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一匹目!

8・モフモフわんこを大家さんに紹介するよ!

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 わたしはタロ君を抱いて、玄関の扉を開けた。

はるちゃん、帰ってたの?」

 外には大家さん。玄関開けたら五秒で大家さん。
 心配そうな顔をして、わたしを見つめてくる。
 そりゃそうだ。

「ごめんなさい、大家さん。うるさかったですか?」

 部屋がお隣だし、大家さんは暑くても外で作業していることが多いので、出入りのときは大体顔を合わせている。
 出かけたきり帰ってこない店子の部屋から物音がしたら怖いよね。
 わたしの謝罪を聞いた大家さんは、なんだか驚いたような顔をした。

はるちゃん、今日はコンビニの帰りに公園を通らなかったの?」
「え? えーと……」

 繁華街の入り口にあるコンビニからアパートのある住宅地へ戻るとき、わたしはいつもあの公園を通る。
 実家近くの公園に似ているから、懐かしさでほっこりした気分になれるのだ。
 でも今日は──ダンジョンコアの植木鉢にされたなんてこと、言えないしなあ。

「テレビは観てないの? ああ、はるちゃんはテレビ持ってなかったわね。パソコンやスマホも見てない?」
「なにかあったんですか?」

 大家さんは不安げに視線を落とし、小声で囁くように言った。

「……公園にダンジョンができたのよ……」
「ダンジョン、ですか」

 腕の中のタロ君に目をやると、彼はこくりと頷いた。

 わたしのダンジョンは公園にできていたらしい。
 公園をひと回り小さくすると、ちょうどボス部屋とエントランスを合わせたくらいの大きさになる。
 あのときダンジョンコアに入り込まれて、意識を失い倒れたわたしを囲むようにしてダンジョンができたのだろうか。

「地面が盛り上がって丘みたいになってるの。生えていた木々や置いてあったベンチなんかはオブジェみたいに外壁に埋まってたわ」
「見に行かれたんですか?」
「あなたが公園を歩いてたんじゃないかと思って心配でね。封鎖してたお巡りさんにもお尋ねしたのよ。巻き込まれた人はいないって言われたんだけど、明日調査員が来るまでは中のことはわからないじゃないねえ?」
「明日調査会社が来るんですか!」

 ダンジョンの調査会社は、今のところ日本に一社しかない。
 各都道府県にひとつあるかないかのダンジョン数で、最初の調査と定期検査くらいしかすることがないため同業者が生まれないのだ。
 とはいえ入念な準備が必要だろうに、ダンジョンができた翌日に調査しに来るなんて。

「そうよ。だから安心してくださいってお巡りさんが言ってたわ。住宅地にダンジョンができるなんて世界でも初めてのことらしいわよ」
「あ、そっか。そうですよね」

 これまでのダンジョンは人気のない場所にのみ出現している。
 山奥にできたものなどは数ヶ月存在に気づかれない場合もあった。
 住宅地に初めてできたダンジョンなんて、近所の人間からしたら恐怖でしかない。

「モンスターはダンジョンから出られないと言われても、ねえ?」
「……そうですよねー」

 腕の中の黒いモフモフをそっと見つめ、心の中で問いかける。

(タロ君は人間を襲ったりしないよね?)
(しないのだ。でもマスターが襲われたら守るぞ!)
(ありがとう)

「あら。……子犬? 豆柴の成犬かしら?」

 わたしの視線の動きを追ったのか、大家さんがタロ君に気づいた。

「はい、そうなんです。事情があってもらって来たんですが……飼ってもいいですか? 事後承諾で申し訳ありません」
「もちろんよ。うちはペット可なのに、だれも飼ってくれないから残念に思ってたの。まあペットを飼えるくらい余裕のある人は、うちみたいな古いアパートじゃなくて、もっと良いところに住むわよねえ?」
「わたしはこのアパート好きです」
「うふふ、ありがとうねえ。……お名前は?」
「タロ君です」
「わふ!」
「良いお名前ねえ」

 動物が大好きだけど、年齢的に飼うことを諦めている大家さんはタロ君を見て目を細めた。

「触っても?」
「どうぞどうぞ」
「わふわふ」
「あらまあ、触り心地のいい子ねえ」

 大家さんに撫でられて、タロ君も目を細めた。

(マスター)
(なぁに?)
(この人間はマスターを大切に思っているから、吾はこの人間が好きなのだ)
(わたしも大家さん好きだよ)

「ふふふ。ご実家のサクラちゃんのことがあってから落ち込んでたみたいだけど、はるちゃんが元気になったようで良かったわ」
「ありがとうございます」

 ……DPが0になったらお終いなんですけどね。
 ペットを飼う上での注意事項をいくつか確認された後、大家さんと別れて部屋に戻った。
 このアパートは二階建て六部屋のうち一階の三部屋(しかもひとつは大家さんの部屋)しか埋まっていないけれど、繁華街に複数の駐車場を持つ大家さんの生活は安定しているという話である。
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