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第五話 パトリツィオの疑問
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「……スザンナ嬢」
しばらくサーラ様の惚気を聞いていたら、パトリツィオ様が再び私の名前をお呼びになりました。
「は、はい?」
低く掠れた声と柔らかくなる表情に、また心臓の動悸が速くなります。
「先ほど貴女の婚約がなくなったことを確認したのは、少し尋ねたいことがあったからなんだ。今、聞かせてもらっても良いだろうか」
「はい、もちろんです。解毒剤の話を始めてしまって申し訳ありませんでした」
「かまわないよ。それも大切なことだからね。それで尋ねたいことなんだが……」
パトリツィオ様が言葉を続ける前に、サーラ様がイタズラな笑みを浮かべておっしゃいました。
「お兄様ったらスザンナに求婚するの?」
「……サーラ。ふざけてばかりいるとクリスティアンに言いつけるよ?」
サーラ様は可愛らしく頬を膨らませて、お兄様ったら卑怯だわ、と呟きながらコスタ侯爵家のメイドが追加してくれたお茶菓子を啄み始めました。
パトリツィオ様の瞳が私を映します。
「以前サーラに聞いたし、貴女の婚約について確認したときにもサーラが言っていたけれど、貴女は婚約者に殺人犯だと疑われているのかい? 彼は死んでいないから、殺人犯ではなくて殺人未遂犯になるのかもしれないが」
「……」
「お兄様……」
そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったので、私は言葉を失ってしまいました。
サーラ様が呆れたような顔をして、パトリツィオ様を見つめます。
パトリツィオ様が悪意を持ってお尋ねになってないことはわかります。本当に疑問に思われただけなのでしょう。
それに、義憤に駆られたサーラ様がいつもお話していただろうことも想像できます。
さっきもおっしゃっていましたしね。
私は答えました。
「……はい。お怪我をなさる前のカストロ様は、私と政略結婚をして真実の愛のお相手のデモネさんを囲いたいとおっしゃっていました。でも階段から落ちたときから、私に突き落とされたのだと言い出して……先日婚約破棄をされたのです」
「デモネというのは下町の酒場で働く女性だそうだね。スザンナ嬢はご両親には相談しなかったのかい?」
「カストロ様の真実の愛のお相手だというデモネさんのことを知ったときは、なにも……結婚はしてくださるとおっしゃってましたし、その、結婚までにお気持ちが変わるかもしれないと思っていたので」
「ブルーノ伯爵家の次男が階段から落ちたとき、衆目の前で騒ぎ立てたからスザンナのご両親やブルーノ伯爵家の人間の耳にも入っちゃったのよね」
サーラ様に補足されて、私は頷きました。
「階段のときのことだけでなく、婚約破棄の際にはお見舞いとして贈った花束に蜂が入っていたとも言われました」
パトリツィオ様が眉を顰めました。
「私に解毒剤を頼むほど彼を心配しているスザンナ嬢が、そんなことをするはずがないのに」
「カストロ様は騎士を目指していらっしゃいますから、ふたつも年下の私に心配されて、あれこれ口出しされること自体がお嫌だったのでしょう」
「しかし……」
パトリツィオ様が顎を捻ります。
しばらくサーラ様の惚気を聞いていたら、パトリツィオ様が再び私の名前をお呼びになりました。
「は、はい?」
低く掠れた声と柔らかくなる表情に、また心臓の動悸が速くなります。
「先ほど貴女の婚約がなくなったことを確認したのは、少し尋ねたいことがあったからなんだ。今、聞かせてもらっても良いだろうか」
「はい、もちろんです。解毒剤の話を始めてしまって申し訳ありませんでした」
「かまわないよ。それも大切なことだからね。それで尋ねたいことなんだが……」
パトリツィオ様が言葉を続ける前に、サーラ様がイタズラな笑みを浮かべておっしゃいました。
「お兄様ったらスザンナに求婚するの?」
「……サーラ。ふざけてばかりいるとクリスティアンに言いつけるよ?」
サーラ様は可愛らしく頬を膨らませて、お兄様ったら卑怯だわ、と呟きながらコスタ侯爵家のメイドが追加してくれたお茶菓子を啄み始めました。
パトリツィオ様の瞳が私を映します。
「以前サーラに聞いたし、貴女の婚約について確認したときにもサーラが言っていたけれど、貴女は婚約者に殺人犯だと疑われているのかい? 彼は死んでいないから、殺人犯ではなくて殺人未遂犯になるのかもしれないが」
「……」
「お兄様……」
そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったので、私は言葉を失ってしまいました。
サーラ様が呆れたような顔をして、パトリツィオ様を見つめます。
パトリツィオ様が悪意を持ってお尋ねになってないことはわかります。本当に疑問に思われただけなのでしょう。
それに、義憤に駆られたサーラ様がいつもお話していただろうことも想像できます。
さっきもおっしゃっていましたしね。
私は答えました。
「……はい。お怪我をなさる前のカストロ様は、私と政略結婚をして真実の愛のお相手のデモネさんを囲いたいとおっしゃっていました。でも階段から落ちたときから、私に突き落とされたのだと言い出して……先日婚約破棄をされたのです」
「デモネというのは下町の酒場で働く女性だそうだね。スザンナ嬢はご両親には相談しなかったのかい?」
「カストロ様の真実の愛のお相手だというデモネさんのことを知ったときは、なにも……結婚はしてくださるとおっしゃってましたし、その、結婚までにお気持ちが変わるかもしれないと思っていたので」
「ブルーノ伯爵家の次男が階段から落ちたとき、衆目の前で騒ぎ立てたからスザンナのご両親やブルーノ伯爵家の人間の耳にも入っちゃったのよね」
サーラ様に補足されて、私は頷きました。
「階段のときのことだけでなく、婚約破棄の際にはお見舞いとして贈った花束に蜂が入っていたとも言われました」
パトリツィオ様が眉を顰めました。
「私に解毒剤を頼むほど彼を心配しているスザンナ嬢が、そんなことをするはずがないのに」
「カストロ様は騎士を目指していらっしゃいますから、ふたつも年下の私に心配されて、あれこれ口出しされること自体がお嫌だったのでしょう」
「しかし……」
パトリツィオ様が顎を捻ります。
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