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一匹目!
45・モフモフわんこが寝ている間に
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「晴があちらへ戻るとき、私もついて行こうかしら」
故郷の親友玲奈ちゃんが、わたしのベッドで転がりながら言う。
ベッドの上から手を伸ばせば届く位置に置いたコップの中のお茶はもうない。
彼女が持って来てくれたお菓子を入れたお皿も空っぽになっている。
「来るのはいいけど、ダンジョンに入ろうとしたら止めるよ」
「冷たいわ。主人公の座は犬を飼っている晴に任せて、私はヒロインになるつもりだったのに」
「うちの犬はケルベロスじゃないので」
わたしの膝で眠っている黒い豆柴の姿をしたボスモンスターは、ケルベロスじゃなくてオルトロスです。
「たぶん各国の諜報機関が集まってると思うから、向こうに戻っても怪しい外国人には近寄らないようにね」
「……怖いこと言うなあ。でもありがとう、気をつけるよ」
「ねえ船でこっちに帰るとき、ダンジョンができてるっていう島は見た?」
「うん。でも外からじゃなにもわからなかったよ」
「過疎化して無人になっちゃったから、もう船が停まらないのよね。封鎖している警察は警察用船舶で行っているみたい。……伯父様の持ってらっしゃるクルーザーを借りて忍び込もうかしら」
「島に上陸できても入り口で止められるって」
ここでさらっと伯父様のクルーザーとかいう単語を出してくるところがお嬢様だ。
長きに渡ってつき合いながらも、わたしはともかく玲奈ちゃんのほうが関係を続けている理由がよくわからない。
一緒にいて楽しいと思ってくれてるのなら、それはそれで嬉しいんだけどね。
「晴のアパートの近くのダンジョンも気になるけれど、あの島のダンジョンも気になるのよね。もしかしたらあそこからモンスターが逃げ出してるかもしれないの。大氾濫が起こったらどうする?」
「……ネット小説の読み過ぎじゃない?」
「晴ってば本当に冷たいわ。でも今の言葉は根も葉もない妄想じゃないの。根拠を見せてあげる」
玲奈ちゃんはスマホを出すと一枚の写真を見せてくれた。
船の上、甲板に立つ女性を映した風景だ。
彼女の背後にある海に向いたベンチにだれかが座っていて、その横に灰色の影がふたつ並んでいる。
「三日前にSNSで公開されて以来拡散されている写真よ。ほら、あの島が映ってるでしょう? ここに並んでいる灰色の影、島のダンジョンから逃げ出して船に辿り着いたモンスターじゃないかって言われているの。実際海外で公開されているダンジョンの映像……もちろんきちんと写っているものはないから、少しだけ残った断片をつなぎ合わせたものだけど……に映っているゴーストそっくりらしいのよ」
「……そっかー」
ベンチに座ってるこの後ろ姿、帰省途中のわたしだよ!
そういえばカップルが写真撮ってたっけ。
玲奈ちゃん、この二体のゴースト、今この部屋にいます。あなたが帰るとき、護衛のウメ子が一緒に行くよ。
『隠密』使ってても写真には写っちゃうんだよね。
ダンジョンで記録機器の動作を阻害しているのはゴースト系のモンスターだけではない。ダンジョン施設に流れる魔力と電気の相性もあるので、外だと問題なかったりもする。
とりあえず無駄に世間の不安を煽っちゃったことは反省しておこう。
「実はこの間ネットオークションでアイテムコアを落札したの」
「玲奈ちゃん、なにやってるの」
「武器の形をしたものを買うとお縄になっちゃうから、魔眼の付与効果を持つものを買ったわ。本当は鑑定が良かったんだけど高くって」
「ダンジョン内じゃないと使えないんだよ」
「わかってるけど、あるだけで冒険者気分に浸れるじゃない。晴がこちらにいる間に届いたら見せに来るわね」
タロ君が寝ている間、わたしと玲奈ちゃんはそんな話に興じていた。
わたしがほかの友達の話題に切り替えようとしても、玲奈ちゃんは執拗にダンジョンの話題に戻す。どれだけダンジョンに行きたいんだ。
よそのダンジョン産アイテムコアはダンジョン施設内じゃないと使えないから、玲奈ちゃんが持って来ても大丈夫、だよね。
「あーダンジョンに入りたい。ステータスオープン!……なんちゃって。あら晴、急にどうしたの?」
「喉乾いたからお茶のお代わり持ってくる。玲奈ちゃんも飲むでしょ?」
「ありがとう」
玲奈ちゃんの口から『ステ』の二文字が出た瞬間に立ち上がり戸口へ駆け寄ったわたしは、そのまま部屋を出て台所へ向かった。
眠れるタロ君は立ち上がると同時に抱き上げている。
……ダンジョンマスターは辛いよ。
故郷の親友玲奈ちゃんが、わたしのベッドで転がりながら言う。
ベッドの上から手を伸ばせば届く位置に置いたコップの中のお茶はもうない。
彼女が持って来てくれたお菓子を入れたお皿も空っぽになっている。
「来るのはいいけど、ダンジョンに入ろうとしたら止めるよ」
「冷たいわ。主人公の座は犬を飼っている晴に任せて、私はヒロインになるつもりだったのに」
「うちの犬はケルベロスじゃないので」
わたしの膝で眠っている黒い豆柴の姿をしたボスモンスターは、ケルベロスじゃなくてオルトロスです。
「たぶん各国の諜報機関が集まってると思うから、向こうに戻っても怪しい外国人には近寄らないようにね」
「……怖いこと言うなあ。でもありがとう、気をつけるよ」
「ねえ船でこっちに帰るとき、ダンジョンができてるっていう島は見た?」
「うん。でも外からじゃなにもわからなかったよ」
「過疎化して無人になっちゃったから、もう船が停まらないのよね。封鎖している警察は警察用船舶で行っているみたい。……伯父様の持ってらっしゃるクルーザーを借りて忍び込もうかしら」
「島に上陸できても入り口で止められるって」
ここでさらっと伯父様のクルーザーとかいう単語を出してくるところがお嬢様だ。
長きに渡ってつき合いながらも、わたしはともかく玲奈ちゃんのほうが関係を続けている理由がよくわからない。
一緒にいて楽しいと思ってくれてるのなら、それはそれで嬉しいんだけどね。
「晴のアパートの近くのダンジョンも気になるけれど、あの島のダンジョンも気になるのよね。もしかしたらあそこからモンスターが逃げ出してるかもしれないの。大氾濫が起こったらどうする?」
「……ネット小説の読み過ぎじゃない?」
「晴ってば本当に冷たいわ。でも今の言葉は根も葉もない妄想じゃないの。根拠を見せてあげる」
玲奈ちゃんはスマホを出すと一枚の写真を見せてくれた。
船の上、甲板に立つ女性を映した風景だ。
彼女の背後にある海に向いたベンチにだれかが座っていて、その横に灰色の影がふたつ並んでいる。
「三日前にSNSで公開されて以来拡散されている写真よ。ほら、あの島が映ってるでしょう? ここに並んでいる灰色の影、島のダンジョンから逃げ出して船に辿り着いたモンスターじゃないかって言われているの。実際海外で公開されているダンジョンの映像……もちろんきちんと写っているものはないから、少しだけ残った断片をつなぎ合わせたものだけど……に映っているゴーストそっくりらしいのよ」
「……そっかー」
ベンチに座ってるこの後ろ姿、帰省途中のわたしだよ!
そういえばカップルが写真撮ってたっけ。
玲奈ちゃん、この二体のゴースト、今この部屋にいます。あなたが帰るとき、護衛のウメ子が一緒に行くよ。
『隠密』使ってても写真には写っちゃうんだよね。
ダンジョンで記録機器の動作を阻害しているのはゴースト系のモンスターだけではない。ダンジョン施設に流れる魔力と電気の相性もあるので、外だと問題なかったりもする。
とりあえず無駄に世間の不安を煽っちゃったことは反省しておこう。
「実はこの間ネットオークションでアイテムコアを落札したの」
「玲奈ちゃん、なにやってるの」
「武器の形をしたものを買うとお縄になっちゃうから、魔眼の付与効果を持つものを買ったわ。本当は鑑定が良かったんだけど高くって」
「ダンジョン内じゃないと使えないんだよ」
「わかってるけど、あるだけで冒険者気分に浸れるじゃない。晴がこちらにいる間に届いたら見せに来るわね」
タロ君が寝ている間、わたしと玲奈ちゃんはそんな話に興じていた。
わたしがほかの友達の話題に切り替えようとしても、玲奈ちゃんは執拗にダンジョンの話題に戻す。どれだけダンジョンに行きたいんだ。
よそのダンジョン産アイテムコアはダンジョン施設内じゃないと使えないから、玲奈ちゃんが持って来ても大丈夫、だよね。
「あーダンジョンに入りたい。ステータスオープン!……なんちゃって。あら晴、急にどうしたの?」
「喉乾いたからお茶のお代わり持ってくる。玲奈ちゃんも飲むでしょ?」
「ありがとう」
玲奈ちゃんの口から『ステ』の二文字が出た瞬間に立ち上がり戸口へ駆け寄ったわたしは、そのまま部屋を出て台所へ向かった。
眠れるタロ君は立ち上がると同時に抱き上げている。
……ダンジョンマスターは辛いよ。
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