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一匹目!
37・モフモフわんこと夏の青空
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「おはよう、晴ちゃん」
「おはようございます、大家さん」
洗濯機が止まったので、洗濯物を籠に入れて大家さんの家庭菜園の横にある物干し台へと進む。タロ君は不機嫌そうな顔で後ろからついてきた。
物干し台は左右に三台ずつ、合計六台が並んでいる。
駐車場と同じで、それぞれの部屋に対応している。
「あ、部屋を出たらタロ君にリードつけておいたほうがいいですね」
「うちのアパートの敷地内ならいいんじゃないかしら。タロ君はとても賢いし」
「わふ!」
「ありがとうございます」
大家さんに褒められて、タロ君の機嫌が少し直ったようだ。
「あー、タロくんだ」
「ハルちゃん、おはよう」
「卯月さん、おはよう」
「おはようございます」
「わふー」
葉山家の面々も洗濯物を干しに来た。
ハル君とふー君に駆け寄られて、タロ君は嬉しげに飛び跳ねる。
お父さんの夏樹さんは朝が早いので、もう仕事に出かけているという。
「いい天気ですね」
「本当にいい天気」
「最近は天気が良くても暑くなり過ぎなくて、過ごしやすいからいいわねえ」
「本当ですね」
この天気ならお昼には洗濯物が乾いてるかな。
大家さんと葉山家のみなさんが過ごしやすいのは、ゴーストのヒマワリとスズランが放つ闇の魔気のせいだったりします。
人体に悪影響はないのでご安心ください。
そういえばダンジョンのモンスターって、異世界のダンジョン外にいるモンスターを模したものなんだよね。
つまり……良かった、死んでゴーストになっただれかはいないんだ。
「わふわふ♪」
「タロくん、まてまてー」
「ふー、物干しにぶつからないよう気をつけるんだぞ」
ハル君ふー君と追いかけっこを始めたタロ君は、もうすっかり上機嫌のようだ。
あ、そうだ。大家さんか葉山家に預けて行ったら、わたしが買い物に行く間お留守番させても大丈夫かも。
DPは1000000を越えたし、タロ君甘えん坊問題も片づいたし、今日はいい日になりそうだと、夏の青空を見ながらわたしは思った。
★ ★ ★ ★ ★
同じころ、晴が住む町の隣、港を有する大きな町の某ホテル内のスポーツジム──
「葉山」
春人冬人の叔父、葉山鷹秋は筋トレ中に前の職場の上司であり、今現在勤めている会社DSSSの社長である岸正道に声をかけられていた。
会社の本拠地は東京なので、ここにいるのは出張という形になる。
特殊な事態のため社員全員が同行している出張だ。
鷹秋はバーベルを降ろし、ベンチで体を起こした。
ダンジョンの調査にはモンスターとの戦闘も含まれる。
体を鍛えるのは前職のころから仕事の一部であった。
「おはようございます、隊長。なにかありましたか?」
「ああ。といってもお前の明日の休みを潰そうっていうんじゃない。もっと先の話だ」
「海外研修の話ですか?」
鷹秋は年内に、ダンジョンを民間に開放している同盟国へ研修に行くことが決まっていた。
まだ公表されていないが、日本は近いうちにダンジョンを民間開放すると決意している。
そのとき民間冒険者の指導に当たる予定のDSSSメンバーの若手が数人、現在の他国における民間冒険者育成システムを学びに行くのだ。
五年間調査するだけで他国のようにダンジョン攻略をおこなってこなかった日本、責任問題を怖れて新しいことや危険なことへの抵抗が強い日本政府が急に民間人への開放を決意したのには理由がある。
晴のダンジョンでドロップしたポーションだ。
それは逃げ腰な政治家達の背中を押すのには十分過ぎるほどの爆弾だった。自国の諜報機関の調査でポーションの存在に気づいた海外諸国からの圧も大きい。
「その前に『モンスター』が来る。彼の案内役を任せたい」
「『モンスター』ですか。……ミドルポーションに期待しているのでしょうか」
「それもあるかもしれないな。軽い状態異常にしか効果がないと鑑定されていても、その基準がわからない。ダンジョン判定だと『呪い』は軽い状態異常かもしれないぞ」
「そういう可能性もありますね」
「冗談を真に受けるな。さすがに姿かたちが変わるほどの『呪い』は軽い状態異常とは言わんさ。もちろんポーションにもミドルポーションにも興味を持っているに違いない。世界で唯一日本でだけのドロップ品だ。しかし一番は、あのダンジョンが一階層しかないからだと思うぞ。世界初のダンジョン制覇の栄誉を五年間調査だけでお茶を濁してきた国に取られたくないってとこじゃないか? 俺達と同じで、表向きは民間企業に所属していても実際のところは国の紐付きだろうしな」
日本よりダンジョン攻略が盛んな国は多々あるが、最下層のボスモンスターを倒してダンジョンを制覇したという話はまだ聞こえてこない。
『モンスター』の訪日は、自分達にも利があると岸は続ける。
「あのダンジョンの結界がレベル結界だとしたら、レベルを公表している冒険者の中で一番高いレベルの『モンスター』になら破れるかもしれない。俺達がこれからレベル20の壁を破ろうと思ったら、どれだけかかるかわからないからな」
ステータスボードのレベルは、自分でステータスを鍛えなければ上がらない。
レベルアップバーにはゲームにおける経験値のような基準がないので、どう鍛えればいいのかもよくわかっていなかった。
ただそのレベルによって解除される結界があることは知られていた。
「『モンスター』の案内役は、あのダンジョンの攻略時にも付き添うんですよね」
「当然だ。あのダンジョンは日本のものだ。世界初のダンジョン制覇の栄誉をすべて譲り渡すような真似はするはずがないだろう。……名目は調査でも、現場の人間が命を賭けてダンジョンに挑んできたことに代わりはないんだ」
本当はこの国が栄誉を独占できたらいいんだがな、と岸は悲しく微笑んだ。
国に属していたときも民間に下った今も、彼は部下思いの人間として知られている。
鷹秋のように今頑張っている人間はもちろん、さまざまな事情で前線を退いた人間にも努力した自分を誇りに思えるような栄誉を与えたいと考えている男なのだった。
自分のダンジョン運営が日本と世界のダンジョン事情を変えようとしていることなど、今の晴は知る由もない。
──逆に日本と世界のダンジョン関係者達も、ボスモンスターを手にして得られるのは景品だけだということ、ダンジョンマザーツリーがさまざまな世界の知識を集めたくてダンジョンをバラ撒いているだけなのだということを知る由はない。
高次元的存在からの試練であったり、人間が進化するための課題だったりしたらカッコ良かったのに( ´・∀・)(・∀・` )ネー。
「おはようございます、大家さん」
洗濯機が止まったので、洗濯物を籠に入れて大家さんの家庭菜園の横にある物干し台へと進む。タロ君は不機嫌そうな顔で後ろからついてきた。
物干し台は左右に三台ずつ、合計六台が並んでいる。
駐車場と同じで、それぞれの部屋に対応している。
「あ、部屋を出たらタロ君にリードつけておいたほうがいいですね」
「うちのアパートの敷地内ならいいんじゃないかしら。タロ君はとても賢いし」
「わふ!」
「ありがとうございます」
大家さんに褒められて、タロ君の機嫌が少し直ったようだ。
「あー、タロくんだ」
「ハルちゃん、おはよう」
「卯月さん、おはよう」
「おはようございます」
「わふー」
葉山家の面々も洗濯物を干しに来た。
ハル君とふー君に駆け寄られて、タロ君は嬉しげに飛び跳ねる。
お父さんの夏樹さんは朝が早いので、もう仕事に出かけているという。
「いい天気ですね」
「本当にいい天気」
「最近は天気が良くても暑くなり過ぎなくて、過ごしやすいからいいわねえ」
「本当ですね」
この天気ならお昼には洗濯物が乾いてるかな。
大家さんと葉山家のみなさんが過ごしやすいのは、ゴーストのヒマワリとスズランが放つ闇の魔気のせいだったりします。
人体に悪影響はないのでご安心ください。
そういえばダンジョンのモンスターって、異世界のダンジョン外にいるモンスターを模したものなんだよね。
つまり……良かった、死んでゴーストになっただれかはいないんだ。
「わふわふ♪」
「タロくん、まてまてー」
「ふー、物干しにぶつからないよう気をつけるんだぞ」
ハル君ふー君と追いかけっこを始めたタロ君は、もうすっかり上機嫌のようだ。
あ、そうだ。大家さんか葉山家に預けて行ったら、わたしが買い物に行く間お留守番させても大丈夫かも。
DPは1000000を越えたし、タロ君甘えん坊問題も片づいたし、今日はいい日になりそうだと、夏の青空を見ながらわたしは思った。
★ ★ ★ ★ ★
同じころ、晴が住む町の隣、港を有する大きな町の某ホテル内のスポーツジム──
「葉山」
春人冬人の叔父、葉山鷹秋は筋トレ中に前の職場の上司であり、今現在勤めている会社DSSSの社長である岸正道に声をかけられていた。
会社の本拠地は東京なので、ここにいるのは出張という形になる。
特殊な事態のため社員全員が同行している出張だ。
鷹秋はバーベルを降ろし、ベンチで体を起こした。
ダンジョンの調査にはモンスターとの戦闘も含まれる。
体を鍛えるのは前職のころから仕事の一部であった。
「おはようございます、隊長。なにかありましたか?」
「ああ。といってもお前の明日の休みを潰そうっていうんじゃない。もっと先の話だ」
「海外研修の話ですか?」
鷹秋は年内に、ダンジョンを民間に開放している同盟国へ研修に行くことが決まっていた。
まだ公表されていないが、日本は近いうちにダンジョンを民間開放すると決意している。
そのとき民間冒険者の指導に当たる予定のDSSSメンバーの若手が数人、現在の他国における民間冒険者育成システムを学びに行くのだ。
五年間調査するだけで他国のようにダンジョン攻略をおこなってこなかった日本、責任問題を怖れて新しいことや危険なことへの抵抗が強い日本政府が急に民間人への開放を決意したのには理由がある。
晴のダンジョンでドロップしたポーションだ。
それは逃げ腰な政治家達の背中を押すのには十分過ぎるほどの爆弾だった。自国の諜報機関の調査でポーションの存在に気づいた海外諸国からの圧も大きい。
「その前に『モンスター』が来る。彼の案内役を任せたい」
「『モンスター』ですか。……ミドルポーションに期待しているのでしょうか」
「それもあるかもしれないな。軽い状態異常にしか効果がないと鑑定されていても、その基準がわからない。ダンジョン判定だと『呪い』は軽い状態異常かもしれないぞ」
「そういう可能性もありますね」
「冗談を真に受けるな。さすがに姿かたちが変わるほどの『呪い』は軽い状態異常とは言わんさ。もちろんポーションにもミドルポーションにも興味を持っているに違いない。世界で唯一日本でだけのドロップ品だ。しかし一番は、あのダンジョンが一階層しかないからだと思うぞ。世界初のダンジョン制覇の栄誉を五年間調査だけでお茶を濁してきた国に取られたくないってとこじゃないか? 俺達と同じで、表向きは民間企業に所属していても実際のところは国の紐付きだろうしな」
日本よりダンジョン攻略が盛んな国は多々あるが、最下層のボスモンスターを倒してダンジョンを制覇したという話はまだ聞こえてこない。
『モンスター』の訪日は、自分達にも利があると岸は続ける。
「あのダンジョンの結界がレベル結界だとしたら、レベルを公表している冒険者の中で一番高いレベルの『モンスター』になら破れるかもしれない。俺達がこれからレベル20の壁を破ろうと思ったら、どれだけかかるかわからないからな」
ステータスボードのレベルは、自分でステータスを鍛えなければ上がらない。
レベルアップバーにはゲームにおける経験値のような基準がないので、どう鍛えればいいのかもよくわかっていなかった。
ただそのレベルによって解除される結界があることは知られていた。
「『モンスター』の案内役は、あのダンジョンの攻略時にも付き添うんですよね」
「当然だ。あのダンジョンは日本のものだ。世界初のダンジョン制覇の栄誉をすべて譲り渡すような真似はするはずがないだろう。……名目は調査でも、現場の人間が命を賭けてダンジョンに挑んできたことに代わりはないんだ」
本当はこの国が栄誉を独占できたらいいんだがな、と岸は悲しく微笑んだ。
国に属していたときも民間に下った今も、彼は部下思いの人間として知られている。
鷹秋のように今頑張っている人間はもちろん、さまざまな事情で前線を退いた人間にも努力した自分を誇りに思えるような栄誉を与えたいと考えている男なのだった。
自分のダンジョン運営が日本と世界のダンジョン事情を変えようとしていることなど、今の晴は知る由もない。
──逆に日本と世界のダンジョン関係者達も、ボスモンスターを手にして得られるのは景品だけだということ、ダンジョンマザーツリーがさまざまな世界の知識を集めたくてダンジョンをバラ撒いているだけなのだということを知る由はない。
高次元的存在からの試練であったり、人間が進化するための課題だったりしたらカッコ良かったのに( ´・∀・)(・∀・` )ネー。
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