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第二話 密談

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 王太子妃のイロイダ様と私の夫のペリクレス様、そしてロウバニス様は夜会の際に三人だけで休憩室という名の密室に籠もられることがよくあります。
 本来はヤニス王太子殿下も一緒なのですけれど、お忙しい殿下は公務のため席を外すことが多いので、結局三人だけになってしまうようです。
 もちろん不貞などではありません。三人は懐かしい学園時代の思い出話に興じてらっしゃるだけです。王国を騒がせた婚約破棄事件のことも、三人には楽しい記憶のひとつなのでしょう。

「俺に話したいこととはなんだろうか、サヴィナ殿」

 夫はまだシミティス辺境伯家を継いでいないので、私はシミティス辺境伯夫人ではありません。
 ヤニス王太子殿下とは休憩室のテーブルを挟んで座り合っています。
 夜会や舞踏会などで疲れた男女が休むための部屋ですが、だれにも聞かれたくない秘密の会話を交わすのにも向いています。

「本日はお時間をいただきありがとうございます。ご相談したいことというのは、夫の浮気についてです」

 ヤニス王太子殿下が困惑した表情を浮かべます。

「サヴィナ殿。ペリクレスのは前からの……」
「はい。ペリクレス様の女遊びは学園時代からのことです。私もよく存じておりますし、承知の上で嫁ぎました。ですが、これは少し違うのです」
「違う、とは?」

 眉間に皺を寄せるヤニス王太子殿下の後ろに立った、私をこの部屋まで案内してきてくれた女性騎士がもの言いたげな顔をしています。
 殿下も騎士も同じことを考えているのでしょう。
 ヤニス王太子殿下と王太子妃のイロイダ様がご成婚なさる前から囁かれていた──イロイダ様はペリクレス様やロウバニス様とも関係を持っている、という噂です。

 そもそもヤニス王太子殿下には幼いころからの婚約者がいらっしゃいました。
 カンバネリス公爵家のご令嬢カッサンドラ様です。
 お美しくて凛々しくて気品と威厳を併せ持った、王太子妃に、未来の王妃に相応しい女性ひとでした。カンバネリス公爵家は今の王妃様のご実家でもあり、昔からこの王国と王家に多大な貢献をなさっていました。

 そんなカッサンドラ様を冤罪で陥れて国外追放してまで迎えた方なのですから、イロイダ様に対する視線が厳しくなるのは当然のことです。
 学園の卒業パーティでヤニス王太子殿下が婚約破棄をなさるまで、殿下の婚約者はカッサンドラ様でした。
 ヤニス王太子殿下とイロイダ様はずっと不貞の関係だったのです。婚約者のいる男性に擦り寄るような人間なのだから、ほかの男性にも……と周囲が思うのは当然でしょう。

「ペリクレス様は愛人を隠すようなことはなさいません。私の前でも平気で相手の名前を呼んで、贈り物をしたりキスをしたりなさいます。でもこのお相手のことは一言も口に出しません」
「口に出さないのに、どうして浮気しているとわかったんだ?」
「形だけの関係でも夫婦ですもの。それに……」
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