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二匹目!+一羽目
29・モフモフわんこと明後日の予定
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「晴は明後日もヒマかしら?」
「うーん」
ちゃぶ台を囲んでカレーを食べながら、わたしは茹でてほぐした鳥肉を食べているタロ君に目をやった。
「わふ」
(玲奈と遊びに行くのなら、ちゃんとお留守番してるのだ。吾はボスモンスターだからな)
「大丈夫だよ」
「そう、良かった。お代わりもらうわね」
彼女は立ち上がり、自分の皿にご飯を盛ってカレーを注ぐ。冷凍にしようと思って、ご飯多めに炊いておいて良かった。
ひと箱八人分、今日+明日明後日×三食分の予定だった大鍋いっぱいのカレーが、玲奈ちゃんの細いウエストに消えていく。
玲奈ちゃんの胃袋は四次元か?
「……あれ?」
「どうしたの、晴」
「明日は?」
「明日は午前中にこちらを出るわ。隣町のホテルで伯父様達とパンケーキを食べる約束をしているの」
「そうなんだ。……真朝ちゃんが泊まってたホテル、だよね?」
玲奈ちゃんは頷く。
「真朝が回復して良かったわ。伯父様も驚いてらしたの。奇跡ってあるのねえ」
「あるんだねえ」
「わふう」
まだ一週間しか経っていないのに、真朝ちゃんは強化合宿に戻っていた。
これまでの遅れを取り戻し、なお且つ無理のないスケジュールをコーチが組んでくれたのだという。
これまで自転車で同行していたコーチが自分も走ってついて来るから、なんだか本番みたいで集中できるって言ってたっけ。
「晴とは明後日の朝、そのホテルで待ち合わせね」
「わたしもパンケーキ食べたいなー。玲奈ちゃん二日連続は嫌?」
「あのホテルのパンケーキなら毎日でもいいけれど、朝の八時集合だから喫茶室はまだ開いていないと思うわ」
「八時? え、なにそれ、早っ! なんかのイベント関係? 真朝ちゃんのところへ見学に行くとか?」
ボタン達ゴースト、もといレイスのおかげで熱帯夜に苦しむことも無くなったため、最近は昼まで寝ているようなことはない。
タロ君も闇の魔気を放ってくれるけど、アパートにいるときは黒い豆柴だから魔気の当たる範囲が小さいんだよね。
とはいえ、八時集合は早い。何時の電車に乗ればいいんだ。そもそも電車あるの?
「いいえ、船に乗って島のダンジョンへ行くのよ。ほら、晴が帰省してたときに話してたダンジョンよ」
「伯父さんのクルーザーでっ?」
実家でこの話題が出たとき、軽い冗談だと思って受け流すんじゃなかった。
というか世界的に有名な整形外科医の伯父さん、玲奈ちゃんに甘過ぎ!
ううん、玲奈ちゃんクルーザーの運転なんかできないよね? もしかして伯父さん夫婦も来るの?
「……国が管理してるダンジョンに忍び込むのは犯罪だよ?」
国有の公園をダンジョンにしてしまった罪悪感が、ブーメランになって突き刺さる。
「不法侵入だものね。ふふふ、安心して、晴。忍び込むのはやめたのよ」
わたしは胸を撫で下ろした。
「ああ、遠くから見学するのね」
それならなんの問題もない。
甲板で海産物のBBQしたりするのかな。自分で魚釣るのもいいな。
タロ君も連れて行っていいか聞いたら図々しいかな?
「違うわ。忍び込むんじゃなくて、ちゃんと許可を取ったの。伯父様が名誉会長を務める『ダンジョン安全監査協会』の代表として、ダンジョンの安全性を監査に行くのよ」
「『ダンジョン安全監査協会』?」
「そう。伯父様に恩を受けたことのある県会議員の呼びかけでできた怪しげな市民団体よ。ダンジョンの民間開放を前に少しでも利権に絡もうと、ほかにもいくつもの団体が作られているわ」
「怪しげな市民団体って……確かに怪しげだけど。民間人がダンジョンに入って大丈夫なの?」
「DSSSの護衛がつくわ。それに……」
片手を振って呼ばれ、わたしは玲奈ちゃんに顔を近づけた。
「……そのダンジョンにはモンスターがいないの」
「どういうこと? まさか本当にスタンピードが起こって、ダンジョンのモンスターが外に逃げ出してるとか?」
「だったら危険過ぎて島自体に入れてもらえないわよ。発見されて最初に調べられたときにはモンスターがいたらしいんだけど、気がついたらモンスターがいなくなっていたそうよ」
「そんなダンジョンがあるのね。……モンスターのいないダンジョンを調べて、安全性が確認できるの?」
「ふふっ」
玲奈ちゃんはイタズラな笑みを浮かべて、小さく舌を出して見せた。
「私はモンスターのいる普通のダンジョンへ行きたかったんだけど、伯父様達が許してくれなくて」
「そりゃそうでしょ。でもモンスターのいないダンジョンへ行って楽しいの?」
「もちろんよ。ステータスも見られるし、この前落札したアイテムコアもやっと届いたし」
浮かれる玲奈ちゃんを前にして、背筋に冷たい汗が流れる。
「アイテムコア、持ってきたの?」
そんなに大荷物ではなかったが、魔眼の付与効果を持つというそのアイテムコアの大きさも形もわからない。
「DSSSに預けて来たわ。持ち歩いて、使う前に壊れても嫌だしね」
「そっか。……玲奈ちゃん、わたしダンジョンへは……」
「そうだ! タロ君も連れて来なさい。モンスターが出ないから大丈夫よ。もしかしたら不思議な力が宿ってケルベロスになるかもしれないわ」
「……ぐるる」
「あら? タロ君怒らせちゃった?」
「食事中に騒いでるからだよ」
それにタロ君は、ケルベロスではなくてオルトロスなのだ。
ゴースト達がレイスに進化したとき、タロ君もいつかケルベロスに進化するのかと聞いたら怒られてしまった。
ボスモンスターはレベルがある代わり、進化したり変異化したりしないらしい。
「そうね、つい夢中になっちゃった。ごめんなさい、タロ君」
「わふ!」
「タロ君のことはDSSSに明日のホテルで言っておくわ。明後日、私はギリギリまで寝てるから、晴がホテルの部屋まで起こしに来て」
「え、いや、玲奈ちゃん……」
一度大丈夫って言っちゃったからなあ。
でも普通の女子大生がダンジョンに行こうって言われたら、普通断ると思うの。
上手い言い訳を考えていたら、わたしの膝に、そっと肉球が置かれた。
「わふ……」
「タロ君」
(モンスターのいないダンジョンが気になるのだ。行けるのなら吾も行きたいぞ)
『鑑定』はアイテムコアやモンスターのステータス、『魔眼』は魔力の流れを見る魔法スキルの名前だ。
しかし魔力はあっても魔法が使えないこの世界の人間(その事実すらわたし以外知らない)はアイテムコアを使い切れていない。
ダンジョンに漂う魔力を吸収して現れる効果は実際の十分の一ほどで、『鑑定』で見られるステータスは名前と特徴の一部、『魔眼』で見られる魔力は攻撃系のアイテムコアの効果が発動したときの色くらいのようだ。
「そうだね、タロ君が一緒なら行こうかな。DSSSの人も護衛してくれるんだしね」
鷹秋さんはアーサーさんの案内役があるから、べつの人達なんだろうな。
いざとなったらDSSSが持ってくるだろう『鑑定』のアイテムコアも玲奈ちゃんの『魔眼』のアイテムコアも、ボタン達に『弱体化』してもらえばいい。
ちなみにボタンは玲奈ちゃんの後ろで、彼女に同行してきたウメ子とキャッキャウフフしている気配が伝わってくる。アクション好きとホラー好きって気が合うのかな。
「そうしなさい。……ところで晴」
「ん? わたしも食べ終わったから、お茶淹れてゼリーにする?」
「素敵。でもその前に聞かせて。そこの柱に引っ掛けてある帽子、どうしたの?」
……この前作った影の帽子、散歩から帰った後に玄関横の柱の帽子掛けに飾ったままだ。
マントで使った残りがあったという言い訳で誤魔化せた(泳がされてる気もする)けど、なんだかんだで玲奈ちゃんの分も作るという約束をしてしまった。
もう作ってあるのを正直に話して渡したほうが良かったかな。
「うーん」
ちゃぶ台を囲んでカレーを食べながら、わたしは茹でてほぐした鳥肉を食べているタロ君に目をやった。
「わふ」
(玲奈と遊びに行くのなら、ちゃんとお留守番してるのだ。吾はボスモンスターだからな)
「大丈夫だよ」
「そう、良かった。お代わりもらうわね」
彼女は立ち上がり、自分の皿にご飯を盛ってカレーを注ぐ。冷凍にしようと思って、ご飯多めに炊いておいて良かった。
ひと箱八人分、今日+明日明後日×三食分の予定だった大鍋いっぱいのカレーが、玲奈ちゃんの細いウエストに消えていく。
玲奈ちゃんの胃袋は四次元か?
「……あれ?」
「どうしたの、晴」
「明日は?」
「明日は午前中にこちらを出るわ。隣町のホテルで伯父様達とパンケーキを食べる約束をしているの」
「そうなんだ。……真朝ちゃんが泊まってたホテル、だよね?」
玲奈ちゃんは頷く。
「真朝が回復して良かったわ。伯父様も驚いてらしたの。奇跡ってあるのねえ」
「あるんだねえ」
「わふう」
まだ一週間しか経っていないのに、真朝ちゃんは強化合宿に戻っていた。
これまでの遅れを取り戻し、なお且つ無理のないスケジュールをコーチが組んでくれたのだという。
これまで自転車で同行していたコーチが自分も走ってついて来るから、なんだか本番みたいで集中できるって言ってたっけ。
「晴とは明後日の朝、そのホテルで待ち合わせね」
「わたしもパンケーキ食べたいなー。玲奈ちゃん二日連続は嫌?」
「あのホテルのパンケーキなら毎日でもいいけれど、朝の八時集合だから喫茶室はまだ開いていないと思うわ」
「八時? え、なにそれ、早っ! なんかのイベント関係? 真朝ちゃんのところへ見学に行くとか?」
ボタン達ゴースト、もといレイスのおかげで熱帯夜に苦しむことも無くなったため、最近は昼まで寝ているようなことはない。
タロ君も闇の魔気を放ってくれるけど、アパートにいるときは黒い豆柴だから魔気の当たる範囲が小さいんだよね。
とはいえ、八時集合は早い。何時の電車に乗ればいいんだ。そもそも電車あるの?
「いいえ、船に乗って島のダンジョンへ行くのよ。ほら、晴が帰省してたときに話してたダンジョンよ」
「伯父さんのクルーザーでっ?」
実家でこの話題が出たとき、軽い冗談だと思って受け流すんじゃなかった。
というか世界的に有名な整形外科医の伯父さん、玲奈ちゃんに甘過ぎ!
ううん、玲奈ちゃんクルーザーの運転なんかできないよね? もしかして伯父さん夫婦も来るの?
「……国が管理してるダンジョンに忍び込むのは犯罪だよ?」
国有の公園をダンジョンにしてしまった罪悪感が、ブーメランになって突き刺さる。
「不法侵入だものね。ふふふ、安心して、晴。忍び込むのはやめたのよ」
わたしは胸を撫で下ろした。
「ああ、遠くから見学するのね」
それならなんの問題もない。
甲板で海産物のBBQしたりするのかな。自分で魚釣るのもいいな。
タロ君も連れて行っていいか聞いたら図々しいかな?
「違うわ。忍び込むんじゃなくて、ちゃんと許可を取ったの。伯父様が名誉会長を務める『ダンジョン安全監査協会』の代表として、ダンジョンの安全性を監査に行くのよ」
「『ダンジョン安全監査協会』?」
「そう。伯父様に恩を受けたことのある県会議員の呼びかけでできた怪しげな市民団体よ。ダンジョンの民間開放を前に少しでも利権に絡もうと、ほかにもいくつもの団体が作られているわ」
「怪しげな市民団体って……確かに怪しげだけど。民間人がダンジョンに入って大丈夫なの?」
「DSSSの護衛がつくわ。それに……」
片手を振って呼ばれ、わたしは玲奈ちゃんに顔を近づけた。
「……そのダンジョンにはモンスターがいないの」
「どういうこと? まさか本当にスタンピードが起こって、ダンジョンのモンスターが外に逃げ出してるとか?」
「だったら危険過ぎて島自体に入れてもらえないわよ。発見されて最初に調べられたときにはモンスターがいたらしいんだけど、気がついたらモンスターがいなくなっていたそうよ」
「そんなダンジョンがあるのね。……モンスターのいないダンジョンを調べて、安全性が確認できるの?」
「ふふっ」
玲奈ちゃんはイタズラな笑みを浮かべて、小さく舌を出して見せた。
「私はモンスターのいる普通のダンジョンへ行きたかったんだけど、伯父様達が許してくれなくて」
「そりゃそうでしょ。でもモンスターのいないダンジョンへ行って楽しいの?」
「もちろんよ。ステータスも見られるし、この前落札したアイテムコアもやっと届いたし」
浮かれる玲奈ちゃんを前にして、背筋に冷たい汗が流れる。
「アイテムコア、持ってきたの?」
そんなに大荷物ではなかったが、魔眼の付与効果を持つというそのアイテムコアの大きさも形もわからない。
「DSSSに預けて来たわ。持ち歩いて、使う前に壊れても嫌だしね」
「そっか。……玲奈ちゃん、わたしダンジョンへは……」
「そうだ! タロ君も連れて来なさい。モンスターが出ないから大丈夫よ。もしかしたら不思議な力が宿ってケルベロスになるかもしれないわ」
「……ぐるる」
「あら? タロ君怒らせちゃった?」
「食事中に騒いでるからだよ」
それにタロ君は、ケルベロスではなくてオルトロスなのだ。
ゴースト達がレイスに進化したとき、タロ君もいつかケルベロスに進化するのかと聞いたら怒られてしまった。
ボスモンスターはレベルがある代わり、進化したり変異化したりしないらしい。
「そうね、つい夢中になっちゃった。ごめんなさい、タロ君」
「わふ!」
「タロ君のことはDSSSに明日のホテルで言っておくわ。明後日、私はギリギリまで寝てるから、晴がホテルの部屋まで起こしに来て」
「え、いや、玲奈ちゃん……」
一度大丈夫って言っちゃったからなあ。
でも普通の女子大生がダンジョンに行こうって言われたら、普通断ると思うの。
上手い言い訳を考えていたら、わたしの膝に、そっと肉球が置かれた。
「わふ……」
「タロ君」
(モンスターのいないダンジョンが気になるのだ。行けるのなら吾も行きたいぞ)
『鑑定』はアイテムコアやモンスターのステータス、『魔眼』は魔力の流れを見る魔法スキルの名前だ。
しかし魔力はあっても魔法が使えないこの世界の人間(その事実すらわたし以外知らない)はアイテムコアを使い切れていない。
ダンジョンに漂う魔力を吸収して現れる効果は実際の十分の一ほどで、『鑑定』で見られるステータスは名前と特徴の一部、『魔眼』で見られる魔力は攻撃系のアイテムコアの効果が発動したときの色くらいのようだ。
「そうだね、タロ君が一緒なら行こうかな。DSSSの人も護衛してくれるんだしね」
鷹秋さんはアーサーさんの案内役があるから、べつの人達なんだろうな。
いざとなったらDSSSが持ってくるだろう『鑑定』のアイテムコアも玲奈ちゃんの『魔眼』のアイテムコアも、ボタン達に『弱体化』してもらえばいい。
ちなみにボタンは玲奈ちゃんの後ろで、彼女に同行してきたウメ子とキャッキャウフフしている気配が伝わってくる。アクション好きとホラー好きって気が合うのかな。
「そうしなさい。……ところで晴」
「ん? わたしも食べ終わったから、お茶淹れてゼリーにする?」
「素敵。でもその前に聞かせて。そこの柱に引っ掛けてある帽子、どうしたの?」
……この前作った影の帽子、散歩から帰った後に玄関横の柱の帽子掛けに飾ったままだ。
マントで使った残りがあったという言い訳で誤魔化せた(泳がされてる気もする)けど、なんだかんだで玲奈ちゃんの分も作るという約束をしてしまった。
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