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41・寿司と炬燵

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「え。クティノス共和国にはお米があるんですか?」

 思わずわたしが尋ねると、クティノス共和国のふたりの美女は頷いた。
 彼女達の上司である元首代理のエウスタティオスさんは、イヴォンヌさんをはじめとする各国の要人達と会話している。
 わたしと話してていいのかなあ。ふたりとも補佐官なんだよね? と思いはするものの、知らない世界の遠い国の話は面白かった。特にまれ人関係の話は興味深い。

「南の大陸から取り寄せて、改良に改良を重ねたんだにゃ」

 猫獣人のカシアさんの語尾が気になる。
 そういう風に自動翻訳されているだけで、方言のようなものなんだとは思うんだけど、ちょっとだけ心配になるのだ。
 前に来たまれ人が、猫獣人ならこの語尾でしょ! って強要したりしてないかな。でもパイチェ君もだけど、語尾に『にゃ』ってつけるの可愛い。

「クティノス共和国はすべての都市が海に面していて、海産物も豊富ですの」

 犬獣人サヴィナさんの語尾にはなにもついていない。
 彼女は、ですが、と言って大きな耳を垂らした。
 可愛い! 正直フサフサの尻尾にも目を奪われそうになるので困っている。

「まれ人様がお好きな『寿司』は、技術と衛生面の問題で作れないのですわ」

 『寿司』の発音が完全に元の世界のものなんだよね。
 まれ人の影響って大きいんだなあ。
 寿司……お寿司かあ。月に一、二回食べてたくらいで、こちらの世界に来てからは一ヶ月も経っていないのに、なんだかとっても懐かしいよ。というか、炊き立てご飯ならクティノス共和国で食べられるってことだよね?

「でもお醤油とお味噌はありますわ」

 自慢げに言って、サヴィナさんが耳をぴこんと立てた。
 か、可愛い……。

「醤油と味噌くらい、ヒエムス魔帝国にもあるぞ」

 突然ユーニウス殿下が顔を出す。
 あれ? と思って見てみると、コルネリウスさんが申し訳なさそうに首を縮めている。
 わたしが美女獣人と会話するため、彼は近づいてきていたユーニウス殿下を止めてくれていたのだ。といっても相手は皇子様、力ずくなどできないし、会話に飽きたと言われればそれまでだったのだろう。

「それにな、陽菜。ヒエムス魔帝国には鍋もある」
「鍋くらいクティノス共和国にもありますにゃ」
「クティノス共和国の海鮮鍋は絶品ですのよ」

 ふっ、とユーニウス殿下が美女達の発言を鼻で笑う。

「陽菜。鍋はやっぱり炬燵で食べるもんだよな?」
「……炬燵、あるんですか?」
「あるとも! 竜の子どもは雪遊びした後、炬燵で鍋食うんだ。蜜柑もあるぞ」
「お蜜柑も!」

 まれ人の浸食すごい!
 でも炬燵いいなあ。魔導で寝室は温かいけど、炬燵は特別だもんね。
 家族と一緒にゴロゴロして、お蜜柑食べて──

「陽菜?」
「「まれ人様?」」

 こみ上げてきた涙を飲み込む。

「えへへ、なんでもありません」

 少し離れて、心配そうな顔で見てくるコルネリウスさんにも微笑みかける。
 コルネリウスさんから報告されたら、優しいルーカスさんを心配させてしまうかもしれないもんね。
 元気、元気! キスのことなんか気にしてません。忘れました!

「バーカ」

 ユーニウス殿下に髪の毛をくしゃっとされる。

「無理することないんだよ。言っただろ? 俺は陽菜が欲しい。弱み見せてつけ込ませてくれよ」

 え、嫌です。
 まあユーニウス殿下の表情からして、わざと悪そうなことを言ってからかって、わたしに元気を出させようとしてるってわかってますけど。
 殿下の大きな手が温かくて心地良く感じるのは、彼の強い魔力のせいなのかな。……んん? また魔力に酔っちゃったら大変だ!

「嫁入り前の女性に気軽に触れてはいけませんわ」
「いけませんにゃー」

 わたしが逃げる前に、サヴィナさんとカシアさんがユーニウス殿下から引き離してくれた。
 うわあ、ふたりとも温かくて柔らかくて良い匂いがします。
 獣人族は身体能力が高い代わり、魔力は弱いそうです。女の子同士だし、わたしの魔力で影響を受けることはないかな?

「おふたりの言う通りです。男性と女性は距離を置いて話しましょう」

 ユーニウス殿下は少しだけ不満げな顔をしたものの、その後もまれ人の遺したものについて話してくれた。お餅、お雑煮、おぜんざい──
 サヴィナさんとカシアさんもだ。
 まれ人のことだけでなく、それぞれの国の話も楽しかった。……楽しかったけれど、気が付くと大広間の中にルーカスさんの姿を探してしまっていた。せめて、久しぶりに作ったお酒を飲んでから帰ってほしかったな。
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