傲慢令嬢にはなにも出来ませんわ!

豆狸

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第一話 三度目の私

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「ガルシア侯爵令嬢サンドラ! 私、王太子フラカソは君との婚約を破棄する! 私には愛する女性ドロルがいるからだ! そうでなくてもガルシア侯爵家に伝わる治癒魔法の力を盾に身勝手な我儘を振りかざす君は王太子妃に相応しくない! たとえ王太子妃になったとしても君のような傲慢令嬢にはなにも出来ないだろうからなっ!」

 あらあら。
 この国の貴族子女が通う学園の卒業パーティで、婚約者である王太子フラカソ殿下に婚約破棄されてしまいましたわ。
 ちなみに殿下の愛する女性ドロルさんは下町の食堂の娘さんなので、この場にはいらっしゃいません。

「かしこまりましたわ、フラカソ王太子殿下」

 私は殿下にお辞儀をして、卒業パーティの会場から立ち去りました。
 人生に一度の機会なのにもったいない?
 いえいえ。実は私、三度目の人生なんですの。死ぬたびに時間が巻き戻っているのですわ。

 どうしてそんなことが出来るのか、ですって?
 私にもはっきりとはわかりませんの。
 もしかしたら私が生まれたときにガルシア侯爵家へ祝いに来てくださった、三人の老婆の祝福のおかげかもしれませんわ。ガルシア侯爵家の治癒魔法の力で家族を救われたことへのお礼のつもりだったのでしょうね。

 通常は料金をいただいて治癒魔法を使うのですけれど、その老婆の家族のときは領地全体に疫病が流行っていたので一族が総出で治癒魔法を行使したんですの。
 もちろん無償で、ですわ。
 自領のことですものね。

 フラカソ殿下は王太子妃になるのだから、すべての国民に無償で治癒魔法を与えろなんておっしゃるんですのよ?
 それって患者のことは気遣っていますけれど、治癒魔法の使い手のことは全然考えていない発言じゃありませんこと。
 治癒魔法を持って産まれたからといってお腹が減らないわけではないし、生きていくためのお金は必要なのですわ。

「……」

 帰りの馬車の中、私は自分の中にあった殿下への想いが綺麗さっぱり消え去っていることを感じていましたわ。
 一度目の人生で処刑されたときは、殿下に愛されなかったことが悲しくて仕方がなかったのですのにね。
 あのときは婚約破棄された後も泣きながら王都の侯爵邸へ戻りましたわ。

 そう、一度目の人生のときの私は処刑されましたの。
 殿下が愛するドロルさんのご一家を皆殺しにした罪で、ですわ。
 言っておきますが冤罪ですわよ。王太子殿下の寵愛を得た後ろ盾のない平民娘の排除ごときにガルシア侯爵家が手を下す必要はありませんもの。あのときは、きっと……

 でも当時の私は残念ながらフラカソ王太子殿下を愛しておりましたの。
 ですから処刑後に時間が戻って学園の卒業式の一年前から二度目の人生が始まったとき、私は殿下に愛される人間になろうと思いましたの。
 ドロルさんを参考にして、優しくて思いやりがあって天真爛漫で無邪気な……要するに身勝手で我儘な傲慢令嬢ではなくなりましたのよ。

 二度目の人生はどうだったか?
 ……最悪でしたわ。
 フラカソ殿下には愛していただけましたの。もともと殿下は私の顔と身体カラダは大好きでしたからね、扱いやすい性格になって見せればイチコロでしたわ。

 ところが私は、本当の自分を押し殺した嘘の自分で愛されて幸せになれる人間ではありませんでしたの。
 優しくて思いやりのある人間と見れば擦り寄ってきて、食いものにする屑どもも集まって来ましたしね。
 二度目の人生の私は殿下の妃にはなれましたけれど、本当の自分を押し殺して生きる苦しみの中、治癒魔法の使い過ぎで死んでしまいましたわ。ガルシア侯爵家で一番強い魔力の持ち主で優れた治癒魔法の使い手と持て囃されていた私でも、魔力を使い果たしたら代わりに生命力を使って死んでしまうのは当たり前のことですもの。

 三度目の私は身勝手で我儘な傲慢令嬢であることを辞めるつもりはありませんわ。
 一度目のドロルさんの件は、一応手を打ってあります。
 二度目のときも手を打っていたのですが、そもそも私に夢中になったフラカソ殿下がドロルさんへの関心を失ったので、下町の自警団に支払った報酬を無駄にしてしましたわ。まあ今回はまた婚約破棄されたことですし、冤罪で処刑されるのも嫌なので、引き続き自警団にお願いしておきますけれどね。

 優しい人間を弱いと見て食いものにする屑どもが近寄れないくらいの傲慢さで!
 自領の繁栄と領民の幸せをなにより最優先する身勝手さで!
 言葉尻を取られて勝手な解釈をされないよう自分の欲望をはっきり口にする我儘さで!

 三度目の人生を生き抜いて見せますわよ、ほーほほっほ!
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