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二匹目!+一羽目
38・モフモフわんこは胸の上(防護ベスト越し)
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「くあああぁぁああっ!」
その巨大なカラスの鳴き声で、一瞬意識を失った気がした。
意識が戻った鷹秋は、目の前にしゃがんでいる晴を抱き上げた。
岸隊長に言われたからではない。彼女のことは命をかけても守りたいのだ。
アーサーとソフィア以外の全員がカラスに背を向けて撤退しようとしていた。出入り口に待機していた別働隊や外の警察官達も意識を取り戻したようだ。
タロ君も晴の腕の中にいる。
鷹秋が足を動かそうとしたとき、
(……お待ちなさい、この世界の人間よ……)
巨大なカラスが頭に語りかけてきた。
思わず足を止める。
海外では所謂オークやゴブリンを思わせる、実際アイテムコアによる『鑑定』ではそう表示される亜人型のモンスターも目撃されているが、会話に成功したという話は聞かない。人間と意思疎通ができる、疎通しようとするモンスターは世界初なのだ。
(いきなり叫んで申し訳ありませんでした。あなた達に話したいことがあるのです。この世界にも映像や音声を記録するものがありますよね。それを出してワタシの言葉をこの世界のほかの人間にも伝えてください)
「……あー、この世界の記録機器はダンジョンでは使えないのだが」
アーサーに視線を送られて、岸隊長がカラスと向き合う。
ここは日本国内にあるダンジョンだ。
軍属経験者のアーサーは、ここで自分が交渉の責任者になっては良くないと判断したのだろう。ソフィアはチラチラとタロ君の様子を窺っている。
(勝手ながら、先ほどの咆哮で眠らせたときにあなた方の魔力を解読させていただきました。完全にとは言えませんが、あなた方の世界のものが使えるようダンジョン内を流れる魔力を調整しております)
「それでは少し確認させていただきたい。……平野!」
使えないとわかっていても、いくつかの機器は常に準備している。
住宅地にできたあのダンジョンのような特例が、いつ出現するかわからないのだから。
平野風太が小型の記録機器を取り出して、動作に問題がないことを告げる。
「本当に記録できるようですな。……その、私はこの集団の責任者でありますが、この国や世界に対しての決定権は持たないのです。あなたの……」
(ワタシはサ……コホン、フギンです)
オタクな親友、風太に聞いたことがある、と鷹秋は思った。
フギンとは北欧神話に出てくるカラスの名前だ。『思考』という意味がある言葉だったろうか。
以前このダンジョンを調査したときに対峙したモンスターのラタトスクも北欧神話と同じ名前を持つモンスターだった。
「フギン殿の話をお聞きしても、なんの約束もできないのですがよろしいでしょうか」
(構いません。伝えることが大事なのです。まずは……)
最初にフギンは、五年前突然できたダンジョンが異世界のものの複製なのだと語った。
それをおこなったのはダンジョンマザーツリー。世界の狭間に存在する樹木だ。
ダンジョンマザーツリーの目的はフギンにもわからないという。
次にフギンは、ダンジョンイーターについて語る。
どうやらこれが一番話したかったことのようだ。
酸を吐くスライムは人間の味を覚えて狂暴化したのではなく、逆に弱ってダンジョンイーターに寄生されているという。そして、ダンジョンイーターを野放しにしているとダンジョン入口の結界が壊されてスタンピードが起こりかねないのだと──それはこの世界を揺るがす衝撃だった。
最後にフギンは岸隊長の質問に答えて、日本のダンジョンでだけポーションがドロップしている理由を教えてくれた。
(ダンジョンは土地と、訪れる訪問者によって変化します。この国のダンジョンが訪問者を癒すものをドロップしたのは、それまでダンジョンを訪れた人間達の心と願いの結晶でしょう。ほかの国のダンジョンも変わっていくでしょうし、この国のダンジョンも広く開かれることで変わるかもしれません)
住宅地のダンジョンがチュートリアルダンジョンかどうかについては、フギンにも判断できないとのことだ。
その場にいたので一応聞いていたが、岸隊長にすら決定権がないのだから、下っ端隊員の鷹秋がどうにかできるようなことではない。
そんなことよりも腕の中の晴が、降ろしてくださいとでも言いたげな目で見てくるので、案外腰に悪いと聞くお姫様抱っこから腰に負担をかけない抱き方に変えるほうが大切だった。タロ君は晴に抱かれて終始幸せそうだ。
アーサーの瞳がなにかを訴えていたのは気づかなかったことにした。
やがて、交渉というよりも一方的な知識供与の時間は終わった。
フギンはこの世界に複製されたことを受け入れ、この国に属するダンジョンとして民間開放に間に合うようダンジョンを作り変えるという。
この国の代表者がフギンと交渉したかったら、代理人として訪問者を派遣してダンジョンを制覇してみろと言われたのだった。
その巨大なカラスの鳴き声で、一瞬意識を失った気がした。
意識が戻った鷹秋は、目の前にしゃがんでいる晴を抱き上げた。
岸隊長に言われたからではない。彼女のことは命をかけても守りたいのだ。
アーサーとソフィア以外の全員がカラスに背を向けて撤退しようとしていた。出入り口に待機していた別働隊や外の警察官達も意識を取り戻したようだ。
タロ君も晴の腕の中にいる。
鷹秋が足を動かそうとしたとき、
(……お待ちなさい、この世界の人間よ……)
巨大なカラスが頭に語りかけてきた。
思わず足を止める。
海外では所謂オークやゴブリンを思わせる、実際アイテムコアによる『鑑定』ではそう表示される亜人型のモンスターも目撃されているが、会話に成功したという話は聞かない。人間と意思疎通ができる、疎通しようとするモンスターは世界初なのだ。
(いきなり叫んで申し訳ありませんでした。あなた達に話したいことがあるのです。この世界にも映像や音声を記録するものがありますよね。それを出してワタシの言葉をこの世界のほかの人間にも伝えてください)
「……あー、この世界の記録機器はダンジョンでは使えないのだが」
アーサーに視線を送られて、岸隊長がカラスと向き合う。
ここは日本国内にあるダンジョンだ。
軍属経験者のアーサーは、ここで自分が交渉の責任者になっては良くないと判断したのだろう。ソフィアはチラチラとタロ君の様子を窺っている。
(勝手ながら、先ほどの咆哮で眠らせたときにあなた方の魔力を解読させていただきました。完全にとは言えませんが、あなた方の世界のものが使えるようダンジョン内を流れる魔力を調整しております)
「それでは少し確認させていただきたい。……平野!」
使えないとわかっていても、いくつかの機器は常に準備している。
住宅地にできたあのダンジョンのような特例が、いつ出現するかわからないのだから。
平野風太が小型の記録機器を取り出して、動作に問題がないことを告げる。
「本当に記録できるようですな。……その、私はこの集団の責任者でありますが、この国や世界に対しての決定権は持たないのです。あなたの……」
(ワタシはサ……コホン、フギンです)
オタクな親友、風太に聞いたことがある、と鷹秋は思った。
フギンとは北欧神話に出てくるカラスの名前だ。『思考』という意味がある言葉だったろうか。
以前このダンジョンを調査したときに対峙したモンスターのラタトスクも北欧神話と同じ名前を持つモンスターだった。
「フギン殿の話をお聞きしても、なんの約束もできないのですがよろしいでしょうか」
(構いません。伝えることが大事なのです。まずは……)
最初にフギンは、五年前突然できたダンジョンが異世界のものの複製なのだと語った。
それをおこなったのはダンジョンマザーツリー。世界の狭間に存在する樹木だ。
ダンジョンマザーツリーの目的はフギンにもわからないという。
次にフギンは、ダンジョンイーターについて語る。
どうやらこれが一番話したかったことのようだ。
酸を吐くスライムは人間の味を覚えて狂暴化したのではなく、逆に弱ってダンジョンイーターに寄生されているという。そして、ダンジョンイーターを野放しにしているとダンジョン入口の結界が壊されてスタンピードが起こりかねないのだと──それはこの世界を揺るがす衝撃だった。
最後にフギンは岸隊長の質問に答えて、日本のダンジョンでだけポーションがドロップしている理由を教えてくれた。
(ダンジョンは土地と、訪れる訪問者によって変化します。この国のダンジョンが訪問者を癒すものをドロップしたのは、それまでダンジョンを訪れた人間達の心と願いの結晶でしょう。ほかの国のダンジョンも変わっていくでしょうし、この国のダンジョンも広く開かれることで変わるかもしれません)
住宅地のダンジョンがチュートリアルダンジョンかどうかについては、フギンにも判断できないとのことだ。
その場にいたので一応聞いていたが、岸隊長にすら決定権がないのだから、下っ端隊員の鷹秋がどうにかできるようなことではない。
そんなことよりも腕の中の晴が、降ろしてくださいとでも言いたげな目で見てくるので、案外腰に悪いと聞くお姫様抱っこから腰に負担をかけない抱き方に変えるほうが大切だった。タロ君は晴に抱かれて終始幸せそうだ。
アーサーの瞳がなにかを訴えていたのは気づかなかったことにした。
やがて、交渉というよりも一方的な知識供与の時間は終わった。
フギンはこの世界に複製されたことを受け入れ、この国に属するダンジョンとして民間開放に間に合うようダンジョンを作り変えるという。
この国の代表者がフギンと交渉したかったら、代理人として訪問者を派遣してダンジョンを制覇してみろと言われたのだった。
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