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一匹目!

41・モフモフわんことドライブするよ!

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「タロくん、カッコイー」
「このマントすごいな!」

 ダンジョンマスター生活八日目。
 二週目のスタートですよ、なんてことはともかく、ハル君ふー君と行くヒーローショーの日だ。
 駐車場でお披露目したタロ君のニューコスチュームは大好評だった。

「とってもタロ君にお似合いですね」
「ありがとうございます」

 今日は葉山家の車を葉山兄弟(大人のほう)の弟・鷹秋さんに運転してもらって、隣町にある港に面した公園へ向かう。
 そこのステージで無料のヒーローショーが開催されるのだ。
 ヒーローショーの後で握手会やグッズ販売があるので、利益はそちらで出すのだろう。

「そろそろ出ましょうか」
「そうですね。タロ君」
「わふ!」

 わたしがしゃがんで、昨日買ったばかりのキャリーバッグを開けると、タロ君はドヤ顔で飛び込んできた。

「タロくん、えらい」
「自分で入って賢いな」
「春人と冬人はチャイルドシートだぞ」
「「はーい」」

 後部座席の左右に並んだチャイルドシートの真ん中にキャリーバッグを置いて、わたしはふー君、葉山さんはハル君のベルトを締めていく。
 わたしが真ん中に座り、葉山さんが運転席に座ったら準備完了だ。もちろんふたりともシートベルトは締めている。
 わたしがタロ君のキャリーバッグを膝に載せると車が走り出した。

 葉山家のファミリーカーは八人乗りのミニバンで、大人ふたりと子どもふたりが乗っただけの車内は広々としている。
 ……節子さん達も一緒だと思ってたんだよなあ。お父さんの夏樹さんが有給を取って、葉山家のご夫婦はデートです。
 わたしの気持ちを察したのか、再会したばかりの葉山さんが申し訳なさそうに言う。

「卯月さん、今日はどうもありがとうございます。どうも義姉が気を利かせたみたいで……ご迷惑じゃなかったですか?」
「ハル君ふー君と過ごすのは楽しいので気にしないでください」
「わふわふ」
「……卯月さん。公園についたらタロ君の写真を撮らせてもらっていいですか?」
「ふーもとるー」
「俺も撮りたい」
「うん、みんなで撮ろうか」

 葉山さん(大人のほう・弟)って真面目そうだし髪を短く刈ってるから、ドーベルマンっぽいかとも思ったが、タロ君を見て目を細めている姿は、やっぱりゴールデンレトリバーかボーダーコリーって感じだな。

 ハル君ふー君がいるものの、会って二度目の男性とふたりきりでどうしよう?
 なんて乙女なことも考えたのだが、さっき会ってからずっと葉山さんの視線はタロ君に注がれていた。いや、今は運転してるから前見てるか。
 いつも通りのTシャツとデニムでも、ちょっと可愛い系着て来たんだけどな。

 ……タロ君は可愛いからしょうがないね!

「わふわふ、わふわふ」
「バッグの上が開いたぞ」
「タロくんのおはな、でた」

 昨日買ったキャリーバッグは、上部持ち手の左右が透明のプラスチックの窓になっていて開けることができた。
 チャイルドシートで動けないハル君ふー君のため、タロ君はバッグの中で顔を動かして挨拶をしている。

(閉じ込められた吾よりも窮屈そうなのだ)
(安全優先だから仕方ないんだよ。その代わりタロ君がかまってあげてね)
(ん! 吾に任せるのだ)

「タロ君のマントカッコいいね、ハルちゃん」
「そう? 実はハルちゃんが作ったんだー」
「ハルちゃんの『ブンザイ』で?」
「ふー君……」
「こら、冬人! すいません、卯月さん。冬人は最近テレビのニュースやドラマからピンポイントで悪い言葉を覚えるんで困ってるんです」
「小さい子はみんなそうですよー」

 実家の歌音にも「ハルちゃんは『干物女』なの?」と聞かれたことがある。
 でもあれはテレビなんかじゃなくてお兄ちゃんが言ったんだと思う。
 そりゃ浮いた噂はかけらもないけど、まだ二十歳の大学生だから大丈夫だもん! これから彼氏のひとりやふたり……うーん、ダンジョン運営と両立できるかな?

「ハルちゃん、ふーワルいこといった?」
「そうだね。ほかでは使わないほうがいいねー」
「ふーわかった。『ブンザイ』はつかわない」
「それよりハルちゃん、ホントにハルちゃんが作ったの?」
「そうだよ。でもちょっと特別な素材で……お裁縫っていうより工作みたいな感じ」

 もっとはっきり言っちゃうと、ゲームで魔法なんだよね。

「コスプレみたいなものですか?」
「え?」

 葉山さんから意外な言葉が出てきてびっくりした。
 わんこ好き以外は普通の真面目な人っぽいのに。
 『オタク』の『オ』の字も知らなさそう。

「え、ええ、そうです。友達がそういうの詳しくて」

 これは本当。
 乙女ちゃんは動画配信をしていたとき、ヴァーチャル配信者にしか見えない実体配信者を目指してコスプレ道を邁進していたのだ。
 気になる人が二次元好きなせいらしい。

「ハルちゃん、ふーもコスプレした」
「俺もしたよ」
「そうなの?」
「写真館にあるんですよ、子ども用のコスプレ衣装が。俺は友人が……二次元に嫁がいるタイプなので話だけは」
「そうでしたか」
「タロ君がマントしてると、オルトロス星人みたい」
「わふ?」
「オルトロスせーじん?」

 タロ君とふー君が首を傾げる。

「ハル君よく覚えてたね」
「去年ハルちゃんのパソコンで見せてもらったヤツでしょ?」
「そうだよ。同じわんこつながりでタロ君に見せたら気に入ったみたいだったから、真似して作ってみたんだ」
「……ふーしらない」
「わふう……」

 悲しげなふー君を心配するタロ君が可愛い。

「今度ハル君と一緒にハルちゃん家まで観に来たら?」
「うん、そーする!」
「わふ!」

 そんな話で盛り上がりながら、ドライブは続いたのだった。
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