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33・たとえ時が過ぎ去っても
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「アンドレウ。気持ちは本当に嬉しいのですが、十年は長いです」
「えー、そうかなあ?」
「そうなのですよ。だから十年経って、あなたの気持ちが変わらなくて、そのとき私に夫がいなかったら、また求婚してくださいますか?」
「俺が十五歳になるまで、ほかの男と結婚しちゃヤダー」
「それは許してください。私はこれでも王女ですからね。いろいろとしがらみがあるのですよ」
「……もしディアナに夫がいても、ソイツがディアナを幸せにしてなかったら奪ってもいい? だって俺、ディアナが好きなんだもん」
なんだか胸が熱くなります。こんなに幼い少年が、こんなに情熱的に私を求めてくれるなんて。
私の番が竜王ニコラオス陛下ではなく彼だったら良いのに、と思ってしまいました。
たとえ時が過ぎ去っても、彼自身が忘れてしまっても、私がこの言葉を忘れることはない気がしました。
「……ありがとうございます。そうですね、十年後に……」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あんなに情熱的に求婚してくれたアンドレウですが、ずっと欲しがっていたオモチャの剣を買ってあげると両親に言われると、あっさり私に別れを告げて行ってしまいました。
……まあ、それで良いのですが。
彼に言った通り私は王女で、竜王ニコラオス陛下と離縁するにしろしないにしろ政略的な婚姻から逃れることは出来ません。平民の彼が恋情から私を奪いに来たりしたら大変なことになります。それに、やっぱり十三歳の年の差は大きいと思います。
「ディアナ」
不意に名前を呼ばれて手を取られて、私は隣を歩くソティリオス様を見上げました。
「子どもの気持ちは変わりやすいものです」
アンドレウの変心に落ち込んでいたことに気づかれていたようです。
彼の両親も申し訳なさそうに去っていきましたし、ソティリオス様とふたりで歩き始めてからずっと俯いていたので当然ですね。
ソティリオス様が言葉を続けます。
「でも彼は十年後、必ずあなたのもとへ来ると思いますよ?」
「先ほどオモチャの剣に負けてしまったのにですか?」
「今しつこくしていたら、あなたに迷惑をかけると気づいたからでしょう。なにより彼は……後姿だけであなたに気づいたじゃないですか。その印象的な黒髪もフードに隠されていたのに」
「そうですね。そういえばソティリオス様もイカ焼きのお店にいた私を後姿だけで気づいてくださいましたね」
「……っ」
「ソティリオス様?」
「ディアナ。アンドレウと会って忘れていましたが、あちらに果実水の店があるようです。ずっと歩いていましたし、水分を補給しましょう」
「はい」
ソティリオス様の大きな手が、力強く私の手を包んでいます。
彼があのとき私に気づいたのは、護衛としてずっと見ていてくださったからなのでしょう。
こうして、ちゃんと私のことを考えてくれる人達がいるのです。なんて素晴らしいことでしょうか。
十年後、私がどこにいるか、アンドレウが本当にもう一度求婚しに来てくれるかはわかりません。
わかりませんけれど──収穫祭の人混みは温かく、私の中の寂しいという想いが溶けていくような気持ちがしたのです。
「えー、そうかなあ?」
「そうなのですよ。だから十年経って、あなたの気持ちが変わらなくて、そのとき私に夫がいなかったら、また求婚してくださいますか?」
「俺が十五歳になるまで、ほかの男と結婚しちゃヤダー」
「それは許してください。私はこれでも王女ですからね。いろいろとしがらみがあるのですよ」
「……もしディアナに夫がいても、ソイツがディアナを幸せにしてなかったら奪ってもいい? だって俺、ディアナが好きなんだもん」
なんだか胸が熱くなります。こんなに幼い少年が、こんなに情熱的に私を求めてくれるなんて。
私の番が竜王ニコラオス陛下ではなく彼だったら良いのに、と思ってしまいました。
たとえ時が過ぎ去っても、彼自身が忘れてしまっても、私がこの言葉を忘れることはない気がしました。
「……ありがとうございます。そうですね、十年後に……」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
あんなに情熱的に求婚してくれたアンドレウですが、ずっと欲しがっていたオモチャの剣を買ってあげると両親に言われると、あっさり私に別れを告げて行ってしまいました。
……まあ、それで良いのですが。
彼に言った通り私は王女で、竜王ニコラオス陛下と離縁するにしろしないにしろ政略的な婚姻から逃れることは出来ません。平民の彼が恋情から私を奪いに来たりしたら大変なことになります。それに、やっぱり十三歳の年の差は大きいと思います。
「ディアナ」
不意に名前を呼ばれて手を取られて、私は隣を歩くソティリオス様を見上げました。
「子どもの気持ちは変わりやすいものです」
アンドレウの変心に落ち込んでいたことに気づかれていたようです。
彼の両親も申し訳なさそうに去っていきましたし、ソティリオス様とふたりで歩き始めてからずっと俯いていたので当然ですね。
ソティリオス様が言葉を続けます。
「でも彼は十年後、必ずあなたのもとへ来ると思いますよ?」
「先ほどオモチャの剣に負けてしまったのにですか?」
「今しつこくしていたら、あなたに迷惑をかけると気づいたからでしょう。なにより彼は……後姿だけであなたに気づいたじゃないですか。その印象的な黒髪もフードに隠されていたのに」
「そうですね。そういえばソティリオス様もイカ焼きのお店にいた私を後姿だけで気づいてくださいましたね」
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こうして、ちゃんと私のことを考えてくれる人達がいるのです。なんて素晴らしいことでしょうか。
十年後、私がどこにいるか、アンドレウが本当にもう一度求婚しに来てくれるかはわかりません。
わかりませんけれど──収穫祭の人混みは温かく、私の中の寂しいという想いが溶けていくような気持ちがしたのです。
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