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42・まれ人ライフ

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 窓を叩く音で目が覚める。
 知らない天井にもすっかり慣れた。
 今日はお披露目パーティの翌日。各国の要人はまだ逗留しているが、商談や政治的な付き合いがあるため、わたしが顔を合わせることはなさそうだ。

「おはようございます」
「おはよう、カローラさん」

 現代日本の庶民からすると、常にメイドさんが控えている生活は背中がむず痒くなる。
 でもメイドさんはそういうスケジュールで動いているんだし、王宮のシフトの都合もあるから勝手なことは言えないよね。
 たまにプレゼントでもして気分転換してもらうしかないか。目に余るようなことがあったら、イヴォンヌさんに相談しよう。

 ベッドを出て、カローラさんに髪を梳かしてもらう。
 昨夜ほど豪華ではないものの、町娘には見えないドレスに着替える。
 ひとりで着替えたいけど、まだ着方が良くわからない。

 それから、わたしは窓を開けた。

「コケ」

 窓の外には鶏がいる。
 さっき窓を叩いていたのは彼女だ。毎朝起こしてくれる。
 王宮で飼われているこの雌鶏は、わたしが活性化したら飛べるようになったらしい。

「コケッケ」

 彼女は自信満々な顔をして、わたしに卵を差し出してくる。
 無精卵のはずだけど、ちょっと気まずいなあ。

「……コケ?」
「あ、ごめんね。ありがとう」

 お礼を言って受け取り、雌鶏の頭を撫でる。
 気持ち良さそうな顔をしてくれるから嬉しいな。
 彼女の卵をもらうことはイヴォンヌさんに許可を得ているし、王宮用にも一日に数個産んでいるから大丈夫だという。……いいのかな、本当に。一日に数個産むって、すでに鶏じゃなくなってない?

「コケー!」

 満足そうに鳴いて、雌鶏は王宮の鶏小屋へと飛んでいった。
 もらった卵はカローラさんに差し出された籠へ入れる。
 Lサイズ……LLサイズかな?

「キキッ!」

 雌鶏が帰ると、部屋の横の木に住み着いているリスが木の実を持ってきてくれた。

「ぴぴっ」

 リスの後は小鳥達が別の木の実を運んできてくれる。
 どの子もわたしに撫でられるのを気に入ってくれているようだ。
 ……対象には副作用がないってルーカスさんが言ってたから大丈夫だよね? パイチェ君みたいに進化とか……考えないようにしよう。

「うふふ。今日も大量ですね、まれ人様」

 カローラさんの言葉に苦笑で返したとき、ノックの音がした。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「おはよう、陽菜」

 メイドさんに訪問者が来たと告げられて、応接室へ移動する。

「おはようございます、イヴォンヌさん。今日は早いんですね」
「昨夜がパーティだったからな。今朝の朝議はお休みなのだ」

 言いながら、イヴォンヌさんが瓶を出す。ソファに座った彼女の背後には、もちろん白黒の狐執事さん達がいた。
 イヴォンヌさんが出した瓶には、搾りたてのミルクが入っている。
 いつでも腕輪の花から蜜は採れるし、さっき卵ももらった。わたしが借りているこの部屋には小さな厨房もある。普段はカローラさん達がお茶を淹れてくれる場所だ。

「プリン作りましょうか」
「うむ」

 ネット小説の定番通り、この世界に来たまれ人達もプリンを広めていた。
 もっとも卵の安定供給が難しいので、庶民のご家庭で気軽に食べられるというわけにはいかないようだ。
 お茶会でイヴォンヌさんが出してくれる卵のお菓子も高級品なんだよねえ。

 なんとなくモヤモヤするものの、いきなりこの世界の庶民の暮らしができるかと言われたら硬直してしまう。
 魔導があるとはいえ、その魔導の恩恵でさえ得られる人間は限られているのだ。
 わたしが活性化したことで王宮に流通する卵とミルクは増えている。無理のない形で関与して、最終的にゾンターク王国に住む人が美味しいものを好きなだけ食べられるようになったらいいなあ。

 とりあえず女王のイヴォンヌさんが幸せなら、良い政治をしてくれることでしょう。
 わたしは厨房でプリンを作った。
 お鍋に水を張って蒸すタイプ。カルメラソースを作るのが苦手で焦がしちゃうから、今日はリスと小鳥にもらった木の実を蜜に漬けて添えよう。活性化で漬けておく時間は短縮できます。便利!

 わたしが厨房にいる間に朝食を運んできてくれていたので、プリンをデザートにしてイヴォンヌさんと一緒にご飯を食べる。
 いつもはイヴォンヌさんが朝議に出ているので、ひとりの朝食なのだ。
 カローラさん達が給仕してくれるから寂しくはないよ。

「うむうむ。柔らかいプリンと蜜の染みた木の実の調和が良いのう」

 プリンは好評でした。
 朝議はなくても書類仕事は満載だとのことで、食べ終わったイヴォンヌさんは白黒狐執事さん達と一緒に執務室へ去っていった。
 わたしはお披露目パーティ前に挨拶周りが終わっているから、特に用事はない。カローラさん達が食器を片付けてくれた応接室で、少しぼーっとする。いつもなら護衛のルーカスさんが訪ねてきてくれるけど、今日からは──

 ノックの音がして、わたしは座っていたソファから立ち上がった。
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