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第二話 大精霊の祝福を受けた髪飾り
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「……その髪飾りは母の実家ラブレー大公家に代々伝わるものです。風、炎、大地、水の四柱の大精霊様が花のひとつひとつに祝福を与えてくださっていて、我が家の女性はそのお礼に真実の愛を捧げて参りました。夫を愛する心と夫に愛される心が大精霊様方に力を与え、その髪飾りを光らせていたのです」
父であるドゥモン王国の王が、産後の肥立ちが悪かった王妃が寝込んでいた間に側妃を迎え入れたことで髪飾りは光を失いました。
ラブレー大公である伯父様は、ドゥモン王国を安定させるために母を父に嫁がせたことをずっと後悔していて、私の結婚については便宜を図ってくださいました。
若いころから病弱で早逝なさったロドルフ陛下の父君と親友だったこともありますが、伯父様が私とロドルフ陛下の結婚を進めてくださったのは、陛下が私の初恋の方だったからです。
母の死後、いいえ母の生前からドゥモンの王宮で我が物顔に振る舞っていた側妃とその子ども達に冷遇されていた私を救うためでもあったのでしょう。
「慌てて作った? その髪飾りが昨日今日作ったように見えたのですか? 少なくとも三百年はラブレー大公家に伝わっていたものですよ」
前のとき死んで霊としてさ迷っていた間に、私はデスティネ様の欺瞞を知りました。
彼女は白い花がみっつ並んだ髪飾りをつけて、十年前に陛下と出会った少女を騙っていたのです。
私の髪飾りを見せて真実をお伝えすることで陛下のお心を得られるだなんて期待してはいませんでした。
人の心は自分自身でも自由にはなりません。
無理に変えようとしても不可能なのです。私が前のとき陛下を諦められなかったように。
まして陛下がデスティネ様を愛していらっしゃるのは、過去の記憶だけが原因ではないのでしょうから。
『私がお守りします。ずっとずっと、ロドルフ様のことを愛します』
幼い私がそう約束したとき、父の不貞で光を失った髪飾りの白い花が輝いていたと悪魔が教えてくれました。あのとき悪魔もいたのでしょうか?
だけど髪飾りが砕けた以上その約束も無効になるでしょう。
悪魔にこの身を捧げる前に大精霊様方から罰を受けるかもしれませんね、愛するべきではない方を愛した罪で。
ただ昔の話がしたかっただけなのです。
ロドルフ陛下の愛がもうデスティネ様のものでも、私は陛下を愛しているとお伝えしたかっただけなのです。
そして未来の崩壊からこのデュピュイ王国を救いたかったのです。……陛下のために。
自分が砕いた髪飾りを狼狽えた表情で見つめ出した陛下に、私は告げました。
「ご安心ください、大精霊様方の罰を受けるとしたら私だけですわ。だって陛下は私との結婚を望んでいらっしゃらなかったのですものね。……私は十年前から、陛下と結ばれる日を待ち望んでいたのですけれど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
デュピュイ王国王宮の大広間で催された翌日の夜会の顔触れは、見事なまでにヴィダル侯爵の派閥の人間ばかりでした。
前のときは、いいえ、死んだ後で霊としてさ迷うまでは派閥のこともよくわかっていませんでしたっけ。
私はお飾りの王妃でしたから。
大事なことはすべてロドルフ陛下の最愛リッシュ伯爵令嬢のデスティネ様が決めていました。
厳密にいえば彼女の父親であるリッシュ伯爵とその寄り親貴族であるヴィダル侯爵が。
父であるドゥモン王国の王が、産後の肥立ちが悪かった王妃が寝込んでいた間に側妃を迎え入れたことで髪飾りは光を失いました。
ラブレー大公である伯父様は、ドゥモン王国を安定させるために母を父に嫁がせたことをずっと後悔していて、私の結婚については便宜を図ってくださいました。
若いころから病弱で早逝なさったロドルフ陛下の父君と親友だったこともありますが、伯父様が私とロドルフ陛下の結婚を進めてくださったのは、陛下が私の初恋の方だったからです。
母の死後、いいえ母の生前からドゥモンの王宮で我が物顔に振る舞っていた側妃とその子ども達に冷遇されていた私を救うためでもあったのでしょう。
「慌てて作った? その髪飾りが昨日今日作ったように見えたのですか? 少なくとも三百年はラブレー大公家に伝わっていたものですよ」
前のとき死んで霊としてさ迷っていた間に、私はデスティネ様の欺瞞を知りました。
彼女は白い花がみっつ並んだ髪飾りをつけて、十年前に陛下と出会った少女を騙っていたのです。
私の髪飾りを見せて真実をお伝えすることで陛下のお心を得られるだなんて期待してはいませんでした。
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無理に変えようとしても不可能なのです。私が前のとき陛下を諦められなかったように。
まして陛下がデスティネ様を愛していらっしゃるのは、過去の記憶だけが原因ではないのでしょうから。
『私がお守りします。ずっとずっと、ロドルフ様のことを愛します』
幼い私がそう約束したとき、父の不貞で光を失った髪飾りの白い花が輝いていたと悪魔が教えてくれました。あのとき悪魔もいたのでしょうか?
だけど髪飾りが砕けた以上その約束も無効になるでしょう。
悪魔にこの身を捧げる前に大精霊様方から罰を受けるかもしれませんね、愛するべきではない方を愛した罪で。
ただ昔の話がしたかっただけなのです。
ロドルフ陛下の愛がもうデスティネ様のものでも、私は陛下を愛しているとお伝えしたかっただけなのです。
そして未来の崩壊からこのデュピュイ王国を救いたかったのです。……陛下のために。
自分が砕いた髪飾りを狼狽えた表情で見つめ出した陛下に、私は告げました。
「ご安心ください、大精霊様方の罰を受けるとしたら私だけですわ。だって陛下は私との結婚を望んでいらっしゃらなかったのですものね。……私は十年前から、陛下と結ばれる日を待ち望んでいたのですけれど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
デュピュイ王国王宮の大広間で催された翌日の夜会の顔触れは、見事なまでにヴィダル侯爵の派閥の人間ばかりでした。
前のときは、いいえ、死んだ後で霊としてさ迷うまでは派閥のこともよくわかっていませんでしたっけ。
私はお飾りの王妃でしたから。
大事なことはすべてロドルフ陛下の最愛リッシュ伯爵令嬢のデスティネ様が決めていました。
厳密にいえば彼女の父親であるリッシュ伯爵とその寄り親貴族であるヴィダル侯爵が。
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