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28・再会
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「陽菜お姉ちゃーん」
「ベティーナちゃーん」
ナール卿の対立候補のベトリューガー卿やゾンターク王国の有力貴族達と会っているうちに時間は過ぎて、ベティーナちゃんと再会したのは王都へ来てから八日後のことだった。
明後日はもうお披露目パーティです。
明日はドレスの調整があるので、今日はお休みって感じです。……おかしい。まだ大学も卒業していないのに、ゾンターク王国に就職したみたいになってる。職業まれ人?
王都の市場でベティーナちゃんと抱き合って、ふと背後のルーカスさんを見る。
今日は鎧姿ではなく、腕に猫妖精騎士のパイチェ君を抱っこしていた。
「秋の女神様の神殿には公式訪問しなくていいんですか?」
「信教の自由があるからこそ勢力図が複雑なんです。ナール卿との面会はこちらにお連れした私達聖騎士団、ベトリューガー卿との面会は保護者であるイヴォンヌ女王からの紹介という形で、まれ人様がエンダーリヒ教団に与したわけではないということにしています」
「いろいろとご面倒をおかけしてすいません」
「陽菜様のせいではありませんよ」
「にゃー」
パイチェ君は大きいだけの普通の猫の振りをしている。
すごく無理がある。
でも王都ではエンダーリヒ教団の勢力が強いので、愛し子や妖精の存在に気づかれると取り囲まれてしまうのだ。あ、乱暴されるわけじゃないよ。過激な信徒もいるけど、ほとんどの人はほかの宗教も認めてる。珍しがって近寄って来るのだ。
うん、まれ人のわたしも珍しいよ。
だから頭巾を被って黒い髪を誤魔化し、普通の町民の服を着ている。
というか……その辺りの人と同じような服を着ていても、ルーカスさんが光り輝いているんですが。
「にゃー」
ルーカスさんの美貌はパイチェ君に誤魔化してもらおう。
「ベティーナちゃん、王都の暮らしはどう?」
「ヴァーゲの町でも神殿暮らしだから、あんまり変わらないかな」
ベティーナちゃんは数年前の大暴走で両親を亡くし、ヴァーゲの町の神殿に引き取られたのだという。あの神殿には孤児院が併設されていた。
パイチェ君を野良猫だと思って可愛がっていたら、ある日秋の女神様から神託がくだって愛し子になったそうだ。
猫妖精が秋の女神様の眷属なので、ヴァーゲの町では元の世界の地域猫みたいな感じで野良猫がお世話されていた。
愛し子と言っても基本は神官と変わらない。
祈ったり掃除をしたりしつつ、たまに恵みを求めて森に行ったり畑を祝福したりしているんだって。
あ、優しくて騙されやすい猫妖精達を守ったりもしてるとのことです。
「エンダーリヒ教団との話し合いはどうだった?」
「エンダーリヒ教団の神様は一柱だけって教義だから、秋の女神様を眷属にするとかは無理なんだって。まあこれまで通り喧嘩せず、聖騎士様に助けてもらった分はお金でお返しするってことになったよ」
「すごいね。ベティーナちゃんがそんな難しいお話したの?」
「えへへ。アタシは綺麗に着飾って、秋の女神様の大神官の横で笑ってただけだよ」
「そっかー。ベティーナちゃんは明後日のパーティにも来るの?」
「うん、行くよ」
ベティーナちゃんがパーティ会場にいてくれるのなら、すごく心強い気がする。
「……にゃー……」
「パイチェ、そんな不機嫌そうな声出さないの」
「どうしたの?」
「パイチェは猫妖精騎士だから一緒に行くんだけど、ちゃんと服を着たほうがいいって言われて、神殿が作ってくれたの。すごく似合っててカッコいいのに、パイチェは嫌がってるんだよ」
「……猫だもんねえ」
「……にゃー……」
パイチェ君は垂らした尻尾を鞭のように振って、ぺちぺちとルーカスさんを叩いている。
「そういえば陽菜お姉ちゃんは猫と犬どっちが好き? まれ人様は猫派と犬派に分かれるって聞いたことある」
「え……っ」
すぐに返答できなかったのは、その質問で自分が前に考えたことを思い出してしまったからだ。
ルーカスさんの色の薄い青灰色の瞳はシベリアンハスキー、黄金の髪はゴールデンレトリバーだなんて、失礼極まりない。
そんなこと考えたってことは、墓の下まで持っていかなくちゃね!
「犬だよ」
「そうなんだ。……聖騎士様は猫と犬、どっちに似てる?」
「っ!」
ベティーナちゃん(12)め!
温泉の後でわたしがルーカスさんの肌着を借りて寝ていたときも、自分が借りてきてくれたくせに、好きじゃない女の子に自分の服貸したりしないよねーとか煽ってきたんだよね。
こんな質問無視してやる! こんな……
「……ルーカスさんは犬っぽいかな? ど、どっちかって言えばだよ? すいません、ルーカスさん。失礼なこと言っちゃって」
「いいえ。陽菜様の好きな動物に似ていると言われて光栄です」
「にゃー!」
いや、パイチェ君も可愛いと思ってるんだけどね。
その後もおしゃべりしながら市場を回り、果物を買ってみたり焼いた栗を買って食べたりして楽しく過ごした。王宮の庭の栗も今度活性化して実らせて、イヴォンヌさんと一緒に焼いて食べようかな。
明後日はお披露目パーティ、かあ。
「ベティーナちゃーん」
ナール卿の対立候補のベトリューガー卿やゾンターク王国の有力貴族達と会っているうちに時間は過ぎて、ベティーナちゃんと再会したのは王都へ来てから八日後のことだった。
明後日はもうお披露目パーティです。
明日はドレスの調整があるので、今日はお休みって感じです。……おかしい。まだ大学も卒業していないのに、ゾンターク王国に就職したみたいになってる。職業まれ人?
王都の市場でベティーナちゃんと抱き合って、ふと背後のルーカスさんを見る。
今日は鎧姿ではなく、腕に猫妖精騎士のパイチェ君を抱っこしていた。
「秋の女神様の神殿には公式訪問しなくていいんですか?」
「信教の自由があるからこそ勢力図が複雑なんです。ナール卿との面会はこちらにお連れした私達聖騎士団、ベトリューガー卿との面会は保護者であるイヴォンヌ女王からの紹介という形で、まれ人様がエンダーリヒ教団に与したわけではないということにしています」
「いろいろとご面倒をおかけしてすいません」
「陽菜様のせいではありませんよ」
「にゃー」
パイチェ君は大きいだけの普通の猫の振りをしている。
すごく無理がある。
でも王都ではエンダーリヒ教団の勢力が強いので、愛し子や妖精の存在に気づかれると取り囲まれてしまうのだ。あ、乱暴されるわけじゃないよ。過激な信徒もいるけど、ほとんどの人はほかの宗教も認めてる。珍しがって近寄って来るのだ。
うん、まれ人のわたしも珍しいよ。
だから頭巾を被って黒い髪を誤魔化し、普通の町民の服を着ている。
というか……その辺りの人と同じような服を着ていても、ルーカスさんが光り輝いているんですが。
「にゃー」
ルーカスさんの美貌はパイチェ君に誤魔化してもらおう。
「ベティーナちゃん、王都の暮らしはどう?」
「ヴァーゲの町でも神殿暮らしだから、あんまり変わらないかな」
ベティーナちゃんは数年前の大暴走で両親を亡くし、ヴァーゲの町の神殿に引き取られたのだという。あの神殿には孤児院が併設されていた。
パイチェ君を野良猫だと思って可愛がっていたら、ある日秋の女神様から神託がくだって愛し子になったそうだ。
猫妖精が秋の女神様の眷属なので、ヴァーゲの町では元の世界の地域猫みたいな感じで野良猫がお世話されていた。
愛し子と言っても基本は神官と変わらない。
祈ったり掃除をしたりしつつ、たまに恵みを求めて森に行ったり畑を祝福したりしているんだって。
あ、優しくて騙されやすい猫妖精達を守ったりもしてるとのことです。
「エンダーリヒ教団との話し合いはどうだった?」
「エンダーリヒ教団の神様は一柱だけって教義だから、秋の女神様を眷属にするとかは無理なんだって。まあこれまで通り喧嘩せず、聖騎士様に助けてもらった分はお金でお返しするってことになったよ」
「すごいね。ベティーナちゃんがそんな難しいお話したの?」
「えへへ。アタシは綺麗に着飾って、秋の女神様の大神官の横で笑ってただけだよ」
「そっかー。ベティーナちゃんは明後日のパーティにも来るの?」
「うん、行くよ」
ベティーナちゃんがパーティ会場にいてくれるのなら、すごく心強い気がする。
「……にゃー……」
「パイチェ、そんな不機嫌そうな声出さないの」
「どうしたの?」
「パイチェは猫妖精騎士だから一緒に行くんだけど、ちゃんと服を着たほうがいいって言われて、神殿が作ってくれたの。すごく似合っててカッコいいのに、パイチェは嫌がってるんだよ」
「……猫だもんねえ」
「……にゃー……」
パイチェ君は垂らした尻尾を鞭のように振って、ぺちぺちとルーカスさんを叩いている。
「そういえば陽菜お姉ちゃんは猫と犬どっちが好き? まれ人様は猫派と犬派に分かれるって聞いたことある」
「え……っ」
すぐに返答できなかったのは、その質問で自分が前に考えたことを思い出してしまったからだ。
ルーカスさんの色の薄い青灰色の瞳はシベリアンハスキー、黄金の髪はゴールデンレトリバーだなんて、失礼極まりない。
そんなこと考えたってことは、墓の下まで持っていかなくちゃね!
「犬だよ」
「そうなんだ。……聖騎士様は猫と犬、どっちに似てる?」
「っ!」
ベティーナちゃん(12)め!
温泉の後でわたしがルーカスさんの肌着を借りて寝ていたときも、自分が借りてきてくれたくせに、好きじゃない女の子に自分の服貸したりしないよねーとか煽ってきたんだよね。
こんな質問無視してやる! こんな……
「……ルーカスさんは犬っぽいかな? ど、どっちかって言えばだよ? すいません、ルーカスさん。失礼なこと言っちゃって」
「いいえ。陽菜様の好きな動物に似ていると言われて光栄です」
「にゃー!」
いや、パイチェ君も可愛いと思ってるんだけどね。
その後もおしゃべりしながら市場を回り、果物を買ってみたり焼いた栗を買って食べたりして楽しく過ごした。王宮の庭の栗も今度活性化して実らせて、イヴォンヌさんと一緒に焼いて食べようかな。
明後日はお披露目パーティ、かあ。
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