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第一話 公爵令嬢の逡巡
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私、公爵令嬢スサナは婚約者である王太子パブロ殿下をお慕いしておりました。
いいえ、今もお慕いしております。
パブロ殿下のお心が男爵令嬢のエスタトゥア様に移って、この国の貴族子女が通う学園を卒業してすぐに婚約解消された今も、ずっと……
愚かなことだとわかっています。
殿下とエスタトゥア様の間には可愛らしい王子殿下もお生まれになって、おふたりは幸せの絶頂でいらっしゃいますのに。
最初は男爵令嬢ということで王太子妃としてはどうかと危ぶまれていたエスタトゥア様も、殿下を虜になさったお人柄の良さで周囲の方々に支えられてお役目を果たされています。
エスタトゥア様は学園時代から優しく穏やかなお人柄の方として知られていました。
対して私は、見た目や言動だけなら温和そうだけど根は気丈で厳しいと友達にも言われておりました。
公爵家の名前を利用しようとして近付いてくる有象無象を排するためには強くならざるを得なかったのですが……その強さは王太子妃には必要のないものだったようです。
八歳で婚約してからの十年に渡る私の妃教育になど、なんの意味もなかったのです。
そもそも私と殿下の婚約は、お互いの意思とは無縁のものでした。
幼いころから病弱で知られていた国王陛下が、ご自身よりも健康で長生きなさると思われていた王妃殿下を事故で喪って、なんとしてもパブロ殿下の後ろ盾を得なくてはならないと考えての公爵令嬢との婚約に過ぎなかったのでございます。
我が公爵家は裕福なだけでなく、今の王家よりも守護女神様に愛されている正当な血筋だと言われていますもの。
……そんなことは、パブロ殿下とエスタトゥア様の真実の愛の前にはなんの意味もないことでしたけれど。
優秀なパブロ殿下は公爵家の後ろ盾がなくても、病弱な国王陛下に代わって見事に国の舵取りをなさっています。愛するエスタトゥア様とともにあることで、殿下はさらなるお力を得ているのでしょう。
形だけの婚約者に過ぎない私では駄目だったのです。
なのに、なぜ今、パブロ殿下は私に側妃になれ、などとおっしゃって来たのでしょう。
よりによって、私がなんとか心に折り合いをつけて、公爵家のためにも自分のためにも殿下以外の方へ嫁ぐ決意をした今になってです。
エスタトゥア様が王子殿下をお産みになられたのは、たった二ヶ月前のことなのに。
愚かな私は期待してしまうのです。
殿下のお心の片隅に私の存在があったのではないかと。
幼いころから育んできた愛情が残っていたのではないかと。私が結婚すると聞いて、その燻ぶっていた想いが燃え上がったのではないかと。
でも不安なのです。産後のエスタトゥア様と床をともに出来ない間だけの仮初めの側妃なのかもしれないと思ってしまうのです。
婚約解消した公爵令嬢を側妃にすることで、我が公爵家の権威を貶めるつもりなのではないかと疑ってしまうのです。
夢見てざわめく心と冷静に計算する頭が争っています。
「女神様……」
私は公爵領にある神殿へ来ています。
この王国を守護してくださっている女神様ならば、王家の血筋を見守ってくださっている女神様ならば、この王国にも殿下にもより良い未来を指し示していただけるのではないかと思ってのことです。
そして、出来るならば私にとっても良い未来を教えていただけるのではないかと。
私はついてきてくれた侍女と護衛に見守られながら、神殿の女神様の像の前で跪き両手を合わせました。
いいえ、今もお慕いしております。
パブロ殿下のお心が男爵令嬢のエスタトゥア様に移って、この国の貴族子女が通う学園を卒業してすぐに婚約解消された今も、ずっと……
愚かなことだとわかっています。
殿下とエスタトゥア様の間には可愛らしい王子殿下もお生まれになって、おふたりは幸せの絶頂でいらっしゃいますのに。
最初は男爵令嬢ということで王太子妃としてはどうかと危ぶまれていたエスタトゥア様も、殿下を虜になさったお人柄の良さで周囲の方々に支えられてお役目を果たされています。
エスタトゥア様は学園時代から優しく穏やかなお人柄の方として知られていました。
対して私は、見た目や言動だけなら温和そうだけど根は気丈で厳しいと友達にも言われておりました。
公爵家の名前を利用しようとして近付いてくる有象無象を排するためには強くならざるを得なかったのですが……その強さは王太子妃には必要のないものだったようです。
八歳で婚約してからの十年に渡る私の妃教育になど、なんの意味もなかったのです。
そもそも私と殿下の婚約は、お互いの意思とは無縁のものでした。
幼いころから病弱で知られていた国王陛下が、ご自身よりも健康で長生きなさると思われていた王妃殿下を事故で喪って、なんとしてもパブロ殿下の後ろ盾を得なくてはならないと考えての公爵令嬢との婚約に過ぎなかったのでございます。
我が公爵家は裕福なだけでなく、今の王家よりも守護女神様に愛されている正当な血筋だと言われていますもの。
……そんなことは、パブロ殿下とエスタトゥア様の真実の愛の前にはなんの意味もないことでしたけれど。
優秀なパブロ殿下は公爵家の後ろ盾がなくても、病弱な国王陛下に代わって見事に国の舵取りをなさっています。愛するエスタトゥア様とともにあることで、殿下はさらなるお力を得ているのでしょう。
形だけの婚約者に過ぎない私では駄目だったのです。
なのに、なぜ今、パブロ殿下は私に側妃になれ、などとおっしゃって来たのでしょう。
よりによって、私がなんとか心に折り合いをつけて、公爵家のためにも自分のためにも殿下以外の方へ嫁ぐ決意をした今になってです。
エスタトゥア様が王子殿下をお産みになられたのは、たった二ヶ月前のことなのに。
愚かな私は期待してしまうのです。
殿下のお心の片隅に私の存在があったのではないかと。
幼いころから育んできた愛情が残っていたのではないかと。私が結婚すると聞いて、その燻ぶっていた想いが燃え上がったのではないかと。
でも不安なのです。産後のエスタトゥア様と床をともに出来ない間だけの仮初めの側妃なのかもしれないと思ってしまうのです。
婚約解消した公爵令嬢を側妃にすることで、我が公爵家の権威を貶めるつもりなのではないかと疑ってしまうのです。
夢見てざわめく心と冷静に計算する頭が争っています。
「女神様……」
私は公爵領にある神殿へ来ています。
この王国を守護してくださっている女神様ならば、王家の血筋を見守ってくださっている女神様ならば、この王国にも殿下にもより良い未来を指し示していただけるのではないかと思ってのことです。
そして、出来るならば私にとっても良い未来を教えていただけるのではないかと。
私はついてきてくれた侍女と護衛に見守られながら、神殿の女神様の像の前で跪き両手を合わせました。
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