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第十一話 王子様は夢を見る。
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父上はもう一度溜息をついた。
「釣り合う年ごろの息子がいたと喜んだのは無駄だったな。シャーリー嬢を愛する神涙獣殿が邪獣と化してこの国を滅ぼさないことを祈るしかない。……まあ、彼女がそれを許すはずもないが。そんなことを望む娘なら、もっと早くそなたの愚行を訴えていただろう」
「……」
「シャーリー嬢が神涙獣殿の愛し子だろうとそうでなかろうと、王命による婚約は絶対だ。そなたは王太子でありながらこの私、国王の命令を無下に扱ったのだ。その罪がわかっておろうな?」
「……はい」
ペルブランディからうつされた性病の治療後、僕と側近候補達は魔の森の警備隊に入隊させられた。学園は休学だ。卒業はさせてもらえるという。卒業パーティへの参加も許されている。
僕も側近候補達も廃嫡されたわけではない。ここで活躍して汚名を返上しろということだ。
僕が死んだら王家傍系の公爵家から養子を取って太子に立てると父上に言われている。公爵家は母である王妃の実家だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「殿下だ!」
「エルトン王太子殿下とご側近の方々だぞー!」
僕達が現れると、警備隊の一般兵達が歓声を上げた。
学園の卒業式まで一ヶ月ほどになったある日、魔の森で大規模な魔獣の大暴走が発生した。魔獣の数は多く、力も強い。どうやら元凶の魔獣がとんでもない強さのようだ。
シャーリーの神涙獣が邪獣になったのではないだろうが、最強と言われる魔獣ドラゴンならそれはそれで恐ろしい。邪獣なら神が滅ぼしてくれることもある。
「プリンキピウムの帝国軍は?」
「すでに森の奥へ進んでいます」
国境沿いにある魔の森には、南の帝国も警備隊を派遣している。
「わかった。彼らを追おう」
「ご武運を!」
一般兵達が慕ってくれるのは、僕が王太子だからではない。
これまでも何度か起こった小規模な大暴走で活躍し、彼らの命を救ってきたからだ。
僕には魔獣の放つ魔導は効かない。物理攻撃を受けて怪我をしても、高められた魔力によってすぐに回復する。毎回出張ってくる帝国の皇帝と競うようにして、僕は何度も元凶の首を挙げて来た。
神涙獣の加護が……いや、シャーリーが今も僕を守ってくれているのだ。
どうしてだろう。婚約解消は彼女のほうからだったが、そうされても仕方がないくらい酷いことを僕はしてきた。側近候補達の暴言を嗜めることさえしなかった。
彼女の優しさなのだろうか。それとも彼女は今もまだ、僕を愛してくれているのか。婚約解消は父親である伯爵の一存だったのかもしれない。
「ドラゴンだ! 今回の元凶はドラゴンだぞー!」
前方から帝国軍の叫び声が聞こえる。
叫びに続いて雄叫びも響いてきた。帝国軍は皇帝を慕い、彼のために本来の百倍以上の力を出す。僕はまだ、兵の力を引き出すほどの存在ではない。
愛用の槍を握り締め、僕は馬の足を速めた。
この手でドラゴンを倒せたら、卒業パーティでシャーリーに謝ろう。
そして、もし彼女が──
「釣り合う年ごろの息子がいたと喜んだのは無駄だったな。シャーリー嬢を愛する神涙獣殿が邪獣と化してこの国を滅ぼさないことを祈るしかない。……まあ、彼女がそれを許すはずもないが。そんなことを望む娘なら、もっと早くそなたの愚行を訴えていただろう」
「……」
「シャーリー嬢が神涙獣殿の愛し子だろうとそうでなかろうと、王命による婚約は絶対だ。そなたは王太子でありながらこの私、国王の命令を無下に扱ったのだ。その罪がわかっておろうな?」
「……はい」
ペルブランディからうつされた性病の治療後、僕と側近候補達は魔の森の警備隊に入隊させられた。学園は休学だ。卒業はさせてもらえるという。卒業パーティへの参加も許されている。
僕も側近候補達も廃嫡されたわけではない。ここで活躍して汚名を返上しろということだ。
僕が死んだら王家傍系の公爵家から養子を取って太子に立てると父上に言われている。公爵家は母である王妃の実家だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「殿下だ!」
「エルトン王太子殿下とご側近の方々だぞー!」
僕達が現れると、警備隊の一般兵達が歓声を上げた。
学園の卒業式まで一ヶ月ほどになったある日、魔の森で大規模な魔獣の大暴走が発生した。魔獣の数は多く、力も強い。どうやら元凶の魔獣がとんでもない強さのようだ。
シャーリーの神涙獣が邪獣になったのではないだろうが、最強と言われる魔獣ドラゴンならそれはそれで恐ろしい。邪獣なら神が滅ぼしてくれることもある。
「プリンキピウムの帝国軍は?」
「すでに森の奥へ進んでいます」
国境沿いにある魔の森には、南の帝国も警備隊を派遣している。
「わかった。彼らを追おう」
「ご武運を!」
一般兵達が慕ってくれるのは、僕が王太子だからではない。
これまでも何度か起こった小規模な大暴走で活躍し、彼らの命を救ってきたからだ。
僕には魔獣の放つ魔導は効かない。物理攻撃を受けて怪我をしても、高められた魔力によってすぐに回復する。毎回出張ってくる帝国の皇帝と競うようにして、僕は何度も元凶の首を挙げて来た。
神涙獣の加護が……いや、シャーリーが今も僕を守ってくれているのだ。
どうしてだろう。婚約解消は彼女のほうからだったが、そうされても仕方がないくらい酷いことを僕はしてきた。側近候補達の暴言を嗜めることさえしなかった。
彼女の優しさなのだろうか。それとも彼女は今もまだ、僕を愛してくれているのか。婚約解消は父親である伯爵の一存だったのかもしれない。
「ドラゴンだ! 今回の元凶はドラゴンだぞー!」
前方から帝国軍の叫び声が聞こえる。
叫びに続いて雄叫びも響いてきた。帝国軍は皇帝を慕い、彼のために本来の百倍以上の力を出す。僕はまだ、兵の力を引き出すほどの存在ではない。
愛用の槍を握り締め、僕は馬の足を速めた。
この手でドラゴンを倒せたら、卒業パーティでシャーリーに謝ろう。
そして、もし彼女が──
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