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36・たとえ運命が繰り返しても
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「……副隊長」
だれかが談話室の扉を叩きました。
外で見回りをしてくれていた近衛騎士隊の隊員のようです。夏に王都周辺を一緒に回ったこともあって、最近は顔が合うとみんな挨拶をしてくれます。
前とはまるで違います。
やはり竜王ニコラオス陛下の番だなどと口に出さなかったのが良かったのでしょう。
私の想いはこのまま胸の奥に眠らせておくべきなのでしょうね。
竜王陛下のお命が助かれば世界が終わらなければ、それでいいはずなのに、少しだけ心が騒ぎます。自分が求めたわけでも選んだわけでもない、勝手に現れた制御出来ない想いに、私はどこまで翻弄されれば良いのでしょうか。
「ん? なにかあったのかい? そういえば外が騒がしいような」
オレステス様が談話室の窓から離宮の外を眺めます。
私は、やって来た隊員に扉を開ける許可を出しました。
廊下に立つ隊員は、いつも顔を合わせて挨拶するときとは違う緊張した表情で口を開きました。少し怯えているようにも見えますが、魔力の鱗は纏っていません。
「陛下が……竜王ニコラオス陛下がご帰還なさいました」
「そう。それは良かった。ね? 何事もなくお帰りになったでしょう、妃殿下。……隊長も一緒だよね?」
「それが……」
立ち上がりながら尋ねるオレステス様に、隊員は言葉を濁しました。
「ソティリオス様になにかあったのですか?」
「いえ、その……」
離宮の外で大きな気配が動くのを感じました。
周囲の森の木々が倒れる衝動が伝わってきます。
なにか大きなもの──とてもとても大きな、強い魔力を持ったものが外にいるのです。オレステス様が叫びました。
「まさか陛下が暴走しているのか? 暴走するまで巨竜化する必要があるほど大規模な大暴走ではなかったはずだよ?」
「申し訳ありません、副隊長。私は留守番組ですし、陛下は暴走していらっしゃるので事情はわかりません。隊長も巨竜化して陛下を追跡なさっているとは思いますが、今はまだこちらに到着していらっしゃらないので」
「ああ。魔導で手紙を送って報告するよりも、巨竜化した陛下が戻られるほうが速いものね。でも……暴走なさっているにしては暴れてはいらっしゃらないようだが」
「こちらの呼びかけに応えてくださらないのです。それに息も荒く苦しそうで……」
隊員と話しながら、オレステス様が私の隣に移動してきます。
陛下が暴れ出したら私を守ってくださるおつもりなのでしょう。
談話室の窓からは黄金色の巨竜は見えませんでした。気配や衝撃は伝わって来ましたが、そんなにすぐ外に着陸されたわけではないのです。
どの辺りに降りられたのか、私は知っています。
陛下の黄金色に輝く長い尻尾が、離宮を囲む小さな森の木々をどこまで倒してしまったのかも。春に嫁いできたとき、その跡を辿りましたもの。
……違うはずです。今回は前とは違うはずです。私は頑張りました。精霊王様のお力も借りました。形だけの夫婦であることは変わりませんけれど、陛下は私が淹れた麝香草のお茶を飲んでくださいました。
前のときは顔も知らなかったアンドレウの弟の病気を治すことも出来ました。
ミネルヴァ様のパルミエリ辺境伯領から来たユーノのことも。
作物の魔物化を鎮めて数年ぶりの収穫祭まで開催出来たではありませんか。違うはずです。前とは違うはずです。陛下が亡くなられることはありません。世界が終わることはありません。
「妃殿下?」
私はオレステス様と報告に来てくれた隊員に微笑みました。
「竜王陛下のもとへ参ります。オレステス様、付き添ってくださいますか? あなたは案内してください」
案内してもらわなくても、黄金色の巨竜のいる場所はすぐわかります。
それでも私は案内をお願いしました。
少しでも前と違う部分があれば、結末も変わってくれるかもしれません。私がひとりでなければ、前にいらっしゃらなかったオレステス様が同行してくだされば、近衛騎士が魔力の鱗を纏って逃げ出していなければ──
だれかが談話室の扉を叩きました。
外で見回りをしてくれていた近衛騎士隊の隊員のようです。夏に王都周辺を一緒に回ったこともあって、最近は顔が合うとみんな挨拶をしてくれます。
前とはまるで違います。
やはり竜王ニコラオス陛下の番だなどと口に出さなかったのが良かったのでしょう。
私の想いはこのまま胸の奥に眠らせておくべきなのでしょうね。
竜王陛下のお命が助かれば世界が終わらなければ、それでいいはずなのに、少しだけ心が騒ぎます。自分が求めたわけでも選んだわけでもない、勝手に現れた制御出来ない想いに、私はどこまで翻弄されれば良いのでしょうか。
「ん? なにかあったのかい? そういえば外が騒がしいような」
オレステス様が談話室の窓から離宮の外を眺めます。
私は、やって来た隊員に扉を開ける許可を出しました。
廊下に立つ隊員は、いつも顔を合わせて挨拶するときとは違う緊張した表情で口を開きました。少し怯えているようにも見えますが、魔力の鱗は纏っていません。
「陛下が……竜王ニコラオス陛下がご帰還なさいました」
「そう。それは良かった。ね? 何事もなくお帰りになったでしょう、妃殿下。……隊長も一緒だよね?」
「それが……」
立ち上がりながら尋ねるオレステス様に、隊員は言葉を濁しました。
「ソティリオス様になにかあったのですか?」
「いえ、その……」
離宮の外で大きな気配が動くのを感じました。
周囲の森の木々が倒れる衝動が伝わってきます。
なにか大きなもの──とてもとても大きな、強い魔力を持ったものが外にいるのです。オレステス様が叫びました。
「まさか陛下が暴走しているのか? 暴走するまで巨竜化する必要があるほど大規模な大暴走ではなかったはずだよ?」
「申し訳ありません、副隊長。私は留守番組ですし、陛下は暴走していらっしゃるので事情はわかりません。隊長も巨竜化して陛下を追跡なさっているとは思いますが、今はまだこちらに到着していらっしゃらないので」
「ああ。魔導で手紙を送って報告するよりも、巨竜化した陛下が戻られるほうが速いものね。でも……暴走なさっているにしては暴れてはいらっしゃらないようだが」
「こちらの呼びかけに応えてくださらないのです。それに息も荒く苦しそうで……」
隊員と話しながら、オレステス様が私の隣に移動してきます。
陛下が暴れ出したら私を守ってくださるおつもりなのでしょう。
談話室の窓からは黄金色の巨竜は見えませんでした。気配や衝撃は伝わって来ましたが、そんなにすぐ外に着陸されたわけではないのです。
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「妃殿下?」
私はオレステス様と報告に来てくれた隊員に微笑みました。
「竜王陛下のもとへ参ります。オレステス様、付き添ってくださいますか? あなたは案内してください」
案内してもらわなくても、黄金色の巨竜のいる場所はすぐわかります。
それでも私は案内をお願いしました。
少しでも前と違う部分があれば、結末も変わってくれるかもしれません。私がひとりでなければ、前にいらっしゃらなかったオレステス様が同行してくだされば、近衛騎士が魔力の鱗を纏って逃げ出していなければ──
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