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第四話 霊だったときに知ったことです。
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「楔です。私がこのデュピュイ王国でも冷遇されるであろうことを知った上で、アザール公爵は楔を打ったのです。私が死んだとき、不幸にするくらいなら自分に譲れば良かったのに、と言いがかりをつけるために」
私は幼いころからロドルフ陛下の婚約者でした。
国と国との約束です。
途中から割り込んで思い通りになるだなんて、帝国もアザール公爵も思っていなかったでしょう。でもあそこで声を上げていたから、帝国は私の死後にこの国へと攻め込む理由を得たのです。大義名分とはとても言えない理由ですが、ないよりはマシです。
ずっと私を愛してくださっていたラブレー大公家の皆様も帝国に賛同し、デュピュイ王国は私が霊として留まっていた数ヶ月の間に滅び去りました。
先ほど私が言った通り、ここはちっぽけな王国です。
大した資源はなく、穀倉地帯のヴィダル侯爵領もここ数年は不作続き。でもそれは……これから皆様に教えて差し上げましょう。彼らが知っていて、口を噤んでいただけだということも私は知っているのですけれどね。
「もちろん帝国がこのちっぽけな王国を欲しがるだなんて思っていらっしゃらないでしょう? アザール公爵は復讐なさりたいのですわ。領地が隣接していることを利用して、ヴィダル侯爵がアザール公爵領へ魔獣を誘導して人工的な大暴走を造り出していたことへの」
「……ふ、ふざけるな! 昨夜嫁いで来たばかりの冷遇王女の言うことなどロドルフ陛下が信じるわけないだろう!」
「ええ、べつに陛下に信じていただく必要はございませんわ。だけどヴィダル侯爵一派の皆様はご存じでしょう? 同じことをリッシュ伯爵が我が伯父ラブレー大公の領地に対してもおこなっていたことを。荒れ果てた町や村から火事場泥棒をして集めた金目のものを口止め料に渡されて、陛下の耳には入らないように仲良く協力していらしたのだから」
「い、今はやっていないっ!」
「お父様っ!」
リッシュ伯爵の失言に、デスティネ様が裏返った声で悲鳴を上げています。
前のときには気づきませんでしたけれど、この夜会から彼女はみっつの白い花が並んだ髪飾りをつけていらしたのですね。
それが陛下を騙すためのものだったなんて、愚かな私は霊になるまでわかっていませんでしたわ。後で彼女の髪飾りに気づいたときは、陛下が私との初恋の想い出を重ねて彼女に贈ったものだと思っていました。
「そうですわね。どんなにデスティネ様が魅力的でも、陛下に帝国やラブレー大公から届く苦情を隠し続けることには限界がありますものね。だから今は人身売買に切り替えたのでしょう?」
ひゅっ、とヴィダル侯爵一派が喉を鳴らしました。
このデュピュイ王国だけでなく、この大陸全土で人身売買は禁止されています。
奴隷を使っているのは南の山岳地帯に住む異教の民だけです。
素晴らしい細工技術を持つ彼らの作った金属製品は高値で売れますし、付き合い自体も禁止されてはいません。
ですが自領の民を奴隷として彼らに売っていたと知られたら、どれだけ他国に軽蔑されることでしょう。
国交を断絶されるかもしれません。
「魔獣を誘導するときの囮として農村から徴集した、若い男性達の残された家族を売っているのですよね?」
私は幼いころからロドルフ陛下の婚約者でした。
国と国との約束です。
途中から割り込んで思い通りになるだなんて、帝国もアザール公爵も思っていなかったでしょう。でもあそこで声を上げていたから、帝国は私の死後にこの国へと攻め込む理由を得たのです。大義名分とはとても言えない理由ですが、ないよりはマシです。
ずっと私を愛してくださっていたラブレー大公家の皆様も帝国に賛同し、デュピュイ王国は私が霊として留まっていた数ヶ月の間に滅び去りました。
先ほど私が言った通り、ここはちっぽけな王国です。
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「……ふ、ふざけるな! 昨夜嫁いで来たばかりの冷遇王女の言うことなどロドルフ陛下が信じるわけないだろう!」
「ええ、べつに陛下に信じていただく必要はございませんわ。だけどヴィダル侯爵一派の皆様はご存じでしょう? 同じことをリッシュ伯爵が我が伯父ラブレー大公の領地に対してもおこなっていたことを。荒れ果てた町や村から火事場泥棒をして集めた金目のものを口止め料に渡されて、陛下の耳には入らないように仲良く協力していらしたのだから」
「い、今はやっていないっ!」
「お父様っ!」
リッシュ伯爵の失言に、デスティネ様が裏返った声で悲鳴を上げています。
前のときには気づきませんでしたけれど、この夜会から彼女はみっつの白い花が並んだ髪飾りをつけていらしたのですね。
それが陛下を騙すためのものだったなんて、愚かな私は霊になるまでわかっていませんでしたわ。後で彼女の髪飾りに気づいたときは、陛下が私との初恋の想い出を重ねて彼女に贈ったものだと思っていました。
「そうですわね。どんなにデスティネ様が魅力的でも、陛下に帝国やラブレー大公から届く苦情を隠し続けることには限界がありますものね。だから今は人身売買に切り替えたのでしょう?」
ひゅっ、とヴィダル侯爵一派が喉を鳴らしました。
このデュピュイ王国だけでなく、この大陸全土で人身売買は禁止されています。
奴隷を使っているのは南の山岳地帯に住む異教の民だけです。
素晴らしい細工技術を持つ彼らの作った金属製品は高値で売れますし、付き合い自体も禁止されてはいません。
ですが自領の民を奴隷として彼らに売っていたと知られたら、どれだけ他国に軽蔑されることでしょう。
国交を断絶されるかもしれません。
「魔獣を誘導するときの囮として農村から徴集した、若い男性達の残された家族を売っているのですよね?」
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