重ぬ絵空は日々割れし

SyrinGa㊉

文字の大きさ
上 下
4 / 8

Chunk4 事象と事実と

しおりを挟む
 週も明けて6/12、たまの休日。およそ半年ぶりになるだろうか、リアルでリカとお茶していた。コーヒーに入れたガムシロップを、もう慣れた舌触りの悪い紙製のストローで円を描きながら溶かした。

「結局プラスチックと紙とでどちらがエコなんだろうね。」

 製造から再利用まで総じて考慮しなければならないとあって、未だ解決に至らずじまいだ。同じ効果をもたらす現象とはとどのつまり両辺が拮抗する保存則で成り立っているのかもしれない。
2025年の宇宙ゴミ解決目標や化石燃料の国際的な使用制限も相まって、観光業もだいぶと在り方を変えてきた。グラデさえあれば、かつての観光地どころか海中遊泳だろうが、はたまたどんな時代設定だろうが有料コンテンツ次第でいくらでも設定旅行できる。今は失われたあの建造物も遺跡も世界遺産もデジタルの力で目の前に蘇る。

 私の質問など興味なさそうに彼女は今週末の彼氏とのバーチャル旅行について相談してくる。アバターと違わぬその見た目は実仮共同で販売展開するアパレルブランドのものだろう。

「”課金する”って誤用らしいよ。」

 なんてリカはいつもの調子で話しをすり替える。私たちが学業に勤しんでいた頃から一般的に使われ始めていた、今更違和感なんてない言葉だ。広告バリバリの仮想空間は、料金を払えばーーいわゆる課金すればーー広告が外れ純粋な旅行を楽しめる。旅行代理店の営業形態は新プランの仮想旅行をリリースすることにシフトしていた。乗り物を使わずに世界を回れるなどいい時代だ。

「いいとこ、どこか知らない?」

 トライアル版で軽く潜ることを薦めると、せっかく正規ツアーを申し込むから初見がいいと私の意見を突っぱねた。試しに今まで行ったところを聞いてみると、なるほどめぼしい場所は既に旅行済みだった。そして最後に小さく言った。

「……それとプラネトラベル」

 造語Planetravel、いわゆるプラネタリウムの旅行版。小さく言った彼女の気遣いはありがたく、無下にしてはいけない様に感じた。そしてふと思い出したかの様に努めて明るく聞いてみた。

「あの日さ、私連絡したじゃない?」

 もちろん、あの日がどの日のことを言っているのか始めは眉を顰められたが、”宇宙”・”連絡” そして話の流れで理解できたのか表情が晴れる。私がもう気にしていないと思ったのかもしれない。いつものトーンで切り返してきた。

「そうそう。身の振り方が決まったーとか言って、電話してきたよね。」

 あれ、電話で伝えたっけ?徐にカバンからスマホを取り出すと彼女とのやりとりを見返す。思慮が浅かったか、ケントとの連絡加えてタイムライン以外は目を通していなかった。懐かしー! と声を上げる彼女と件のやり取りを確認してみる。リカとのスレッド、3/14の内容は通話記号、下に1:02:41。長電話だな。言ったでしょ? と得意げな彼女をよそにタイムラインを開いてみた。

”彼の夢を応援した。ホントは行って欲しくなかったくせにそれは私のわがままだと知っているから止めることさえできなかった。ペンダントを返してもらった。”

 先週私が打ち込んだ文章に間違いはない。ただ最後の一文が消されている。まるで初めからなかったかのように。どうかした? と言う彼女に何でもないよと言いつつ、頭の中の整理は追いつかない。記憶を呼び起こす。この頃はお互い中2でリカとは毎日顔を合わす程の付き合いで、気が置けない友人で、私の1番の理解者で。そんな彼女を泣かしてしまった日だ。

 2022/03/14。私はケントに呼び出された。当時彼は大学4回生。最後になるかもしれないと言われたのを覚えている。翌日からのアウストラス社での業務、来る日のため最終調整に勉めるとのことだった。この国にいてこの日に別れを告げられるとは、なんて惨めなものだろう。

「そしてケントは私が去年の誕生日に渡したペンダントを突き返してきた。そのあとリカに連絡したんだよね。」

 そう話すと彼女は合点がいかない様子だ。

「確かにあのペンダントは渡されたようだけど、突き返されたわけじゃなくバレンタインのお返しだったはずだよ。」

 曰く私は終始、彼と会えなくなった事、自分の進退については話したもののペンダントについては伝えたわけではないらしい。そして聞くに耐えず、良心の呵責から彼が旅立つことを知っていたことを告げたと。私は知っていたならどうして早くに教えてくれなかったか問い詰めた。それがあの長電話に繋がって行くわけだ。

「だってそのペンダントが答えじゃん。」

 この言葉は覚えている。彼女があの時どうすれば良かったか分からず、泣きじゃくりながら発した言葉。彼がアウストラス社にエンジニアとして入社したことを知らされた。宇宙工学科出でエンジニアとして業務経験もあるとあって重宝されていた。どうやら以前から面識があった様子だ。

「アウストラス社って宇宙移民計画に名乗りを挙げたあの会社?」

 そう聞き返えした私に、「当たり前じゃん」と視線を落としながら言ってきたな。万人が知っているその企業は同時に国内屈指のSNSをリリースし、その後進は今でも仮想空間『スーニ』の運用をしている。去年その会社に向かえたのも、ケントの厚意のおかげだった。電話の後、スマホを壁に投げつけたっけ。

 私の性格からすると自分で買うわけもなく、貰い物だとひと目で分かった。それを未だに身に着けているとあっては私の未練は言わずもがなだと。カップの中で揺れる液面にそんな当時を思い描く。さすがと言うべきか、彼女は私の機嫌が悪くなると察して、それ以上断定的な言葉を並べず旅行の話へと逸らす。結局ヨーロッパ(仮想)旅行で落ち着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

悪辣な推論

てるぼい
SF
男は宇宙の船外調査の折に同僚に突き落とされ、宇宙空間を独りで漂流していた。残り少ない命の中、彼は過去を振り返る。なぜこんな状況に至ったのか。 この絶望的な状況で彼の運命は一体どこに行きつくのだろうか・・・。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

新星間戦記CIVILIZATION

りゅうじんまんさま
SF
西暦2048年。大崩壊というかつてない戦争と大災害により人類の大半が失われることとなった。 そして、の大崩壊から3000年以上の月日が流れた時代・・・。 再び繁栄を極めた人類は繰り返される歴史の運命に翻弄されることとなる。 「第一次星間大戦」である。 その人類初となる星間大戦で多くのものを失った少年がいた。 彼の名はジェス・ディーン。 彼を含めた人類皆が沢山のものを失い、傷つきながらその戦争はようやく終結することとなる。 そして、終戦したその大戦からたった4年・・・。 ようやく訪れた平和を感じる間もなく、再び宇宙は激しい戦いの炎へ巻き込まれていく。 第二次星間大戦の勃発・・・。 いろいろなものを経験し、失いながら大人になった少年は・・・。 片腕と片目を失った幼馴染の操艦士 異星先住民の血を引く砲撃手 数奇な運命で行動を共にする民間人の索敵手 姉との確執を持つ凄腕の整備士 そして百戦錬磨の二足機動兵器小隊長の少女たちとの交友を育みながら、 父の残した人智を超えた性能を持つ機動戦艦を駆って宇宙の戦場を駆け抜ける。 その先にある未来は人類の安寧か、それとも再び訪れる滅びか・・・・。 全宇宙の運命は一人の少年に託されようとしていた・・・。 (本作品は2007年に作者が公開した同タイトルのシミレーションゲームのシナリオを小説化したものです。設定など一部原作と異なります。) *小説家になろうにも投稿しております。

異能テスト 〜誰が為に異能は在る〜

吉宗
SF
クールで知的美人だが、無口で無愛想な国家公務員・牧野桐子は通称『異能係』の主任。 そんな彼女には、誰にも言えない秘密があり── 国家が『異能者』を管理しようとする世界で、それに抗う『異能者』たちの群像劇です。

電脳理想郷からの脱出

さわな
SF
 かつてメタバースと呼ばれた仮想空間がリアルワールドとなった西暦2923年の地球。人類はエルクラウドと呼ばれる電脳空間にすべての社会活動を移していた。肉体が存在する現実世界と精神が存在する電脳空間のふたつの世界に疑問を持っていたアイコは、秘密を知る人物、ヒデオに出会う。  理想郷と呼ばれた電脳空間からの脱出劇が始まる……! この作品は以下のサイトにも掲載しています。 *小説家になろう *note(別名義)

ブルースカイ

ハコニワ
SF
※この作品はフィクションです。 「ねぇ、もし、この瞬間わたしが消えたら、どうする?」 全ては、この言葉から始まった――。 言葉通り消えた幼馴染、現れた謎の生命体。生命体を躊躇なく刺す未来人。 事の発端はどこへやら。未来人に勧誘され、地球を救うために秘密結社に入った僕。 次第に、事態は宇宙戦争へと発展したのだ。 全てが一つになったとき、種族を超えた絆が生まれる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...