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二匹目!+一羽目
18・モフモフわんこ、闇夜を駆ける!(駆けてない)
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葉山さんご夫妻が戻ってきて、ハル君ふー君鷹秋さんが帰って行った。
おそらく葉山さんご夫妻は、カレーを作り過ぎたわたしに気を遣って外出してくれたのだろう。
鷹秋さんがタロ君に会う機会を作ってあげかったのもあるかもしれない。
三人がたくさん食べてくれたおかげで、カレーの鍋は空になった。
ふー君は二歳なのに、あんなに食べて大丈夫なんだろうか。
葉山家のお母さんによると「私も心配だったんだけど夏樹さんが、あ、夫がね、冬人はみっつも上の春人を真似てなんでも同じようにしてるんだから、その分お腹も減るし口も回るようになったんだろうって言うの。それにお腹壊さないから適量なのかなって」とのことなので、気にしないでいいのかな。
お風呂から出たわたしは髪の毛をバスタオルに包んだままの状態で、タロ君を抱き締めて布団を転がった。モフモフの毛皮が心地良い。
タロ君はぷるぷるして炎の魔気を放ったので、全身乾いている。
台所の狭い窓の外は暗く、今日はもう後は寝るだけだ。
「……ふう……」
「どうしたのだ、マスター」
「真朝ちゃんのこと。どうするのが一番いいのかと思って」
現代医学でどうにもならなければタロ君の魔法スキルで治してもらうのは決定事項だ。
問題はいつ、どうやって、だ。
わたしがダンジョンマスターだということは教えられないし、それによって真朝ちゃんに不利益が及ぶ事態も避けたい。
「吾はいつでも『大地の祝福』を使うぞ。マスターの友達が痛かったり苦しかったりするのは嫌なのだ。真朝はマスターを好きな匂いがしたから、吾も真朝が好きなのだ」
「そっか。そうだね」
恋愛映画を観ていたときの真朝ちゃんは集中していたけれど、ときどき眉間に皺を寄せてそっとギプスに触れていた。
痛みか痒さか、どちらにしても辛かったに違いない。
悲恋の物語に涙は流したが、あまり愚痴は口にしなかった。怪我の原因がながら運転の車で、この町にいたら事故に遭わずに済んだのになあ、と苦笑していたくらいだ。
「真朝ちゃんが泊まってるホテルって、鷹秋さんやアーサーさんが泊まってるホテルでもあるんだよね」
「ん」
「うちのダンジョンでドロップするポーションに過大な期待を寄せて、近くにいればなにか起こるんじゃないかと思って泊まってる人も大勢いるって言ってた」
「真朝が言ってたな」
少しずつ考えが形になっていく。
「タロ君の『大地の祝福』って、どれくらいの範囲を回復できる?」
「ダンジョンなら階層全体を回復できるのだ。でも外だと吾とマスターのダンジョン域の中だけだな」
「そっか」
……それでは狭過ぎる。
べつの方法を考え始めたとき、タロ君が言った。
「吾が『活性化』をかけたら、マスターのダンジョン域を広げることができるぞ」
「そうなの?」
「ん。『活性化』は重ねがけもできるのだ。吾の『活性化』は炎属性だからステータスの増幅率が大きい代わりに効果が切れた反動が酷いのだが」
「そんなの! 真朝ちゃんのためなら我慢するよ」
「んーん」
タロ君はドヤ顔で首を横に振る。
「普通なら反動が酷いのだが、今回は『活性化』を使ってる最中に『大地の祝福』をかけて回復するのだから、反動は最小限に収められると思うのだ」
うちの犬チョー賢い!
わたしはタロ君に頼んで、真朝ちゃんの護衛につけたフヨウに呼びかけてもらった。
そして、真朝ちゃんが泊まっているホテルの屋上へと『転移』した。アパートの部屋の明かりが消えて、夜の闇がわたし達を包む。
──アパートのある町よりも大きく栄えている隣町の明かりが眼下で瞬く。
昼間は客室のシーツなどを干しているらしく、ホテルの天井には物干し台が並んでいた。
辺りに人影はない。もちろんフヨウに確認してもらった上で『転移』してきたのだ。
「……オォォ……」
「ありがとう、フヨウ。……え? 真朝ちゃん本当にあの映画また観てるの?」
よっぽど気に入ったんだな、と思いつつタロ君に合図する。
「『活性化』」
体が熱くなる。
なんとなく自分の感知できる範囲が広がった気がした。
これがダンジョン域なのかな。
「タロ君、今のわたしのダンジョン域ってどれくらい?」
「この屋上全体と、すぐ下の階くらいなのだ」
わたしはタロ君に『活性化』を繰り返してもらった。
ホテル全体を覆えなくても、『大地の祝福』を使うためのMPがなくなりそうだったら諦めよう。
要するに真朝ちゃんひとりが回復するのでなければいい、はずだ。
ついでにアーサーさんの呪いも解ければちょうどいい。
『モンスター』でなくなると冒険者としてのレベルが落ちるかもしれないが、一カ月後に完全モンスター化するよりはいいだろう。
ホテルに泊まっている人達も体が治って幸せになれるといいよね。ダンジョン攻略で体の一部を失った冒険者達も泊まっているという話だし。
「マスターのダンジョン域がホテル全体を覆っているのだ。でもちょっとオーバーして、周りの道路にも広がってしまったぞ」
「それは仕方がないからいいよ。じゃあタロ君、お願い。いろんなこと頼んじゃってごめんね」
「今度味見じゃなくて食事でカレーを食べさせてくれれば嬉しいのだ。……『大地の祝福』」
ゲームのように目に見えるエフェクトはなかったが、なにか温かいものが辺りに満ちていく。
しかし……カレーか。
普通の犬じゃなくて犬型モンスターだから大丈夫だよね。一応今日ハル君とふー君に出したヤツみたいに、牛乳を足して刺激を薄めることにしよう。
おそらく葉山さんご夫妻は、カレーを作り過ぎたわたしに気を遣って外出してくれたのだろう。
鷹秋さんがタロ君に会う機会を作ってあげかったのもあるかもしれない。
三人がたくさん食べてくれたおかげで、カレーの鍋は空になった。
ふー君は二歳なのに、あんなに食べて大丈夫なんだろうか。
葉山家のお母さんによると「私も心配だったんだけど夏樹さんが、あ、夫がね、冬人はみっつも上の春人を真似てなんでも同じようにしてるんだから、その分お腹も減るし口も回るようになったんだろうって言うの。それにお腹壊さないから適量なのかなって」とのことなので、気にしないでいいのかな。
お風呂から出たわたしは髪の毛をバスタオルに包んだままの状態で、タロ君を抱き締めて布団を転がった。モフモフの毛皮が心地良い。
タロ君はぷるぷるして炎の魔気を放ったので、全身乾いている。
台所の狭い窓の外は暗く、今日はもう後は寝るだけだ。
「……ふう……」
「どうしたのだ、マスター」
「真朝ちゃんのこと。どうするのが一番いいのかと思って」
現代医学でどうにもならなければタロ君の魔法スキルで治してもらうのは決定事項だ。
問題はいつ、どうやって、だ。
わたしがダンジョンマスターだということは教えられないし、それによって真朝ちゃんに不利益が及ぶ事態も避けたい。
「吾はいつでも『大地の祝福』を使うぞ。マスターの友達が痛かったり苦しかったりするのは嫌なのだ。真朝はマスターを好きな匂いがしたから、吾も真朝が好きなのだ」
「そっか。そうだね」
恋愛映画を観ていたときの真朝ちゃんは集中していたけれど、ときどき眉間に皺を寄せてそっとギプスに触れていた。
痛みか痒さか、どちらにしても辛かったに違いない。
悲恋の物語に涙は流したが、あまり愚痴は口にしなかった。怪我の原因がながら運転の車で、この町にいたら事故に遭わずに済んだのになあ、と苦笑していたくらいだ。
「真朝ちゃんが泊まってるホテルって、鷹秋さんやアーサーさんが泊まってるホテルでもあるんだよね」
「ん」
「うちのダンジョンでドロップするポーションに過大な期待を寄せて、近くにいればなにか起こるんじゃないかと思って泊まってる人も大勢いるって言ってた」
「真朝が言ってたな」
少しずつ考えが形になっていく。
「タロ君の『大地の祝福』って、どれくらいの範囲を回復できる?」
「ダンジョンなら階層全体を回復できるのだ。でも外だと吾とマスターのダンジョン域の中だけだな」
「そっか」
……それでは狭過ぎる。
べつの方法を考え始めたとき、タロ君が言った。
「吾が『活性化』をかけたら、マスターのダンジョン域を広げることができるぞ」
「そうなの?」
「ん。『活性化』は重ねがけもできるのだ。吾の『活性化』は炎属性だからステータスの増幅率が大きい代わりに効果が切れた反動が酷いのだが」
「そんなの! 真朝ちゃんのためなら我慢するよ」
「んーん」
タロ君はドヤ顔で首を横に振る。
「普通なら反動が酷いのだが、今回は『活性化』を使ってる最中に『大地の祝福』をかけて回復するのだから、反動は最小限に収められると思うのだ」
うちの犬チョー賢い!
わたしはタロ君に頼んで、真朝ちゃんの護衛につけたフヨウに呼びかけてもらった。
そして、真朝ちゃんが泊まっているホテルの屋上へと『転移』した。アパートの部屋の明かりが消えて、夜の闇がわたし達を包む。
──アパートのある町よりも大きく栄えている隣町の明かりが眼下で瞬く。
昼間は客室のシーツなどを干しているらしく、ホテルの天井には物干し台が並んでいた。
辺りに人影はない。もちろんフヨウに確認してもらった上で『転移』してきたのだ。
「……オォォ……」
「ありがとう、フヨウ。……え? 真朝ちゃん本当にあの映画また観てるの?」
よっぽど気に入ったんだな、と思いつつタロ君に合図する。
「『活性化』」
体が熱くなる。
なんとなく自分の感知できる範囲が広がった気がした。
これがダンジョン域なのかな。
「タロ君、今のわたしのダンジョン域ってどれくらい?」
「この屋上全体と、すぐ下の階くらいなのだ」
わたしはタロ君に『活性化』を繰り返してもらった。
ホテル全体を覆えなくても、『大地の祝福』を使うためのMPがなくなりそうだったら諦めよう。
要するに真朝ちゃんひとりが回復するのでなければいい、はずだ。
ついでにアーサーさんの呪いも解ければちょうどいい。
『モンスター』でなくなると冒険者としてのレベルが落ちるかもしれないが、一カ月後に完全モンスター化するよりはいいだろう。
ホテルに泊まっている人達も体が治って幸せになれるといいよね。ダンジョン攻略で体の一部を失った冒険者達も泊まっているという話だし。
「マスターのダンジョン域がホテル全体を覆っているのだ。でもちょっとオーバーして、周りの道路にも広がってしまったぞ」
「それは仕方がないからいいよ。じゃあタロ君、お願い。いろんなこと頼んじゃってごめんね」
「今度味見じゃなくて食事でカレーを食べさせてくれれば嬉しいのだ。……『大地の祝福』」
ゲームのように目に見えるエフェクトはなかったが、なにか温かいものが辺りに満ちていく。
しかし……カレーか。
普通の犬じゃなくて犬型モンスターだから大丈夫だよね。一応今日ハル君とふー君に出したヤツみたいに、牛乳を足して刺激を薄めることにしよう。
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