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32・たとえ年の差があっても
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「……」
沈黙が辺りを包みました。
辺り、というか私とソティリオス様、アンドレウの家族の五人だけですが。
アンドレウ本人は満足そうな笑みを浮かべて胸を張っています。
「いい考えだろ? ディアナは弟の病気を治してくれた恩人だし、精霊王様の愛し子だもん。カサヴェテスからいなくなって欲しくないし、それに……俺、ディアナのこと好きだから。えへへ」
そこまで言って、彼は照れ臭そうに頬を染めました。
気持ちとしては嬉しいです。だれかに好きだと言われるなんて、お母様がお亡くなりになって以来ですもの。
だけどアンドレウは幼くて、私が中腰にならなければ目線を合わせることも出来ないほど小さいのです。中腰になって目線を合わせ、私は彼に尋ねました。
「アンドレウ、ありがとうございます。気持ちはとても嬉しいのですけれど……あなたはおいくつだったかしら?」
「五歳!」
「そう。私は十八歳です」
「じゃあ……んーと……十三歳違いか」
「もう引き算が出来るのですね、偉いわ」
「俺、父ちゃんと母ちゃん手伝ってカボチャ数えてるから」
さて、これからどうしたら良いのでしょう。
私の年齢を言っただけで、年の差の大きさに気持ちを変えてくれるのではないかと期待していました。
でもその気配はありません。引き算は出来ても、彼が成長するのに従って私も年を経ていくという実感がないのでしょう。
「えっと……アンドレウ? 結婚出来るのは十五歳以上からなのだけど」
十五歳が成人で結婚可能年齢だというのは私の祖国、ヒト族が住むリナルディ王国でも竜人族が住むこの国カサヴェテス竜王国でも変わりません。
「後十年かー。大丈夫、あっという間だよ。だって俺、気がついたら五歳になってたもん。今度気がついたら十五歳になってると思う」
そうですね。幼い子どもの時間はあっという間に過ぎ去るものでしょう。
とはいえ、私は十年後には二十八歳になっています。
政略的に婚姻関係を結ぶ王侯貴族と違い、平民の彼は自由に相手を選べます。そのときになって、年が違い過ぎるからやっぱりやーめた、などと言われたらどれだけ悲しいかしれません。……いえ、今はまだ竜王陛下の妻ですし、この求婚を受けるつもりもないのですけれど。
「……アンドレウ……」
彼の名前を呼んだのは、いつの間にか私の隣で中腰になっていたソティリオス様でした。
アンドレウに抱き着かれた時点で、彼とつないでいた手は離していました。
ソティリオス様は、白銀色の瞳にアンドレウを映しました。ご自分の唇に人差し指を当てて、ソティリオス様は言います。
「ディアナ……様はまだ竜王陛下のお妃様だ。そんなことを言ってはいけないよ」
「えー、だって『シロイケッコン』で『リエン』するんだろ?」
「それも決定というわけではない」
少し驚いて、私はソティリオス様の横顔を窺いました。
私と竜王陛下は夫婦といえるような関係ではありません。
作物の魔物化や昂る魔力を鎮めたことが評価されて、形だけの妃として留められるのでしょうか。それは……嬉しいのかそうでないのか、今の私にはわかりませんでした。
竜王陛下が私の番だと思う気持ちは、今も心に渦巻いています。
収穫祭での散策相手が陛下ではないかと期待してしまった愚かな気持ちと一緒に。
ですが、あの世界が終わる未来を食い止めた後までもこの国にいたい、陛下の側にいたいと思っているかと言えばそうではありません。そんなことをしても寂しい……そうです。アンドレウの言った通りです。私は寂しいのです。今の私も前の私も、ずっとずっと寂しかったのです。
沈黙が辺りを包みました。
辺り、というか私とソティリオス様、アンドレウの家族の五人だけですが。
アンドレウ本人は満足そうな笑みを浮かべて胸を張っています。
「いい考えだろ? ディアナは弟の病気を治してくれた恩人だし、精霊王様の愛し子だもん。カサヴェテスからいなくなって欲しくないし、それに……俺、ディアナのこと好きだから。えへへ」
そこまで言って、彼は照れ臭そうに頬を染めました。
気持ちとしては嬉しいです。だれかに好きだと言われるなんて、お母様がお亡くなりになって以来ですもの。
だけどアンドレウは幼くて、私が中腰にならなければ目線を合わせることも出来ないほど小さいのです。中腰になって目線を合わせ、私は彼に尋ねました。
「アンドレウ、ありがとうございます。気持ちはとても嬉しいのですけれど……あなたはおいくつだったかしら?」
「五歳!」
「そう。私は十八歳です」
「じゃあ……んーと……十三歳違いか」
「もう引き算が出来るのですね、偉いわ」
「俺、父ちゃんと母ちゃん手伝ってカボチャ数えてるから」
さて、これからどうしたら良いのでしょう。
私の年齢を言っただけで、年の差の大きさに気持ちを変えてくれるのではないかと期待していました。
でもその気配はありません。引き算は出来ても、彼が成長するのに従って私も年を経ていくという実感がないのでしょう。
「えっと……アンドレウ? 結婚出来るのは十五歳以上からなのだけど」
十五歳が成人で結婚可能年齢だというのは私の祖国、ヒト族が住むリナルディ王国でも竜人族が住むこの国カサヴェテス竜王国でも変わりません。
「後十年かー。大丈夫、あっという間だよ。だって俺、気がついたら五歳になってたもん。今度気がついたら十五歳になってると思う」
そうですね。幼い子どもの時間はあっという間に過ぎ去るものでしょう。
とはいえ、私は十年後には二十八歳になっています。
政略的に婚姻関係を結ぶ王侯貴族と違い、平民の彼は自由に相手を選べます。そのときになって、年が違い過ぎるからやっぱりやーめた、などと言われたらどれだけ悲しいかしれません。……いえ、今はまだ竜王陛下の妻ですし、この求婚を受けるつもりもないのですけれど。
「……アンドレウ……」
彼の名前を呼んだのは、いつの間にか私の隣で中腰になっていたソティリオス様でした。
アンドレウに抱き着かれた時点で、彼とつないでいた手は離していました。
ソティリオス様は、白銀色の瞳にアンドレウを映しました。ご自分の唇に人差し指を当てて、ソティリオス様は言います。
「ディアナ……様はまだ竜王陛下のお妃様だ。そんなことを言ってはいけないよ」
「えー、だって『シロイケッコン』で『リエン』するんだろ?」
「それも決定というわけではない」
少し驚いて、私はソティリオス様の横顔を窺いました。
私と竜王陛下は夫婦といえるような関係ではありません。
作物の魔物化や昂る魔力を鎮めたことが評価されて、形だけの妃として留められるのでしょうか。それは……嬉しいのかそうでないのか、今の私にはわかりませんでした。
竜王陛下が私の番だと思う気持ちは、今も心に渦巻いています。
収穫祭での散策相手が陛下ではないかと期待してしまった愚かな気持ちと一緒に。
ですが、あの世界が終わる未来を食い止めた後までもこの国にいたい、陛下の側にいたいと思っているかと言えばそうではありません。そんなことをしても寂しい……そうです。アンドレウの言った通りです。私は寂しいのです。今の私も前の私も、ずっとずっと寂しかったのです。
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