上 下
7 / 51

7・不思議な力で治療を手伝うよ!

しおりを挟む
「申し訳ありません、陽菜様」

 なにも考えずに莫迦な行動をしたわたしに、ルーカスさんが謝った。

「え? ルーカスさんはなにも悪くありませんよ? わたしが考えなしだっただけです」
「いいえ。こちらの都合でなにも説明できていないのですから、不安で気が焦るのは当たり前です。先ほどご領主殿の前で陽菜様のお力について話してしまいましたし、早く活躍しなくてはと思われたのではないですか?」

 このヴァーゲの町へ来るまでの間になにか説明してもらえるかと思っていたのだが、ルーカスさんは無言で一角獣ユニコーンを走らせていた。
 たぶんそこここに散らばる穢れとやらを確認して、どう処理するか考えていたのだろう。

 それは仕方がない。
 穢れが新たな魔獣を生み出すと言っていたし、町にはこうして大切な人達が待っていた。元気なわたしのことなど後回しが当然だ。黒い巨獣から助けてくれて、ここまで連れてきてもらえただけでありがたいのだ。
 わかってる。

「……ルーカスさんはなにも悪くありません」
「陽菜様はお優しいのですね」

 ルーカスさんが微笑む。
 整った顔をしたイケメンは、なにをしてもイケメンだなあ。
 わたしの好みとは違うタイプだけれど、ちょっぴりときめいてしまう。

「改めてお願いいたします。私の部下達を治療するのを手伝ってください。陽菜様がひとりひとりを活性化していくと魔力欠乏症が心配ですので、私の活性化をお願いいたします。私の回復魔導なら聖騎士団の団員をすべて癒すことが可能です。私の力が及ばないときだけ、陽菜様のお力を直接注いでいただくということでよろしいでしょうか」
「はい、わかりました。……ルーカスさんと聖騎士団の団員さん達は魔力の相性がいいんですか?」
「相性が悪い者もいましたが、私の魔導で回復できるよう訓練で調整させています」
「そうなんですか」

 なんかすごい。
 聖騎士って命懸けの仕事みたいだから、そうやって調整しないといけないんだ。
 魔力の相性の調整って、どうやるんだろう。思いながらわたしは、歩き出したルーカスさんを追いかけた。

「……お帰りなさい、団長……」

 黒い髪を短く刈った厳つい感じの男性の横に、ルーカスさんが膝をつく。

「意識があるようでなによりです、イェルク」
「……団長の扱きに比べたら、魔獣の襲撃が途切れないのなんて屁でもないですよ……」

 ルーカスさんがイェルクさんの上に剣を掲げると、剣が光り輝き出した。
 黒い巨獣を倒したときとは違う、なんだか温かくて柔らかい光だ。

「ぐっ……痛ぇ。団長の回復魔導は痛いんですが……」
「怪我が回復するときは痛みを伴うものですよ。……はい。あなたも回復魔導を持っているのですから、怪我人を治しに行ってくださいね」
「……うーっす」

 イェルクさんは苦痛に顔をしかめながら体を起こした。

「だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。さあ、次へ行きましょう」
「は、はい」

 次は茶色い髪の小柄な少年。

「……いーやーだー。団長の回復魔導はいーやーだー……」

 消え入りそうな声でボソボソ言っているけれど、体が動かないようだ。

「ルーカスさん、あの、わたし、なにかできませんか?」
「……その子の治療がいい。コルネリウス楽そうだったもん……」
「そうですね。では陽菜様、私を活性化してください。力が高まれば、エーリヒの治療にかかる時間が短くなります。その分苦痛も少なくて済むでしょう」
「え。……はい」

 わたしは、ルーカスさんが差し出した手を両手で包んだ。
 さっきのイェルクさんの治療で魔力をたくさん使っちゃったってことだよね? 
 ルーカスさん元気になーれ。

「陽菜様のお力はとても温かくて心地良いです」

 ルーカスさんは幸せそうな笑みを浮かべた後、エーリヒさんの上に剣を掲げた。
 イェルクさんを治療したときよりも強い光が辺りを包む。

「「「ぎゃーっ!」」」

 エーリヒさんとその周辺の人達が苦痛の叫びを上げた。

「陽菜様のおかげでエーリヒだけでなく周りの団員も治療できました」
「痛っ痛っ痛っ! 団長の回復魔導は嫌だって言ったじゃん!」
「黙りなさい、エーリヒ。あなたも早く怪我人の治療を始めなさい」

 そんな感じで、わたし達は怪我人の治療を続けていったのだった。
 わたし、役に立ってる?
 ルーカスさんを活性化させてるんだから、ちゃんと役に立ってるよね?

 うーん。自分の魔力とかまだよくわからないけれど、最初のコルネリウスさんと同じ感じで良かったのなら、イェルクさんとエーリヒさんも活性化できたんじゃないかな。
 あ、わたしの力がどんなものかは知られないほうがいいって言ってたから、それで?
 ちゃんと言われてたのに忘れてたわたしは莫迦だなあ。……反省。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

勇者の凱旋

豆狸
恋愛
好みの問題。 なろう様でも公開中です。

百度目は相打ちで

豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」 九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。 私は明日を知らない。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...