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一匹目!
29・モフモフわんことスライムの花
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ダンジョンマスター生活六日目。
昨日は葉山家から帰って夕食のチャーハンを食べていたら、故郷の親友から電話があった。
帰省したときには会えるといいな。会ってもダンジョンのことは言わないつもりだけど。
そして本日のDPは──
【現在のDP :675000DP】
【昨日の消費DP: 7000DP】
【※消費DP内訳 ダンジョンコア消費: 1000DP】
【 ダンジョン施設消費: 1000DP】
【 ボスモンスター消費: 3000DP】
【 モンスター消費 : 2000DP(二百体分)】
【昨日の生産DP:400000DP】
【※生産DP内訳 訪問者生産:400000DP(四百体分)】
うん、多い。なんか多い。
昨日は六時間ごとに訪問者が百人来てたんだよね。
一昨日ゴーストを作ったからか、いつモンスターが増えても万全の態勢で対応できるよう人員を増やして小まめに交代するようになったみたい。
675000DPか。
特別なこと(モンスター作成とかドロップ品設定とか)しなければ、一日7000DPの消費で、どれくらい生き延びられるのかな?
スマホの電卓で確認してみる。……九十六日か。
「タロ君、ダンジョン行く?」
押し入れの襖の端から顔を出し、わたしが近付くと中を駆け抜けて逆側から顔を出す遊びにハマっているタロ君に聞いてみる。
あー、もう! 可愛いよー! この遊びしてるところも動画配信したいんだけど、どうやって撮ればこの可愛さが伝わるんだろう。
ちなみに動画のチャンネル登録数は一万を越えました。イエー、広告収入が見えてきた!
「ん。マスターが行くなら行くぞ」
押し入れから出てきたタロ君を抱き上げて『転移』。
留守はゴーストのウメ子達に頼んでいる。
次の瞬間、いつものボス部屋のステージに立ったわたしは首を傾げた。
「……なんかいい匂いがするね」
タロ君は顔を上げて、辺りをふんふんしている。
「ああ、スライムの花が咲いたみたいだぞ」
「スライムの花か。……え? スライムって花が咲くの?」
驚きのあまり天井を見上げて、一瞬で後悔する。
ハスの花は平気だったんだけど、ダンジョンの天井を覆うスライムの集団には集合体恐怖症を発症せずにはいられない。
あのね、無機質じゃなくってね、いかにも生き物でぷるぷるしてるのが無数にいるところがね、なんかね、すごくね……あー、鳥肌立つ!
ダンジョンは天井が高いので、スライムの群れに鳥肌が立っただけで咲いている花までは確認できなかった。
でも言われてみれば、鼻孔をくすぐるほのかな香りは頭上から降りてきている気がする。
……スライムってドロップ品がないって言われてなかったっけ?
腕の中のタロ君が目を瞑り、ダンジョンマザーツリーのデータベースにアクセスした。
「スライムには花が咲く。花が咲くのは異世界でも珍しかった。花が咲く前の葉の状態で薬草として収穫されていたからな」
「そうなの? 花が咲くと薬草として利用できないとか?」
「んーん。花が咲いたほうが薬効は高まる。しかし花の匂いがモンスターを引きつけてしまうのだ。だからモンスターに食われる前に収穫されていた」
「薬草と下級モンスターのコア一個でポーションが十瓶作れるんだっけ?」
ポーションはガラス風の瓶に入った状態でドロップするのだが、実は魔法使いが作成したときも瓶に入った状態で出現するらしい。
中身のポーションを飲み干すと消えてしまう瓶は魔力の結晶でできていて、飲む人間の魔力の流れを感知してポーションの効力を調整している。
ダンジョンの施設と同じように電池スペーサー的な役割を果たす、ポーションの一部なのだそうだ。
「そうだぞ。ポーションは薬草に含まれる薬効をモンスターコアの魔力でコピーし増量したもの。薬効の強い花を使えば、最初からミドルポーションが作れるはずだ」
「ミドルポーション……軽い状態異常も治せるんだっけ?」
「ん。薬草がスライムの体内で成長するのは、モンスターの体内でポーションが熟成するのを前倒ししているようなものだ。実にまでなればミドルポーションとハイポーションの中間くらいのものが作れるぞ」
「へー」
スライムの実を使えば、ある程度までの欠損なら治せるポーションになるってことか。
とはいえ、この世界にはポーションを作る技術がない。
せっかく花が咲いたのに残念だなあ。
「マスターが欲しいなら、花の咲いたスライムを石礫で落としてやるぞ」
「ああ、いいよ。今日は苺を作りに来ただけだから」
「苺?」
タロ君の黄金の瞳が輝いた。
「うん。ドロップ品目当てにモンスターを倒すような人は限られてるでしょ? 植物魔法を付与した陶器の腕輪を貸し出して自由に果樹を育てられるダンジョンにすれば、いろいろな人が来てくれるかと思って」
訪問者が四百人来ても、わたしとタロ君が生き延びられる日数は年単位で増えたりしない。なにかあって訪問者が来なくなれば、あっという間にDPは尽きてしまう。
抜本的な改革が必要だと感じたのだ。
もっとも考えてはみたものの、実現可能な案だとは思っていない。植物魔法を付与したアイテムコアを用意するのも大変だし、そんなダンジョンどこでどうやって宣伝するんだ。
わたしはタロ君を地面に降ろし、持って来た苺の種を──って、ダンジョンの壁や地面は破壊できないんだった!
結界魔法の付与効果付きのアイテムコアでダンジョン内に安全地帯を作ったどこかの国が農地にできるか実験したがどうにもならなかった、というニュースを聞いた覚えがある。
……ストロベリーポットも持ってくれば良かったな。まあその場合、ダンジョンで促成する意味はなんなの、ってことになっちゃうんだけど。
昨日は葉山家から帰って夕食のチャーハンを食べていたら、故郷の親友から電話があった。
帰省したときには会えるといいな。会ってもダンジョンのことは言わないつもりだけど。
そして本日のDPは──
【現在のDP :675000DP】
【昨日の消費DP: 7000DP】
【※消費DP内訳 ダンジョンコア消費: 1000DP】
【 ダンジョン施設消費: 1000DP】
【 ボスモンスター消費: 3000DP】
【 モンスター消費 : 2000DP(二百体分)】
【昨日の生産DP:400000DP】
【※生産DP内訳 訪問者生産:400000DP(四百体分)】
うん、多い。なんか多い。
昨日は六時間ごとに訪問者が百人来てたんだよね。
一昨日ゴーストを作ったからか、いつモンスターが増えても万全の態勢で対応できるよう人員を増やして小まめに交代するようになったみたい。
675000DPか。
特別なこと(モンスター作成とかドロップ品設定とか)しなければ、一日7000DPの消費で、どれくらい生き延びられるのかな?
スマホの電卓で確認してみる。……九十六日か。
「タロ君、ダンジョン行く?」
押し入れの襖の端から顔を出し、わたしが近付くと中を駆け抜けて逆側から顔を出す遊びにハマっているタロ君に聞いてみる。
あー、もう! 可愛いよー! この遊びしてるところも動画配信したいんだけど、どうやって撮ればこの可愛さが伝わるんだろう。
ちなみに動画のチャンネル登録数は一万を越えました。イエー、広告収入が見えてきた!
「ん。マスターが行くなら行くぞ」
押し入れから出てきたタロ君を抱き上げて『転移』。
留守はゴーストのウメ子達に頼んでいる。
次の瞬間、いつものボス部屋のステージに立ったわたしは首を傾げた。
「……なんかいい匂いがするね」
タロ君は顔を上げて、辺りをふんふんしている。
「ああ、スライムの花が咲いたみたいだぞ」
「スライムの花か。……え? スライムって花が咲くの?」
驚きのあまり天井を見上げて、一瞬で後悔する。
ハスの花は平気だったんだけど、ダンジョンの天井を覆うスライムの集団には集合体恐怖症を発症せずにはいられない。
あのね、無機質じゃなくってね、いかにも生き物でぷるぷるしてるのが無数にいるところがね、なんかね、すごくね……あー、鳥肌立つ!
ダンジョンは天井が高いので、スライムの群れに鳥肌が立っただけで咲いている花までは確認できなかった。
でも言われてみれば、鼻孔をくすぐるほのかな香りは頭上から降りてきている気がする。
……スライムってドロップ品がないって言われてなかったっけ?
腕の中のタロ君が目を瞑り、ダンジョンマザーツリーのデータベースにアクセスした。
「スライムには花が咲く。花が咲くのは異世界でも珍しかった。花が咲く前の葉の状態で薬草として収穫されていたからな」
「そうなの? 花が咲くと薬草として利用できないとか?」
「んーん。花が咲いたほうが薬効は高まる。しかし花の匂いがモンスターを引きつけてしまうのだ。だからモンスターに食われる前に収穫されていた」
「薬草と下級モンスターのコア一個でポーションが十瓶作れるんだっけ?」
ポーションはガラス風の瓶に入った状態でドロップするのだが、実は魔法使いが作成したときも瓶に入った状態で出現するらしい。
中身のポーションを飲み干すと消えてしまう瓶は魔力の結晶でできていて、飲む人間の魔力の流れを感知してポーションの効力を調整している。
ダンジョンの施設と同じように電池スペーサー的な役割を果たす、ポーションの一部なのだそうだ。
「そうだぞ。ポーションは薬草に含まれる薬効をモンスターコアの魔力でコピーし増量したもの。薬効の強い花を使えば、最初からミドルポーションが作れるはずだ」
「ミドルポーション……軽い状態異常も治せるんだっけ?」
「ん。薬草がスライムの体内で成長するのは、モンスターの体内でポーションが熟成するのを前倒ししているようなものだ。実にまでなればミドルポーションとハイポーションの中間くらいのものが作れるぞ」
「へー」
スライムの実を使えば、ある程度までの欠損なら治せるポーションになるってことか。
とはいえ、この世界にはポーションを作る技術がない。
せっかく花が咲いたのに残念だなあ。
「マスターが欲しいなら、花の咲いたスライムを石礫で落としてやるぞ」
「ああ、いいよ。今日は苺を作りに来ただけだから」
「苺?」
タロ君の黄金の瞳が輝いた。
「うん。ドロップ品目当てにモンスターを倒すような人は限られてるでしょ? 植物魔法を付与した陶器の腕輪を貸し出して自由に果樹を育てられるダンジョンにすれば、いろいろな人が来てくれるかと思って」
訪問者が四百人来ても、わたしとタロ君が生き延びられる日数は年単位で増えたりしない。なにかあって訪問者が来なくなれば、あっという間にDPは尽きてしまう。
抜本的な改革が必要だと感じたのだ。
もっとも考えてはみたものの、実現可能な案だとは思っていない。植物魔法を付与したアイテムコアを用意するのも大変だし、そんなダンジョンどこでどうやって宣伝するんだ。
わたしはタロ君を地面に降ろし、持って来た苺の種を──って、ダンジョンの壁や地面は破壊できないんだった!
結界魔法の付与効果付きのアイテムコアでダンジョン内に安全地帯を作ったどこかの国が農地にできるか実験したがどうにもならなかった、というニュースを聞いた覚えがある。
……ストロベリーポットも持ってくれば良かったな。まあその場合、ダンジョンで促成する意味はなんなの、ってことになっちゃうんだけど。
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