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37・たとえ期待をしていても
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私をこの国に連れて来た白銀色の竜よりも遥かに大きな黄金色の巨竜が、離宮を囲む森を潰して降り立っています。
護衛の近衛騎士達は怯えたような表情ですが、魔力の鱗を纏ってはいません。武器を手にして離宮を守るように立っています。離宮から出てきた私に、心配そうな視線を向けてきます。
巨竜化されている竜王ニコラオス陛下の息は荒く、鱗と同じ黄金色の瞳は光を失っているように見えました。
「お帰りなさいませ、陛下」
オレステス様に付き添われて離宮を出た私は、意を決して陛下に申し上げました。
反応はありません。ただ荒い息を漏らしながら虚ろな瞳に私を映しているだけです。
莫迦な言葉を口にしました。陛下がお帰りになる場所は離宮ではありません。番のサギニ様の待つ本宮殿です。
「妃殿下……」
「大丈夫ですわ、オレステス様」
見れば、空の向こうに白銀色の巨竜の影があります。
ソティリオス様もお戻りになったのです。
あの方に大切な従兄を弑するような真似をさせてはいけません。
私は黄金色の巨竜に歩み寄り、そっと手を伸ばしました。前のときと同じように、竜王陛下が普段の人間のお姿に戻っていきます。
黄金色の髪に黄金色の瞳。
美しく凛々しい私の番、初めて会った瞬間に運命を感じた愛しい方。黄金色の瞳に光が戻り、よく通る涼やかな声が言いました。
──ありがとう、サギニ。私の愛しい番。
そうなると知っていたくせに、私はその場に崩れ落ちそうになりました。傍らのオレステス様が支えてくれて、なんとか体勢を整えます。
私はディアナです。リナルディ王国から嫁いできた王女です。黒い髪に紫の瞳、不貞の罪を着せられた母とともに牢で暮らしてきました。
私の番は竜王ニコラオス陛下です。初めて会ったときにわかりました。心と体が叫ぶのです。でも……竜王陛下の番は私ではないのです。
この愚かな娘は、何度繰り返せば理解するのでしょうか。
何度期待して裏切られれば気が済むのでしょうか。
口に出して番だと言いさえしなければ、だれかが気づいて認めてくれるとでも思っていたのでしょうか。精霊王様にお願いされて、使えないと思っていた魔導が使えるようになって、カサヴェテス竜王国のために少々働いたくらいで愛されるとでも考えていたのでしょうか。
前のように憎まれてはいません。嫌われてもいないと思います。
陛下は私が淹れたお茶を飲んでくださいました。
作物の魔物化を鎮めたり病気の竜人族を治したときはお礼を言ってくださいました。でもそれだけ、それだけです。私のおこないが実ったともいえる収穫祭の日、陛下はサギニ様と過ごしていたのです。
「どうし、た……」
まだ私をサギニ様と勘違いなさっているのでしょう。
私の涙に気づいた竜王陛下が、案じるようなお顔で手を伸ばしてきます。
だけどその指が私の頬に触れる寸前に陛下のお体から力が抜けました。巨竜化は一般の竜人族が纏う魔力の鱗を大きくしたものです。発動していると魔力を消費していきます。陛下は魔力を消費し過ぎて、体が衰弱していらっしゃったのです。
「陛下っ!」
竜王陛下が倒れ落ちる前に支えたのは、周囲にいた近衛騎士達ではなく、空から降り立ち白銀色の巨竜から姿を変えたソティリオス様でした。
従弟の近衛騎士隊長の腕の中で、陛下は瞼を降ろしました。疲れから眠りに就いただけでしょう。命に別状はなさそうです。
ソティリオス様の白銀色の瞳が私を見つめます。
「妃殿下。……妃殿下はもしかしてニコラオス陛下の番であらせられますか?」
護衛の近衛騎士達は怯えたような表情ですが、魔力の鱗を纏ってはいません。武器を手にして離宮を守るように立っています。離宮から出てきた私に、心配そうな視線を向けてきます。
巨竜化されている竜王ニコラオス陛下の息は荒く、鱗と同じ黄金色の瞳は光を失っているように見えました。
「お帰りなさいませ、陛下」
オレステス様に付き添われて離宮を出た私は、意を決して陛下に申し上げました。
反応はありません。ただ荒い息を漏らしながら虚ろな瞳に私を映しているだけです。
莫迦な言葉を口にしました。陛下がお帰りになる場所は離宮ではありません。番のサギニ様の待つ本宮殿です。
「妃殿下……」
「大丈夫ですわ、オレステス様」
見れば、空の向こうに白銀色の巨竜の影があります。
ソティリオス様もお戻りになったのです。
あの方に大切な従兄を弑するような真似をさせてはいけません。
私は黄金色の巨竜に歩み寄り、そっと手を伸ばしました。前のときと同じように、竜王陛下が普段の人間のお姿に戻っていきます。
黄金色の髪に黄金色の瞳。
美しく凛々しい私の番、初めて会った瞬間に運命を感じた愛しい方。黄金色の瞳に光が戻り、よく通る涼やかな声が言いました。
──ありがとう、サギニ。私の愛しい番。
そうなると知っていたくせに、私はその場に崩れ落ちそうになりました。傍らのオレステス様が支えてくれて、なんとか体勢を整えます。
私はディアナです。リナルディ王国から嫁いできた王女です。黒い髪に紫の瞳、不貞の罪を着せられた母とともに牢で暮らしてきました。
私の番は竜王ニコラオス陛下です。初めて会ったときにわかりました。心と体が叫ぶのです。でも……竜王陛下の番は私ではないのです。
この愚かな娘は、何度繰り返せば理解するのでしょうか。
何度期待して裏切られれば気が済むのでしょうか。
口に出して番だと言いさえしなければ、だれかが気づいて認めてくれるとでも思っていたのでしょうか。精霊王様にお願いされて、使えないと思っていた魔導が使えるようになって、カサヴェテス竜王国のために少々働いたくらいで愛されるとでも考えていたのでしょうか。
前のように憎まれてはいません。嫌われてもいないと思います。
陛下は私が淹れたお茶を飲んでくださいました。
作物の魔物化を鎮めたり病気の竜人族を治したときはお礼を言ってくださいました。でもそれだけ、それだけです。私のおこないが実ったともいえる収穫祭の日、陛下はサギニ様と過ごしていたのです。
「どうし、た……」
まだ私をサギニ様と勘違いなさっているのでしょう。
私の涙に気づいた竜王陛下が、案じるようなお顔で手を伸ばしてきます。
だけどその指が私の頬に触れる寸前に陛下のお体から力が抜けました。巨竜化は一般の竜人族が纏う魔力の鱗を大きくしたものです。発動していると魔力を消費していきます。陛下は魔力を消費し過ぎて、体が衰弱していらっしゃったのです。
「陛下っ!」
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従弟の近衛騎士隊長の腕の中で、陛下は瞼を降ろしました。疲れから眠りに就いただけでしょう。命に別状はなさそうです。
ソティリオス様の白銀色の瞳が私を見つめます。
「妃殿下。……妃殿下はもしかしてニコラオス陛下の番であらせられますか?」
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