たとえ番でないとしても

豆狸

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19・たとえ黄金色の瞳が私を映すことがなくても

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 夏になって農地を回り始めたのは魔物化する作物が現れ始めたからです。

 私の前の知識を持ち出すまでもなく、前兆があって王宮に報告が来たのです。
 竜王ニコラオス陛下が私の離宮へ来られて、精霊王様に相談なさいました。
 今回は前とは比べものにならないほど竜王陛下とお会いしています。精霊王様に会われるついでや魔物の活発化についての報告が主ですけれど、それでもお会い出来るだけで胸が弾みます。

 私が陛下をつがいだと感じていることは、あの方はもちろん精霊王様にも話してはいません。

 ときどき叫び出したくなりますが、絶対に言葉にはしません。
 前と同じ状況になるのが怖いのもありますし、なにより陛下が私に関心をお持ちでないのが明らかなのです。
 私と話していても、どこか遠くを見ていらっしゃるような瞳になられるときはいつもサギニ様のことを考えてらっしゃるのだと思います。

 ……それでも。今も心と体が叫んでいます。
 あの方が私のつがいなのだと。
 あの方のつがいは私ではなくサギニ様なのだと何度も何度も言い聞かせているのに、それでも私のつがいはあの方なのだと、愚かな私の心は叫ぶのです。ひとりよがりの勝手な想いに過ぎないというのに。

「妃殿下!」
「あ!」

 魔導の仕組み自体は同じなのですが、意識を外に向けることで発動する光の魔力と違い闇の魔力は自分の中に深く潜ることで発動します。
 魔物化した作物と対峙して魔導を発動しようとしていた私は、つい竜王ニコラオス陛下のことを考え出して状況を見失っていました。
 作物の蔓で攻撃された私を救ってくれたのは、いつも側にいてくれるソティリオス様でした。あまり大人数で押し寄せると作物が怯えて魔物化が進むので、ほかの近衛騎士達には畑の持ち主の家で待機してもらっています。

 ソティリオス様は魔導を発動するため危険な位置にいた私を抱き寄せて、ご自分の光の魔力を宿らせた剣で蔓を斬り、返す刃で作物の急所を貫きます。
 眩しい夏の陽光を受けて、彼の銀髪が煌めきました。
 どこか懐かしい、清々しい香りが鼻腔をくすぐります。

「お怪我はありませんか、妃殿下」
「はい。ソティリオス様は大丈夫ですか?」
「大丈夫です」

 そう言って微笑んだ後、ソティリオス様は倒れ伏した巨大なカボチャを見下ろしました。
 魔物化を鎮める前に倒してしまったので、どろりとした液状に変わっていきます。
 この液には毒があるので、このままにはしておけません。せっかく鎮めたほかの作物が汚染されてしまってはなんにもなりません。

 私はソティリオス様から離れてしゃがみ込み、液体に向けて魔導を発動しました。
 魔物化した作物を鎮めて元に戻すより、液体の毒素を弱めるほうが簡単です。
 ですが少しでも多くの作物を収穫出来る状態にしておきたいのです。リナルディ王国からの輸入食糧に頼り続けていたら、いつかまたつがいのいらっしゃる竜王陛下に厄介者の王女が押し付けられてしまうことでしょう。

「申し訳ありません、妃殿下。蔓を斬ってお守りするだけで十分だったのに、つい昂って止めを刺してしまいました」

 ソティリオス様は申し訳なさそうに身を縮めて謝罪なさいました。
 厄介者の王女が竜王陛下に押し付けられないように、なんて自虐的な理由は秘密にしていますが、少しでも多くの作物が収穫出来るようにしたいという気持ちは伝えています。だから謝罪してくださったのでしょう。
 でも謝るのは私のほうです。

「なかなか魔導を発動出来なかった私が悪いのです」

 元が植物で心臓がないカボチャからは魔石は採れませんでした。
 畑へ農作業に来て襲われたり森へ逃げられてほかの魔物に合流されたりすると厄介なものの、魔物化したばかりの作物はそれほど魔力を蓄えていません。
 年を経たり、ほかの魔物や獣を喰らって成長したりしなければ作物魔物に心臓は宿らないのです。
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