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43・訪問者は黒い竜(人間形)

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「……」

 イヴォンヌさんが帰った後、現れたのはユーニウス殿下だった。

「なんだよ。そんなガッカリしたような顔するなよな」

 は! この人、外国の皇子様だった。

「ごめんなさい。おはようございます、ユーニウス殿下」
「おはよう、陽菜。ユーニウスでいいぞ」
「そういうわけにはいきませんよ」
「ん? なんか良い匂いがするな」
「さっきプリン作ったんです。いくつか残ってるので食べますか?」
「おう。馳走になろう」

 カローラさんと一緒に厨房へ入る。

「お茶をお願いします。それと、これ……」
「まれ人様?」
「カローラさんの分。カローラさん、お休みなしで頑張ってくれてるから。本当は体が心配だから定期的にお休みを取ってほしいけど……今は無理なんですよね?」

 カローラさんは別れた恋人に暴力を振るわれて、傷を負っていたことがある。
 元の世界でもストーカーとかいたものね。
 傷はわたしの活性化で治したけど、別れた恋人がどんな状態なのかがわからない。お休みして町へ出るより、王宮で働いていたほうが安全なのかもしれない。この世界にはストーカー禁止法とかなさそうだし。

「ありがとうございます」

 カローラさんは微笑んだ。
 もちろんほかのメイドさんにも感謝してるけど、傷を治したからか、カローラさんはちょっと特別な存在になっていた。
 お茶の用意は彼女に任せて、プリンとスプーンを持って応接室へ戻る。

「おっ、ありがとな。陽菜は食わないのか?」
「さっきイヴォンヌさん……女王陛下と食べたから」

 イヴォンヌさんが友人と言ってくれていても、外国の要人の前では女王陛下と呼んでおいたほうがいいだろう。

「そうか。いただきます」

 ユーニウス殿下は、大きな口を開けてプリンを食べ始めた。
 旅の間、聖騎士団と食事をしていたことを思い出す。
 ルーカスさんは大きく口を開けずに上品な食べ方してたっけ。でも食べる量は多かったな。お酒も浴びるように飲んでた。……酔っぱらうことはなかったけど。

「うん、美味い。卵の味が活きてるな。蜜漬けの木の実も濃厚で味が深い」
「ありがとうございます」

 明日、雌鶏やリス達に伝えておこう。
 可愛いから名前を付けたくなるんだけど、必死で我慢していた。
 元の世界に帰るのを諦めたわけではないし、リスと小鳥はともかく雌鶏は王宮の鶏小屋で飼われてるし、名前付けたらとんでもないことになりそうな気もするし……自意識過剰かな。

 ちょうどユーニウス殿下がプリンを食べ終わったとき、カローラさんがお茶を持ってきてくれた。

「おお、すまないな」

 わたしもお礼を言って、茶碗を手に取る。
 魔導で部屋は暖められているのだが、やっぱりちょっと肌寒い。
 冷たくなっていた指先を茶碗で温めていたわたしを見て、ユーニウス殿下が笑う。

「炬燵に入りたいだろ」
「入りたいですねえ」
「ヒエムス魔帝国に来いよ。餅もあるぞ。俺はチーズ載せて焼いたのが好きだ」

 それは美味しいに決まっている。

「クティノス共和国から輸入した明太子と海苔もある」
「……いいですねえ」

 ぐぬぬ。ユーニウス殿下め。まれ人を誘惑するツボを心得ているな!

「……あの聖騎士となんかあったのか?」
「え?」
「アイツと庭に出てから、なんか様子がおかしいぞ。向こうは向こうでパーティの途中でいなくなったし」
「ナール卿を送りに行かれたんです」
「そうか。もしかして、俺が言ったことのせいで喧嘩でもしたか?」

 ……喧嘩だったら良かったのに。
 喧嘩だったら、ごめんなさい、と謝って仲直りができる。
 魔力に酔ってキスした後は、どうしたら元に戻れるのかわからない。純潔の誓いを立てた聖騎士のルーカスさんからしたら、悪魔に誘惑されて過ちを犯したようなものなんじゃないかな。無意識だったとはいえ……わたしのこと、嫌いになったよね。

「喧嘩したんじゃないんなら、キスでもされたのか?」
「……」
「なんだ、アイツ。そんなことなら俺が、ダンスのとき先にキスしておけば良かった」
「ユーニウス殿下!」
「言っただろ。生まれつきの美人に惚れるのと同じ、まれ人の強い魔力に惚れるのだって真実の恋だ。それに……陽菜は可愛いし、プリンを作るのも上手い。俺が惚れたって構わんだろうが」
「あー……お気持ちは嬉しいです」

 ユーニウス殿下はお茶を飲み干して溜息をつくと、お礼を言って帰っていった。
 ……あれ? なにしに来たんだろ。
 朝の挨拶に来てくれたのかな?
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