かした。
「結局プラスチックと紙とでどちらがエコなんだろうね。」
製造から再利用まで総じて考慮しなければならないとあって、未だ解決に至らずじまいだ。同じ効果をもたらす現象とはとどのつまり両辺が拮抗する保存則で成り立っているのかもしれない。
2025年の宇宙ゴミ解決目標や化石燃料の国際的な使用制限も相まって、観光業もだいぶと在り方を変えてきた。グラデさえあれば、かつての観光地どころか海中遊泳だろうが、はたまたどんな時代設定だろうが有料コンテンツ次第でいくらでも設定旅行できる。今は失われたあの建造物も遺跡も世界遺産もデジタルの力で目の前に蘇る。
私の質問など興味なさそうに彼女は今週末の彼氏とのバーチャル旅行について相談してくる。アバターと違わぬその見た目は実仮共同で販売展開するアパレルブランドのものだろう。
「”課金する”って誤用らしいよ。」
なんてリカはいつもの調子で話しをすり替える。私たちが学業に勤しんでいた頃から一般的に使われ始めていた、今更違和感なんてない言葉だ。広告バリバリの仮想空間は、料金を払えばーーいわゆる課金すればーー広告が外れ純粋な旅行を楽しめる。旅行代理店の営業形態は新プランの仮想旅行をリリースすることにシフトしていた。乗り物を使わずに世界を回れるなどいい時代だ。
「いいとこ、どこか知らない?」
トライアル版で軽く潜ることを薦めると、せっかく正規ツアーを申し込むから初見がいいと私の意見を突っぱねた。試しに今まで行ったところを聞いてみると、なるほどめぼしい場所は既に旅行済みだった。そして最後に小さく言った。
「……それとプラネトラベル」
造語Planetravel、いわゆるプラネタリウムの旅行版。小さく言った彼女の気遣いはありがたく、無下にしてはいけない様に感じた。そしてふと思い出したかの様に努めて明るく聞いてみた。
「あの日さ、私連絡したじゃない?」
もちろん、あの日がどの日のことを言っているのか始めは眉を顰められたが、”宇宙”・”連絡” そして話の流れで理解できたのか表情が晴れる。私がもう気にしていないと思ったのかもしれない。いつものトーンで切り返してきた。
「そうそう。身の振り方が決まったーとか言って、電話してきたよね。」
あれ、電話で伝えたっけ?徐にカバンからスマホを取り出すと彼女とのやりとりを見返す。思慮が浅かったか、ケントとの連絡加えてタイムライン以外は目を通していなかった。懐かしー! と声を上げる彼女と件のやり取りを確認してみる。リカとのスレッド、3/14の内容は通話記号、下に1:02:41。長電話だな。言ったでしょ? と得意げな彼女をよそにタイムラインを開いてみた。
”彼の夢を応援した。ホントは行って欲しくなかったくせにそれは私のわがままだと知っているから止めることさえできなかった。ペンダントを返してもらった。”
先週私が打ち込んだ文章に間違いはない。ただ最後の一文が消されている。まるで初めからなかったかのように。どうかした? と言う彼女に何でもないよと言いつつ、頭の中の整理は追いつかない。記憶を呼び起こす。この頃はお互い中2でリカとは毎日顔を合わす程の付き合いで、気が置けない友人で、私の1番の理解者で。そんな彼女を泣かしてしまった日だ。
2022/03/14。私はケントに呼び出された。当時彼は大学4回生。最後になるかもしれないと言われたのを覚えている。翌日からのアウストラス社での業務、来る日のため最終調整に勉めるとのことだった。この国にいてこの日に別れを告げられるとは、なんて惨めなものだろう。
「そしてケントは私が去年の誕生日に渡したペンダントを突き返してきた。そのあとリカに連絡したんだよね。」
そう話すと彼女は合点がいかない様子だ。
「確かにあのペンダントは渡されたようだけど、突き返されたわけじゃなくバレンタインのお返しだったはずだよ。」
曰く私は終始、彼と会えなくなった事、自分の進退については話したもののペンダントについては伝えたわけではないらしい。そして聞くに耐えず、良心の呵責から彼が旅立つことを知っていたことを告げたと。私は知っていたならどうして早くに教えてくれなかったか問い詰めた。それがあの長電話に繋がって行くわけだ。
「だってそのペンダントが答えじゃん。」
この言葉は覚えている。彼女があの時どうすれば良かったか分からず、泣きじゃくりながら発した言葉。彼がアウストラス社にエンジニアとして入社したことを知らされた。宇宙工学科出でエンジニアとして業務経験もあるとあって重宝されていた。どうやら以前から面識があった様子だ。
「アウストラス社って宇宙移民計画に名乗りを挙げたあの会社?」
そう聞き返えした私に、「当たり前じゃん」と視線を落としながら言ってきたな。万人が知っているその企業は同時に国内屈指のSNSをリリースし、その後進は今でも仮想空間『スーニ』の運用をしている。去年その会社に向かえたのも、ケントの厚意のおかげだった。電話の後、スマホを壁に投げつけたっけ。
私の性格からすると自分で買うわけもなく、貰い物だとひと目で分かった。それを未だに身に着けているとあっては私の未練は言わずもがなだと。カップの中で揺れる液面にそんな当時を思い描く。さすがと言うべきか、彼女は私の機嫌が悪くなると察して、それ以上断定的な言葉を並べず旅行の話へと逸らす。結局ヨーロッパ(仮想)旅行で落ち着いた。
「結局プラスチックと紙とでどちらがエコなんだろうね。」
製造から再利用まで総じて考慮しなければならないとあって、未だ解決に至らずじまいだ。同じ効果をもたらす現象とはとどのつまり両辺が拮抗する保存則で成り立っているのかもしれない。
2025年の宇宙ゴミ解決目標や化石燃料の国際的な使用制限も相まって、観光業もだいぶと在り方を変えてきた。グラデさえあれば、かつての観光地どころか海中遊泳だろうが、はたまたどんな時代設定だろうが有料コンテンツ次第でいくらでも設定旅行できる。今は失われたあの建造物も遺跡も世界遺産もデジタルの力で目の前に蘇る。
私の質問など興味なさそうに彼女は今週末の彼氏とのバーチャル旅行について相談してくる。アバターと違わぬその見た目は実仮共同で販売展開するアパレルブランドのものだろう。
「”課金する”って誤用らしいよ。」
なんてリカはいつもの調子で話しをすり替える。私たちが学業に勤しんでいた頃から一般的に使われ始めていた、今更違和感なんてない言葉だ。広告バリバリの仮想空間は、料金を払えばーーいわゆる課金すればーー広告が外れ純粋な旅行を楽しめる。旅行代理店の営業形態は新プランの仮想旅行をリリースすることにシフトしていた。乗り物を使わずに世界を回れるなどいい時代だ。
「いいとこ、どこか知らない?」
トライアル版で軽く潜ることを薦めると、せっかく正規ツアーを申し込むから初見がいいと私の意見を突っぱねた。試しに今まで行ったところを聞いてみると、なるほどめぼしい場所は既に旅行済みだった。そして最後に小さく言った。
「……それとプラネトラベル」
造語Planetravel、いわゆるプラネタリウムの旅行版。小さく言った彼女の気遣いはありがたく、無下にしてはいけない様に感じた。そしてふと思い出したかの様に努めて明るく聞いてみた。
「あの日さ、私連絡したじゃない?」
もちろん、あの日がどの日のことを言っているのか始めは眉を顰められたが、”宇宙”・”連絡” そして話の流れで理解できたのか表情が晴れる。私がもう気にしていないと思ったのかもしれない。いつものトーンで切り返してきた。
「そうそう。身の振り方が決まったーとか言って、電話してきたよね。」
あれ、電話で伝えたっけ?徐にカバンからスマホを取り出すと彼女とのやりとりを見返す。思慮が浅かったか、ケントとの連絡加えてタイムライン以外は目を通していなかった。懐かしー! と声を上げる彼女と件のやり取りを確認してみる。リカとのスレッド、3/14の内容は通話記号、下に1:02:41。長電話だな。言ったでしょ? と得意げな彼女をよそにタイムラインを開いてみた。
”彼の夢を応援した。ホントは行って欲しくなかったくせにそれは私のわがままだと知っているから止めることさえできなかった。ペンダントを返してもらった。”
先週私が打ち込んだ文章に間違いはない。ただ最後の一文が消されている。まるで初めからなかったかのように。どうかした? と言う彼女に何でもないよと言いつつ、頭の中の整理は追いつかない。記憶を呼び起こす。この頃はお互い中2でリカとは毎日顔を合わす程の付き合いで、気が置けない友人で、私の1番の理解者で。そんな彼女を泣かしてしまった日だ。
2022/03/14。私はケントに呼び出された。当時彼は大学4回生。最後になるかもしれないと言われたのを覚えている。翌日からのアウストラス社での業務、来る日のため最終調整に勉めるとのことだった。この国にいてこの日に別れを告げられるとは、なんて惨めなものだろう。
「そしてケントは私が去年の誕生日に渡したペンダントを突き返してきた。そのあとリカに連絡したんだよね。」
そう話すと彼女は合点がいかない様子だ。
「確かにあのペンダントは渡されたようだけど、突き返されたわけじゃなくバレンタインのお返しだったはずだよ。」
曰く私は終始、彼と会えなくなった事、自分の進退については話したもののペンダントについては伝えたわけではないらしい。そして聞くに耐えず、良心の呵責から彼が旅立つことを知っていたことを告げたと。私は知っていたならどうして早くに教えてくれなかったか問い詰めた。それがあの長電話に繋がって行くわけだ。
「だってそのペンダントが答えじゃん。」
この言葉は覚えている。彼女があの時どうすれば良かったか分からず、泣きじゃくりながら発した言葉。彼がアウストラス社にエンジニアとして入社したことを知らされた。宇宙工学科出でエンジニアとして業務経験もあるとあって重宝されていた。どうやら以前から面識があった様子だ。
「アウストラス社って宇宙移民計画に名乗りを挙げたあの会社?」
そう聞き返えした私に、「当たり前じゃん」と視線を落としながら言ってきたな。万人が知っているその企業は同時に国内屈指のSNSをリリースし、その後進は今でも仮想空間『スーニ』の運用をしている。去年その会社に向かえたのも、ケントの厚意のおかげだった。電話の後、スマホを壁に投げつけたっけ。
私の性格からすると自分で買うわけもなく、貰い物だとひと目で分かった。それを未だに身に着けているとあっては私の未練は言わずもがなだと。カップの中で揺れる液面にそんな当時を思い描く。さすがと言うべきか、彼女は私の機嫌が悪くなると察して、それ以上断定的な言葉を並べず旅行の話へと逸らす。結局ヨーロッパ(仮想)旅行で落ち着いた。
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