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第二話 ヴィークからの頼み
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ヴィーク様が溜息をついて、仕方がないか、と呟きます。
「隣のクズネツォフ侯爵領がエゴロフ伯爵家の支援と指導を受けて立ち直ってくれたら、うちも楽だったんだけど……ああ、いや、すまない。リュドミーラ嬢の幸せが一番だ、うん」
「国境近くの侯爵領はどこも隣国との激しい流出入の管理で大変ですものね」
「ミハイロフ侯爵家は隣国の大公家とつながりが深いから、まだマシよ。向こうのほうでも少しは制御してくれるもの」
人や物の流出入の多い地域は、良いものも悪いものもたくさん入って来ます。
良いものであってもそれが永遠に入ってくるとは限りません。
なにが入ってくるか出て行くかわからないからこそ、流出入の利益に頼るだけでなくその土地独自のなにかが必要になるのです。
ミハイロフ侯爵家は、隣国の大公家にヴィーク様の伯母様に当たる方を嫁がせた縁があり、ある程度両国の流出入を制御できる立場でした。
ですが隣のクズネツォフ侯爵家が王家に服従することのみに価値を置き、領地を顧みない家だったため、せっかくの利点を活かしきれずにいるのです。
そういえば、先日短期留学を終えて戻られた隣国子爵家のイヴァン様はヴィーク様の幼馴染だというお話でしたね。国境近くに領地のあるミハイロフ侯爵家のヴィーク様はきっと、両国の関係をだれよりも深く考えなくてはいけない立場にあるのでしょう。
「まったく頭が痛いよ。ごめんね、ポリーナ。君には苦労ばかりかけるのに、俺が与えられるのは愛だけなんだ」
「構わなくてよ。だってそれが一番得難いものだもの。っと、目の前でごめんなさいね、リュドミーラ。これではあの莫迦達のことを言えないわ」
「いいえ。おふたりは婚約者同士ですもの。それに仲の良いおふたりを見ていたら、私もこれからに希望が持てるような気がします。……きっと、私は最初から間違えていたのです」
ボリス様は、ギリオチーナ王女殿下の婚約者候補でした。
王女殿下護衛の騎士“白薔薇”レナート様とギリオチーナ殿下は大変仲が良く、恋人同士なのではないかと噂が流れたこともあるくらいなのですけれど、レナート様はとある男爵家の庶子で跡取りでもないので王女殿下の結婚相手としては不釣り合いだったのです。
王女殿下は臣下であるボリス様との婚約を厭っていましたが、王家の血を引くいくつかの公爵家には同じ年ごろの男性はいらっしゃいませんでした。ですので王女殿下は──
「……リュドミーラ嬢」
「なんでしょうか、ヴィーク様」
「こんなときにこういうことを言うのもなんだけど、ボリスと婚約を解消するのならイヴァンにも伝えてやってくれないかな。……君のことをとても心配してたんだ」
「イヴァン様には婚約者はいらっしゃらないのでしょうか? 季節の挨拶程度ならまだしも、そんな私的なことを書いた手紙を送ったりしたら誤解されるのではないですか? 私は……悲しむ方が増えるのは嫌です」
「あー……実はイヴァンも婚約者の浮気に苦しんでいてね。ヤツがどうすべきかのひとつの例として、君のことを伝えてやって欲しいんだ」
「そういうことでしたら……」
「隣のクズネツォフ侯爵領がエゴロフ伯爵家の支援と指導を受けて立ち直ってくれたら、うちも楽だったんだけど……ああ、いや、すまない。リュドミーラ嬢の幸せが一番だ、うん」
「国境近くの侯爵領はどこも隣国との激しい流出入の管理で大変ですものね」
「ミハイロフ侯爵家は隣国の大公家とつながりが深いから、まだマシよ。向こうのほうでも少しは制御してくれるもの」
人や物の流出入の多い地域は、良いものも悪いものもたくさん入って来ます。
良いものであってもそれが永遠に入ってくるとは限りません。
なにが入ってくるか出て行くかわからないからこそ、流出入の利益に頼るだけでなくその土地独自のなにかが必要になるのです。
ミハイロフ侯爵家は、隣国の大公家にヴィーク様の伯母様に当たる方を嫁がせた縁があり、ある程度両国の流出入を制御できる立場でした。
ですが隣のクズネツォフ侯爵家が王家に服従することのみに価値を置き、領地を顧みない家だったため、せっかくの利点を活かしきれずにいるのです。
そういえば、先日短期留学を終えて戻られた隣国子爵家のイヴァン様はヴィーク様の幼馴染だというお話でしたね。国境近くに領地のあるミハイロフ侯爵家のヴィーク様はきっと、両国の関係をだれよりも深く考えなくてはいけない立場にあるのでしょう。
「まったく頭が痛いよ。ごめんね、ポリーナ。君には苦労ばかりかけるのに、俺が与えられるのは愛だけなんだ」
「構わなくてよ。だってそれが一番得難いものだもの。っと、目の前でごめんなさいね、リュドミーラ。これではあの莫迦達のことを言えないわ」
「いいえ。おふたりは婚約者同士ですもの。それに仲の良いおふたりを見ていたら、私もこれからに希望が持てるような気がします。……きっと、私は最初から間違えていたのです」
ボリス様は、ギリオチーナ王女殿下の婚約者候補でした。
王女殿下護衛の騎士“白薔薇”レナート様とギリオチーナ殿下は大変仲が良く、恋人同士なのではないかと噂が流れたこともあるくらいなのですけれど、レナート様はとある男爵家の庶子で跡取りでもないので王女殿下の結婚相手としては不釣り合いだったのです。
王女殿下は臣下であるボリス様との婚約を厭っていましたが、王家の血を引くいくつかの公爵家には同じ年ごろの男性はいらっしゃいませんでした。ですので王女殿下は──
「……リュドミーラ嬢」
「なんでしょうか、ヴィーク様」
「こんなときにこういうことを言うのもなんだけど、ボリスと婚約を解消するのならイヴァンにも伝えてやってくれないかな。……君のことをとても心配してたんだ」
「イヴァン様には婚約者はいらっしゃらないのでしょうか? 季節の挨拶程度ならまだしも、そんな私的なことを書いた手紙を送ったりしたら誤解されるのではないですか? 私は……悲しむ方が増えるのは嫌です」
「あー……実はイヴァンも婚約者の浮気に苦しんでいてね。ヤツがどうすべきかのひとつの例として、君のことを伝えてやって欲しいんだ」
「そういうことでしたら……」
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