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一匹目!
18・モフモフわんこは野性的(ワイルド)
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タロ君が細長いジャーキーを自力で噛み千切れるというのでそのまま差し出すと、鼻の付け根に皺を寄せて噛み千切った。
猫派は猫の小悪魔な態度が好きだけど、犬派は犬がときどき見せる野性味を好むことが多い気がする。
というか、わたしは好き。
「がうー……がふっ!」
タロ君は、ときどき唸りながらジャーキーを噛み千切って食べていく。
カッコいい。
一本食べ終わって口の周りを舐めているタロ君に、新しいジャーキーを用意しながら聞いてみる。
「ジャーキー食べてるタロ君カッコいいから動画で撮っていい?」
「ん? いいのだ」
「友達や実家の家族に動画送りたいから、撮り終えるまでしゃべるの我慢してもらっていい? 唸るのは全然いいんだけど」
編集なんて高度な真似、わたしにはできない。
「お安い御用なのだ。そもそも今もしゃべりながら食べてなかったしな!」
「そうだね!」
片手でスマホを用意して、もう一方の手でジャーキーを差し出す。
「よしって言うまで待てだよ」
「わふ!」
うちの犬は賢い。
わたしのほうはそれほど賢くないので、スマホの設定に少々手間取ってしまう。
ネットの動物動画はよく見るものの、自分で撮るという発想はなかった。
「これでいい……はず? 失敗したら乙女ちゃんに連絡してやり方聞いてみよう」
いつも見事な自撮りをSNSに上げている大学の友達乙女ちゃんのことを思う。
スイーツはもちろん山盛りのタピオカでさえ撮った後で全部平らげる、良き映え族の女の子だ。
量は多いけど不味くて有名な学食の特製ラーメンもよく食べてるから、単に食いしん坊なだけかもしれないが。
「とにかく、よし!」
タロ君に合図して撮影を開始する。
……撮れてるよね? これちゃんと撮れてるよね?
静止画でも上手く行かないときあるからなあ。昨日から山ほどタロ君を撮ってるから、少しは上達してるといいんだけど。
「がうっ!」
鼻の付け根に皺を寄せた黒い豆柴が、細長いジャーキーを短くしていく。
たまに挟まれる野性の唸り声が凛々しい。
「がふがふっ!」
いつもとはまるで違う野性的な声を響かせてジャーキーを食べ終わったタロ君は、美味しい顔で口の周りを舐めた。
「わふっ!」
「はい、綺麗に食べれましたー」
普段の可愛い声でごちそう様をしたタロ君の頭を撫でて、撮影を終了する。
「マスター見せて!」
「うん、一緒に見よう!」
うつ伏せになったわたしの胸の下にタロ君が入り、一緒に動画を確認する。
タロ君の声が画面から流れ出す。
『がうっ! がふがふっ! がふふっ!』
「……ほほう」
「タロ君のカッコいいとこ撮れたね」
「んー。吾はいつでもカッコいいのだ」
「そうだね」
わたしは再生を終えたスマホを畳に置いて、カッコ可愛いタロ君を両手でモフモフした。
「きゃふー♪……ん?」
「ごめん、痛かった?」
突然玄関の扉を見つめたタロ君に尋ねると、彼は念話で答えた。
(春人と冬人なのだ。それとだれか男もいる)
(葉山家のお父さんかな。昨日日曜日だったから、たぶん今日お休みのはず)
ハル君とふー君のお父さんも動物好きらしいから見に来たのかな。
ノックかインターホンを待っていたら、玄関の扉にある郵便受けの窓が開いた。
新聞を取っていないし、友達や家族とはメールやチャット中心なので郵便受けの窓の下には袋をつけていない。
──カタン。
小さな手が差し出した封筒は、土間に落ちて乾いた音を立てた。
「こんにちは、ハル君ふー君。お手紙ありがとう」
「きゃっ!」
「ハルちゃん起きてたの?」
「起きてたよー」
扉の向こうとしゃべりながら、玄関へ向かう。
手紙自体は、
「わふわふ!」
風のように走って行ったタロ君がくわえて来てくれたのを受け取った。
玄関の扉を開けてハル君達と顔を合わせる前に、封筒を開いて便箋を広げる。
それはお食事会への招待状だった。
「夕方になったら駐車場でBBQするのね。……『えーごのおにく』? ミート?」
(……meat?)
わたしの言葉を念話で繰り返して、タロ君は首を傾げた。
ダンジョンマザーツリーのデータベースにアクセスしたのか、頭に響いた発音も綴りも完ぺきな気がする。
仕草も可愛かったので、手紙を運んでくれたお礼も兼ねてタロ君をなでなでしまくるわたしであった。
猫派は猫の小悪魔な態度が好きだけど、犬派は犬がときどき見せる野性味を好むことが多い気がする。
というか、わたしは好き。
「がうー……がふっ!」
タロ君は、ときどき唸りながらジャーキーを噛み千切って食べていく。
カッコいい。
一本食べ終わって口の周りを舐めているタロ君に、新しいジャーキーを用意しながら聞いてみる。
「ジャーキー食べてるタロ君カッコいいから動画で撮っていい?」
「ん? いいのだ」
「友達や実家の家族に動画送りたいから、撮り終えるまでしゃべるの我慢してもらっていい? 唸るのは全然いいんだけど」
編集なんて高度な真似、わたしにはできない。
「お安い御用なのだ。そもそも今もしゃべりながら食べてなかったしな!」
「そうだね!」
片手でスマホを用意して、もう一方の手でジャーキーを差し出す。
「よしって言うまで待てだよ」
「わふ!」
うちの犬は賢い。
わたしのほうはそれほど賢くないので、スマホの設定に少々手間取ってしまう。
ネットの動物動画はよく見るものの、自分で撮るという発想はなかった。
「これでいい……はず? 失敗したら乙女ちゃんに連絡してやり方聞いてみよう」
いつも見事な自撮りをSNSに上げている大学の友達乙女ちゃんのことを思う。
スイーツはもちろん山盛りのタピオカでさえ撮った後で全部平らげる、良き映え族の女の子だ。
量は多いけど不味くて有名な学食の特製ラーメンもよく食べてるから、単に食いしん坊なだけかもしれないが。
「とにかく、よし!」
タロ君に合図して撮影を開始する。
……撮れてるよね? これちゃんと撮れてるよね?
静止画でも上手く行かないときあるからなあ。昨日から山ほどタロ君を撮ってるから、少しは上達してるといいんだけど。
「がうっ!」
鼻の付け根に皺を寄せた黒い豆柴が、細長いジャーキーを短くしていく。
たまに挟まれる野性の唸り声が凛々しい。
「がふがふっ!」
いつもとはまるで違う野性的な声を響かせてジャーキーを食べ終わったタロ君は、美味しい顔で口の周りを舐めた。
「わふっ!」
「はい、綺麗に食べれましたー」
普段の可愛い声でごちそう様をしたタロ君の頭を撫でて、撮影を終了する。
「マスター見せて!」
「うん、一緒に見よう!」
うつ伏せになったわたしの胸の下にタロ君が入り、一緒に動画を確認する。
タロ君の声が画面から流れ出す。
『がうっ! がふがふっ! がふふっ!』
「……ほほう」
「タロ君のカッコいいとこ撮れたね」
「んー。吾はいつでもカッコいいのだ」
「そうだね」
わたしは再生を終えたスマホを畳に置いて、カッコ可愛いタロ君を両手でモフモフした。
「きゃふー♪……ん?」
「ごめん、痛かった?」
突然玄関の扉を見つめたタロ君に尋ねると、彼は念話で答えた。
(春人と冬人なのだ。それとだれか男もいる)
(葉山家のお父さんかな。昨日日曜日だったから、たぶん今日お休みのはず)
ハル君とふー君のお父さんも動物好きらしいから見に来たのかな。
ノックかインターホンを待っていたら、玄関の扉にある郵便受けの窓が開いた。
新聞を取っていないし、友達や家族とはメールやチャット中心なので郵便受けの窓の下には袋をつけていない。
──カタン。
小さな手が差し出した封筒は、土間に落ちて乾いた音を立てた。
「こんにちは、ハル君ふー君。お手紙ありがとう」
「きゃっ!」
「ハルちゃん起きてたの?」
「起きてたよー」
扉の向こうとしゃべりながら、玄関へ向かう。
手紙自体は、
「わふわふ!」
風のように走って行ったタロ君がくわえて来てくれたのを受け取った。
玄関の扉を開けてハル君達と顔を合わせる前に、封筒を開いて便箋を広げる。
それはお食事会への招待状だった。
「夕方になったら駐車場でBBQするのね。……『えーごのおにく』? ミート?」
(……meat?)
わたしの言葉を念話で繰り返して、タロ君は首を傾げた。
ダンジョンマザーツリーのデータベースにアクセスしたのか、頭に響いた発音も綴りも完ぺきな気がする。
仕草も可愛かったので、手紙を運んでくれたお礼も兼ねてタロ君をなでなでしまくるわたしであった。
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