上 下
54 / 127
一匹目!

45・モフモフわんこが寝ている間に

しおりを挟む
「晴があちらへ戻るとき、私もついて行こうかしら」

 故郷の親友玲奈ちゃんが、わたしのベッドで転がりながら言う。
 ベッドの上から手を伸ばせば届く位置に置いたコップの中のお茶はもうない。
 彼女が持って来てくれたお菓子を入れたお皿も空っぽになっている。

「来るのはいいけど、ダンジョンに入ろうとしたら止めるよ」
「冷たいわ。主人公の座は犬を飼っている晴に任せて、私はヒロインになるつもりだったのに」
「うちのわんこはケルベロスじゃないので」

 わたしの膝で眠っている黒い豆柴の姿をしたボスモンスターは、ケルベロスじゃなくてオルトロスです。

「たぶん各国の諜報機関が集まってると思うから、向こうに戻っても怪しい外国人には近寄らないようにね」
「……怖いこと言うなあ。でもありがとう、気をつけるよ」
「ねえフェリーでこっちに帰るとき、ダンジョンができてるっていう島は見た?」
「うん。でも外からじゃなにもわからなかったよ」
「過疎化して無人になっちゃったから、もうフェリーが停まらないのよね。封鎖している警察は警察用船舶で行っているみたい。……伯父様の持ってらっしゃるクルーザーを借りて忍び込もうかしら」
「島に上陸できても入り口で止められるって」

 ここでさらっと伯父様のクルーザーとかいう単語パワーワードを出してくるところがお嬢様だ。
 長きに渡ってつき合いながらも、わたしはともかく玲奈ちゃんのほうが関係を続けている理由がよくわからない。
 一緒にいて楽しいと思ってくれてるのなら、それはそれで嬉しいんだけどね。

「晴のアパートの近くのダンジョンも気になるけれど、あの島のダンジョンも気になるのよね。もしかしたらあそこからモンスターが逃げ出してるかもしれないの。大氾濫スタンピードが起こったらどうする?」
「……ネット小説の読み過ぎじゃない?」
「晴ってば本当に冷たいわ。でも今の言葉は根も葉もない妄想じゃないの。根拠を見せてあげる」

 玲奈ちゃんはスマホを出すと一枚の写真を見せてくれた。
 船の上、甲板に立つ女性を映した風景だ。
 彼女の背後にある海に向いたベンチにだれかが座っていて、その横に灰色の影がふたつ並んでいる。

「三日前にSNSで公開されて以来拡散されている写真よ。ほら、あの島が映ってるでしょう? ここに並んでいる灰色の影、島のダンジョンから逃げ出して船に辿り着いたモンスターじゃないかって言われているの。実際海外で公開されているダンジョンの映像……もちろんきちんと写っているものはないから、少しだけ残った断片をつなぎ合わせたものだけど……に映っているゴーストそっくりらしいのよ」
「……そっかー」

 ベンチに座ってるこの後ろ姿、帰省途中のわたしだよ!
 そういえばカップルが写真撮ってたっけ。
 玲奈ちゃん、この二体のゴースト、今この部屋にいます。あなたが帰るとき、護衛のウメ子が一緒に行くよ。

 『隠密』使ってても写真には写っちゃうんだよね。
 ダンジョンで記録機器の動作を阻害しているのはゴースト系のモンスターだけではない。ダンジョン施設に流れる魔力と電気の相性もあるので、外だと問題なかったりもする。
 とりあえず無駄に世間の不安を煽っちゃったことは反省しておこう。

「実はこの間ネットオークションでアイテムコアを落札したの」
「玲奈ちゃん、なにやってるの」
「武器の形をしたものを買うとお縄になっちゃうから、魔眼の付与効果を持つものを買ったわ。本当は鑑定が良かったんだけど高くって」
「ダンジョン内じゃないと使えないんだよ」
「わかってるけど、あるだけで冒険者気分に浸れるじゃない。晴がこちらにいる間に届いたら見せに来るわね」

 タロ君が寝ている間、わたしと玲奈ちゃんはそんな話に興じていた。
 わたしがほかの友達の話題に切り替えようとしても、玲奈ちゃんは執拗にダンジョンの話題に戻す。どれだけダンジョンに行きたいんだ。
 よそのダンジョン産アイテムコアはダンジョン施設内じゃないと使えないから、玲奈ちゃんが持って来ても大丈夫、だよね。

「あーダンジョンに入りたい。ステータスオープン!……なんちゃって。あら晴、急にどうしたの?」
「喉乾いたからお茶のお代わり持ってくる。玲奈ちゃんも飲むでしょ?」
「ありがとう」

 玲奈ちゃんの口から『ステ』の二文字が出た瞬間に立ち上がり戸口へ駆け寄ったわたしは、そのまま部屋を出て台所へ向かった。
 眠れるタロ君は立ち上がると同時に抱き上げている。
 ……ダンジョンマスターは辛いよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった! 食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪ ※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。 ※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。 ※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。 ※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

処理中です...