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一匹目!

21・モフモフわんこはゴーストが欲しい。

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 ダンジョンマスター生活四日目。

「……疲れたね」
「……わふう……」

 目覚めるなりかかってきた母からの電話がやっと終わり、わたしとタロ君は溜息をついた。
 動画見たわよ、から始まって、タロ君の声が聞きたい、電話しながらでもノートパソコンからなら写メ送れるでしょ、などなど延々三十分続いた会話は、一刻も早く帰省しなさいという言葉で終わりを告げた。

 ああ、お腹減った。朝ごはん作んなきゃ。
 でも夜の間にメール来てるみたいだから、まずは返信しよう。
 スマホを弄るわたしの膝に、タロ君が座って見上げてくる。

「マスター、実家に帰るのか?」
「夏休みだし帰る気はあるんだけど、ダンジョンがね」

 昨日はBBQを優先してしまったが、帰省となると一日では終わらない。
 アパートが建っているこの辺りは、港のある隣町のためのベッドタウンだ。
 うちの実家はこの町から電車を乗り継いで隣町の港へ行き、フェリーに乗った先。こことはべつの県なのだ。

「吾、ダンジョンでお留守番してようか? 人間が死にかけていたら『大地の祝福』をかけたらいいか?」

 タロ君の魔法スキル『大地の祝福』はHP全回復、欠損、状態異常も治せる上に広範囲に効果がある回復系の最高級スキルだ。エリクサー並みかも。
 ……でも、わたしがトイレに行くたびに寂しげに鳴いて縋るタロ君がダンジョンでお留守番なんかできるのかな?
 そんな疑問を抱いたが、追究すると可哀相な気がしたので口には出さなかった。


「ダメだよ。お母さん達が会いたいのは、わたしじゃなくてタロ君なんだもん」

 むしろわたしが帰らなくても、タロ君だけ行ったほうが喜ぶかもしれない。
 卯月家の人間は、お兄ちゃんを除いて犬好きだ。
 お兄ちゃんにしても犬より猫派なだけで犬が嫌いなわけではない。姪の歌音とお義姉さんは超犬好きだしね。

「帰省の間だけでも実家をホームに設定できないかな?」

 そうしたら気軽にダンジョンへ行って帰れる。
 わたしはステータスボードを開いた。
 DPを確認するついでに、ホームを変更できるかどうか説明書を見てみよう。

【現在のDP  :209000DP】
【昨日の消費DP:  6000DP】
【※消費DP内訳 ダンジョンコア消費:1000DP】
【        ダンジョン施設消費:1000DP】
【        ボスモンスター消費:3000DP】
【        モンスター消費  :1000DP(百体分)】
【昨日の生産DP:135000DP】
【※生産DP内訳 訪問者ビジター生産:135000DP(百三十五体分)】

「……ん?」

 わたしは現在のDPを表す数字を指で辿った。

「一、十、百、千……209000二十万九千? 初期値より増えてる? え? なんで百人も来てるの? DSSSって社員多い? 日本中のダンジョンの調査をするんだからこれくらいで普通?」
「……マスター……」

 驚いているわたしに、真剣な表情をしたタロ君が呼びかけてきた。

「なぁに? あ、ごはんまだだったね! 今日はなににしようか。A5肉の残り少しもらっちゃったから牛丼にしてみようか。うちの牛丼はお汁少な目、シャキシャキキャベツの上に甘辛く煮たお肉を載せるタイプだよ」
「違うのだ。……マスター」
「うん……?」
「DPがたくさんあるのなら、ゴーストを作りたいのだ」
「ゴースト?」

 聞き返すと、タロ君はこくんと頷いた。
 すごく可愛いけど、今スマホで写真撮ったら怒られるだろうな。

「ゴーストは魔法スキル『隠密』を持っている。種族特性で、ゴーストの『隠密』はMP消費が少なく稼働時間も長い。ほとんど常時発動パッシブスキルのようなものなのだ」

 ゴーストに『隠密』を使わせて人間の目から隠し、わたしが必要とする場所に置いておけば、『転移』するときの目印ポイントになるのではないかという。
 確かに前もモンスターがいるところならダンジョンと見なせるって言ってたね。

「危なくないの?」
「ゴーストは最初から頭が良いし、マスターが名前を付ければさらに良くなる。きちんと命令を守れるだろう。どこにいてもDPは消費してしまうし、なにかあったときはダンジョンでリポップすることになるのだが」
「うーん……」
「魔法スキル『弱体化』を使えるゴーストは密かに護衛をすることができる。大家と春人と冬人、そして歌音の護衛のために三体だけ召喚するといいのだ」

 タロ君の食事用のプラスチック皿が歌音へのお土産の予定だったことをなんの気なしに話してから、彼はまだ見ぬ歌音わたしの姪のことをとても気にするようになった。

「マスターが転移するときは護衛対象から離れるよう吾が伝えるのだ」
「……五体は無理?」
「マスターがいいのなら何体でもいいのだ。マスターとネットを見ていたら、ダンジョンの外も事故や事件で大変そうだったからな。群れの仲間は守ってやりたいのだ。でも吾はマスターしか守れない。ゴーストを護衛につけておけば、ゴーストの手に余るときだけ吾に連絡させれば良くなるのだ」
「ゴーストがずっと側にいても人間に害はないの?」
「大丈夫なのだ」

 五体とは、大家さんと葉山家、実家に乙女ちゃんと故郷の親友をプラスした分である。
 友達はもう数人入れたいところだが、この世界にモンスターをあふれさせるわけにもいかないので、家族と親友までにすることにした。

「じゃあダンジョンに行ってゴースト作ろうか」
「……牛丼は?」

 あ、ちゃんと聞いててくれたんだ。
 それからわたしは冷凍ご飯を解凍して牛丼を作り、タロ君と一緒に食べた。
 適当な料理に使ってもA5牛肉って美味っ!
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