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5・ヴァーゲの町
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ヴァーゲの町の城塞の周りには、死臭漂う獣の死骸が積み重なっていた。
一角獣の鬣に顔を埋めて、背後のルーカスさんに聞いてみる。
「……ルーカスさん。魔獣を倒したらキラキラしたものになるんじゃないんですか?」
「あの巨獣が骸を残さずに魔結晶となったのは、本来夏の戦神様の眷属である犬妖精が呪われて変じた姿だったからです。通常の魔獣は野生の動物が穢れを受けて変じたものなので実体があります。心臓に魔結晶を持つものもいますが、よほど上位の魔獣でなければ見つかりませんね」
あれも魔結晶だったのか。
ルーカスさんの魔力を確認するための魔結晶とはどう違うんだろう。加工前と加工済?
わたし達の隣を走る、本当に速かったキノコの上の猫妖精が言う。
「パイチェの馬の胞子なら、魔獣の死骸を苗床にしてキノコ畑を作ることができるのにゃ!」
「聖騎士様、そうしてもいいですか?」
「ご領主殿の許可を得たいところですが、この状況です。死臭と腐肉で疫病が発生してもいけません。ナール卿にいただいたポーションも数に限りがありますからね。お願いしてもよろしいでしょうか、ベティーナ殿」
「お任せください!」
「ベティーナのためなら、パイチェ頑張るのにゃ!」
信じている神様が違っても協力できるのっていいなあ。
この世界のことはまだわからないけれど、こういうのが普通だといいよね。
「陽菜様、私達はこのまま町の中に入ったのでよろしいでしょうか」
「はい」
一角獣に乗る前思った通り、ボロボロになった城壁を守る門番さん達にルーカスさんは顔パスだった。
わたしを見て、門番さん達は驚いたような顔になる。
黒髪に黒い目が珍しいんだろうな。門番さん達も外国の映画に出てくる俳優みたいに彫りが深くて整った顔をしている。髪が黒く見えても濃い茶色っぽいし。
「怪我人は秋の女神様の神殿に運んでいます。次から次へと魔獣が押し寄せたので、聖騎士様方の多くが負傷されてしまいました。城壁内にいた町民はほとんど無傷だったので、聖騎士様方の治療に当たっております。……ありがとうございます」
「すべての生きとし生けるものを慈しむのが我らの神です。あなた方もお疲れでしょう。栄養を取って、なるべく休みを取るようにしてくださいね」
「はっ!」
……エンダーリヒ教団の神様は優しい神様なのかな?
わたし達は石畳の道を走って、大きな神殿に辿り着いた。
建物の外にある井戸に人が並び、水を汲んでいる。
汲んだ水は建物の中に運ばれたり、井戸の横に積み重ねられている血塗れの布を洗うのに使われているようだった。……包帯かな。
「聖騎士団団長ルーカスが戻りました。大暴走を引き起こしていた邪悪な魔獣は退治しました。もうこの町が襲われることはありません」
ルーカスさんが宣言すると、人々の間から歓声が上がった。
みんな希望に輝く瞳で彼を見つめている。
わたしのことも見つめてる? やっぱり珍しいのかな。
ううう、みんな彫りが深くて綺麗だよう。
スタイルも細身でしゅっとした人ばっかり。
外国では日本人は若く見られるっていうけど、わたし、いくつくらいに思われてるんだろう。
ルーカスさんが一角獣から降りて、わたしのことも抱き下ろしてくれる。
ふたりが降りると、一角獣は彼の影に沈んだ。
消える前に真珠色の角が点滅する。ルーカスさんが微笑んだ。
「クローネは陽菜様のことを気に入ったみたいです」
「あはは、嬉しいです」
わたし達は神殿の中に入った。
秋の女神様の印なのか、正門の上には天秤を単純化した絵が刻まれていた。
一角獣の鬣に顔を埋めて、背後のルーカスさんに聞いてみる。
「……ルーカスさん。魔獣を倒したらキラキラしたものになるんじゃないんですか?」
「あの巨獣が骸を残さずに魔結晶となったのは、本来夏の戦神様の眷属である犬妖精が呪われて変じた姿だったからです。通常の魔獣は野生の動物が穢れを受けて変じたものなので実体があります。心臓に魔結晶を持つものもいますが、よほど上位の魔獣でなければ見つかりませんね」
あれも魔結晶だったのか。
ルーカスさんの魔力を確認するための魔結晶とはどう違うんだろう。加工前と加工済?
わたし達の隣を走る、本当に速かったキノコの上の猫妖精が言う。
「パイチェの馬の胞子なら、魔獣の死骸を苗床にしてキノコ畑を作ることができるのにゃ!」
「聖騎士様、そうしてもいいですか?」
「ご領主殿の許可を得たいところですが、この状況です。死臭と腐肉で疫病が発生してもいけません。ナール卿にいただいたポーションも数に限りがありますからね。お願いしてもよろしいでしょうか、ベティーナ殿」
「お任せください!」
「ベティーナのためなら、パイチェ頑張るのにゃ!」
信じている神様が違っても協力できるのっていいなあ。
この世界のことはまだわからないけれど、こういうのが普通だといいよね。
「陽菜様、私達はこのまま町の中に入ったのでよろしいでしょうか」
「はい」
一角獣に乗る前思った通り、ボロボロになった城壁を守る門番さん達にルーカスさんは顔パスだった。
わたしを見て、門番さん達は驚いたような顔になる。
黒髪に黒い目が珍しいんだろうな。門番さん達も外国の映画に出てくる俳優みたいに彫りが深くて整った顔をしている。髪が黒く見えても濃い茶色っぽいし。
「怪我人は秋の女神様の神殿に運んでいます。次から次へと魔獣が押し寄せたので、聖騎士様方の多くが負傷されてしまいました。城壁内にいた町民はほとんど無傷だったので、聖騎士様方の治療に当たっております。……ありがとうございます」
「すべての生きとし生けるものを慈しむのが我らの神です。あなた方もお疲れでしょう。栄養を取って、なるべく休みを取るようにしてくださいね」
「はっ!」
……エンダーリヒ教団の神様は優しい神様なのかな?
わたし達は石畳の道を走って、大きな神殿に辿り着いた。
建物の外にある井戸に人が並び、水を汲んでいる。
汲んだ水は建物の中に運ばれたり、井戸の横に積み重ねられている血塗れの布を洗うのに使われているようだった。……包帯かな。
「聖騎士団団長ルーカスが戻りました。大暴走を引き起こしていた邪悪な魔獣は退治しました。もうこの町が襲われることはありません」
ルーカスさんが宣言すると、人々の間から歓声が上がった。
みんな希望に輝く瞳で彼を見つめている。
わたしのことも見つめてる? やっぱり珍しいのかな。
ううう、みんな彫りが深くて綺麗だよう。
スタイルも細身でしゅっとした人ばっかり。
外国では日本人は若く見られるっていうけど、わたし、いくつくらいに思われてるんだろう。
ルーカスさんが一角獣から降りて、わたしのことも抱き下ろしてくれる。
ふたりが降りると、一角獣は彼の影に沈んだ。
消える前に真珠色の角が点滅する。ルーカスさんが微笑んだ。
「クローネは陽菜様のことを気に入ったみたいです」
「あはは、嬉しいです」
わたし達は神殿の中に入った。
秋の女神様の印なのか、正門の上には天秤を単純化した絵が刻まれていた。
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