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初めての指名依頼編

33・友情の苺のマカロン

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「マカロンだ!」

 バッドドラゴンのS級魔石から変成された魔石ごはんはピンクのマカロンだった。

 甘酸っぱい香りからすると、苺のマカロンだろうか。
 それにしても……すごく小さい。
 赤い魔石は両手で持たないといけなかったのに、このマカロンは片手で余る。

 ベルちゃんがせっかく持って来てくれたのになあ。
 でもベルちゃんは甘いものが好きだから、喜んでくれるかも。

「ベルちゃん、小さくなっちゃってごめんね」

 マカロンを差し出すと、ベルちゃんは首を横に振った。

「どうしたの?」
「……それは葉菜花が食べて」
「えっ?」

 美味しそうに見えないのかな。

「ベルちゃん、これはマカロンって言ってね、表面がカリッとしていて中身はねっとりしているお菓子なんだよ? 美味しいと思うよ?」
「……うん。とっても美味しそう。だから葉菜花に食べて欲しいの」

 ベルちゃんは頬を朱に染めて俯いた。

「……葉菜花は大事な友達だから、なにか贈り物をしたかったの」

 そこまで言って、慌てた口調で付け足す。

「……大事っていうのは魔石ごはん目当てじゃなくて……もし葉菜花が魔石ごはんを作れなくなっても、私はずっとずっと葉菜花の友達」
「ベルちゃん……」

 気持ちはとっても嬉しかったけど、言われたことで不安になってしまった。
 スキルってなくなることもあるんだろうか。
 この異世界で『異世界料理再現錬金術』が使えなくなったら、わたしにできることはなにもない。どうしたらいいのかな……。

「ひとりだけ良い顔をするな、聖女。葉菜花、俺も貴様の友達だぞ? 確かに貴様の魔石ごはんは役に立つが、こうして縁があって知り合ったんだ。貴様の『異世界料理再現錬金術』スキルがなくなったとて関係は変わらん」
「俺はずっとずっとごしゅじんの使い魔だぞ? 魔石ごはんが食べられなくなったら、不味いダンジョンアントの魔石でも我慢して食べる、ぞ……」

 言いながら、ラケルの口調は暗くなっていった。

 変成しないダンジョンアントの魔石は、ものすごく不味いみたいです。
 アリってそんなに美味しくないの?
 前世で観たテレビかネットの番組では、丸いキャンディみたいになったお腹で蜜を蓄えてるアリがいたと思うんだけど。

「一度解放されたスキルがなくなったという話は聞いたことがないがな。レベルが上がることで威力が増して扱いづらくなるというのはあっても、その場合はレベルを落として発動すればいいだけだ。葉菜花を不安にさせるな、バカ聖女」
「……葉菜花、ごめん」
「ううん。スキルのことよく知らないから、説明してもらえて却って良かったよ」

 知らないことが多過ぎるから、なにから聞いたらいいかわからないのよね。
 よく言う、わからないことがわからない状態だもの。
 シオン君とベルちゃんが少しずつ教えてくれて、本当に良かった。

 わたしは手の中のピンクのマカロンを見た。
 ラケルがふんふん鼻を鳴らす。

「美味しそうだぞ」
「そうだねー。……ベルちゃん、本当にもらっていいの?」
「いい」

 おおっ! いつものもなしで答えられちゃったよ。

「じゃあ四等分して、みんなで食べようか。わたし、このお菓子好きだから、みんなにも美味しさを知ってもらいたいな」
「ダメだ」

 わたしの提案は、シオン君に一刀両断された。

「切り分けると付与効果がなくなってしまう。これまでは、あとは寝るだけの状態だったから止めないでいたけれど、ひとり用として作ったものをラケル殿と半分こしたときも付与効果はなくなっていたぞ。多く作ってそれぞれが取り分けたときは大丈夫だったが」
「そうなの?」
「そうだぞ」
「ラケル気づいてたの?」
「ふんふんしたら、魔石ごはんにどんな付与効果があるかもわかるぞ」
「そうなの!」
「うむ」

 知らなかった。
 さすが神獣ケルベロス様の息子。
 チートわんこラケル!……べつにチートズルってわけじゃないか。

「名前とか効き目が続く時間とかはわからないけどな」

 わんこだもんね。

「このマカロンは……食べると強くなるぞ!」

 ……どのステータスが上がるのかはわからないのかな?

「その通りだ、ラケル殿。その苺のマカロンは攻撃力と火系魔術の威力、火属性耐性が上昇する。火属性なのに甘いのは不思議だが、色が火属性の表れなのだろう。そして……この魔石ごはんは効力が及ぶ時間が限られていない。一度食べれば永続的に効果が持続するようだ」
「そ、そんなにすごいの? はあ……S級魔石ってすごいんだ」
「ドラゴンは強くて美味しいからな」

 もしかしてラケル、自力でバッドドラゴン倒して魔石を食べたのかな?
 うちのわんこは最強です?

「えっと……そういうことなら食べられないよ。ベルちゃんの気持ちは嬉しいけど、そんなにすごい付与効果があるんなら、ベルちゃんに食べてもらいたいな」

 ベルちゃんは頷いてくれなかった。

「……だったら余計に葉菜花が食べるべき」
「聖女もたまには良いことを言う。この部屋で一番弱いのは葉菜花だ。貴様が食べてステータスを上昇させろ」
「ベルがごしゅじんにくれたんだから、ごしゅじんが食べればいいんだぞ?」

 神獣ケルベロス様の息子ラケルは、聖女様も呼び捨てです。

「うーん……わかった。いただきます」

 みんなに見つめられて、わたしは決意した。……食べよう。
 確かにわたしは弱いんだよね。弱いというか、戦闘力がかけらもない。
 どれだけステータスが上がるかわからないけど、耐性も上がるし、うん。

 ──カリッ。

「美味しい。デパ地下で買ってたのに似てるけど……できたてみたい」

 サクサク、ねっとり、口の中に広がる苺の香り。
 甘いだけじゃなくて苺の酸っぱさがあるから後味がすっきりしてる。

「はあ……ごちそう様でした。ベルちゃん、ありがとう」
「……良かった」

 わたしを見つめて、シオン君が笑みを浮かべる。
 口の端にかけらが残ってた?
 慌てて指で拭ったが、なにもついていなかった。

「ふん。さっきは言わなかったが、苺のマカロンには魅力を上昇させる付与効果もあった。どうなることかと心配していたものの、さほど前と変わらないな」
「ええっ!」

 攻撃力、火系魔術の威力、火属性耐性だけでなく、魅力まで永続的に上昇したの?
 やっぱりベルちゃんに食べてもらったほうが良かったんじゃないのかな。
 ベルちゃんはラトニーの聖女なんだし。

 後悔しながらシオン君を見ると、彼はサファイアの瞳にわたしを映して言う。

「まあ貴様は元々可愛いから、少々魅力が上がっても変わらないのだろう」
「ふえっ?」

 シ、シオン君いきなりなにを? からかわれてるの?
 王子様ジョーク? 貴族社会で女性を扱うときの礼儀作法を発動させてるの?
 ベルちゃんが頷いた。

「……うん。葉菜花は可愛い」
「ごしゅじんは可愛いぞー!」

 なんなの、これ! 褒め殺し? わたし褒め殺されちゃうの?

「……そっ、そんなお世辞言わなくても魔石ごはんは作るから安心して!」
「世辞ではないのだがな」
「……うん。葉菜花は本当に可愛い」
「ごしゅじん可愛いぞー」
「ラケルお皿出して」
「はぁい」

 わたしはラケルに出してもらったお皿に、ダンジョンアントの魔石を山ほど出した。
 『異世界料理再現錬金術』で──焼きそば! お好み焼き! たこ焼き!
 名付けてソース三銃士を変成する。

「……いい匂い」
「美味そうだな」
「わふー!」
「この丸いたこ焼きは中のほうが熱いから、最初は崩して食べてね」

 凶悪なソースの香りに引き付けられて、みんなわたしを褒め殺すのを諦めたようだ。

 ……ああ、恥ずかしかった。まだ顔が熱いよ。
 でも……お世辞でもちょっと嬉しかったな。
 そしてシオン君、焼きそばを食べても歯に青のりがつかないのってすご過ぎない?

 焼きそばは素早さ上昇、お好み焼きは防御力上昇、たこ焼きは攻撃力上昇です。
 なんとこれも上書きされない組み合わせでした。
 飲み物なくてもいいのかなあ?

 名前はお祭りの出店セットにします。
 ちゃんとメモしておかなくちゃ。
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