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20・罠
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「……それは罠じゃないかしら」
──昼休み。
九原くんのいない教室で、昨日からのことを話すとちーちゃんに言われた。
焼きそばパンを飲み込んだモヨちゃんが、首を傾げる。
「罠?」
「ええ。以前、恋愛のマニュアル本で読んだことがあるわ」
前髪に隠れたメガネの位置を直して、ちーちゃんは言葉を続ける。
「相手の答えを求めないことで、ずっと自分について考えさせるというテクニックよ」
「千冬、恋愛マニュアル本とか読むんだー」
意外そうなモヨちゃんの言葉に、わたしも同感だった。
そういうことには興味がないんだと思ってた。
ちーちゃんが微笑む。
「よく読むわよ。といっても恋愛のためではなく、ファンの心を引きつける方法を探るためだけど」
なるほど。
そういえばちーちゃんはネットアイドルだった。
歌やダンスを頑張っているのはもちろんだし、ファンへの対応も頑張っている。
ちょっと引いちゃうようなコメントにも感情的にならず、小粋でオシャレな言葉を返すことで、さらにファンを増やしているようだ。
長い黒髪をサラリと揺らして、ちーちゃんが呟くように言う。
「……罠だとしたら、次はいきなり距離を取って来るかも」
「え?」
「九原くんが十花さんから離れるということ」
「隣の席だから無理じゃない?」
「うん……それに」
今日ももう、送っていってくれると約束されている。
なんだか照れくさかったので、わたしはモヨちゃんの『隣の席』発言に頷いた後は、思った言葉を飲み込んだ。
お礼のお弁当……なににしようかな。同じおかずのお弁当でいいよね?
渡すときにさえ気をつければ、九原くんは理事長室で食べるんだから、だれにも気づかれないと思うし。
なんて考えていたら、ちーちゃんの瞳にわたしが映っていた。
彼女が不思議そうに問いかけてくる。
「それに?」
「う、ううん。なんでもない」
「そう? でも百代子さんの言う通り隣の席だと離れられないわね。……告白で気持ちをかき乱した後、返事も求めず距離を置くことで十花さんを不安にさせて完全に心を奪うという二段重ねの罠かと思ったのだけど」
「恋の駆け引きってヤツか。十花も大変な相手に見初められちゃったね」
「見初められた、か。……ふふ」
「なぁに、ちーちゃん?」
「鬼に見初められたお姫さまの昔話を思い出したの」
「九原は鬼じゃなくてお姫さまのほうじゃん。というか……」
モヨちゃんが、心配そうにわたしを見つめる。
「モヨちゃん?」
「……いや、さ、鬼なら退治すればいいけど、お姫さまの子孫のお殿さまは退治できないから」
「そうね。昨日も言ったけど、私たちは十花さんの味方だから。困ったことがあったらいつでも相談してね」
「う、うん。ありがとう」
「もし十花が九原とつき合うことになって、家に遊びに行くようなことがあったら、ウチらがボディガードとしてついてってあげるし!」
ぽこん。
突然溜息をついて、ちーちゃんが手の甲でモヨちゃんを叩いた。
モヨちゃんは唇を尖らせて、叩かれた部分を両手で覆う。
「ちーちゃん! いきなりどうしたの?」
「……十花さん。百代子さんのお目当ては、九原家に収められているという鬼の遺物よ」
「え?」
「てへへ、バレたか」
イタズラな笑みを浮かべるモヨちゃんを見て、わたしもさっきのちーちゃんのように溜息をつかずにはいられなかった。
まあ友達だし、心配してくれてるというのも嘘ではないと思いたい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
おしゃべりしている間に昼休みが終わり、九原くんが隣の席に戻ってきた。
椅子に座った横顔は、なぜか眉間に皺を寄せている。
もしかして両角理事長が用意してくれているという昼食に、苦手なものでも入っていたのかな。
「……九原くん」
「ん?」
「九原くんて、その……嫌いな食べ物ってある?」
明日お弁当を作ってくるのなら、絶対チェックしておかなくてはいけないことだ。
うん。べつに彼のことを知りたくてたまらないわけじゃない。
罠になんか引っかかってないもの。
「特にないな。……晴田、ゴメン」
「急にどうしたの?」
「約束してたけど、ちょっと事情があって……今日は晴田のこと送っていけないんだ」
「そ、そうなんだ……」
「……ホントにゴメンな?」
わ、罠? これがちーちゃんの言っていた、距離を置いて不安にさせる罠?
少し上目遣いに見つめてくるのも罠の一部なのかもしれない!
──昼休み。
九原くんのいない教室で、昨日からのことを話すとちーちゃんに言われた。
焼きそばパンを飲み込んだモヨちゃんが、首を傾げる。
「罠?」
「ええ。以前、恋愛のマニュアル本で読んだことがあるわ」
前髪に隠れたメガネの位置を直して、ちーちゃんは言葉を続ける。
「相手の答えを求めないことで、ずっと自分について考えさせるというテクニックよ」
「千冬、恋愛マニュアル本とか読むんだー」
意外そうなモヨちゃんの言葉に、わたしも同感だった。
そういうことには興味がないんだと思ってた。
ちーちゃんが微笑む。
「よく読むわよ。といっても恋愛のためではなく、ファンの心を引きつける方法を探るためだけど」
なるほど。
そういえばちーちゃんはネットアイドルだった。
歌やダンスを頑張っているのはもちろんだし、ファンへの対応も頑張っている。
ちょっと引いちゃうようなコメントにも感情的にならず、小粋でオシャレな言葉を返すことで、さらにファンを増やしているようだ。
長い黒髪をサラリと揺らして、ちーちゃんが呟くように言う。
「……罠だとしたら、次はいきなり距離を取って来るかも」
「え?」
「九原くんが十花さんから離れるということ」
「隣の席だから無理じゃない?」
「うん……それに」
今日ももう、送っていってくれると約束されている。
なんだか照れくさかったので、わたしはモヨちゃんの『隣の席』発言に頷いた後は、思った言葉を飲み込んだ。
お礼のお弁当……なににしようかな。同じおかずのお弁当でいいよね?
渡すときにさえ気をつければ、九原くんは理事長室で食べるんだから、だれにも気づかれないと思うし。
なんて考えていたら、ちーちゃんの瞳にわたしが映っていた。
彼女が不思議そうに問いかけてくる。
「それに?」
「う、ううん。なんでもない」
「そう? でも百代子さんの言う通り隣の席だと離れられないわね。……告白で気持ちをかき乱した後、返事も求めず距離を置くことで十花さんを不安にさせて完全に心を奪うという二段重ねの罠かと思ったのだけど」
「恋の駆け引きってヤツか。十花も大変な相手に見初められちゃったね」
「見初められた、か。……ふふ」
「なぁに、ちーちゃん?」
「鬼に見初められたお姫さまの昔話を思い出したの」
「九原は鬼じゃなくてお姫さまのほうじゃん。というか……」
モヨちゃんが、心配そうにわたしを見つめる。
「モヨちゃん?」
「……いや、さ、鬼なら退治すればいいけど、お姫さまの子孫のお殿さまは退治できないから」
「そうね。昨日も言ったけど、私たちは十花さんの味方だから。困ったことがあったらいつでも相談してね」
「う、うん。ありがとう」
「もし十花が九原とつき合うことになって、家に遊びに行くようなことがあったら、ウチらがボディガードとしてついてってあげるし!」
ぽこん。
突然溜息をついて、ちーちゃんが手の甲でモヨちゃんを叩いた。
モヨちゃんは唇を尖らせて、叩かれた部分を両手で覆う。
「ちーちゃん! いきなりどうしたの?」
「……十花さん。百代子さんのお目当ては、九原家に収められているという鬼の遺物よ」
「え?」
「てへへ、バレたか」
イタズラな笑みを浮かべるモヨちゃんを見て、わたしもさっきのちーちゃんのように溜息をつかずにはいられなかった。
まあ友達だし、心配してくれてるというのも嘘ではないと思いたい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
おしゃべりしている間に昼休みが終わり、九原くんが隣の席に戻ってきた。
椅子に座った横顔は、なぜか眉間に皺を寄せている。
もしかして両角理事長が用意してくれているという昼食に、苦手なものでも入っていたのかな。
「……九原くん」
「ん?」
「九原くんて、その……嫌いな食べ物ってある?」
明日お弁当を作ってくるのなら、絶対チェックしておかなくてはいけないことだ。
うん。べつに彼のことを知りたくてたまらないわけじゃない。
罠になんか引っかかってないもの。
「特にないな。……晴田、ゴメン」
「急にどうしたの?」
「約束してたけど、ちょっと事情があって……今日は晴田のこと送っていけないんだ」
「そ、そうなんだ……」
「……ホントにゴメンな?」
わ、罠? これがちーちゃんの言っていた、距離を置いて不安にさせる罠?
少し上目遣いに見つめてくるのも罠の一部なのかもしれない!
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