5 / 15
第五話 運命の恋を諦めない②<一度目の終わりの伯爵令息>
しおりを挟む
イザベルは死んだ。
俺が馬車を襲ったならず者達に苦戦している間に、着ていた服を切り裂かれて自害した。
肌も露わな格好をだれかに目撃されたら、なにもされていなくても醜聞が出回ることを恐れてのことだろう。
学園から男爵邸のある貴族街までは治安の良い地域が続いているので、護衛は俺とイザベルにひとりずつしかいなかった。
十数名いたならず者相手に、御者やイザベルの侍女が戦力になるはずもない。
俺以外はみんな死んだ。俺も足をやられて杖なしでは歩けなくなった。当然騎士爵など望むべくもない。
俺は、イザベルの死後男爵家へ迎え入れられた彼女の異母妹だという娘、プロスティトゥタと婚約することになった。
異母姉のイザベルとも父親の男爵とも似ていない美しい娘だ。
いや、男爵はともかくイザベルは美しかった。美しさの系統が違うだけだ。俺はイザベルの日陰に咲く花のように清楚な美しさが好きだった。
男爵夫人はイザベルの死に心を病んで離れに閉じ籠り、男爵家はプロスティトゥタとその母親の天下となった。
プロスティトゥタの母親だという女も、あまりプロスティトゥタとは似ていない。
俺は、プロスティトゥタに似た人間を知っている。俺とイザベルがならず者に襲われたときに、少し離れたところで見張りをしていた優男だ。役者といっても通りそうな美男子で、プロスティトゥタの母親と同年代だった。
馬車が襲われた場所は、普段ならもっと人通りのあるところだった。
普段──学園に生徒が登校するときと下校する時間帯だ。そのときは学園が警備の人間を配置している。
早退だったから、イザベルが父親の男爵に言われて普段とは違う時間に早退しようとしていたから、あの辺りに人がおらず、すべてがならず者達に都合良く進んだのだ。
男爵はイザベルに早退を促したりしていないと言った。
俺の証言があってもならず者達は捕まっていないし、男爵は積極的に探そうともしていない。
俺はプロスティトゥタとの婚約を受け入れたが、あの女を愛するつもりはなかった。結婚する気もない。俺が欲しかったのはイザベルで、男爵家ではないのだ。
そんな俺の気持ちを感じ取ったのか、プロスティトゥタは翌年学園に入学してくるなり男をくわえ込んだ。
よりにもよってこの国の王太子、マルクス殿下だ。
自分にも殿下にも婚約者がいるというのに、妻子ある男の愛人をやっていた母親のいる娘は少しも気にする様子がない。人目も憚らずにイチャついて醜聞をばら撒いていた。
俺が三年制の学園を卒業して、王太子殿下の婚約者が入学してきた後もプロスティトゥタは変わらなかったようだ。
娘を王太子妃に出来るとでも思ったのか、男爵は俺に婚約解消を申し出てきた。
俺がプロスティトゥタと婚約したのは復讐のためだった。あの女の近くにいても不自然ではない立場で、心を病んだ振りをしていたイザベルの母親と協力して、あの女のことを探っていたのだ。もう必要な情報は手に入れていたので、俺は婚約解消を受け入れた。
──そして、罰を受けるべき人間を罰して、俺はイザベルの後を追った。
俺が馬車を襲ったならず者達に苦戦している間に、着ていた服を切り裂かれて自害した。
肌も露わな格好をだれかに目撃されたら、なにもされていなくても醜聞が出回ることを恐れてのことだろう。
学園から男爵邸のある貴族街までは治安の良い地域が続いているので、護衛は俺とイザベルにひとりずつしかいなかった。
十数名いたならず者相手に、御者やイザベルの侍女が戦力になるはずもない。
俺以外はみんな死んだ。俺も足をやられて杖なしでは歩けなくなった。当然騎士爵など望むべくもない。
俺は、イザベルの死後男爵家へ迎え入れられた彼女の異母妹だという娘、プロスティトゥタと婚約することになった。
異母姉のイザベルとも父親の男爵とも似ていない美しい娘だ。
いや、男爵はともかくイザベルは美しかった。美しさの系統が違うだけだ。俺はイザベルの日陰に咲く花のように清楚な美しさが好きだった。
男爵夫人はイザベルの死に心を病んで離れに閉じ籠り、男爵家はプロスティトゥタとその母親の天下となった。
プロスティトゥタの母親だという女も、あまりプロスティトゥタとは似ていない。
俺は、プロスティトゥタに似た人間を知っている。俺とイザベルがならず者に襲われたときに、少し離れたところで見張りをしていた優男だ。役者といっても通りそうな美男子で、プロスティトゥタの母親と同年代だった。
馬車が襲われた場所は、普段ならもっと人通りのあるところだった。
普段──学園に生徒が登校するときと下校する時間帯だ。そのときは学園が警備の人間を配置している。
早退だったから、イザベルが父親の男爵に言われて普段とは違う時間に早退しようとしていたから、あの辺りに人がおらず、すべてがならず者達に都合良く進んだのだ。
男爵はイザベルに早退を促したりしていないと言った。
俺の証言があってもならず者達は捕まっていないし、男爵は積極的に探そうともしていない。
俺はプロスティトゥタとの婚約を受け入れたが、あの女を愛するつもりはなかった。結婚する気もない。俺が欲しかったのはイザベルで、男爵家ではないのだ。
そんな俺の気持ちを感じ取ったのか、プロスティトゥタは翌年学園に入学してくるなり男をくわえ込んだ。
よりにもよってこの国の王太子、マルクス殿下だ。
自分にも殿下にも婚約者がいるというのに、妻子ある男の愛人をやっていた母親のいる娘は少しも気にする様子がない。人目も憚らずにイチャついて醜聞をばら撒いていた。
俺が三年制の学園を卒業して、王太子殿下の婚約者が入学してきた後もプロスティトゥタは変わらなかったようだ。
娘を王太子妃に出来るとでも思ったのか、男爵は俺に婚約解消を申し出てきた。
俺がプロスティトゥタと婚約したのは復讐のためだった。あの女の近くにいても不自然ではない立場で、心を病んだ振りをしていたイザベルの母親と協力して、あの女のことを探っていたのだ。もう必要な情報は手に入れていたので、俺は婚約解消を受け入れた。
──そして、罰を受けるべき人間を罰して、俺はイザベルの後を追った。
102
お気に入りに追加
2,314
あなたにおすすめの小説
【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
この愛は変わらない
豆狸
恋愛
私はエウジェニオ王太子殿下を愛しています。
この気持ちは永遠に変わりません。
十六歳で入学した学園の十八歳の卒業パーティで婚約を破棄されて、二年経って再構築を望まれた今も変わりません。変わらないはずです。
なろう様でも公開中です。
【完結】身代わり令嬢の華麗なる復讐
仲村 嘉高
恋愛
「お前を愛する事は無い」
婚約者としての初顔合わせで、フェデリーカ・ティツィアーノは開口一番にそう告げられた。
相手は侯爵家令息であり、フェデリーカは伯爵家令嬢である。
この場で異を唱える事など出来ようか。
無言のフェデリーカを見て了承と受け取ったのか、婚約者のスティーグ・ベッラノーヴァは満足気に笑い、立ち去った。
「一応政略結婚だけど、断れない程じゃないのよね」
フェデリーカが首を傾げ、愚かな婚約者を眺める。
「せっかくなので、慰謝料たんまり貰いましょうか」
とてもとても美しい笑みを浮かべた。
だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる